4月29日 AM9:00
世間はゴールデンウィークの真っ只中。
幸いにして、カレンダー通りに休める職種の私は、この休日をまったりのんびりと布団の中で過ごしていた。
「うふふー、3度寝は極楽だあねー♪」
世の中にはGWだというのに逆に休めなくなったり、普段と同じシフトを繰り返す地獄のような仕事があるという。
まぁ、その人たちのおかげで自分のような人間がゆっくり休めるのだから、感謝はいくらしても足りないが、見習いたいとは思わない。
やっぱり休みというのは貴重なのだ。
睡眠というのは特別なのだ。
だから、それを邪魔するモノは、例え饅頭であっても許さない。
世間はゴールデンウィークの真っ只中。
幸いにして、カレンダー通りに休める職種の私は、この休日をまったりのんびりと布団の中で過ごしていた。
「うふふー、3度寝は極楽だあねー♪」
世の中にはGWだというのに逆に休めなくなったり、普段と同じシフトを繰り返す地獄のような仕事があるという。
まぁ、その人たちのおかげで自分のような人間がゆっくり休めるのだから、感謝はいくらしても足りないが、見習いたいとは思わない。
やっぱり休みというのは貴重なのだ。
睡眠というのは特別なのだ。
だから、それを邪魔するモノは、例え饅頭であっても許さない。
*シリーズ「博霊な日々」の3話目です。
*この作品世界は愛で特化されています。
*ゆっくりたちが漢字を使って話します。
*ゆっくりの性格がチートです。
「「おねーさーん!ゆっくり起きてね!!」」
そう、邪魔されてたまるか。こんチクショウ。
「ゆうう……おねーさんが起きてこないよ」
「ご飯さんの時間はゆっくり過ぎてるのに、どうしたんだろうね?」
「最近、ゆっくりできてなかったみたいだし、病気かな?まりさ心配だよ」
いやまぁ、朝メシの配給時間をとっくに過ぎているのは分かってるさ。
昼と夜は庭の草や虫を食べてる饅頭たちが、朝のゆっくりフードを楽しみにしてるのも承知してる。
飼いゆっくりにエサをやるのは飼い主の義務だってのは常識だ。
逆にペットに心配されてるなんて、人間としてどうなの?というツッコミも甘んじて受けよう。
それでも!嗚呼、それでも、布団の魔力から逃れようとは思えないのだ。
だって!だって!休日前にムチャクチャ忙しかったんだもの!
この連休にカレンダー通りに休む為、私がどれだけ頑張ったのか、聞くも涙、語るも涙の物語があったのだ。
だから、あと3時間!あと3時間は布団でゴーロゴロさせてね!たっぷりでいいよ!
「こーんにーちわー、霊夢ちゃんはいるかしら?」
だが、そこへ来客があった。
こ、この声はっ?!
「「ゆっ!ウサミミおねーさん、ゆっくりしていってね!!!」」
一瞬で目が覚めましたっ!
布団を蹴散らすようにして起床。寝巻き姿のまま寝室を飛び出し、縁側へ。
締め切ったままの雨戸を一気に開け放ち、その来客を目視で確認した。
「おはようございます!博霊霊夢、起きております!」
「「ゆぴっ?!」」
いきなり轟音を立てて現われた飼い主に、目を丸くして驚くゆっくりたち。
そして、その向こうでニッコリと微笑む長髪白衣美人。別にその頭にウサミミは見えない。
「おはよう、霊夢ちゃん。……寝てた?」
「寝てません!休日だからって自堕落な生活なんてしてません!」
「……おねーさん。れいむでも分かる嘘はどーかと思うよ?」
はっはっは、黙れ饅頭。
「寝癖、ついてるわよ?」
「これは!さっきまでヨーガを堪能してましたから!
ぺにありすの都会派なポーズというですね、高血圧・滋養強壮・生理不順・低血圧に効果のある……」
「はいはい、流れるように嘘をつかないように。
あと、寝巻きくらい直しなさい。見えてるわよ、話の底と……胸が」
「は?」
言われて視線を下げると……
着崩れた私の寝巻き(私は和装で寝る人なのだ)から、私の片方の乳房がむき出しになって見えていた。
「…えー、失礼しました」
「本当にね」
縁側に腰掛けたウサミミおねえさんにお茶を出す。
既に私も普段着に着替え、髪もいつものポニーテールに整えている。
ゆっくりたちにもエサを与えたので、庭の隅でむーしゃむーしゃしていた。
「「むーしゃ、むーしゃ、……ごっくん、しあわせー!!」」
「今日もおいしいご飯さんが食べられて良かったね!」
「おねえさんが元気で良かったね!」
「「ゆっくりできるね!!しあわせーっだね!!」」
……耳が痛いです。
あと、隣のウサミミおねえさんの視線が痛いです。
あ、そういえば、おねえさんは今日は一体どのような用事で来たんだろう?
