時は数年前。よく晴れた昼下がり。ある田舎の村にその家族はいた。 
夫と、妻と、生まれてちょうど1年くらいになる女児の3人家族。 
子供が生まれて大体1年経ったこともあり、女性の故郷であるこの村に家族総出で帰省して来たのだ。 

目的は、祖父母となった女性の実家にに子供を連れて行く意味合いもあったのだが、一番の目的は山登り。 
女性は子供のころよくこの山を駆け回り、遊んでいた。 
自分の娘にも、自分を育んでくれたこの山に触れてほしいという母の愛情であった。 
もっとも…

「いやぁ…まさかあんたんとこの娘が母親になるなんてねぇ。」 
「ほんとほんと。小さいころから善いも悪いもなくゆっくりを潰して回ってたのに。」 
「あたしだってこの子が結婚するって言った時も、子供が生まれたって言われた時もそりゃ驚いたさ。」 
「頭の悪いゆっくりでもこの子の顔はしっかり覚えてたからなぁ。はははは。」 
「それがこんなかわいい子を産むなんて…神様に感謝だよ。」 
「大丈夫?山に登らせたら悪い影響受けるんじゃないの?」 
「…はぁ、もう。父さん、母さん。おっちゃんおばちゃん達も言ってくれるじゃない。」

山で行っていた遊びといえば、おにごっこやかくれんぼの他に、野良ゆっくりを潰して回っていた。 
むしろ野良ゆっくりを潰す遊びが一番多かった。一人の時でも潰していた。とにかく潰していた。 
何もしなくても潰すのだが、一度妹と弟がドスに傷つけられたときは、それこそドスごと山のゆっくりを全滅させかねない勢いであった。 
そして野良ゆっくりも自然の一部、と考える村の人々にその度に怒られ、止められていたのである。 
そのためこの村では、いつのまにか野良ゆっくりによる畑などの被害は皆無であった。 
そんなわけで、この村の近辺に住む野良ゆっくりは全国一斉駆除が行われる前から人を恐れていた。

もっとも、女性がこの村を出て何年もたった今ではそんなこともなく、 
畑荒らしもたまにあるが、その野良ゆっくりが潰されるくらいで人とゆっくりの関係は概ね良好である。 
というより、むしろ都会の方に比べればあまり人を恐れていないようだ。 
山ではゆっくりが山の幸を食べ、そして死んだゆっくりは土に還りそれがまた山の幸を育む。 
ゆっくり、特に数は多いが能力の低い通常種は死に易いため、山の生態系を乱すこともそうそうないようだ。 
人と出会ってもゲスであれば痛めつけられるか潰され、そうでなければ挨拶を交わしたり少し話す程度か、互いに不干渉である。 
この近辺のゆっくりは村の人々の考えるように、巡り巡る自然の輪廻の一部として生活しているのだ。

「そういや山に行くんだって?気ぃつけなさいよ。」 
「そうそう。最近化けもんが出るって噂だよ。」 
「化け物ぉ?」 
「そう。近くで見た人はいないけど、角があったってさ。」 
「…ちょっと怖くなってきました。」 
「あなた…化け物なんているわけないでしょう。」 
「あうー。」 
「ほら、この子もあなたを笑ってるわよ。」 
「そ、そうなのかなぁ?」 
「そうよ。なんにせよ山にはいくわよ。」

強気な女性に対し、男性の方はというと少し気弱な性格をしている。 
なんにせよ男性の意志など関係なく、山登りは決行されるようだ。 
と、その時。

「…なんか聞こえるわね。」

女性は何かを聞きつけたようだ。それに呼応して、周りの人間はすこしざわめく。 
この女性の感覚の鋭さ、そして勘の良さは村の皆が昔から知るところであった。 
というより、この女性が何を感じたか分かっているようでもあった。

「ちょっと行ってくるわね。あなた、その子をよろしく。」

そう言い残すと、足早に畑の方へ向かっていった。

「…どうすんのさ?」 
「ほっとくわけにもいかんさ。畑を荒らされるのはわしもかなわん。」 
「あんたの娘は子供ができても変わっとらんねぇ~」 
「ほんとに、妹と弟は普通の子なのにあの子は…」 
「皆さん、どうかしたんですか?」

この中で事態が呑み込めていないのは男性だけのようだ。 
祖父母やおっちゃんおばちゃん連中はやれやれといった感じで女性の後を追う。 
仕方ないので、男性も娘を抱いてその後を追った。

