今日この町に、一人の青年が訪れた。 
この青年は、ゆっくりの虐殺を趣味としており、短時間で、大量のゆっくりを潰すことに 
この上ない快感を感じるような人間であった。 
なぜ、そんな青年がこの町に来たかというと…


「こんな静かな町に本当に〝最強の人間〟がいるのか…?」

一人の友人から、ゆっくりに対しては最強の人間の噂を聞いたからだ。 
友人も詳細は知らないようだが、情報を聞き出す際の渋り様からすると確かな情報に思えた。 
何はともあれ、行動あるのみ。さっそく聞き込みを開始する青年であったが…

「嘘教えやがったか…あんちくしょう。」

結果は芳しくないようだ。実は情報を提供した友人は、いわゆる〝愛で派〟である。 
よく考えれば、そんな人間が虐殺趣味を持つ青年に情報を提供するわけがない。

「ほんとかどうか知らないけど、会いに行ってみればいいんじゃないかな。」

そういった友人のニヤリとした顔もこれで合点がいく。 
諦めて帰ろうとした青年だが…

「うぇ…ひっぐ…ぐすん。」

どこからともなく啜り泣きが聞こえてくる。声の元を辿っていくと、 
道端で一人の少女が泣いているのが見えた。年の頃は6、7歳といったところか。

「どうしたんだい、お嬢ちゃん。」 
「うぇ…虫さんがぁ…踏んじゃったよぉ…」 
「虫さん…ってうぉぉおゴキブリじゃねぇか!」

少女の足元にはゴキブリの死骸が。 
こんなものを踏んだら大人でも涙目である。 
しかも少女はあろうことかゴキブリに向かい手を伸ばしている。

「な、何してるの!?」 
「お墓作るの…」 
「い、いや、あのねお嬢ちゃん。そのゴキ…虫さんにはお墓なんて」 
「……」 
「いらな…いと…」 
「……」

無言の上に涙目で見つめてくる少女の圧力についに青年は屈した。 
穴を掘って…ゴキブリを埋めて…ポフポフと土を固めてお墓の完成だ。

「ありがとうお兄さん!」 
「いやいや、どういたしまして。ところでお嬢ちゃん。一人かい?パパやママは?」 
「パパもママもお家!いっぱいのゆっくりたちと遊んでるの!」 
「へ、へぇ~そうなんだ…」 
「お礼にあたしのお家に来てっ!ゆっくりはね、とってもゆっくりできるの!」 
「う~ん…じゃあとりあえずお嬢ちゃんのお家に行こうか。」 
「えへへ~これっ!お近づきのしるしね!あと、まーちゃんって呼んで!」 
「おぉ、麦チョコ。懐かしいなぁ。ありがとう。」

(ごめんなお嬢ちゃん。俺には〝ゆっくり〟なんて感情は理解できないんだよ。それにしても… 
こんな小さな子供を一人で外に出して…しかも家でゆっくり共と遊んでるだと? 
この子の親はニートなのか?ゆっくりを愛でるあまり育児放棄か? 
まぁとりあえず、〝最強の人間〟についての最後の聞き込みついでにこの子を送っていくか。)


「ここがお家!パパとママ呼んでくるから待っててね!」

(ずいぶん大きな家だなぁ。というより屋敷だな。ん、この名前、つい最近どこかで…)

「パパ、ママ!このお兄さんだよ!」 
「この度は娘がお世話になりまして…」 
「…!いえいえ、お礼を言われるほどのことはしてないですよ」 
「大したおもてなしもできませんがどうぞお上がりいただけませんか?」 
「はぁ…ではお言葉に甘えさせてもらいます。」

両親の予想外の物腰の良さに青年は驚いてしまった。どう見てもよい父親と母親だ。 
驚いた勢いそのままに、その気はなかったが思わず家にお邪魔することになった。 
入り口の門を抜けると広い庭があり、そこにはドーベルマンとゆっくりもみじが2匹ずつ、 
そして庭を抜け家の中に入るとゆっくりさくやが一同を出迎えた。

