ゆっくり。それはここ十数年の間に、突如現れた謎の饅頭。 
人々は人の頭で出来た、人語を介するその饅頭に様々な反応を示した。 
ある人は、悪魔、もしくは神の使いだと。 
ある人は、生き物であると。 
ある人は、生き物でもなんでもないただの饅頭だと… 

しかし、初めはゆっくりと人間の居住区域が重なることはなく、さしたる問題はなかった。 
また、そのあまりに不思議な作り故に研究は捗らず、結局生き物なのかどうかさえ分からなかった。

その関係に変化が見られたのはここ10年ほどのことである。 
人語を介するため、人と対等に接していたら増長した。 
農村では、死に物狂いで助けを求めるために、 
畑荒らしのゆっくりを見逃がしたらさらに仲間を連れて荒らしに来た。 
街ではその見た目故に、ゆっくりが人間を挑発してきても潰すのが憚られ、避けていた。 
結果、人間を下と見たゆっくりは全ての人間を「奴隷」と呼び始め、街を荒らした。 
道路に飛び出し、車にひかれることで道路を汚すことなど日常茶飯事。 
奴隷程度の生き物が乗っているということで、いつまでたっても車を恐れなかったのだ。 
ペットにするにしろ、犬や猫と同じように飼っても懐いたり感謝したりするどころか増長した。 
これもまた、捨てられることにより野良ゆっくりが増える一因であった。

無論そんな個体がすべてではないが、ついにゆっくりの増長ぶりは政府を動かした。 
ゆっくりに対する法律が制定され、特にバッジシステムは好評だった。 
これにより飼いと野良が区別され、バッジがない個体は潰しても何のお咎めもなし。バッジのある個体を潰しても、 
バッジに応じた罰金を持ち主に支払う程度である。 
飼いゆっくりの教育法も洗練され、飼いと野良では人間からの扱いも自身の持つ知能も天と地の差である。 
一般人の多くは、飼いゆっくりと野良ゆっくりは別物であると認識しているほどだ。 
また、学会によりゆっくりの定義も定められ、ゆっくりは動く饅頭、つまり生きていないとの結論が出た。

これらが決められてからの人間は凄まじかった。 
日本中で野良ゆっくりの一斉駆除が行われ、また駆除業者以外の一般人も進んでゆっくりを潰した。 
人々はただ、周りの目や犯罪なのではという後ろめたさからゆっくりを潰すのを避けていたにすぎない。 
野良ゆっくりに対してはほとんどの人間が良い感情を持っているはずがなかった。 
また、野良ゆっくり達は増長しきっており、大声で挑発するとすぐに現れたため、駆除はこの上なく容易かった。 
街で、森で、山で、ありとあらゆる場所で野良ゆっくりの一斉駆除が行われた。

そうして、日本中では野良ゆっくりが激減したが、一斉駆除後はその旺盛な繁殖力ですぐにまた数を増やした。 
だが、一斉駆除前と、違っていることがあった。 
多くの野良ゆっくり達の餡子には、「人間には絶対に勝てない」と刻み込まれ、人間を恐れるようになった。 
人間も、こうして縮み上がった饅頭に対し、一部の人間を除き害をなした時以外基本的に無視するようになった。 
そうした関係が全国一斉駆除の後から現在まで保たれていた。

だが、世代交代が凄まじく速い野良ゆっくりが、それだけの間人間の恐怖を忘れず、子々孫々と伝えていけているのか。 
その理由は、人間にとってはどこでもあるような、ありふれた日常の中にあった。


「むきゅ、いまからみんなにじゅうだいなおしらせがあるわ。」

群れのみんなを集めそう切り出したのは、とある森のとある群れの長ぱちゅりー。 
この群れはれいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりー4種の、50匹ほどのゆっくりで構成された中規模な群れである。

「わたしたちはこれから、にんげんのまちにいくわ!」 
「ゆゆ?どうして?」 
「いいしつもんねれいむ。にんげんのまちにはもりにはないような、 
 とってもおいしいたべものや、ゆっくりできるおうちがたくさんあるのよ!」 
「「「ゆゆわわわあああああ!!!」」」

ぱちゅりーの言葉に色めきだつゆっくり達。

「でも、にんげんたちはそれをぜんぶひとりじめしているのよ!」 
「それはゆるせないんだぜ!」 
「そうよ!だからみんなでまちのにんげんたちをせいっさいして、 
 まちにあるゆっくりできるものすべてをてにいれるのよ!」 
「「「ゆおおおおー!」」」