「お~やっとるやっとる。」 
「ほんとに子供じゃあるまいにあの子は…あんなもんまで作ってからに。」 
「まぁまぁ、村のためを思ってのことじゃ。それにわしらが見つけても潰しとるわい。」 
「そうそう、なんだかんだで優しい子だ。」 
「お父さん、あの子はすぐには潰さんからいけないんですよ。」 
「あ~もしかして、彼女ゆっくりを…」 
「君も知ってるんかい?あの子のあれを。」

この場に来て、ようやく男性も事態を呑みこんだようだ。 
畑では、畑を荒らしに来たであろうゆっくり数匹が、女性に蹂躙されている真っ最中であった。

「ゆびゃぁああああん!たすけてえええ!」 
「どぼじでごんなごどずるのぉおお!?」 
「おやさいをひとりじめしてるのがいけないんでしょおお!?」 
「私がいなくなったらこの有様…全国一斉駆除はなんだったのかしら。私も頑張ったのに。」

その場にいるゆっくりはすべてあんよを惨たらしく破壊され、泣き叫ぶことしかできない。 
女性の左手にはありすが、右手には自作の鞭が握られている。

「ほら、よく見てなさい。あんたたちもこうなるから.。」 『ガボッ!』 
「むぼぼぼぉおお!」 
「「「ありすううううう!」」」

女性が鞭を右手ごとありすの口の中に押し込むと、なぜかありすは急激に苦しみだす。 
両目はグルングルンとあらぬ方向を向き、あんよから中身が漏れるのも構わずに体を振り回している。 
血の涙ならぬカスタードの涙を流しながら、声にならぬ叫びをあげることしかできない。

「こんな風に…死ぬのよっ!」 『ガボォ!』 
「むぎょぼぉおお!」 
「ほら!あんた達もありすの嗅いだ臭いをかぎなさい!」 『パァン!』 
「ゆぴぃいいいい!」 
「なにごれ!なにごれぇえええ!」

右手がありすの体を貫く。武道をたしなんでいるためかその拳は鋭い。 
そのまま腕にありすがぶら下がっているのも気にせず、鞭で地面を跳ね上げる。 
この鞭は女性のお手製の、臭いを強く振り撒くように特殊な加工をなされた 
死臭付きのお飾りが大量に詰められており、地面を跳ね上げるだけで死臭をばらまく。 
中のお飾りは、女性による凄惨な拷問の末死んだゆっくりのお飾りのみが使われており、 
半永久的に死臭を放つだろう。

「こら!もうその辺にしときなさい!」 『ぐちゃり』 
「そうそう、そこまで苦しめることはないて。」 『ぐちゃ』 
「いや~相変わらずゆっくりを苦しめるのが上手だねぇ。」 『ぶち』 
「…まだ足りないのに。」 
「こら、お母さんがそんなこと言うもんじゃないだろう。」 
「ん、あなた…なんでその子まで連れてきたのよ。」 
「え、いや…ははは。なりゆきで…」 
「あーあうー。」 
「おぉ、笑っとるぞこの子。大物になるんじゃないかねえ。」

女性はまだこれからといったところだが、残ったゆっくりたちはあっさりと潰されてしまった。 
村の住人たちは、こういった出来事にはもう慣れているようだ。

「…はぁ、もう。とにかく畑荒らしは潰したし、私は先に家に帰ってるわね。」

それだけ言うと、不満そうな顔をして女性は家へと帰っていった。

「いや~鞭かぁ。あの子にぴったりだねぇ。」 
「ちょっとよしてよ。かわいい孫娘の前で。」 
「そういえば、あの子は君と会った後もあんなことをしていたのかい?」 
「まぁ…はい。この子が生まれてからは少しずつ控えているみたいでしたけど。」 
「俺の子がこんないい旦那さんを捕まえられるなんて、何があるかわからんねぇ。」

そう言いながら、他の一同も再び女性の実家へと戻っていく。

「そういえば、結局山にはいくのかね?」 
「楽しみにしてたみたいですし…行くでしょうね。」 
「どうする~?化けもんが出たら。」 
「その時は…化け物にすぐ逃げるように交渉してみます。」 
「はっはっは!そりゃあいい!たしかに娘なら化けもんより強いな!」