「おかえりなさいませみなさま。そしてようこそいらっしゃいました。おきゃくさま」 
「あ、あぁ、ゆっくりしていってね。」 
「ありがとうございます。どうぞごゆるりと…」

脱いだ靴はさくやがおさげで丁寧に揃えなおしている。この上なくよく躾けられている。 
自己紹介を軽く済ませた後客間に通され、4人でテーブルにつく。テーブルの上にはクッキーが置いてある。 
ほどなく、先ほどのさくやが紅茶入りのティーポットと、ティーカップをトレーに載せて運んできた。 
そしてテーブル脇にあるゆっくり専用に誂えたであろうスロープを危なげなく登り、全員に紅茶を淹れてゆく。 
その物腰はまさにメイド。その姿は実に瀟洒で、虐殺趣味を持つ青年も思わず心奪われる。

「ありがとう、さくや。さ、仕事にお戻り。」 
「かしこまりました、だんなさま。ごようがあればなんなりとおもうしつけくださいませ。 
おきゃくさまも、どうぞごゆるりとおくつろぎくださいませ。」 
「さくやありがとー!」 
「ふふ、おじょうさまもおくつろぎくださいね。では、しつれいいたします…」

そう言うとさくやは客間から出てゆく。

「あのさくやはメイドとして炊事、洗濯と私たちの生活を助けてくれているのですよ。」 
「さっきの犬といたもみじは一体?」 
「番犬のようなものですね。もみじ種は極稀に、犬と会話することができる個体がいるんです。 
もみじ種の例に漏れず人の言葉は使えませんが、理解はできるので飼い犬のパートナーとしては最適です。」 
「それは初耳ですね…にしても凄い。特に、さっきのさくやなんて人間顔負けですよ。」 
「そう言っていただけるとブリーダー冥利に尽きますわ。ねぇ、パパ?」 
「そうだね、ママ。」 
「と、言うことはあのさくやはあなた方が躾けたと…あっ!そういえばこないだテレビで…!」 
「私たちをテレビでご覧になったんですね。うふふ、なんだか恥ずかしいわ。」

この夫婦は最近、〝超優良ブリーダー〟としてテレビで取り上げられていたのだ。 
二人が提供するゆっくりはすべて金バッチで、二人の元を離れた後も変わらず購入者に尽くすと評判だ。 
10頭近くのゆっくりを金バッチ試験に連れてゆき、全てが合格したあの映像は青年の記憶にも新しい。 
虐待趣味の人に渡ったりしないように、購入する際にも二人による面接に合格しないといけない。 
もはや、二人の名前=ブランドとして扱われているほどだ。

「この子がパパとママはたくさんのゆっくりと遊んでると言ったわけがわかりましたよ。」 
「ブリーディングのことは、この子にそう言ってあるのですわ。」 
「あの子には跡を継いでもらいたいから、いずれはきちんと教えるつもりですがね。」 
「なるほど…ところで、話は変わりますが少し聞きたいことがあるんです。」 
「なんでしょうか?」 
「実は…」

そう言うと私はちらりと少女を見る。主人はそれを察してくれたようだ。

「まーちゃん。お庭で遊んでおいで。」 
「はーい!」

元気よく返事をした少女は客間から出ていく。 
しばし、沈黙が客間に流れる。

「で、なんでしょう。」 
「じつは、この町にゆっくりに対しては最強の人間がいると聞いてきたんです。」 
「…心当たりがないこともないですね。」 
「ほんとですか!?」 
「しかし、それを聞いてどうするのですか?」 
「えぇと…それは…」 
「会ってご趣味の助けになることをお聞きするつもりでした?ふふっ。」 
「っ…!?いや、これといって趣味は…」 
「いいのですよ、隠さなくても。ゆっくりは飼いでもない限り、そんな扱いを受けても誰も気に留めませんわ。」 
「妻はその人がゆっくりに対してどんな感情を抱いているか、どんな扱いをしてきたか見抜けるのですよ。 
本能なんですかね。私にはわかりませんが。まぁ、どんなご趣味をお持ちかは聞かないでおきましょう。 
さて、最強の人間の話の前に、私たちの仕事をご覧になりますか?」 
「いいんですか?」 
「もちろん」