群れのゆっくり達は全て、やる気満々といったところであろう。 
この群れは、一斉駆除後に森の中で数を増やし、人間とあまり関わることもなかった。 
そうした時に、長ぱちゅりーが偶然愛で派の人間に出会い、街の話を聞いたのだ。 
群れの誰も人間のことを餡子に刻まれた姿形ほどしか知らないため、その恐ろしさなど知る由もなかった。 
よりによって出会ったのが、優しくしてくれる愛で派の人間というのも勘違いの原因である。 
さらに、群れ全体がぱちゅりーを筆頭にややゲス気質の持ち主であった。 
こうしてぱちゅりー発案の、群れ全員での街へ向けた大移動が始まった。


「むきゅ。ここですこしきゅうけいをとりましょう。」

この群れの住んでいた森は、この小さな街にほぼ隣接する場所にあり、ゆっくりでも1、2時間もあれば着く。 
群れは、街の端にある人気のない小さな公園にたどり着き、そこで休憩することに決めた。 
普通、これだけの数のゆっくりがぞろぞろと一斉に移動していれば加工所の職員を呼ばれたりするが、 
この群れは道中全く人間に出会わなかった。そういう意味では、幸運といえよう。 
これから起こることを考えれば、楽に死ねず不幸というほかないのだが…

「ゆわあああ~、このおうち、とってもゆっくりしてるよぉ~。」 
「こっちのおうちもとってもとかいはだわ!」 
「ここを、れいむとまりさとおちびちゃんのゆっくりぷれいすにするよ!」 
「ゆわぁーい!」

休憩という言葉を聞いていたのかいないのか、ゆっくり達は遊具や公衆便所を「おうち」としだした。

「むきゅきゅ。みんな、まだだめよ!」 
「「「ゆゆ?」」」 
「にんげんたちはここにはいないでしょう?それはね、にんげんたちは 
 ここよりももっとゆっくりしたばしょで、おいしいたべものをひとりじめしているからよ!」 
「「「ゆがーん!」」」 
「ここですこしやすんでから、にんげんたちをせいっさいしにいきましょう!」 
「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」

ぱちゅりーの言葉を受け、街への襲撃へ向け鋭気を養うゆっくり達。 
あるまりさは木の枝をゆんゆんと振り回し、人間をなぎ倒す様を想像している。 
あるれいむは自分の子供たちに歌を歌い、ゆっくりさせてやろうとしている。 
あるありすは体力をつけるため、ゴミ箱を倒し意地汚く生ごみを食べている。 
どのゆっくりにもいえることは、一様にゆっくりしているということであった。 
そしてそれが、群れが味わう最期のゆっくりした時間であった…

「あははーそれでー。」 
「ほんとにー?」 
「今日何して遊ぶ~?」 
「えーと…お?」

現れたのは、人間の子供達が10人弱。 
この公園は、学校の帰り道から少しだけ外れたところにある。 
そのため、学校帰りの子供達がよくこの公園を遊び場として活用しているのである。 
普段はドッヂボールやかくれんぼやおままごとといった遊びが主だが、今回は違った遊びになりそうである。

「あ!ゆっくりよ!」 
「ほんとだ!こんなにいるなんてすげー!」 
「ゆゆ…?ゆへへ!にんげんがいるんだぜ!」 
「むきゃきゃ。これはちゃんすだわ!こいつらはにんげんのなかでもとくによわい、 
 ちいさなにんげんのようね!みんな!てはじめにこいつらをせいっさいするのよ! 
 たっぷりいためつけたらどれいとしてまちのたべものやおうちをけんっじょうさせましょう!」 
「「「ゆっゆおー!」」」

さっそく出会った人間に対し、早くも制裁を決定したゆっくり達。 
子供たちはそんな言葉を誰一人として聞いておらず、ひそひそと話し合った後…

「よし!作戦開始!」 
「「「イエッサー!」」」

勇ましい掛け声とともに、二つある公園の入口に向けて走り出す子供達。 
入り口脇にある、普段はボールなどが外に出なくするための板を入り口に置き、子供なりに公園を封鎖した。 
無論、人間であれば簡単に跨げるものであるが、ゆっくりには不可能である。 
この瞬間、ゆっくりにとっては脱出不可能の牢獄が完成した。 
ゆっくり達はそんなことは露知らず、騒ぎ立てているようだ。

「むきゅ!にげだそうとしているわ!みんな!つかまえなさい!」 
「ゆっくりりかい…ゆゆ?こっちにむかってきたよ?」 
「かんねんしたみたいなんだぜ!ゆぷぷぷぷ!」 
「なんかこいつら調子乗ってるな!」 
「いーじゃん何でも!逆にやりがいあるって!」