散々な言われようである。 
そして次の日の朝、昨日と変わらず、よく晴れている。絶好の登山日和だ。

「それじゃあ行ってくるわね。」 
「気をつけなさいよ。化けもんはともかく、動物とかもいるんだから。」 
「この山には今でもドスとか危ない動物はいないんでしょ?大丈夫よ。」 
「まぁ、そうだけどゆっくり踏んづけてこけたりとか…まぁ、行ってらっしゃいな。」 
「行ってきます、お義母さん。」

なんだかんだといろいろあったが、こうして頂上を目指し、家族の山登りは始まった。


「ふぅ、中腹くらいかしらね。」 
「ま、待って…早い…」

なだらかなこの山の中ほどにある、開けた場所に出た。 
女性の方はこれと言って疲れた様子もないが、男性の方はついて行くのがやっとという速度であった。 
最も、背中に娘を背負っているからなのかもしれないが。

「大丈夫?次から私がおぶろうか?」 
「な、なんのこれしき…問題ないさ。」 
「説得力ないわねぇ。」

そう言いながら、レジャーシートを広げる。 
ひとまずここで、休憩をとることに決めたようだ。 
リュックの中から、弁当と、水筒を取り出す。

「そういえば、この山でどんなことをしてたんだい?」 
「あら?父さんや母さんから聞いてない?」 
「色々と遊んでた、としか。」 
「そう…えぇと、まぁ、その、鬼ごっことかね。」 
「……」 
「な、なによぅ、その目は。」 
「まぁ、そうだね。鬼ごっこ楽しいよね。」

こうしてみると、どこにでもいる仲睦まじい夫婦でしかない。 
この女性は、ゆっくりにとっては悪鬼羅刹の如き存在ではあるが、 
それ以外は少しサディスティックなだけで、至って普通の人間である。 
が、それでもゆっくり虐待は公に口に出して言える趣味ではない。

対して男性は、ゆっくりに関して特に深い知識もない温和な人間だ。 
そしてそんな人間では顔をしかめるであろうゆっくり虐待と言う趣味を知ってなお、 
この女性を受け入れた寛容な人間でもある。愛ゆえに、と言う奴かもしれないが。 
女性がゆっくり虐待から遠ざかりだしたのも、娘が出来ただけでなく、この夫あってこそなのかもしれない。 
なんだかんだでうまくバランスのとれたカップルなのだろう。

「おいしい!やっぱり君はやっぱり料理上手だね!」 
「褒めても何も出ないわよ?」 
「いやいや、お世辞じゃないよ。ねぇ?」 
「うぶぶー。」 
「あら、なかなか味の分かる子じゃない。将来有望だわぁ~。」

女性の料理に舌鼓を打つ男性と娘。 
鞭を作ったことからもわかるが、何かと手先が器用なため料理も上手だ。 
最も、その器用さが最大限生かされたのはゆっくり虐待かもしれないが…

「もうちょっと休憩したら行こうか。」 
「遅れてたくせに…ほんとに大丈夫なの?」 
「大丈夫さ。ちゃんとこの子も背負うから。」 
「不安ねぇ…ん?」 
「どうかした?」 
「何か見られてるわね。」

ふと女性が何かの視線を感づく。 
またしても、その感覚が何かをとらえたようだ。

「え?他の登山客かな?」 
「いや…人じゃないかもね。」 
「じゃあ、動物かゆっくりとか?」 
「それにしては…う~ん。」 
「ま、まさか化け物…?」 
「あなた…はぁ、もう。ちょっと見てくるわ。」

そう言うと女性はすくりと立ち上がり、登山道から外れた方に向かう。

「その子頼むわね~。」 
「ちょ、ちょっと!なにかあったら…」 
「大丈夫よ。」 
「あぁ~…ああなったら聞かないしな…」 
「うぅ~!」 
「そうだね。追いかけようか。」

仕方なく、女性の後を追う男性と娘。 
思い立ったのはよかったのだが、女性の足は速く、見失ってしまった。 
ふと後ろを見ると、先ほどの開けた場所が遠くに見える。 
これ以上離れるとあの場所を見失うかもしれない。