朗らかに笑いながら主人は言う。奥方は一瞬だけ青年を射抜くような目をした気がしたが 
気のせいだと思うことにした。


広い庭の隅に建てられた、離れのような場所に青年は案内された。 
ドアを開けると中は、丁度体育館のような、開けた造りになっていた。 
ここもまた、ゆっくり専用に誂えたものなのだろうか。 
中では30匹ほどのゆっくりがおり、すいかやひじりなどの希少種もいたが、 
多くがれいむやまりさといった通常種であった。

「こんなにいるのに、床にうんうんやしーしーが全くないですね。」 
「教育の賜物、というやつですかね。でも基本的な教育は私たちがした後、 
その後の躾は全て親ゆっくりが子ゆっくりにおこなっているのですよ。」 
「信じられない…どういった教育を?」 
「申し訳ありません、企業秘密です…おや、丁度いい。少しだけ公開しましょう。」

そう言うと主人はあるれいむとまりさのほうに向かっていく。 
2匹の近くではまりさが1、れいむが2の計3匹の赤ゆっくりが寝息を立てていた。

「れいむ、まりさ」 
「ゆっ!おじさま!れいむたちになんのごよう?」 
「子供が生まれたんだね!おめでとう。」 
「ありがとうおじさま!まりさの子供はゆっくりしてます!」 
「悪いけれど、少しだけ子供たちを起こしてくれるかい。」 
「わかりました!」

まりさが子供たちをゆすると、寝ぼけ眼をこすりながら3匹は目を覚ます。

「ゆぅ~んにゃんにゃんだじぇ…」 
「ねみゅいよぉぉ」 
「ゆゆ?にんげんしゃん?」 
「おはよう、みんな。」

何が始まるのか青年は興味津々である。赤ゆっくりたちの両親に目をやると、やや緊張した顔つきをしている。

「おめでとう。君たちが生まれてきてくれて嬉しいよ。さ、お祝いのあまあまをあげよう。」 
「「「ゆわーい!」」」 
「ただし!」 
「「「ゆ?」」」 
「私がいいよ、というまで食べてはいけないよ。大丈夫、ちゃんと待てたら絶対食べられるから。」

と言いながら主人は赤ゆっくりたちから少し離れたところにクッキーを置く。 
3匹とも目がキラキラしている。青年の目はイライラしている。 
30秒ほどたった時、1匹のれいむが主人の声を待たず飛び出し、クッキーに飛びついた。

「くっちゃくっちゃ!うっみぇ!これうっみぇ!まじぱにぇっ!」 
「にゃにしてるんだじぇぇぇ!?」 
「いいよっていわれてにゃいでしょぉぉ!?」 
「うるしゃいよ!もうまてにゃいよ!あといじわるするくしょにんげんは…」 
「ママ。」 
「はい。」

奥方から受け取った霧吹きを、待てなかった赤れいむにかける。 
中はラムネを溶かした水が入っており、これにより赤れいむは眠ってしまった。 
その両親はどこか諦めの入った顔で赤れいむを見つめている。

「さて…みんな、集合だ!」

ぞろぞろとゆっくりたちが集まり、主人を中心に半円のような形を作った。

「私は今からこの赤ちゃんを…永遠にゆっくりさせる!」 
「ゆっぴいぃぃい!」 
「やめちぇぇええ!」 
「こわいよおおお!」 
「…れいむにまりさ。」

集まった赤ゆっくりや子ゆっくりが騒ぎ立てる。親ゆっくりは対照的に神妙な面持ちで件の赤れいむを見つめている。 
そんな様子を気にも留めず、主人は赤れいむの姉妹であるれいむとまりさに話しかける。 
姉妹は主人の放つオーラに感じたためか、泣くのをやめ震えながら主人を見つめている。