人間を今から制裁せんとするゆっくり達の、自信に満ちた醜い顔とは違い、 
子供たちはもう待ちきれないといった顔でうずうずしている。

「じゃあ後は好きに遊ぼっか!」 
「よっしゃー!」


「むぎゅう…どぼじ…でごんな…ごどに…」

そう言っているのは長ぱちゅりーである。 
今はあんよをズタズタにされた後、滑り台のてっぺんで人間の子供達の「遊び」を見せられている。 
長ということでなされた、子供達の粋な計らいである。

「ゆっぴぃぃぃぃぃ!やめちぇえええ!」 
「やめろぉ!おちびをはなゆがががが!」 
「ゆぅう!ゆぅううう!いれないでもががが!」 
「これこれ、ちょうどこんなのがねーちゃんのロシア土産だよ! 
「あー…何となくわかる!名前なんだっけ?」 
「忘れちゃ…ったよ!…と」 『グチャ!』 
「おぉ…お見事。」

この子供達は、親まりさの口の中に子れいむを、子れいむの口の中に赤れいむを入れている。 
少々形が違うようだが、どうもマトリョーシカのことを言っているようだ。 
親まりさと子れいむは子供たちの「遊び」により体中傷だらけである。 
そして今、片方の子の放った渾身の踏み付けにより、3匹仲良く逝った。 
ちなみに、親れいむは

「ゆひぃ!ゆひぃいいい!もうころしてぇええ!」 
「だーめだって。それだと負けになるもん!」 『ブチィ!』 
「まだまだこれからよねー。」 『ブチブチ!』 
「ゆっぎゃあああああああ!」 
「これやるの久しぶりだな!やっぱおもしれ-!」 『グチャァ!』 
「おじゃべなざい!おじゃべなざい!どぼじでじねないのぉおお!?」 
「やっばい!お食べなさいされても負けだよね?口ちぎろっと。」 『ビリィイ』 
「おい!お食べなさいされないうちに次に回すのも楽しみなんだって!」 『ゾブッ』 
「そうよ!わかってないわねー。」 『ミリミリ』 
「おばべばばい!おばべばばい!おばべばばい!おばべばばいぃい!」 
「あっはは!言えてないよ!」 『ブチッ!』 
「口がちゃんとあったらこんな状況でもたまに言えるんだぞ?」 『ブッチィ!』 
「そうそう、それもまた一興、ってやつね」 『メチィ』 
「も゛ぅ…じにだいびょぉおおお!」

ここで、生き地獄を味わっていた。 
ここで行われているのは、「ゆっくりちぎり」という遊び。 
自分の番に、最低でも一回ゆっくりの体をある程度ちぎり、死んだら負けという単純なルールである。 
大抵は、苦しめるためにこうして一回ずつちぎるらしい。 
なかなか加減をわきまえているみたいなので、まだまだ死ねないだろう

「パパ、ご飯は美味しい?」 
「あぁ、とってもおいしいよママ。」

こちらでは女の子と男の子でおままごとだ。 
パパ役の人形が、ご飯に頭を突っ込んでいる。ご飯はというと…

「ゆっぴぴぴぴぴぃいい!」

生きた子ぱちゅりーの後頭部をちぎったものであった。人形は中枢餡に達しておりこうなってはもはや手遅れである。 
母ぱちゅりーはその事実を理解し、えれえれして逝ったが、父まりさはあきらめてはいない様子だ。

「まりさのおちびをはなすんだぜ!」 『ぷす』 
「ひゃっ!脇腹やめてっ!…きゃー強盗よ怖いわー。パパ助けてー。」 
「ゆへへへ…いまごろこわがってもおそいんだぜ!ここにいるにんげんぜんいんみなごろしだぜ!」 
「大丈夫かいママ。今やっつけるからね!」

木の枝を用いた父まりさの渾身の攻撃は、女の子をくすぐったくさせることくらいはできたようだ。 
ゆっくりの攻撃なぞ、武器を用いたところで小さな虫か、脆弱な作りであるゆっくりくらいしか効果はない。 
そして女の子の棒読みの演技を本気にしているあたり、所詮は餡子脳といったところか。 
そうこうしている内に、男の子が父まりさから木の枝をひったくる。 
ゆっくり程度の能力では、人間の子供の動きですら反応することはできない。 
そして人形の手に木の枝を添え、上から手で押さえ…

「この強盗め!やっつけてやるぞ!」 『バスッ!バスバスッ!』 
「ゆぁあん!いだいいいい!ごべんなざいいいぃ!」 
「駄目だ!」 『ドスッ!』 
「ゆぶぃええ…もっど…ゆっぐりしだかっだ…」

人形が木の枝をふるうような形にして、まりさの全身を切り裂き、最後は中枢餡を一突き。 
強盗を撃退したこの二人は、何事もなかったかのようにおままごとを再開した。

「えーそれでは、裁判を始めます。」 
「ゆっがぁあああ!とかいはじゃないわあああ!」 
「「みゃみゃあぁ!!きょわいよぉおお!!」」

こちらでは、裁判の真似事が行われている。 
この子供達はつい最近、授業で裁判について学んだばかりなのだ。 
被告人はありすとまりさ。子供の赤まりさと赤ありすは母親にくっついて震えている。 
家族全員、逃げられないようにあんよはズタズタだ。