そう思って、おねえさんの方を見ると、思いっきりジト目の彼女と目が合った。
「その様子だと、忘れてるわね」
「えっ?」
あからさまにタメ息をついて、おねえさんはこっちを軽く睨む。
「今日は、あの子たちのバッヂ登録の日でしょ。準備しといてね、って言っておいたじゃない」
「え?あ?えーと……そうでしたっけ?」
言われてみれば、GW突入前にウサミミおねえさんが職場に来て、色々と話をしていった気がする。
しかし、ちょうどその時は休み前の修羅場真っ只中だったので、仕事しながらの会話だったような。
そして、ながら仕事のお約束で、かなりの情報をスルーしてしまっていたよーな……
「まさか、忘れてる以前の問題だったのかしら?」
「うぴっ?!ま、まままま、まさかぁー!」
おねえさんの眼力が更にキツくなった。
ヤバい。正直、この流れはヤバい。
一刻も早く話題を逸らさねば、私の生死に関わる。
「じゃ、じゃあ、早速にでもバッヂ登録に行きましょう!私はいつでも出撃可能ですよ?!」
自分でもあまりにも白々しいと思う声を上げて、立ち上がる。
両手をウォーキングするように軽やかに振り、すぐに走り出せますよ?とアピールして見せる。
そんな私を見て、おねえさんは深々とタメ息をつき、ゆっくりたちはキョトンとしていた。
さて、ここらでバッヂ制度というものについて説明しておこう。
あらゆるペット動物に関する法律・生類安全保障条項、略して生安項(なまあんこー)には、ゆっくりの項というものがあり、
そこでは飼いゆっくりに対する様々な規則が書かれている。
ひとつ、飼いゆっくりは必ず公共機関に飼い主と共に登録されていなくてはいけない。
ひとつ、飼いゆっくりは登録された証としてのバッヂを身に着けていなくてはならない。
ひとつ、登録されたゆっくりは、人間側の法律で保護される。
まぁ、大まかに言えばこんな感じだ。
「はい、よくできました。れいむたちは理解できたかしら?」
「ゆゆっ?なんだか難しい言葉が多くてわからなかったよ」
「バッヂさんがあると、ゆっくりできるって事?」
「そうね。逆に失くすと、主に霊夢おねえさんがゆっくりできなくなるから、注意してね?」
「「ゆっくり理解したよ!!」」
「ちょっ!何で私がっ?!」
ここでちょっと現状を説明しよう。
私が車の運転をし、ウサミミお姉さんが助手席からバッヂ制度に関するレクチャーをしている。
生徒は私と、後部座席にシートベルトで固定されたゆっくり2匹。
バッヂ登録の窓口施設となる町役場までの30分ほどの道中で、詰め込み教育しようという流れになった為だ。
「もしバッヂをなくした場合、飼い主が有償で再発行の手続きをするからね」
「マジですか」
「バッヂをつけてたお飾りごと失くす事が多いから、お飾りの新規購入の代金もプラスされるし」
「た、高いんですか?そいつらの帽子とかリボンて」
「ゆっ?!お帽子さんがないとゆっくりできないよ!」
「おりぼんさんがないのは嫌だよっ?!」
お飾り消失という言葉に、ゆっくり共が怯えた声を上げた。どうも既に泣いているっぽい。
「まぁ、こんな感じに、ゆっくりにとっては大事なモノだから、それなりにお高いわね」
「うげ。おい、お前ら、絶対にお飾りを失くすなよ?!主に私の為に!」
「「ゆっくりせずに理解したよ!!」」
とまぁ、そんな事を話しているうちに車は町役場へと到着した。
この役場にはそれなりに大きな駐車場があるが、GWで休みの今日は流石にガラガラだった。
はて?そういえば役場って普通は休日休みだよな?
「他の部署はそうだけど、ペット対策室・通称『ゆっくりヤる課』は365日営業よ」
「ええっ?公務員がそれっていいんですか?」
「今は公的機関じゃなくて、民間代行組織だから大丈夫よ」
元々は役場のする仕事だったらしいが、民営化の流れによって独立したらしい。
地所は相変わらず役場の中らしいが。
色々と大変な事情とかあるんだろうなぁ。私には想像しかできないが。
とりあえず、キャリーバッグなんて大層な物は持ってないので、私とおねえさんの2人でゆっくり共を抱えて窓口へ行く。
幸い、1階にその受付はあった。
さすがに、この荷物を抱えて階移動とか面倒すぎるので助かった。
「こんにちは。連絡しておいた博霊ですけど」
「あー、はい。聞いております。飼いゆっくりの登録ですね?」
「はい。こちらが今回の案件に関する報告書で……」
私の代わりにテキパキと書類をやり取りして手続きを進めるウサミミおねえさん。
私はというと、全くやる事がなくて暇そのものである。
知り合いにプロがいると楽でいいよなぁ。
饅頭たちをロビーの長椅子に乗せ、私は適当に時間を潰そうと周囲を見回す。
「ねえねえ、おねえさん」
と、そこへまりさが話し掛けてきた。
「んー、どした?」
「まりさたち、ここで何をするの?」
「あぁ、えぇとだな……身体測定と面接、後は運動測定らしい」
「ゆ?」
まぁ、人間の言葉で説明されても分からんわな。
こっちもロビーに張ってある説明用ポスターを読んだだけだし、よく分かってないのはお互い様だが。
「私も詳しくは分からんが、やれば分かるんじゃね?」
「ゆっ!れいむ、それ分かるよ!いきあたりばったりさんだね!!」
横から自信満々に割り込んできたれいむ。
確かにその通りだが、ぶっちゃけ過ぎだ。
私は笑顔のまま、れいむに芸人ばりのツッコミを入れた。
「ゆべっ!なんで叩くのぉ~!!」
「ハッキリ言えばいいってもんじゃないからだ。オブラートに包め」
「わがらないよぉー!!」
「れいむーっ!それじゃ、ちぇんだよーっ?!」
まりさ、お前のツッコミ所もおかしいから。
れいむの方は、はたかれた所をモミアゲでさすりながら、ゆんゆんと泣きべそをかいている。
あくまでツッコミなので、音の割にはそんなに痛くはないはずだが、こいつは特に痛がりらしい。
「…ちっ、しょうがないやつだな」
私はれいむの隣に座ると、ひょいとその紅白饅頭を膝の上に乗せてやった。
「ゆっ?」
「あんまり泣くな。私が困る」
なでなでと、れいむの頭をさすってやる。
最初は驚いた様子だったが、すぐに饅頭の泣き顔はゆっくりとした笑顔に変わった。
「ゆーん、おねえさんのナデナデは、ゆっくりできるよぉー♪」
「ゆぅ。れいむ、うらやましいよ。まりさも撫でてね!」
構って欲しくなったらしく、まりさも私の横へ来てすりすりし始めた。
「わかったわかった。撫でてやればいいんだろ。ホントにお前らは手間のかかる饅頭だよ」
「「ゆっくりー♪」」
両手で2匹を撫でる事になって、ちと面倒になってしまった。
まぁ、懐かれるのは嫌じゃないんでいいけどさ。
……だが、さっきからニヨニヨとした視線を感じるのは気のせいか?