「どうしてこの子が永遠にゆっくりするかわかるかい?」 
「うぐっ…わからにゃいよぉ」 
「やめるんだじぇ…にんげんしゃん。かわいしょうだじぇぇぇ。」 
「…そうか、では今から私のいうことをよく聞くんだ。」

主人はそういうと、集まったゆっくりたちのほうを向く。

「…ひじり!どうしてこの子は永遠にゆっくりするんだ?」 
「おじさまのいいつけをまもらず、かってにクッキーをたべたダメなゆっくりだからです!」 
「よし。わかったかい?れいむ、まりさ。ダメなゆっくりは、人間も、他のゆっくりも 
ゆっくりできなくしてしまうんだ。それはみんな困るだろう?」 
「ゆぅ…」 
「だじぇ…」 
「……わかったかい?」 
「「ゆぅっ!わかったよ!(じぇ!)」」 
「よろしい。では…この赤れいむとは永遠にお別れだ。」

言うが早いか、どこからともなく取り出した針で素早く赤れいむを貫く。 
正確に中枢餡の中心を捉えたためか、赤れいむは少しだけうめき声をあげた後、眠るように逝った。 
その場にいた全員が、その様子を静かに眺めていた。

「れいむ、まりさ」 
「「ゆぴぃっ!」」 
「さ、あまあまだ。」 
「「ゆゅ…?」」 
「約束しただろう?いい子にしてちゃんと待てたね。ほら、もう食べていいよ。」 
「「ゆ、ゆぅー!」」

涙目で甘々に飛びつく。食べ終わった後は親ゆっくりに言われきちんとお礼をした。 
そして、一同は離れを後にした。場所は変わり、客間。

「どうでしたか?」 
「とても勉強になりました。ところで、どうしてあんなふうに処分したんです? 
それに、あの赤まりさはだぜまりさでした。放置していいんですか?」 
「あまり苦しむ様を見せてしまうと、人間そのものに恐怖を抱く可能性が高くなるんですよ。 
それと、あのテストはゲスを見分ける初歩的なテストですし、口調は親が矯正してくれます。 
1、2分ほど我慢させるのですが、ゲスの我慢の限界はあの程度ですね。」 
「へぇ~。しかし…あの子に継がせるといいましたが、あんなやり方だったとしても 
あの子には辛すぎるんじゃないでしょうか?」 
「大丈夫ですわ。あの子には、それを補って余りある才能が有ります。 
それこそ、私や主人とは比べ物にならないほどのものが。」 
「そうだ、あの子と少しお出かけしてきませんか?最強の人間の話はそのあとに…」 
「は、はいっ!わかりました!」

(いよいよ、いよいよだ!俺の虐殺スキルに磨きをかける時は近い!)

「あははっ!もみじー!ジョンー!タロー!もみじー!」 
「おーい、まーちゃん。」 
「あ、お兄さん!どうかした?」 
「ちょっと僕とお出かけしないかい?」 
「うんっ!いいよ!どこに行く?」 
「君のパパから聞いたんだけど…君のゆっくりぷれいすに連れて行ってくれないかな?」 
「もー!パパったら!内緒にしてって言ったのに!でも、お兄さんならいいよ!」 
「よし、じゃあ準備ができたら早速連れて行ってくれるかな?」 
「はーい!準備してくるね!」

そして青年と少女は〝ゆっくりぷれいす〟へと向かった…


そこは小さな森の中にあった。遊歩道を抜けると、開けた場所に出る。

「ここがゆっくりぷれいすかい?」 
「うんっ!あ、見たことないまりさがいる!ご挨拶しなきゃ!」

そういうと少女はまりさの元に駆けてゆく。

「こんにちは、まりさ!初めまして!」 
「ゆっ?くそにんげんがまりささまになんのようなのぜ!」 
「これっ!お近づきのしるし!」 
「ゆゅっ!?…むーしゃむーしゃしあわせぇぇぇ!」 
「ふふふ~おいしい?」

(ありゃりゃ、あげちゃったよ。あの口調はゲスだろうな…それにチョコをあげたとなると…)

「おいくそどれい!こんなんじゃぜんっぜんたりないんだぜぇぇ!もっともってこい!」 
「だーめ。一人一個ね!」 
「…ふざっけるなぁあ!どれいがまりささまにくちごたえするなぁああ!」

(つけあがるよなぁ。しかもくそにんげんからくそどれいか。いい身分じゃないか。…!?)