「えー、このまりさとありすは、罪もない少年に突然体当たりを仕掛けました。 
 その後、少年が抵抗したところ、自分たちは生きているのにどうしてこんなことをするのか、と言いました。 
 これらは暴行罪と詐欺罪にあたります。」 
「異議あり!ゆっくりは生きています!詐欺罪ではありません!」 
「あたりまえよぉおお!なにをいってるのかしらぁあああ!?」 
「さっさとはなせぇええ!しゃざいとしてあまあまとおうちをだせぇえ!」 
「異議あり!ゆっくりは饅頭です!決して生きてはいません!」 
「ぐぬぬ…参りました。」 
「「どぼじであぎらめるのぉおお!」」 
「裁判長!この家族は体当たりによる暴行罪、そして人間をだまそうとした詐欺罪、 
 この二つの罪により、死刑を求刑します!」 
「よろしい、死刑。直ちに執行したまえ!」 
「「了解!」」

この裁判は、所詮真似事の域を出ないが、それでも判決は執行される。 
というよりもともと魔女裁判じみたもの。最初から死刑は決定していたのだ。 
既に弁護士と検察官は死刑執行人にジョブチェンジを済ませていた。

「それでは…死刑執行。」 
「はなちちぇぇええ!」 
「とかいはなおちびちゃんをはなしなさい!このげす!」 
「おねーちゃんをはなちぇ『パン』ええ!…ゆぅ?」 
「あ…あぁ…とかいはなおちびちゃんが…」 
「このげすがぁああ!せいっさいするんだ『グチャリ』ゆべぇ!」  
「ま、まりさあああ『ドスッ』んぐぅ!」 
「ゆ…ゆっぴぃいいいいいい!もうおうちきゃえりゅううう!」

あっという間に赤まりさを一匹残し、家族は全滅した…

「これで最後か。ゆっくりしていって…」 
「ちょっと待って!」 
「ん?どうしたのさ?」 
「こいつにさ、バトルさせようよ!」 
「おーいいじゃん…って小っちゃいのあるかな。」

大量に現れたゆっくりにテンションが上がった子供達は、頭では分かっていたのだが、 
思わず我慢ができずにすぐにゆっくりを潰してしまったりしていた。 
子供達にとってはじっくり遊んでいるつもりではあったが、一時間ほどで既に群れは10匹を切っていた。 
そんな中、一人の男の子があるれいむに目を付けた。

「ふっふ~ん…」 
「なになに?どうしたの?」 
「…ゆっくりしていってね!!!っと」 
「ゆっくりしていってね!!!…あぁあおちびちゃん!おくちからでちゃだめぇ!」 
「ゆっきゅちちていってね!!!」 
「よし赤れいむゲット~♪」 
「んじゃ俺さっそく赤まりさ使うね!」 
「いいなぁ…もう流石に小っちゃいの無いかなぁ…」 
「れいむのおちびちゃんをかえせっ!れいむはしんぐるまざーなんだよ!かわいそうなんだよおお!」 
 かえしたらはやくあまあまもって「こっちはいらないや。」 『ブチュル』

このれいむ、口の中に赤れいむを隠していたようだが、あっさりと見破られ、 
あっさりと赤れいむを外に出し、そしてあっさりと潰れた。

「ほいっと。」 『ヒョイ』 
「もーらい。」 『プチッ』 
「ゆぁあああん!まりしゃのおぼうちかえしぇえええ!」 
「ゆっきゅちしたおりぼんしゃん!かえしちぇね!ゆーん!」 
「勝った方に返してやるよ。」 
「「ゆぅ?」」 
「いや、だからさ…お飾りのないゆっくり同士で戦ってさ、相手を永遠にゆっくりさせた方に返すよ。」 
「ゆぴやぁああ!しょんなのいやぁああ!れいむしにちゃくにゃいいい!まりしゃをころしちぇえ!」 
「しょんなのしゅるわけにゃいでしょ!?にんげんはばきゃにゃの?ぷきゅー!」 
「じゃあお飾りとはバイバイだねー。」 『ピリリッ…』 
「ゆ…ゆぅぅぅぅ!?まりしゃのおぼうちちぎらないぢぇぇえ!」 
「じゃあ早く戦えってばー。」 
「ほらほられいむもー。お飾り破いちゃうぞー?」 
「…ゆぅう、ゆんっ!」 『ぽむん』 
「ゆうぅう!いたいのじぇえええ!?しんじゃうのじぇええ!?」 
「おぉ!?れいむが先に攻撃だー!」 
「面白くなりそうじゃん!」