「う~ん…見失ったね。」 
「だぁあ~!」 
「お、怒らないでくれよ。」 
「うー。」 
「…そっちに何かあるのかい?」

男性の背中からしきりに手を伸ばし、その方向へ連れて行け、と娘が訴えている…ように見えた。

「ちょっとだけだからね。」

娘の行動を信じ、とりあえず娘の示す方向へ進むことにする。

「何も見当たら…あれ、何か聞こえる。」

娘の感じたものは正しかったようで、話し声が聞こえてきた。 
早歩きで声の聞こえる方へ向かう男性。 
そこには…

「あら、あなた来ちゃったの?待っててっていったのに。」

特にいつもと変わらない様子の女性と

「あぁ、またにんげんだよ。どうするすいか?」 
「どうもこうも…ちょっと!なんできづかれてるのよ!」 
「あややややや。いつもとおんなじようにしてたんですが。」 
「おぉ、おなじおなじ。」 
「わふっ。」 
「ふふん、あやのことだからどうせどじふんだんでしょ。」 
「あやや、はたてはうざいですねぇ。」 
「おぉ、うざいうざい。」 
「まぁまぁ、けんかはよしなよ。」

胴付きのゆうぎ、すいかとその子分であろう胴無しのゆっくりがいた。 
女性は周りを胴無しに囲まれており、その円の中心で長であろう胴付きの2匹と会話していたようだ。 
珍しく、希少種のみで構成された少数の群れで、2匹だけ胴付きのゆうぎとすいかを筆頭に、 
あや、きめぇまる、もみじ、はたて、にとりと希少種のバーゲンセールだ。

「うわぁ…見たことのないゆっくりばっかりだ。」 
「なんで来たのよ。」 『ぎゅう』 
「いててて!やっぱり心配だから…」 
「おねえさん!」 
「…あら、何かしら?」

ちょっぴりお冠の女性とやられっぱなしの男性の会話に割って入り、 
ゆうぎが声を張り上げた。

「このむれをつきとめるとは、なかなかやるじゃないか。」 
「そう、わたしたちのむれができてからこんなことはじめてよ。」 
「へぇえ、それで?何かくれるの?」 
「できるやつはきらいじゃないね。だからきょうはとくべつにみのがしてやるよ。」 
「ただし!わたしたちのことをほかのにんげんにはなさないとやくそくできたらよ!」 
「んー…やぁよ。なんであんたたちの言うこと聞かないといけないのよ。」 
「ちょっと!ここは引いておこう!」 
「ふふふ、そっちのおにいさんははなしがわかるじゃないか。」

交渉してきたゆうぎとすいかの提示した条件を、あっさりと断る女性。 
これには男性も慌てた様子だ。 
男性はゆっくりのことはよく知らないが、男性の判断は概ね正しい。 
希少種は知性、能力が高くましてや胴付きのゆうぎとすいかともなれば、 
その膂力は人間に引けを取らず、ゆっくりの強さの序列で言うと、ドス並みかそれ以上とも言われている。

「まぁいいわ、言わないでおいてあげる。あんた達なんかに興味もないし、あなた、行きましょ。」 
「ふふん、わかればいいのよ。」 
「あやや、さすがおさですねぇ。」 
「おぉ、おつよいおつよい。」 
「あんた達ねぇ。まぁいいわ、私一人だったら皆殺しにしてたかもだけど、今日は見逃してあげる。」 
「挑発しないで…なにがあるかわからないんだから。」 
「なによ、こんなのに私が負けるわけないじゃない。」

結局めんどくさくなった女性が折れる形でこの場は解決した…かのように思えたが。 
どうもゆうぎとすいかは女性の去り際の言葉が癇に障ったみたいだ。

「ちょっと…いまのはききずてならないねぇ。」 
「わたしたちにまけるわけがない…?」 
「そ、それいじょうちょうはつしないで!」 
「はたてぇ、もうおそいとおもうよ…」 
「わ、わふぅう!」 
「おねえさん!そこまでいうのならわたしとしょうぶしな!」 
「ゆうぎ!しょうぶするのはわたしよ!」

好戦的かつ負けず嫌いのゆうぎとすいかに火をつけてしまったようだ。 
女性の返答はどうなのだろうか。

「あら、いいわよ。一緒にかかってきなさいよ。」 
「ふん、にたいいちはひきょうだからね!」 
「ひとりずつあいてしてあげる!」 
「だからぁ、力の差をわからせてやるって言ってるのよ。というかめんどくさいし、一緒にかかって来なさい。」 
「な…なにを…!」 
「ならふたりどうじにいかせてもらうよ!もんくはないだろうね!」 
「はいはい、ゆっくりしていってね。」 
「「むきぃいいいいい!」」 
「あぁ…何でこんなことに…」 
「仕方ないわよ。向こうから勝負仕掛けてきたんだから。」 
「そんな笑顔で言われても…」