「せいっさいするのぜ!」

あろうことかまりさはまりさを撫でていた少女の手にかみつく。 
まりさの力では少女に傷一つつかないが、代わりに青年の堪忍袋に深刻なダメージを与えたようだ。 
今まで溜まっていたどす黒い感情が堪忍袋のあちこちから噴き出してくる。 
しかし、青年の顔は穏やかである。この優しい少女にはそれを悟らせたくないためだ。 
しかし、追い打ちをかけるように、

「う…うわぁああああああん!!!」

堰を切ったように泣き出す少女。全く痛くもかゆくもないはずなのだが… 
だが、これにより…

「ゆへへ!どれいごときがなまいきいうからだぜ!」

ますます増長したようだ。一方青年はというと、

「……………」

無表情になっていた。青年の堪忍袋はビックバンを起こし、どす黒い感情が宇宙のように広がり青年を支配していく。 
いまだかつて感じたことのない怒り、しかし少女の心を傷つけたくない。 
この二つが導き出した答えは、感情を一時的に捨てることであった。

「まりさよ…」 
「ゆゆっ!ここにもくそどれいがいたんだぜ!」 
「向こうへ行こうか…とびっきりのご馳走を用意してあるからさ…」 
「ゆっふっふ。おまえはこのやくたたずのちびどれいよりかはつかえそうなのぜ!」 
「まーちゃん。ちょっと待っててね…向こうでまりさとお話ししてくるからね…」

過去最高の作り笑顔を顔に張り付け、青年は優しく話しかける。 
その笑顔はとても自然で、どこからどう見ても怪しいところは見えない。 
しかし、それに対する少女の反応は、全く予想外のものであった。

「いじめちゃだめっ!」

ペチン、と青年の膝あたりを叩く少女。

「え…まーちゃん?」 
「やかましいちびどれいだぜ…せいさいがたりなかったのぜ…?」 
「いじめないでっ!うわぁぁん!!!」

青年は驚きを隠せない。見透かされていたとでもいうのか。そしてまた少女は泣き出している。 
ふと気づくと騒ぎを聞きつけたのか多くのゆっくりが集まってきた。 
その中からあるぱちゅりーが青年に話しかけてきた。

「むきゅう…そこのおにいさん、すこしいいかしら?」 
「な、な、なんだ?今ちょっと取り込み中なんだが…」 
「ボスはなんでないているのかしら。」 
「ボス?…まさかこの子のことか?」 
「そうよ。みんなにきこえるようにおしえてほしいのだけど…」 
「このまりさがこの子にあまあまを貰ったら調子に乗って…もっとよこせと喚いてだな。 
それをこの子がダメだって言ったらまりさがこの子にかみつきやがった。」 
「…むきゅ。みんな!きこえたかしら!?」 
「「「「「きこえたよ!」」」」」 
「ボスをきずつけたこのまりさを…」 
「「「「「せいっさいだよ!」」」」」 
「な、何事だ!?」

青年はあまりの事態についていくことができない。そうしているうちにゲスまりさは 
すっかりゆっくりたちに囲まれてしまっていた。

「やってくれたね!」 
「ゆべぇっ!」 
「ボスをなかせたまりさは!」 
「ゆひぃいい!」 
「ゆっくりできなくしてやるみょん!」 
「もうやべてええ!ごべんなざいいい!」 
「まだだよ!こんなもんじゃたりないよ!わかれよー!」