先に仕掛けたのは赤れいむであった。こういう場合は普通まりさ種が仕掛け、 
そのままの勢いで勝ってしまうのだが、この赤れいむにもゲス気質が備わっていたようだ。 
しかし、身体能力で勝るのはまりさ種。この勝負は勝敗がわからなくなってきた。

「ゆぐっ…もうおこったのじぇ!」 『ぽひゅ』 
「ゆっぴゃぁあああん!いぢゃいいぢゃいいぢゃいぃい!」 
「まりしゃにいちゃいいちゃいしたげすはちねぇ!いますぐだじぇ! 
『ガブッ!』…!?うみぇっ!あまあまうみぇえ!まじぱにぇのじぇ!」 『ガツガツ』 
「ゆぅうぅ!れいみゅをたべにゃいじぇええ!」 
「あーやっぱりれいむ弱いなー。」 
「ていうかあんな体当たりで痛がったり、こんな噛みつきで皮破れたり… 
 ほんとちっちゃいゆっくりってどうしようもないわね。」

脆弱なゆっくりの中でも、特に身も心も弱い赤ゆっくり。 
同じ赤ゆっくりの攻撃でも転ばされたり、皮を食いちぎられたりする。 
この程度の攻撃が攻撃として有効であるほど脆弱なその作り。 
かつてはゆっくり研究者の中でその原因を研究するものも多かった。

「ゆぴぴぃ…」 
「こいつ寝ちゃったよ?お腹いっぱいになったからかな。」 
「まりさ!起きろ!」 
「ゆぴっ!?」 
「ほら、帽子返してやるよ。」 
「ゆわぁあ~おぼうちおきゃえりなちゃい!」 
「あのさぁ…れいむがどこに行ったか知ってる?」 
「ゆゅ?いなくなっちぇるにぇ?まりしゃがきょわくなっちゃんだにぇ!ゆっぷぷ!」 
(うわぁ…ここまでだとは…) 
「じゃあさ、このあまあまはなに?」 
「しょれはまりしゃがきゃわいいからってじめんしゃんがだしちぇくれちゃんだよ! 
 きゃわいくってごみぇんにぇー!とってもおいちかっちゃけどもうおにゃかいっぴゃいなんだじぇ!」 
「へぇ~美味しかったんだ~」

そういうと、下半分しか残っていない、かつて赤れいむであったモノの上にリボンを置くと…

「ゆぅう!?こ…こりぇって…」 
「れいむ美味しかったんだ~よかったね!」 
「ゆ…ゆぶぅえええええ!おぶぇ!おぶぇえええ!」 
「あ~…餡子出しちゃった。もうだめかなぁ。」

自分のしたことにようやく気が付き、口から致死量の餡子を吐き息絶えた。 
こうして、群れはほんの1時間ほどで壊滅状態に陥ってしまった。 
しかし、壊滅に追いやった子供たちの顔はどれも満面の笑みだ。 
好奇心が満たされてゆく満足感と、「喜」と「楽」の感情のみで構成された純粋な、子供らしい笑顔。 
子供ゆえの純粋な残酷さを孕んだその行為に対し、罪の意識など全く見て取れない。 
ゆっくりでいえば「さいっこうにゆっくりしたえがおっ!」である。 
しかし、子供達の狂喜の宴の終わりは唐突に訪れた…

「お前達…何をやっとるかぁーーー!!!」


「全く!公園をこんなに汚しおって!」 
「「「ごめんなさーい!」」」 
「ごめんで済んだら警察はいらないわい!」 
「いたっ」 
「きゃっ」 
「うげっ」 
「いって!」 
「うひっ」 
「きゃぁあ」 
「おぉう…」 
「いったーい!」

通行人から連絡を受けてやってきた町会長に見つかってしまった子供達。 
お仕置きとして一人一回ずつ拳骨を受けていた。

「こんなに餡子まみれにしおって!しかも入り口をふさいでからに! 
小さい子だと入りにくいじゃろが!公園はみんなのものじゃぞ!」 
「それはゆっくりが逃げないように…」 
「言い訳無用!それに片づけをする気もなかったんじゃろ!」 
「そんなことないわよー!」 
「ほほぉ…ゴミ袋も何も見当たらんがのお…」 
「うぐっ!」 
「嘘をついてごまかすんじゃない!」 『ごちん』