向こうから勝負を仕掛けられた、と言っても明らかに煽っている。 
なんだかんだでこの女性も負けず嫌いなのだ。 
希少種で知能が高いとはいえ、ゆっくりの言うことに従うというのは何となく嫌だったのだろう。

「それじゃあ…しょうぶだ!」 『ブン!』 
「あらぁ、ずいぶんと素直ねぇ。」 『ひょい』 
「ゆべぇ!」 『べしゃ』 
「わたしをわすれないでよね!」 『ビュン!』 
「あぁ、忘れてたわ。ごめんねぇ。」 『ごちん』 
「いったぁああああい!?」 
「あらゆうぎ、隙だらけじゃない?」 『ぎりぎりぎり』 
「がああああ!いたっいい!お…おれるぅ~」 
「やめて!それいじょういけない!」

力が強いとはいえ、ゆうぎとすいかに技は皆無である。 
そんな2匹の攻撃は、長い歴史で培われた、人間の武道の技をもつ女性に簡単にいなされる。 
そしてゆうぎは、女性によってアームロックをかけられている真っ最中だ。

「ぐぬぬ、こうなったらあれをするしかないようね!」 
「すいか…きめちまうんだね!」 
「みっしんぐ…ぱーぷるぱわー!」 『むくむく』 
「あぁ、これが…初めて見るわね。」

すいか種の持つ能力、ミッシングパープルパワー。 
巨大化するだけとはいえ、胴無しでも1~2メートルと小さなドスに匹敵するほど大きくなる。 
このすいかは、女性が結構上の方まで見上げないとすいかの顔が見えないほど大きくなっていた。

「ふふふ、どう?こうさんするならいまのうちよ?」 
「あややや!おさのぱーぷるぱわーははじめてみましたよ!」 
「それほどつよいにんげんなんだねぇ…」 
「おぉ、ほんきほんき。」 
「すいかがでかくなったらてきなしさ!さぁどうする!」 
「どうするって…えいっ。」 『ゴキン!』 
「ひぃいいいいいいい!」 『しゅるしゅる』 
「すいかぁああ!」 
「「「お、おさぁあああ!」」」

女性はすいかの脛を強めに蹴り上げた。 
ミッシングパープルパワーは集中が保てないと体が元に戻ってしまうという欠点がある。 
大きくなったすいかに近づきたくない場合は、酒をちらつかせるのもよい。 
すぐに元の大きさに戻って酒をほしがるだろう。

「いたいいたいいたい!」 『ゴロゴロゴロ』 
「おねえさん!すねはまずいだろう!…あれ?どこに『ガキッ』」 
「あんたらの後ろよ。ほら、もっと痛がりなさい。」 『ミシィ』 
「「いだだだだだだだ!」」 
「もうあんたらの負けよ。降参したら?」 
「や…やだね!」 
「まだまけてない!」

2匹同時にヘッドロックをかけられる。 
ゆうぎとすいかといえど、この状況は打破できるのか。 
答えは、NOだ。ただし、女性自身が離さなければ、であるが。

「そこまでよ!」

はたての声が辺りに響く。 
女性がそちらを見ると、群れのゆっくりが口に枝を加え、男性に突きつけている。

「おおおおさをはなしな!」 
「あやや!こ、このおにいさんがどうなってもよいのですか!?」 
「おーい、君たち。いや、枝って。」 
「ひとじちはだまってて!」 
「あぁ、ごめんね…」(人質だったのか…)

長を圧倒している女性がこわいのか、いまいち決まらないが 
それぞれの眼からはどれも凛とした意志を感じる。

「お、おまえたちなにをしてるんだい!」 
「てだすけはいらないってば!」 
「ひきょうですが、おさのためです!」 
「なんだってするよ!」 
「ちょっとあなた…早く跨いじゃいなさいよそんなの。」 
「いや…何か悪いかなと思って…」 
「さぁ、おさをはなさないとおにいさんも、おちびちゃんもひどいめにあうわよ!」 
「え…」