窓口にいる職員さんも、ウサミミおねえさんも、カウンターの向こうの職員さん達も、こっちを向いてる訳じゃないのに、なんだか注目されてるような……
なんだろうなー、いちゃついてるバカップルにでもなったような、この晒し者感は?
「……ぷっ……れ、霊夢ちゃん……ツンデレ……ぷぷっ」
何故かウサミミおねえさんの肩が震えていた。
結局、その違和感は、身体測定の準備が出来たと呼びにきた職員さんが来るまで続いたのだった。
で、その身体測定とは……要するに色んな測定器具を巡って色々なモノを計測しようというものだった。
人間とそこは同じである。
ただ、そこはそれ。人間でなく饅頭の測定ともなると珍妙奇天烈なものばかりで……
「はい、まずはのーびのびをしてー」
「「のーびのびするよっ!!のーびのびっ!!」」
身体を伸ばした長さを測る身長測定。
「次は、ちゅぶれりゅーのポーズをしてー」
「「ちゅ、ちゅぶれりゅー!!」」
身体を押し潰したような時の高さを測る身縮(しんしゅく)測定。
「今度はぷくー!をしてみましょー」
「「ぶくーっするよ!ぷくーっ!!」」
空気を吸って膨らんだ状態の胴回り(?)を測る身膨(しんぼう)測定。
「ゆんやー運動してみましょうかー」
「「ゆん・やー!ゆん・やー!ゆん・やー!ゆん・やー!」」
上体(?)を上下に振る時の振り幅を測る伏臥(ふくが)測定。
「お尻を振ってみてー」
「「ぷりぷりするよっ!ぷりんぷりん!!」」
逆に下半身(?)の左右の振り幅を測る振幅(しんぷく)測定。
「動かないでねー」
「「あすとろん!!」」
普通に体重測定。
いや、お前ら、別に鉄になったりしてないから。
てか、何で職員さんの言う運動を、説明なしで理解できるんだ?
あと、何故に逐一その行動内容を叫ぶ?台詞がハモる?
「はーい、お疲れさまー。身体測定は終了ですよー」
「「ゆっくりしていってね!!!」」
やり遂げた感全開の笑顔で挨拶する饅頭2匹。
まぁ、ある意味、無駄に疲れる測定ではあったな。
でもって、今度は面接である。
今度は飼い主の私も一緒だ。
「ようこそ、まりさ、れいむ。ゆっくりしていってね」
「「ゆっくりしていってね!!!……ゆゆっ?!」」
面接室に入って驚いたのは、ゆっくりだけでなく私もだった。
テーブルも椅子もない、殺風景な部屋の真ん中に、いくつものクッキーが散らばっていたからだ。
「あまあまさんが落ちてるよっ?!」
「とっても、おいしそうだね!でも、何で?」
疑問を浮かべるゆっくりたち。
きっと私も同じような顔をしているだろう。
と、ニコニコしている初老の面接官さんが話しかけてきた。
「れいむ、まりさ。君たちはとってもゆっくりしているね。ご褒美にそのクッキーを一つだけ食べてもいいよ」
「「ゆゆっ?!食べてもいいの?」」
「もちろんだよ。ただし、一人1個だけだからね」
「「ゆっくり理解したよっ!!」」
と、そこで饅頭共がクルリとこちらへ向いた。
「おねえさん、クッキーさん食べてもいい?」
「おじさんは食べてもいいって言ってるけど、おねえさんはいい?」
「なんで私に聞くんだよ。……えーと、本当にいいんですかね?」
一応、私も面接官さんに確認してみる。
「どうぞどうぞ。1個だけ食べるように許可してあげてください」
「はぁ、じゃあ遠慮なく。と、いう事で食べてもいいらしいぞ。ただし、1個だけな」
「「ゆわーい!おじさん、おねえさん、ありがとう!」」
それから暫く、どのクッキーを食べようか迷ったりしていた2匹だったが、それぞれプレーンとチョコのクッキーを選ぶとモグモグと食べだした。
「「むーしゃ、むーしゃ……ごっくん、しししあわせー!!」」
いちいちクッキーごときで泣くなよ。
まるで私が普段エサをあげてないみたいじゃないか。
「「ゆっくりごちそうさま!!」」
「はい、お粗末さまでした。これで面接は終了です」
「え?」
キョトンとする私に、面接官さんが説明してくれた。
この面接では、目の前のあまあまに夢中になって礼儀やお礼を忘れてしまわないか、飼い主がちゃんとゆっくりを制御できるかを判断するものらしい。
今回のこいつらは、ちゃんと食べる許可を面接官さんと私の両方に取り、挨拶も出来たので優秀との事だ。
うーむ。特に躾とかしてなかったんだが、素晴らしい躾け方ですねとか言われると背中がかゆくなるな。
で、最後は運動測定だ。
室内に用意された「ゆっくり用運動場」で計測するらしい。
施設巡りなのは身体測定と一緒だな。
「思いっきりジャンプしてね」
「ジャンプするよ!」 「ジャンプするね!」
まずは垂直跳び。身体半分くらい、まりさの方が高く跳んだ。
「今度はここからこっちへ跳んでみてね」
「ぴょんぴょんするよ!」 「ぽんぽんするね!」
次に幅跳び。やはり、まりさの方が遠くに跳んだ。
「思いっきり走ってみようか」
「まりさは風になるよ!」 「れいむも風邪になるよ!」
短距離走。……気のせいか、れいむの方は何か間違えてる気がする。
ちなみに、今度もまりさが勝った。
「私に続いて歌ってね。♪ゆっくりしたけっかが~これだ~よ~♪」
「「♪ゆっくりしたけっかが~これだ~よ~♪」」
歌なのか、それ?本当に歌なのか?