(なるほど、ねぇ…この子の才能、それにゆっくりに対しては〝最強〟の人間か。 
ゆっくりを従える力とでも言うのかな。どうやったかは知らんが、コツさえつかめばできそうだな。 
ご両親が言うほど…まぁ後で教えてもらうか。従順な群れを虐殺するのもまた一興だろうしな。)





こうして、青年の抱いた疑問は氷塊した。





かのように思えたが…

「まりさ!れいむ!まりさ!ちぇん!ようむ!ありす!」 
「「「「「「ゆ?」」」」」」 
「あたしが見てないからって何してるの!まりさをいじめちゃだめぇええ!」 
「みょーん」

ゆっくりようむをどかすとぼろぼろのまりさに駆け寄り、カバンから取り出したオレンジジュースをかけた。 
みるみるゲスまりさの傷が回復していく。青年はまたもやついていけず、唖然としている。

「ごめんねまりさ。痛かった?」 
「ゆぐ…ゆへへ!なかなかつかえるちびどれいなのぜ!ちびどれい!はやくあいつらをせいっさいするのぜ!」 
「ボスー!わからないよー!」 
「いじめちゃだめなのっ!みんな早くまりさに謝って!」 
「それは、とかいはじゃないわ…」 
「うぅ…!いじめちゃいけないんだよぉ…」

涙目だった少女は再び泣きそうになる。それを察したのか

「「「「「ごめんなさい!」」」」」

リンチしていたゆっくりも、そうでないゆっくりも、なぜか青年も、一同声をそろえてまりさに謝った。

「ふん!わかればいいのぜ!これでぜんいんどれいにしてやるのゆぶべぇ!?」 
「だめっ!奴隷じゃないのっ!友達なのっ!うう…うわぁああああん!!!」

結局また泣き出してしまった。ゲスまりさはというと少女に叩かれたためゴロゴロと転がっていく。 
もういい、どうでもいい、ゆっくり共を皆殺しにして全部忘れよう。そう思った矢先、野太い声が辺りに響く。

「ボスがいじめられたってきいたぜ!」 
「ドスー!わかる、わかるよー!」 
「これでなんとかなるんだぜ!」 
「ドスまりさまでいるのか…」

ようやく収拾をつけることのできそうなドスまりさが現れ、ゆっくりたちは色めき立つ。 
ドスまりさはぱちゅりーから事情を聴き、ふんふんと頷いている。

「はなしはきいたよ!みんなどすのちかくにあつまるんだぜ!そこのおにいさんもだぜ!」

言われるがままにぞろぞろと集まる。もはやめんどくさくなった青年もおとなしく従う。

「で、ドスよ。あのまりさをどうするつもりなんだ。」 
「みてればわかるのぜ。みんなもてだしむようだよ!」

そしてゲスまりさと少女は…

「ゆぐぐ…きたないのぜ。ドスをつれてくるなんて!」 
「うわぁあああああん!!!」 
「おいどれい!なんとかするのぜ!もういっかいせいっさいされたいのぜ?」

とは言いつつも、まりさは少女の周りを跳ね回るだけで、手を出す様子はない。 
その後も何度か少女に命令するが…無駄。命令に従わすどころか、泣き止ませることすらできない。 
そして時間がたつにつれ、ゲスまりさの表情に変化が見られた。

「ゆっがぁあああ!なんだかゆっくりできないのぜぇええ!」 
「うわぁあああああん!!!」 
「おい!これをみるのぜ!」 
「う…ふぇ…?」 
「これはまりささまのたからもののぴかぴかさんなのぜ!これをやるからなきやむんだぜ!」 
「うわぁああ…きれーい!ありがとうまりさ!」 
「ゆ、ゆふん。ほめてもなにもでないのぜ。」