はたての言葉を聞いた男性が固まる。とても嫌な予感がする。 
いや、予感という曖昧なものではなく、辺りの空気が変わり始めた。

「……」 『ブンッ』 
「ゆべっ。」 『べしゃ』 
「いたっ。」 『どさっ』

ぶっきらぼうにゆうぎとすいかを投げ捨てると、つかつかとはたてに近寄る。 
慄いて固まっているはたてを持ち上げると、口から枝を取り上げる。

「この口?この口?確かに私の子をひどい目に遭わすって言ったわよね?」 
「ひぃ…そ、それは…」 
「嘘をついたの?そんな悪い口はいらないわね?舌もちぎってあげるわ。」

はたてに枝を突き付けながら、尋問を開始する。 
枝がはたての目に、口に、肌に、軽く触れるだけでその度にはたてはびくりとする。 
はたては涙や恐ろしーしーを垂らし、その醜態をさらすことしかできなくなっていた。

「あややぁ!はたてをはなしてください!」 
「わふふぅ!」 
「おぉ…おぉお…」 『ヒュンヒュン』 
「お、おねえさん!やるならわたしをかわりに…」 
「……」 『パァン!』

足元で訴えるゆっくりの懇願に、無言で答える女性。 
枝を捨て、ポケットからあの鞭を取り出し、地面を一度叩いた。 
その音と、辺りに漂う死臭に耐えられずにゆっくり達は女性から離れる。

「お、おねえさん、あんたのあいてはわたしたちだよ!」 
「そうよ!はたてをはなし…」 
「黙ってなさい…」 『じろり』 
「「ひっ」」 『ぺたん』

女性に気圧されて思わず尻もちをつくゆうぎとすいか。その醜態を咎めるゆっくりはいなかった。 
全員が等しく恐怖を味わっているからだ。そして、全員の思考も同じであった。 
触れてはいけないものに触れてしまった…と。

「…はぁ、もう。熱くなっちゃったわね。もう遊びは終わりよ。」 『ポイ』 
「ゆぴっ。」 『ぽてっ』 
「お…おねえさん?」 
「喜びなさい。お前たち、はたてのおかげで遊び相手から敵に昇格よ。」 
「あそび…?」 
「あら、まさか本気だと思ってたの?さ、みんなぶっ潰してあげる。」 
「…せめてわたしだけにして…」 
「あらすいか、さっきまでの威勢はどこ行ったの?…そうね、まぁいいわ。許してあげる。」 
「ほんとうかい!?」

ゆうぎもすいかも、他のゆっくりも心を折られてしまっている。 
もう戦う意思はなく、女性の言葉にただただ救われた、と感じていた。 
それだけで済むはずもないのだが。

「ええ、ただし…お前達でそのはたてを潰しなさい。」 
「…え?」 
「当り前じゃない。私の子を傷つけると断言した危険な敵…生かしておけないわぁ。ふふふふ。」 
「そ、そんな…」 
「できないなら私が、お前たちみーんな潰すわ。ふふ…さぁ、どうするのぉ?」

苦渋の選択。 
群れのみんなではたてを殺すか、群れが全滅するか。 
絆の深いこの群れにとって、悪魔のような申し出であった。 
が、今まで静観していた男性がようやく動いた。

「もういい。やめよう、こんなのは。」 
「…あなた、何を言ってるの?」 
「みんなこんなに怯えてるじゃないか!」 
「こんなの見せかけよ。この場を切り抜けるための方便。相手にしないほうがいいわよ?」 
「そうは見えないね。もしそうなら、さっきあの2本角の子が言ったような言葉は出てこないよ。」 
「そうだとしても、この子をひどい目に遭わせるって言ったのは見過ごせないわ。」 
「それだってこの子たちを助けたい一心で…!」 
「あぁもう、うるさいうるさい!」 
「話を聞けよ、わからずや!」

突然始まった夫婦喧嘩に、群れの一同も戦々恐々の様子だ。 
自分たちを蹂躙している時でさえ声を荒げなかった女性が、こうして声を荒げている。 
それだけで異常事態だと察するに十分だった。 
その時、男性同様今まで静観?していた娘がついに動く。

「うぶー。」 『グイッ』 
「うぉっ!?」 
「きゃっ。」

母親と父親の髪の毛をつかむと、思い切り引っ張る。

「きゃあー!」 『グイグイ』 
「いてててっ!」 
「こ、こら!やめなさい!」 
「だぁ!」 『グィイイイ』 
「痛い痛い痛い!わ、分かった!分かったから!」 
「ママが悪かったわよ!止めるから、こら!」 
「ぶー。」 『パッ』