これは何を基準に優劣をつけてるのか全く不明だった。
だが、職員のお姉さんとまりさは、れいむを絶賛していた。
「この棒で、ピンポン玉を何度も叩いてみてね」
「ゆっ!ゆっ!なかなか当たらないよ!」
「難しいよ! ピンポン玉さんはゆっくり叩かれてね!」
紐でぶら下げられたピンポン玉を口にくわえた棒で連続で叩かせる測定。
最初の一撃は簡単だが、二度目からは玉が揺れるので難しくなる。
これは二匹とも、2回しか当てられなかった。
「紙の上のおはじきを、好きなように並べてみてね」
「ゆーん、これはとってもゆっくりできる石さんだよー」
「綺麗だねー、ゆっくりー♪」
そのまんまの測定だが……これまた何を測っているんだろう?
結局、この検査は、れいむもまりさも時間切れまでおはじきを眺めてるだけで終了してしまった。
「じゃあ、ここに書いてある字は読めるかな?」
職員さんが指示棒で指したのは、壁に大きくかかれた「ゆ」の文字。
これは見たまんま、識字能力を調べる目的らしい。
2匹の饅頭は暫くそれを見つめていたが、
「「ゆっくり分かりません!!!」」
と、自信満々に言い切った。
そんなこんなで、珍妙な全ての測定を終えて受付まで戻ってくると、ウサミミおねえさんが待っていた。
「お疲れ様。測定はどうだった?」
「れいむ、何だか疲れちゃったよ」
「まりさも疲れたよ。上手くできたかなぁ?」
ぐでぇー、と椅子の上で潰れ饅頭状態になる2匹。
まったく、疲れたのはこっちだっての。
何であんなにツッコミ所満載な測定ばっかりだったんだ。
分からん。ゆっくりってのは、業界そのものも謎だらけだ。
と、潰れたまんまの2匹のお飾りに、ウサミミおねえさんが、そっと赤銅色に輝くバッヂを取り付けた。
丸いバッヂの中央には「銅」の文字をあしらったマークが刻まれている。
「「ゆっ?」」
「二人とも、銅バッヂに合格よ。おめでとう」
「「ゆゆーっ?!」」
驚くように、互いのバッヂを見合う2匹。
「ゆわあああ……バッヂさんだぁ」
「バッヂさんだね。これが飼いゆっくりの印……」
2匹とも暫く呆けていた様子だったが、やがてポロポロと目から涙をこぼして泣き出した。
「ゆ、ゆえええええーん!う、嬉しいよぉ!」
「バッヂさんだぁ!バッヂさんを貰えたよぉ!」
「これで飼いゆっくりになれたんだね!れいむ、もう独りで怖い怖いしなくていいんだね!」
「ずっとおねえさんと、ゆっくりできるんだね!おねえさんをゆっくりさせてあげられるんだね!」
おいおい、恥ずかしい台詞をデカい声で叫ぶなっての。
……あ、なんだか貰い泣きしてる職員さんがいる。
しかし、感動してる2匹には悪いが、銅バッヂは申請さえ通れば普通に貰えるんだよな。
あくまで「飼いゆっくりである証明」な訳だし。
所属不明の迷子ゆっくりを私が保護して、そのまま飼う事になった、という経緯が手続きを面倒にしてるらしいけど。
今回の色々な検診も、あくまでデータ測定が目的なだけで、優劣が何かに影響する訳でもないようだ。
成体の2匹は半年後の銀バッヂ試験で、初めてその資質を試されるのだが……まぁ、無粋な事を言うのは止めておくか。
ちなみに、銀バッヂは成体として人間世界の常識を一通り習熟しているという証明で、これを獲得すれば家の外への散歩や、自販機での買い物などが可能になる。
もちろん、飼い主の付き添いは必須だが。
「やれやれ、疲れる饅頭共だよ」
「あら、そこがゆっくりの可愛い所じゃない」
ポン、と私の肩に手をかけて微笑むウサミミおねえさん。
……あれ?なんだか、おねえさんの指がミリミリと肩に食い込んでるよ?
「さ、それじゃあ行きましょうか?」
「え?ど、どこに?」
「霊夢ちゃんのお勉強会へよ。今日の約束を忘れていた事のお仕置きがまだだったでしょ?」
「うえっ?!」
おねえさんの手は、既に万力のような強さで私を捉えている。
はっきり言って、凄く痛い!けど、そんな事どうでもいいくらいに怖い!
「半年後の銀バッヂ試験の時は、飼い主である霊夢ちゃんの筆記試験もあるんだから。
今からゆっくりの基礎知識を完璧に教えてあ・げ・る♪」
「い、いえ!いえいえ!え、遠慮させてください!勉強なら家でしますから!」
「ダメよ。貴女の生態を何年見てきたと思ってるの。筋金入りの怠け者でしょう、貴女は。
で、痛いけど気持ちいい罰と、恥ずかしいけど気持ちいい罰のどっちがいい?」
気持ちいいって何っ?!そこが物凄く嫌過ぎる!!
何故か命の危機と貞操の危機が同時に来てる予感がする!
あと罰って言った?!勉強じゃないのっ?!ぶっちゃけ過ぎでしょうっ!!
「たっ、助けてー!れいむー!まりさー!」
「「おねえさん。お勉強がんばってね!!」」
おおいっ、てめえら!後ろ向いて応援するんじゃねぇ!
こっちに目を向けて話せよ!ウサミミおねえさんが怖いのは分かるけど!
目が合った瞬間に、ゆっくりだとショック死するかもしれないという気持ちはよく分かるけど!