嘘をあっさりと見破られた女の子が追加の拳骨を受ける。その時であった。

「ゆへへへ!ざまあみろだぜちいさいにんげん!」 
「むきゅきゅ!ぱちゅたちにさからうからこうなるのよ!」 
「むれのみんなをころしたつみはどうつぐなってもらおうかしらぁ!?」 
「さっさとどれいのじじぃはそのちいさいにんげんをせいっさいしてね! 
 そのあとはれいむたちがとどめをさすからそのあいだにあまあまとおうちもってこい!」 
「しょーだしょーだ!」

何処からともなく現れたゆっくり達。このゆっくり達群れのみんなが潰れながらも戦っていた内に、 
さっさと逃げ、ほとぼりが冷めるまで隠れようとしていたゲス達である。 
早々に力の差を理解して隠れたあたりなかなか賢いかもしれないが、悲しいかな餡子脳。 
子供達が怒られているのを見て、子供達より強い自分の奴隷が現れたと勘違いし姿を現したのであった。

「なにをしてるんだぜくそどれい!さっさとそいつらを…」 『ブチュッ』 
「ゆ…なにしてるのおおおお!?くそどれいいい!」 
「とかいはじゃないわぁ!?」 
「全く、やっぱり野良はすぐ調子に乗るのぅ…」 
「会長さんだって潰してるじゃんかー!」 
「やかましい!わしは片づける前提じゃ!ゴミ袋持っとるじゃろ!それにお前らと違って 
 近所迷惑にならんようにさっさと潰すわい!」 
「納得いきませ~ん。」 
「拳骨が足りんかったかのぅ…?」 
「暴力はんた~い!」 
「全く口の減らん…ほれ、また騒ぎ出すからさっさと潰さんか!」 
「「「は~い。」」」

会長の言葉により、ようやく会長が奴隷でもなんでもないことに気づいたゆっくりは、 
そろって命乞いを始めるのであった。

「ゆひぃいい!れいむがわるかったですぅ!ゆるし『ドムン』」 
「な、なんでもするわぁ!あなたのあんよがとかいはになるようにぺろぺろでも『グッチャ』」 
「ゆっぴぃいいい!きょわいよぉおおおお!」 『パチュン』 
「む…きゅ…りかいができないわ…!どうしてかんたんにこんなことができるの!? 
 ぱちゅたちもいきているのよ!?」 
「また言ってるよ。生きてないのになー。」 
「む、むきゅ!?」 
「学校の授業で先生に習ったよ?ゆっくりは饅頭で、生きてないって。誰でも知ってるよ。お前知らないのか?」 
「そ…そんな…そんなことって…」 
「はよ潰さんか。『ブチュル』野良ゆっくりと話なんぞしとる場合か。謝罪なんぞ鳴き声じゃ。 
 …よし終わったな。ほれ、全部のゴミをゴミ袋に詰めなさい。ついでに公園のゴミ拾いもするんじゃぞ!」 
「え~それ関係ないじゃん!」 
「ついでじゃ、ついで。ほれ、わしもやるからさっさと動く!」

こうして、群れは晴れて全滅した。町会長主導のゴミひろいにより、 
そこには50近くの野良ゆっくりがいた痕跡どころか、ゴミ一つ落ちていないきれいな公園となった。

「よし。これでよい。」 
「もう帰っていいですか~?」 
「ふむふむ。まぁ待て。この群れは大方、森から街を荒らしに来たってところじゃろ。」 
「じゃあ俺らいいことしたんじゃね!?」 
「話を聞かんか!まぁ今回はよいとして、野良でもむやみやたらと潰すもんじゃないぞ。 
 普段はあやつらもなるべく人と関わらんようにしとるんじゃ。それに潰すとうるさいしの。」 
「「「は~い」」」 
「わかればよろしい。ほれ、これで帰りにみんなでジュースでも買いなさい。」 
「「「やったー!さよなら会長さん!」」」

町会長から1000円を受け取り、去ってゆく子供達。

「まぁ…どうせ潰すじゃろうなぁ。あの年頃には野良ゆっくりは恰好の遊び道具か… 
 それに、いい教育にもなるしの。こういったことばっかりは子供らにはかなわんのう。」

一人そう呟きながらフイ、と公園の外に目をやる。 
子供達は気づいていないようであったが、人目に付きにくい路地裏から、 
大量の野良ゆっくりがこちらを見ていた。 
しかし町会長に見つかったことを察した野良ゆっくりたちは、蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。


先程、公園を見つめていた大量の野良ゆっくり。それらはみな街に住む野良ゆっくりである。 
野良ゆっくりのもつ連絡網で、みな自分からこの場に集まったのだ。 
そのなかの、とあるちぇんとれいむで構成された家族の様子を見てみよう。

「ゆ…ゆぅう…こわいよぉ、おかあさん。」 
「わ、わ、わからないよぉおお。」 
「しっかりとみたね、おちびちゃんたち。」 
「もうにんげんさんはよわいとかおもわないことだねー。」