なんとゲスまりさが折れる形で決着がついた。少女の満面の笑みをうけ、嬉しそうですらある。

「ドス…もしかしてお前、こうなるのがわかってたのか?」 
「そうだぜ。まりさもまえにゲスだったころ…」 
「お前もゲスだったのか!?」 
「むかしのはなしだぜ…まりさも、というよりはまりさたちも、だぜ」 
「ゲスの群れだったわけか…」 
「そんなときボスがまりさたちのなわばりにはいってきたうえに、まりさをみてもにげださないから、 
みんなでせいっさいして、あまあまをうばって、おいだそうとおもったよ。そうしたら…」 
「泣き出した、と。」 
「そうだぜ、さいしょはかったぜ!ってみんなでよろこんだけど、だんだんゆっくりできなくなって… 
いつのまにかボスをなきやませるためにみんなでがんばってたよ…そうしたらボスがなきやんで、 
ありがとー!っていってわらったんだぜ。そのかおをみたとき、とってもとってもゆっくりできたんだぜ。」 
「…で、なんでボスなんだ?」 
「ドスよりみんなをゆっくりさせられるから、ドスになってくれってたのんだら、ドスはドスのままで、 
あたしはみんなのボスになるね!っていったからだぜ。」

そういうと、ドスまりさはゲス…いや元ゲスまりさに近寄る。そして何やら話したかと思うと…

「ボス、おにいさん、めいわくをかけたんだぜ!まりさはこのむれにいるからまたあそびにきてほしいんだぜ!」

元ゲスまりさが素直に謝ってきた。

「おう、もう悪さするなよ。」 
「またね!まりさ!それに、まりさもドスをがんばってね!」

青年も少女も元ゲスまりさの態度の変化に驚く様子もなく、返事を返す。

「さて、まーちゃん。そろそろ帰ろうか。」 
「うんっ!」


「おかえりなさいませ、おきゃくさま。」 
「ただいま。」 
「きゃくまでだんなさまがおまちです。では、ごゆるりと…」

青年の靴を揃えなおした後、さくやは奥へと引っ込んでゆく。 
少女は帰ってきてすぐにまた、庭で遊びだした。

「どうでしたか?娘の様子は。」 
「あなた方のいったあの子の才能、というものがわかりました。それに…」 
「〝最強の人間〟についてもお分かりいただけましたか?」 
「さすがに目の当たりにしてしまえば、わかりますよ。」 
「でしょう?私たちもドスから話を聞いたときは驚きましたよ。」 
「あの子の性格、才能、それにあの子…〝種類〟でなく〝個体〟で識別する能力まであるんですね。」 
「ふふ、そこまでお気づきですか。私達だって人間で括られるよりは名前で呼ばれたいものですしね。」 
「ゆっくりも心を開くわけですね…それでは、そろそろ失礼します。」 
「えぇ…また会えるといいですね。」

客間を後にした青年は玄関に向かう途中に奥方と出会う。

「娘の才能に触れられたようですね。」 
「えぇ、本当に驚きでしたよ。」 
「…うふふ、今のあなたになら私たちの育てたゆっくりをさしあげても大丈夫。 
ゆっくりが飼いたくなったらいらして下さいな。娘の御恩もあります、お安くいたしますわ。」 
「え…それはどういう意味…」

そして奥方は客間へと入っていった。青年は仕方なしに家を出ることにした。

「やぁ、まーちゃん。」 
「もう帰るの?」 
「そうするよ。」 
「そんなぁー…またきてね?」 
「うん、約束するよ。」 
「えへへ~じゃあお兄さんまたね!ほら、ジョン、タロー、もみじ、もみじ。ご挨拶して!」 
「「ワン!」」 
「「わふっ!」」


帰り道、青年はひとり呟く。

「あー…あいつ初めからわかってて教えやがったな…演技派な野郎だ。 
にしても…なんでかな、こんなこと、絶対にありえないと思ってたんだけどな。」

青年は胸の中に、ほっこりとしたものが宿っているのを感じた。そして、それを認めざるを得なかった。 
そう…〝ゆっくり〟という感情を。

「あーもう!ちくしょうめ!」

そうぼやく青年の顔はどこか照れくさそうである。ちょうどあの、元ゲスまりさの様に… 
この日、一人の青年が虐殺を引退し、ややツンデレながらも愛で派としてデビューした。



【おわり】