死亡フラグを回避する能力が高いのは良い事だと褒めてあげたいけど!
「どさくさに紛れて酷い事言ってるわねぇ。これは、ちょっとお仕置きのレベルを上げようかしら?」
「ゆんやあああぁぁああぁぁああぁぁ!!!!!」
ズルズルと引きずられるように建物の奥へ引き込まれる私。
その場の全ての人間とゆっくりが、その光景から目を逸らして他人事を決め込んでいる。
まるで私は、処刑場へ向かう罪人のようだった。いや、罪人だが。
「どっ、どぼぢでこんなごどにぃぃぃっ!」
そして、この日の私の記憶はここで途切れた。
※未完作品※
*この作品世界は愛で特化されています。
*ゆっくりたちが漢字を使って話します。
*ゆっくりの性格がチートです。
「「おねーさーん!ゆっくり起きてね!!」」
そう、邪魔されてたまるか。こんチクショウ。
「ゆうう……おねーさんが起きてこないよ」
「ご飯さんの時間はゆっくり過ぎてるのに、どうしたんだろうね?」
「最近、ゆっくりできてなかったみたいだし、病気かな?まりさ心配だよ」
いやまぁ、朝メシの配給時間をとっくに過ぎているのは分かってるさ。
昼と夜は庭の草や虫を食べてる饅頭たちが、朝のゆっくりフードを楽しみにしてるのも承知してる。
飼いゆっくりにエサをやるのは飼い主の義務だってのは常識だ。
逆にペットに心配されてるなんて、人間としてどうなの?というツッコミも甘んじて受けよう。
それでも!嗚呼、それでも、布団の魔力から逃れようとは思えないのだ。
だって!だって!休日前にムチャクチャ忙しかったんだもの!
この連休にカレンダー通りに休む為、私がどれだけ頑張ったのか、聞くも涙、語るも涙の物語があったのだ。
だから、あと3時間!あと3時間は布団でゴーロゴロさせてね!たっぷりでいいよ!
「こーんにーちわー、霊夢ちゃんはいるかしら?」
だが、そこへ来客があった。
こ、この声はっ?!
「「ゆっ!ウサミミおねーさん、ゆっくりしていってね!!!」」
一瞬で目が覚めましたっ!
布団を蹴散らすようにして起床。寝巻き姿のまま寝室を飛び出し、縁側へ。
締め切ったままの雨戸を一気に開け放ち、その来客を目視で確認した。
「おはようございます!博霊霊夢、起きております!」
「「ゆぴっ?!」」
いきなり轟音を立てて現われた飼い主に、目を丸くして驚くゆっくりたち。
そして、その向こうでニッコリと微笑む長髪白衣美人。別にその頭にウサミミは見えない。
「おはよう、霊夢ちゃん。……寝てた?」
「寝てません!休日だからって自堕落な生活なんてしてません!」
「……おねーさん。れいむでも分かる嘘はどーかと思うよ?」
はっはっは、黙れ饅頭。
「寝癖、ついてるわよ?」
「これは!さっきまでヨーガを堪能してましたから!
ぺにありすの都会派なポーズというですね、高血圧・滋養強壮・生理不順・低血圧に効果のある……」
「はいはい、流れるように嘘をつかないように。
あと、寝巻きくらい直しなさい。見えてるわよ、話の底と……胸が」
「は?」
言われて視線を下げると……
着崩れた私の寝巻き(私は和装で寝る人なのだ)から、私の片方の乳房がむき出しになって見えていた。
「…えー、失礼しました」
「本当にね」
縁側に腰掛けたウサミミおねえさんにお茶を出す。
既に私も普段着に着替え、髪もいつものポニーテールに整えている。
ゆっくりたちにもエサを与えたので、庭の隅でむーしゃむーしゃしていた。
「「むーしゃ、むーしゃ、……ごっくん、しあわせー!!」」
「今日もおいしいご飯さんが食べられて良かったね!」
「おねえさんが元気で良かったね!」
「「ゆっくりできるね!!しあわせーっだね!!」」
……耳が痛いです。
あと、隣のウサミミおねえさんの視線が痛いです。
あ、そういえば、おねえさんは今日は一体どのような用事で来たんだろう?