子れいむと子ちぇんの餡子脳には、先ほどの惨劇がしっかりと刻まれたようだ。

「どうしてあんなことするのぉお…?」 
「しかたないんだよーゆっくりだからねー。わかってねーおちびちゃん。」 
「どうして、どうしてー?ちぇんはわからないよーおとうさん。 
 なんでにんげんさんのこどもはあんなにたのしそうなのー?ゆっくりだからわるいのー?」 
「そうだよー。ゆっくりだからしかたないんだよー。」 
「で、でもおかあさん!いけないことだよっ!それににんげんさんのこどもだって、 
 おおきなにんげんさんにせいっさいされてたよ!」 
「あれはせいっさいじゃないよ、おちびちゃん。ゆっくりをころして、こうえんをよごしたから、 
 だからあのこたちはおこられてたんだよ。それだけだよ。」

納得がいかない子供たちをなだめすかす親たち。 
この子たちは、自分たちに関わろうとしない人間を弱いものと勘違いし始めていたのだ。

「でもれいむたちはいきて「いきてないんだよー」ゆっ!?」 
「わかってねーおちびちゃん。たしかにゆっくりはいきてる。でも、 
 にんげんさんからみたらゆっくりはただのおまんじゅう。いきてないんだよー。」 
「そ…そんな…そんな…わ、わからないよー!」 
「でも!でも!おおきなにんげんさんはれいむたちをこわがってるよっ!? 
 れいむがおおきなにんげんさんにめいれいすれば、にんげんさんのこどもはみんなせいっさいだよ!?」 
「…ちがうよー。こわがってなんかない。あいてにされてないかきもちわるいとおもってるだけだよー。 
 それにおおきなにんげんさんにいったら、こっちがころされるよー。」 
「そうだよ、おちびちゃん。こどもよりずっとずっとつよいおおきなにんげんさんが、 
 ゆっくりのいうことなんてきくわけがないよ。」 
「「…」」 
「これでわかったねー?ぜったい、ぜったいににんげんさんたちにちかづいちゃだめだよー。 
 とくににんげんさんのこどもはみつかるのもだめだよー。」 
「「ゆっくりりかいしたよ…」」

結論から言うと、こういう出来事は日本中でよくある。 
人間の怖さを忘れた野良ゆっくりが、人間の街を荒らしに来る。 
しかし、どれも上手くいったためしはない。 
大人がいれば、たとえどんな群れであってもさっさと全滅させられる。 
加工所の職員が来れば、それよりさらに早く、一瞬で駆除される。 
しかし、今回の様に子供に見つかるのは、ある意味で最悪、ある意味で最高である。

子供は好奇心や楽しさが先走り、大人のように近所迷惑や人の目、また職員のように効率など考えはしない。 
そして脆弱なゆっくりを、反応する玩具として、その柔軟な思想と純粋な心で以て、 
様々な方法で長い時間をかけて虐め、潰す。 
街に住む野良ゆっくりはそれを何より恐れている。 
自分たちを殺すことに何の疑問も、罪悪感も、後ろめたさも持たず、わざわざ追いかけて遊び殺す。 
そして、それをすることにより、ゆっくりから見てもけちのつけようがないくらい屈託のない笑顔を見せる。 
楽しさ、好奇心、純粋さ、残酷さ、そして自覚のない殺意。そんな正と負の入り混じった狂気の権化を。 
道行く大人がそれを見たとして、よくある他愛無い遊びとして苦笑いを浮かべるくらいだろう。 
近所迷惑になるようであれば大人によって一瞬で潰されるが。

しかし、別の面からみれば、野良ゆっくりの教育には最高である。 
ゆっくりというものは、恐怖や痛みからくる記憶は非常に忘れにくい。 
基本的に、大人はゆっくりを無視する傾向にある。それは昔と同じだ。 
ならば、昔と同じく増長する野良ゆっくりが現れるのも、至極当然のことである。 
しかし、子供は違う。昔はその奇怪な風貌を恐れ、野良ゆっくりを避けていたが、 
今では単なる玩具として、長い時間をかけて遊ぶ。 
そういった傾向にある子供の行為は、確実にそれを見ている野良ゆっくりにも恐怖を与える。 
つまり、今回の様に勘違いした野良ゆっくりを正すのに最適なのだ。 
そしてそこから、子供にすら勝てないのだから、大人やまして加工所職員になんてどうあがいても勝てない、と 
結果として人間全体の強さ、怖さを刻み付けることができるのだ。 
大人達はそれをわかっているからこそ、子供達の行為をある程度許容しているのだ。