母親の言葉を理解したのかしないのか、ようやく手を離す。

「いたたた…」 
「…はぁ、もう。前髪がぐちゃぐちゃ…」 
「ぷふっ。変な髪型…」 
「う、うるさいわね!」 
「…戻ろうか。」 
「そうねぇ。興も削がれたし…あぁ、そうだ。」 
「まだ何かあるのかい?」 
「ゆうぎ、すいか。」 
「「は、はいっ!」」 
「今から頂上に行くわ、ついてきなさい。」 
「ちょっと、もういい加減に…」 
「違うわよ、これよこれ。」

女性がそういうと、リュックの中からあるものを取り出す。

「あぁー…確かについてきてもらえるとありがたいね。」 
「そういうわけよ。何もしないからとにかくついてきなさい。」 
「わかった…」 
「…おまえたち?どうした。」 
「お、おさだけには…」 
「わふぅ!」 
「おぉ、ふあんふあん。」 
「何よ、不安なら一緒にきなさい。ついてこれたらだけどね。」

長だけいかせるのが不安なのか、群れ全員が付いてくると言ってきかない。 
そして当初からは考えられない集団となった一同は、頂上を目指す。 
ついてこれたら、と言いつつ女性もペースを落として登山したため、 
最後まで脱落者はいなかった。

「ふぅ、ここにくるのは久しぶりね。」 
「いやー、いい汗かいたなぁ。」 
「さてと…あんたらの出番よ。」 
「な…なにをすればいいんだい?」 
「あなた。」 
「はいはい。そうだ、ちょうどいい。みんなで…」 
「えぇ~。仕方ないわねえ。」 
「この中で、これの使い方が分かる子とか…いないか。」 
「あや、なんとなくですがわかりますよ。」 
「おぉ、すごいねぇ。じゃあ…」

男性はあやにあるものを渡し、何か話し込んでいるようだ。

「それじゃあ、よろしく。」 
「あやややや、おやすいごようです。」 
「ほらあんた、もうちょい寄りなさい。」 
「こ、こうかい?」 
「あんたはそこでいいのよ。すいかよすいか。」 
「こう?」 
「そうよ。」 
「じゅんびできましたかー?」 
「あぁ、頼むよ!」 
「あやや、それじゃあいきます。」




「はい、ちーず!」 『カシャ』




そして場所は変わり、山のふもと。 
いろいろあったが、家族にとってはまぁいい思い出づくりにはなったようだ。 
辺りは夕焼けで彩られ、太陽が山の向こうに沈もうとしていた。

「変わってるわねえ。あんなにされたのにお見送りなんて。」 
「ま、まぁ…」 
「いろいろとめいわくかけたしね…」 
「まぁいいわ、今日はあんたらの敗北記念日と言うわけね。」 
「うぐぅ。」 
「い、いわないで…」 
「まぁまぁ、それは置いておこうよ…」 
「だぁ。」

やはり敗北、と言う言葉は2匹にとってつらいようだ。 
それでも反論しないのは、負けたと認めているからだろう。

「まぁいいわ、今日の勝負はなかったことにしてあげる。」 
「「え?」」 
「その代わり、これに懲りたら人間に勝負なんて挑まないことね。」 
「わかったよ。」 
「でも…」 
「わかってるわよ。群れのことは言わない言わない。」 
「それじゃあ、そろそろ行こうか。」

そう言うと、家族は去っていった。 
男性はいつまでもゆうぎとすいかに手を振っていたが、 
女性は一度だけ恥ずかしそうにちらりと振り向いた後、軽く手を挙げた。

「すいか。わたし…」 
「うん。わたしも。」

2匹は何やら話し込みながら、その後ろ姿が見えなくなるまで家族を見つめていた。 
そして、女性の実家。 
女性の両親が収穫した野菜と、近くの川で取れた魚で出来た鍋がふるまわれる。 
やがて日もすっかり落ち、辺りももう暗くなってきた。

「あんたたち、随分と時間がかかったんだねぇ。」 
「ほんとに化けもんに会ったかぁ?はははは!」 
「まさか。久しぶりだから衰えてただけよ。」 
「化け物だって逃げ出しますよ。」 
「へぇ…」 『ぎゅう』 
「い、痛い!」