そう思って、おねえさんの方を見ると、思いっきりジト目の彼女と目が合った。
「その様子だと、忘れてるわね」
「えっ?」
あからさまにタメ息をついて、おねえさんはこっちを軽く睨む。
「今日は、あの子たちのバッヂ登録の日でしょ。準備しといてね、って言っておいたじゃない」
「え?あ?えーと……そうでしたっけ?」
言われてみれば、GW突入前にウサミミおねえさんが職場に来て、色々と話をしていった気がする。
しかし、ちょうどその時は休み前の修羅場真っ只中だったので、仕事しながらの会話だったような。
そして、ながら仕事のお約束で、かなりの情報をスルーしてしまっていたよーな……
「まさか、忘れてる以前の問題だったのかしら?」
「うぴっ?!ま、まままま、まさかぁー!」
おねえさんの眼力が更にキツくなった。
ヤバい。正直、この流れはヤバい。
一刻も早く話題を逸らさねば、私の生死に関わる。
「じゃ、じゃあ、早速にでもバッヂ登録に行きましょう!私はいつでも出撃可能ですよ?!」
自分でもあまりにも白々しいと思う声を上げて、立ち上がる。
両手をウォーキングするように軽やかに振り、すぐに走り出せますよ?とアピールして見せる。
そんな私を見て、おねえさんは深々とタメ息をつき、ゆっくりたちはキョトンとしていた。
さて、ここらでバッヂ制度というものについて説明しておこう。
あらゆるペット動物に関する法律・生類安全保障条項、略して生安項(なまあんこー)には、ゆっくりの項というものがあり、
そこでは飼いゆっくりに対する様々な規則が書かれている。
ひとつ、飼いゆっくりは必ず公共機関に飼い主と共に登録されていなくてはいけない。
ひとつ、飼いゆっくりは登録された証としてのバッヂを身に着けていなくてはならない。
ひとつ、登録されたゆっくりは、人間側の法律で保護される。
まぁ、大まかに言えばこんな感じだ。
「はい、よくできました。れいむたちは理解できたかしら?」
「ゆゆっ?なんだか難しい言葉が多くてわからなかったよ」
「バッヂさんがあると、ゆっくりできるって事?」
「そうね。逆に失くすと、主に霊夢おねえさんがゆっくりできなくなるから、注意してね?」
「「ゆっくり理解したよ!!」」
「ちょっ!何で私がっ?!」
ここでちょっと現状を説明しよう。
私が車の運転をし、ウサミミお姉さんが助手席からバッヂ制度に関するレクチャーをしている。
生徒は私と、後部座席にシートベルトで固定されたゆっくり2匹。
バッヂ登録の窓口施設となる町役場までの30分ほどの道中で、詰め込み教育しようという流れになった為だ。
「もしバッヂをなくした場合、飼い主が有償で再発行の手続きをするからね」
「マジですか」
「バッヂをつけてたお飾りごと失くす事が多いから、お飾りの新規購入の代金もプラスされるし」
「た、高いんですか?そいつらの帽子とかリボンて」
「ゆっ?!お帽子さんがないとゆっくりできないよ!」
「おりぼんさんがないのは嫌だよっ?!」
お飾り消失という言葉に、ゆっくり共が怯えた声を上げた。どうも既に泣いているっぽい。
「まぁ、こんな感じに、ゆっくりにとっては大事なモノだから、それなりにお高いわね」
「うげ。おい、お前ら、絶対にお飾りを失くすなよ?!主に私の為に!」
「「ゆっくりせずに理解したよ!!」」
とまぁ、そんな事を話しているうちに車は町役場へと到着した。
この役場にはそれなりに大きな駐車場があるが、GWで休みの今日は流石にガラガラだった。
はて?そういえば役場って普通は休日休みだよな?
「他の部署はそうだけど、ペット対策室・通称『ゆっくりヤる課』は365日営業よ」
「ええっ?公務員がそれっていいんですか?」
「今は公的機関じゃなくて、民間代行組織だから大丈夫よ」
元々は役場のする仕事だったらしいが、民営化の流れによって独立したらしい。
地所は相変わらず役場の中らしいが。
色々と大変な事情とかあるんだろうなぁ。私には想像しかできないが。
とりあえず、キャリーバッグなんて大層な物は持ってないので、私とおねえさんの2人でゆっくり共を抱えて窓口へ行く。
幸い、1階にその受付はあった。
さすがに、この荷物を抱えて階移動とか面倒すぎるので助かった。
「こんにちは。連絡しておいた博霊ですけど」
「あー、はい。聞いております。飼いゆっくりの登録ですね?」
「はい。こちらが今回の案件に関する報告書で……」
私の代わりにテキパキと書類をやり取りして手続きを進めるウサミミおねえさん。
私はというと、全くやる事がなくて暇そのものである。
知り合いにプロがいると楽でいいよなぁ。
饅頭たちをロビーの長椅子に乗せ、私は適当に時間を潰そうと周囲を見回す。
「ねえねえ、おねえさん」
と、そこへまりさが話し掛けてきた。
「んー、どした?」
「まりさたち、ここで何をするの?」
「あぁ、えぇとだな……身体測定と面接、後は運動測定らしい」
「ゆ?」
まぁ、人間の言葉で説明されても分からんわな。
こっちもロビーに張ってある説明用ポスターを読んだだけだし、よく分かってないのはお互い様だが。
「私も詳しくは分からんが、やれば分かるんじゃね?」
「ゆっ!れいむ、それ分かるよ!いきあたりばったりさんだね!!」
横から自信満々に割り込んできたれいむ。
確かにその通りだが、ぶっちゃけ過ぎだ。
私は笑顔のまま、れいむに芸人ばりのツッコミを入れた。
「ゆべっ!なんで叩くのぉ~!!」
「ハッキリ言えばいいってもんじゃないからだ。オブラートに包め」
「わがらないよぉー!!」
「れいむーっ!それじゃ、ちぇんだよーっ?!」
まりさ、お前のツッコミ所もおかしいから。
れいむの方は、はたかれた所をモミアゲでさすりながら、ゆんゆんと泣きべそをかいている。
あくまでツッコミなので、音の割にはそんなに痛くはないはずだが、こいつは特に痛がりらしい。
「…ちっ、しょうがないやつだな」
私はれいむの隣に座ると、ひょいとその紅白饅頭を膝の上に乗せてやった。
「ゆっ?」
「あんまり泣くな。私が困る」
なでなでと、れいむの頭をさすってやる。
最初は驚いた様子だったが、すぐに饅頭の泣き顔はゆっくりとした笑顔に変わった。
「ゆーん、おねえさんのナデナデは、ゆっくりできるよぉー♪」
「ゆぅ。れいむ、うらやましいよ。まりさも撫でてね!」
構って欲しくなったらしく、まりさも私の横へ来てすりすりし始めた。
「わかったわかった。撫でてやればいいんだろ。ホントにお前らは手間のかかる饅頭だよ」
「「ゆっくりー♪」」
両手で2匹を撫でる事になって、ちと面倒になってしまった。
まぁ、懐かれるのは嫌じゃないんでいいけどさ。
……だが、さっきからニヨニヨとした視線を感じるのは気のせいか?
窓口にいる職員さんも、ウサミミおねえさんも、カウンターの向こうの職員さん達も、こっちを向いてる訳じゃないのに、なんだか注目されてるような……
なんだろうなー、いちゃついてるバカップルにでもなったような、この晒し者感は?