「ただいまー。」 
「あーおかえりー。」 
「ねーママ聞いて!今日ね!公園に野良ゆっくりが群れでいたんだよ!」 
「へー…どうしたの?」 
「全部潰した!」 
「元気ねー…あんた。あ!食べたりしてないでしょうね!?野良はお腹壊すわよ!? 
 それにちゃんと片づけたの!?」 
「片づけましたー!町会長さんと一緒に!」 
「あぁ…見つかったってわけね…いい?あんたはどうせ町会長さんが来なかったら 
 片づけなんてしなかったでしょ?駄目だからね?潰したらちゃんと片づけるのよ?」 
「はぁーい。」 
「ほんとにわかってんのかしら…まぁシャワー浴びてきなさい。あと、冷蔵庫にプリンあるわよ。」 
「やったー!」 
「はぁ…道理で汚れてると思った…靴もきれいにしなきゃ…」

野良ゆっくりを潰したことを咎めることもなく、ゆっくりの処理を説く母親。こんな光景は、ごくごく普通である。 
この世界は、ある意味狂気に満ち満ちている。 
自分たちと同じ言葉をしゃべり、笑い、泣き、怒り、そして家族を作るゆっくり。 
人はその姿に自分を重ねることもあるはずである。 
飼いゆっくりともなれば、犬猫と同様人間のよきパートナーとして知られている

しかし、この世界では野良ゆっくりは全存在の中で最底辺だ。 
教育機関では、初等教育においてゆっくりについて教えられる。 
ゆっくりの生態、基本的な法律、そしてゆっくりに対する対処など… 
その中でゆっくりには命がないと断定され、また、野良は潰しても何のお咎めもないと子供たちに教えられてゆく。 
しかし、それでも何の問題もない。 
いや、むしろゆっくりが現在のような扱いを受けるようになってから、 
いじめや犯罪が減ったという報告まで出ているのだ。 
ある意味では、ゆっくりは人にとってなくてはならない存在なのかもしれない。 
だからこそゆっくりはこの世界に唐突に現れたのか…それは誰にもわかることはない。

ただひとつわかっているのは、この世界はゆっくりが招いた自業自得である。 
初めに人間と友好的に接していれば、命があるとみなされ、受け入れられたであろう。 
しかし自らがそれを拒み、結果人間の怒りを買ったのだ。 
もう、二度と初めの頃のようにゆっくりがゆっくりできる世界は訪れないかもしれない。 
たとえ訪れたとしても、またすぐに戻るだろう。 
餡子脳では所詮、祖先がやった事を知らず、知っていたとしても顧みることはない。 
脆弱なゆっくりは、この世界を生き抜くことだけで精いっぱいなのだ。 
自らが招いたこの世界を…

場所は変わり、先ほどの公園。 
粋な計らいにより放置された長ぱちゅりーは、まだ生きていた。 
掃除の際に、子供達から忘れ去られていたためである。

「む…ぎゅう…しんじゃう…ぱちゅは…けんじゃなのよ…だれかたすけなさい…」 
「見てみてー!こんなとこにゆっくりがいるー!」 
「ほんとだ!すっごい邪魔ー。滑り台使えないよ!」 
「そこの…にん…げん…ぱちゅを…たすけなさい…これはめいれいよ…」 
「はやく潰してゴミ箱に捨てちゃおっか!」 
「そ…そんな…けんじゃであるぱちゅにそんなこと…」 
「あ、待って!」 
「んー?」 
「ほら見て、アリさんが!」 
「こんなとこまで来るんだー。」

二人の子供によって発見されたぱちゅりーは、蟻にたかられ息も絶え絶えであった。 
蟻は敏感に甘味の存在を嗅ぎ付け、地面から滑り台の上のぱちゅりーまで列を作っていたのだ。

「これで潰したり捨てたりしたら、アリさんがかわいそうだよ…」 
「そうだ!アリさんの穴の近くにこれ置いてあげようよ!」 
「うん!」

そういうと、滑り台からぱちゅりーを降ろし、列を辿って蟻の巣の真横にぱちゅりーを置く。

「これでよし!アリさん頑張ってね!」

蟻の巣の真横におかれたぱちゅりーは、わずかな希望すら打ち砕かれ、絶望していた。

「むぎゅ…ぱちゅは…ぱちゅたちは…ありいかなの…?」

なまじ長を務める程度には頭がよかったために、その残酷な事実を理解出来てしまった。 
そして圧倒的な絶望によりえれえれすることで、ようやくぱちゅりーは死ぬことができた。

だが、ぱちゅりーがいなくなったところで、いや、野良ゆっくりの群れが一つ全滅したところで誰も気にも留めない。 
たとえこの世から野良ゆっくりが絶滅しても、何もなかったかのように人々は生きていくのだろう。

このゆっくりできない世界は、何も変わらず回ってゆく。

これまでも、これからも、ずっとずっと…


【おわり】