先程までひと悶着あったとは思えない、和やかな団欒がそこにはあった。 
今はカメラで撮った写真を女性の両親に見せている。

「しっかし…インスタントカメラねぇ。いい時代になったもんだねぇ。」 
「ほんとはもっといいカメラ欲しいんですけどね。」 
「にしても良く撮れてるじゃないか…あれ?」 
「どうかした?父さん。」 
「そう言えば…この写真だけどうして3人で写ってるんだ?」 
「あ…えーと…」 
「タ、タイマー機能もありまして!便利ですよね~!」 
「ほぉ~…凄いもんだねえ。でもやけに下からだなぁ。」 
「三脚を忘れたんですよ!いや~セッティングが大変でした!」 
「ははは、道理で『どんどん』…おや、母さん。客みたいだ。出てくれ。」 
「は~い。どなたですか?」

パタパタと玄関に駆けだす祖母。 
そんな中、ふと女性はあることを考えていた。

「う~ん…」 
「ん?どうした?忘れもんでもしたか?」 
「違うわよ…ちょっとね。」 
「悩み事かい?」 
「だから違うって…」

女性が考えているのは、ゆうぎとすいかのことであった。 
虐待の一環として、一通りの種族別の知識、対策は頭にあったが、思い出せないことがあったのだ。 
ゆうぎとすいかに共通する…何かが。

「…あっ。」 
「解決した?」 
「したけど…あぁ~そうだったわねぇ~。」 
「?」

女性はようやくそのことを思い出したようで、頭をぐしぐしと掻く。

「どうしたの?」 
「いやね…」

女性が男性にそのことを耳打ちしようとした時…

「ひゃあっ!なんだいあんた達は!」 
「母さん!どうかしたのか!?」 
「ちょ、ちょっと!来ておくれ!」 
「あぁ…やっぱり…」 
「きゃっきゃ!」 
「この子笑ってるよ。」 
「さては…分かってるのかしら。」


そして、時は現代。

「ママ~プリンは~?」 
「もうちょっと待ちなさい。今晩御飯のお使いに行かせてるから。」 
「わかった~。」

そう言いながら、娘は自分の部屋へと入っていく。 
母親は、アルバムから取り出した写真を眺めながら思い出に浸っていた。

「ただいま~。」 
「お、かえってる。お~い、ぷりんかってきたわよ。」 
「お姉ちゃん!お帰り!」 
「ただいま。」 
「ほら、ぷりんだよ。」 
「やったー!」 
「おっと。ちゃんとてあらいうがいをしてからだよ!」 
「めんどくさーい!」 
「だめ!してきなさい!」 
「はぁ~い…」

あの時のゆうぎとすいかは、今はこの一家の一員として生活していた。 
この家族に負けた、と認めた2匹が傍においてくれと言ってきかなかったのだ。 
ゆうぎとすいかは、心服させるとその相手に従いたがる傾向がある。

「おや、ままさん。なつかしいものみてるじゃないか。」 
「ほんとほんと、うわ~ちっちゃいあのこもかわいいわねえ。」 
「あんた達もコテンパンにされた割にはやけにいい笑顔で写ってるわね…」

今この2匹は、女性の小間使い兼ペットとして、また男性の娘のようなものとして、 
そして娘の遊び相手かつ良き姉として生活している。

「こうして見るとあんた達は全然変わらないわねえ。」 
「そうだねぇ。あ、でもままさんは…」 
「ゆうぎ、それは…ぷふっ。」 
「……」 『ぎゅう』 
「「いだだだだだだ!」」

そんな2匹はこうして軽口をたたくほどすっかりと家族の一員としてなじんだようで…









人間社会になじんだゆうぎとすいかは、近所の子供達と遊ぶことも少なくはない。

「お姉ちゃん!今日はどろけいしよ!」 
「姉ちゃん達がリーダーな!」 
「まかせなさい!」 
「ふん、きのうはまけたけど…すいか!きょうはまけないよ!」 
「のぞむところよ!」

そこでは、やっぱり希少種の群れの長を務めたカリスマがあるのか

「そっちからまわりこんで!」 
「お姉ちゃん捕まえたー!」 
「ふふふ…わたしはおとりさ!」 
「え?あー!逃げられた-!」 
「いくぞー!すいかにまけるなー!」 
「ゆうぎをたおすぞー!」 
「「「おー!」」」

こうしてリーダーを務めることが結構あるのだ。

【おわり】