「……ぷっ……れ、霊夢ちゃん……ツンデレ……ぷぷっ」
何故かウサミミおねえさんの肩が震えていた。
結局、その違和感は、身体測定の準備が出来たと呼びにきた職員さんが来るまで続いたのだった。
で、その身体測定とは……要するに色んな測定器具を巡って色々なモノを計測しようというものだった。
人間とそこは同じである。
ただ、そこはそれ。人間でなく饅頭の測定ともなると珍妙奇天烈なものばかりで……
「はい、まずはのーびのびをしてー」
「「のーびのびするよっ!!のーびのびっ!!」」
身体を伸ばした長さを測る身長測定。
「次は、ちゅぶれりゅーのポーズをしてー」
「「ちゅ、ちゅぶれりゅー!!」」
身体を押し潰したような時の高さを測る身縮(しんしゅく)測定。
「今度はぷくー!をしてみましょー」
「「ぶくーっするよ!ぷくーっ!!」」
空気を吸って膨らんだ状態の胴回り(?)を測る身膨(しんぼう)測定。
「ゆんやー運動してみましょうかー」
「「ゆん・やー!ゆん・やー!ゆん・やー!ゆん・やー!」」
上体(?)を上下に振る時の振り幅を測る伏臥(ふくが)測定。
「お尻を振ってみてー」
「「ぷりぷりするよっ!ぷりんぷりん!!」」
逆に下半身(?)の左右の振り幅を測る振幅(しんぷく)測定。
「動かないでねー」
「「あすとろん!!」」
普通に体重測定。
いや、お前ら、別に鉄になったりしてないから。
てか、何で職員さんの言う運動を、説明なしで理解できるんだ?
あと、何故に逐一その行動内容を叫ぶ?台詞がハモる?
「はーい、お疲れさまー。身体測定は終了ですよー」
「「ゆっくりしていってね!!!」」
やり遂げた感全開の笑顔で挨拶する饅頭2匹。
まぁ、ある意味、無駄に疲れる測定ではあったな。
でもって、今度は面接である。
今度は飼い主の私も一緒だ。
「ようこそ、まりさ、れいむ。ゆっくりしていってね」
「「ゆっくりしていってね!!!……ゆゆっ?!」」
面接室に入って驚いたのは、ゆっくりだけでなく私もだった。
テーブルも椅子もない、殺風景な部屋の真ん中に、いくつものクッキーが散らばっていたからだ。
「あまあまさんが落ちてるよっ?!」
「とっても、おいしそうだね!でも、何で?」
疑問を浮かべるゆっくりたち。
きっと私も同じような顔をしているだろう。
と、ニコニコしている初老の面接官さんが話しかけてきた。
「れいむ、まりさ。君たちはとってもゆっくりしているね。ご褒美にそのクッキーを一つだけ食べてもいいよ」
「「ゆゆっ?!食べてもいいの?」」
「もちろんだよ。ただし、一人1個だけだからね」
「「ゆっくり理解したよっ!!」」
と、そこで饅頭共がクルリとこちらへ向いた。
「おねえさん、クッキーさん食べてもいい?」
「おじさんは食べてもいいって言ってるけど、おねえさんはいい?」
「なんで私に聞くんだよ。……えーと、本当にいいんですかね?」
一応、私も面接官さんに確認してみる。
「どうぞどうぞ。1個だけ食べるように許可してあげてください」
「はぁ、じゃあ遠慮なく。と、いう事で食べてもいいらしいぞ。ただし、1個だけな」
「「ゆわーい!おじさん、おねえさん、ありがとう!」」
それから暫く、どのクッキーを食べようか迷ったりしていた2匹だったが、それぞれプレーンとチョコのクッキーを選ぶとモグモグと食べだした。
「「むーしゃ、むーしゃ……ごっくん、しししあわせー!!」」
いちいちクッキーごときで泣くなよ。
まるで私が普段エサをあげてないみたいじゃないか。
「「ゆっくりごちそうさま!!」」
「はい、お粗末さまでした。これで面接は終了です」
「え?」
キョトンとする私に、面接官さんが説明してくれた。
この面接では、目の前のあまあまに夢中になって礼儀やお礼を忘れてしまわないか、飼い主がちゃんとゆっくりを制御できるかを判断するものらしい。
今回のこいつらは、ちゃんと食べる許可を面接官さんと私の両方に取り、挨拶も出来たので優秀との事だ。
うーむ。特に躾とかしてなかったんだが、素晴らしい躾け方ですねとか言われると背中がかゆくなるな。
で、最後は運動測定だ。
室内に用意された「ゆっくり用運動場」で計測するらしい。
施設巡りなのは身体測定と一緒だな。
「思いっきりジャンプしてね」
「ジャンプするよ!」 「ジャンプするね!」
まずは垂直跳び。身体半分くらい、まりさの方が高く跳んだ。
「今度はここからこっちへ跳んでみてね」
「ぴょんぴょんするよ!」 「ぽんぽんするね!」
次に幅跳び。やはり、まりさの方が遠くに跳んだ。
「思いっきり走ってみようか」
「まりさは風になるよ!」 「れいむも風邪になるよ!」
短距離走。……気のせいか、れいむの方は何か間違えてる気がする。
ちなみに、今度もまりさが勝った。
「私に続いて歌ってね。♪ゆっくりしたけっかが~これだ~よ~♪」
「「♪ゆっくりしたけっかが~これだ~よ~♪」」
歌なのか、それ?本当に歌なのか?
これは何を基準に優劣をつけてるのか全く不明だった。
だが、職員のお姉さんとまりさは、れいむを絶賛していた。
「この棒で、ピンポン玉を何度も叩いてみてね」
「ゆっ!ゆっ!なかなか当たらないよ!」
「難しいよ! ピンポン玉さんはゆっくり叩かれてね!」
紐でぶら下げられたピンポン玉を口にくわえた棒で連続で叩かせる測定。
最初の一撃は簡単だが、二度目からは玉が揺れるので難しくなる。
これは二匹とも、2回しか当てられなかった。
「紙の上のおはじきを、好きなように並べてみてね」
「ゆーん、これはとってもゆっくりできる石さんだよー」
「綺麗だねー、ゆっくりー♪」
そのまんまの測定だが……これまた何を測っているんだろう?
結局、この検査は、れいむもまりさも時間切れまでおはじきを眺めてるだけで終了してしまった。
「じゃあ、ここに書いてある字は読めるかな?」
職員さんが指示棒で指したのは、壁に大きくかかれた「ゆ」の文字。
これは見たまんま、識字能力を調べる目的らしい。
2匹の饅頭は暫くそれを見つめていたが、
「「ゆっくり分かりません!!!」」
と、自信満々に言い切った。
そんなこんなで、珍妙な全ての測定を終えて受付まで戻ってくると、ウサミミおねえさんが待っていた。
「お疲れ様。測定はどうだった?」
「れいむ、何だか疲れちゃったよ」
「まりさも疲れたよ。上手くできたかなぁ?」
ぐでぇー、と椅子の上で潰れ饅頭状態になる2匹。
まったく、疲れたのはこっちだっての。
何であんなにツッコミ所満載な測定ばっかりだったんだ。
分からん。ゆっくりってのは、業界そのものも謎だらけだ。
と、潰れたまんまの2匹のお飾りに、ウサミミおねえさんが、そっと赤銅色に輝くバッヂを取り付けた。
丸いバッヂの中央には「銅」の文字をあしらったマークが刻まれている。
「「ゆっ?」」
「二人とも、銅バッヂに合格よ。おめでとう」
「「ゆゆーっ?!」」
驚くように、互いのバッヂを見合う2匹。
「ゆわあああ……バッヂさんだぁ」
「バッヂさんだね。これが飼いゆっくりの印……」
2匹とも暫く呆けていた様子だったが、やがてポロポロと目から涙をこぼして泣き出した。
「ゆ、ゆえええええーん!う、嬉しいよぉ!」
「バッヂさんだぁ!バッヂさんを貰えたよぉ!」
「これで飼いゆっくりになれたんだね!れいむ、もう独りで怖い怖いしなくていいんだね!」
「ずっとおねえさんと、ゆっくりできるんだね!おねえさんをゆっくりさせてあげられるんだね!」
おいおい、恥ずかしい台詞をデカい声で叫ぶなっての。
……あ、なんだか貰い泣きしてる職員さんがいる。
しかし、感動してる2匹には悪いが、銅バッヂは申請さえ通れば普通に貰えるんだよな。
あくまで「飼いゆっくりである証明」な訳だし。
所属不明の迷子ゆっくりを私が保護して、そのまま飼う事になった、という経緯が手続きを面倒にしてるらしいけど。
今回の色々な検診も、あくまでデータ測定が目的なだけで、優劣が何かに影響する訳でもないようだ。
成体の2匹は半年後の銀バッヂ試験で、初めてその資質を試されるのだが……まぁ、無粋な事を言うのは止めておくか。
ちなみに、銀バッヂは成体として人間世界の常識を一通り習熟しているという証明で、これを獲得すれば家の外への散歩や、自販機での買い物などが可能になる。
もちろん、飼い主の付き添いは必須だが。
「やれやれ、疲れる饅頭共だよ」
「あら、そこがゆっくりの可愛い所じゃない」
ポン、と私の肩に手をかけて微笑むウサミミおねえさん。
……あれ?なんだか、おねえさんの指がミリミリと肩に食い込んでるよ?
「さ、それじゃあ行きましょうか?」
「え?ど、どこに?」
「霊夢ちゃんのお勉強会へよ。今日の約束を忘れていた事のお仕置きがまだだったでしょ?」
「うえっ?!」
おねえさんの手は、既に万力のような強さで私を捉えている。
はっきり言って、凄く痛い!けど、そんな事どうでもいいくらいに怖い!
「半年後の銀バッヂ試験の時は、飼い主である霊夢ちゃんの筆記試験もあるんだから。
今からゆっくりの基礎知識を完璧に教えてあ・げ・る♪」
「い、いえ!いえいえ!え、遠慮させてください!勉強なら家でしますから!」
「ダメよ。貴女の生態を何年見てきたと思ってるの。筋金入りの怠け者でしょう、貴女は。
で、痛いけど気持ちいい罰と、恥ずかしいけど気持ちいい罰のどっちがいい?」
気持ちいいって何っ?!そこが物凄く嫌過ぎる!!
何故か命の危機と貞操の危機が同時に来てる予感がする!
あと罰って言った?!勉強じゃないのっ?!ぶっちゃけ過ぎでしょうっ!!
「たっ、助けてー!れいむー!まりさー!」
「「おねえさん。お勉強がんばってね!!」」
おおいっ、てめえら!後ろ向いて応援するんじゃねぇ!
こっちに目を向けて話せよ!ウサミミおねえさんが怖いのは分かるけど!
目が合った瞬間に、ゆっくりだとショック死するかもしれないという気持ちはよく分かるけど!
死亡フラグを回避する能力が高いのは良い事だと褒めてあげたいけど!
「どさくさに紛れて酷い事言ってるわねぇ。これは、ちょっとお仕置きのレベルを上げようかしら?」
「ゆんやあああぁぁああぁぁああぁぁ!!!!!」
ズルズルと引きずられるように建物の奥へ引き込まれる私。
その場の全ての人間とゆっくりが、その光景から目を逸らして他人事を決め込んでいる。
まるで私は、処刑場へ向かう罪人のようだった。いや、罪人だが。
「どっ、どぼぢでこんなごどにぃぃぃっ!」
そして、この日の私の記憶はここで途切れた。
※未完作品※