4人の少年少女が、学校で肝試しをしていた。
先陣を切った少年が、おずおずと物置もとい廃教室のドアを開けると、中は真っ暗だ。
手に持った懐中電灯のみが唯一の光源。それが照らしだす光を頼りに4人は前へと進む。
「大丈夫、大丈夫…怖くなんてない…」
「ちょっとやめてよ…そういうの逆に怖くなるんだから…」
「でも黙ってても怖いけど…」
「うぅう、なんにしても怖いよぉ。」
4人でくっついて、どうにか恐怖を和らげようとしているようだ。
「やっぱもう無理ぃ…」
怖がりな少女が、入ってきたドアから出ようと手をかけるが…
『ガタガタ』「あれ…開かないよぉ。」
ドアはなぜか開かない。この廃教室にはドアはもう一つあるので、そこから出るしかないようだ。
「開かないって…最悪。」
「あぁ、なんでやるって言っちゃったんだろ。」
「もうこの時点でやばいんだけど…」
「ふぇえ…。」
そんなことを呟きながら、少しずつ前進してゆく。
廃教室の中はごちゃごちゃしており、向こうのドアに行くには迂回していく必要があるようだ。
少しずつ、少しずつ誰も離れないように前進してゆくが…
『…ぴちゃり』「ぎゃああああああ!?」
「ななな、なんだよ!?」
「なになにぃ!?ちょっとなんなのよ!?」
「ひええ…怖いぃ。」
「な、なんか!なんか触った!」
先頭を進む少年の頬に、何か冷たいものが触れた。
びっくりし過ぎて思わず懐中電灯を床に落としてしまった。
床に落ちた懐中電灯から放たれる光が、末広がりな光の道を作りだす。
『ごろごろごろ』
「次はなによぉ…」
暗くてよく見えないが、何か丸いものが転がっているようだ。
それは光の道の上で止まった。
「何あれ…?」
「わかんねぇ。」
よくわからないが、それは黒い色をした何かと言うことは分かった。
恐怖で動転した心を鎮めながら、4人は目を凝らしそれが何かを確認しようとする。
しかし、その必要はなかった。
『くるり』
突然その丸いものが振り返った。それは…
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「「「「ぎゃあああああああ!」」」」
「けらけらけら…」 『ごろごろごろ』
顔が崩れ、ぐずぐずに腐った生首であった。
地の底から響いてくるようなうめき声をあげている。
生首は4人の恐怖に慄く顔を見た後、笑いながら再びどこかへと転がっていってしまった…
「もう無理!もう無理ぃいい!」
「もうやだぁああ!」
「落ち着けって!大丈夫だから!」
「そうだよ!怖くても先に進むしかないじゃん!」
恐怖におびえ、その場にへたり込み抱き合って震える少女たち。
少年たちは、震える声ではあるが必死に少女たちを励ます。
その熱意に打たれたのか、少女たちはやがて立ち上がった。
そうして4人はまた進み始めた。
「すん…ひっく…」
「…おい、泣くなって。」
「あたしじゃないわよ!」
「じゃあ…」
「わ、私も泣いてないよぉ~」
「…え?」
啜り泣きが聞こえてくる。
少女のどちらかが泣いたのかと思ったが、そうでもないようだ。
どうも、その声は先から聞こえてきている。
声を辿ると、誰かがうずくまっている。
少年が声の主を照らす。蒼い髪の少女が顔を手で抑えて泣いていた。
少女の横には何やら大きな傘が置いてある。
「ぐすん…」
「お…おい。」
「や、やめとこうよ。」
「そうよ…先いこ先。」
「そ、そうだな…なにがあるかわかったもんじゃ…」
「…うらめしやぁああ!」 『ぼぉお…』
「「「「ひぃいいいいい!」」」」
突然蒼い髪の少女の周りが青白く光り、その姿を照らし出す。
振り向いた少女の顔は、血まみれであった。
「うらめしいぃよぉおおお。」『ぺろん』
「ひえええ!」
「に、逃げろ逃げろ!」
少女が傘を取り広げると、傘には目が一つだけとギザギザの口がついていた。
その口から長い舌が伸び、4人の顔を一薙ぎにペロンと舐める。
4人はあまりの恐怖にその場から駆け出した。
「あとちょっとで出口だ!」
「頑張れ!ほら!」
「いやぁあああ!何なのよあれぇ!?」
「怖い、怖いいぃい!」
出口までもう少し。角を曲がってまっすぐ進めばそこにはこの恐怖世界とは隔離された、
普通の世界が待っているのだ。
だが、現実は甘くなかった。
『カッ!』
「わわわわ!」
「いてっ」
「きゃっ」
「ふぇっ」
突然曲がり角にあった人体模型が足元からライトアップされる。
思わず動きを止めた先頭の少年の背に、玉突き事故のように後続の3人がぶつかる。
すると…
「しい…」
「な、なんか言ったか!?」
「い、言ってない言ってない。」
「やっぱり…」
「これって…」
自然と4人の視線が人体模型の頭部に集まる。
『ギギギギ…』 「ね…た…ま…し…い!」 『ぽろり……ポフッ』
「うわあああ~!」
「ダ、ダッシュだ!」
「分かってるわよぉ!」
「もっと居ようよ。」
「もうやだあ!早く出るぅう!」
人体模型の首が少しずつこちらを振り返ったかと思うと、すごい形相で4人をにらみつける顔がそこにはあった。
そして一言「妬ましい」と言い終えると、首は体から離れて落ちた。
4人はもう何も考えずに走る走る。
それもそのはず。もうそこに出口があるのだ。
「ふゃっ!?」 『どさ』
怖がりの少女が突然しりもちをつく。
「早く早く!」
「もうすぐだ!出ようぜ!」
「なにやってんの!?」
「何に引っ張られて…首の後ろ照らしてぇ。」
「しゃあねえな…」
少年がしりもちをついた少女の首元を照らすと…
「おぅわあああ!」
「なんかあるうう!?」
「きやぁあああ~!」
「え?何?なんなのぉ?」
少女の服の襟首をつかんでいる白い半透明の手があった。
しかし3人が叫ぶと、その手はふわりと消えてしまった。
「早く来いって!」 『ぐい』
「きゃあ!」
「よっしゃ!出口だ!」
「や、やっと出られた…」
ようやく脱出した4人。
「はーい、お疲れさん!」
そこには、4人の担任である教師が待っていた。
「凄い声出してたわねえ。そんなに怖かったの?」
「こええ!」
「な、舐めてたわ…」
「やめとけばよかったよぉ…」
「あ゛ー…のど痛え。」
「あっははは!そりゃいいわね!『ぴろりろりん』おぉ?」
大声で笑う教師の携帯に、メールが届く。その内容はこう書いてある。
[じゅんびできたうさ]
「おぉ、オッケーみたいね。よーし、次の4人ゴー!」
教師に促されまた別の4人の勇士、もとい生徒が中へと入っていった。
教師は、ドアに棒をかたんとかける。
「「「「ぎゃぁああ…」」」」
「…というわけできょうはどうもありがとううさ。」
「すっげー怖かった!」
「すごかったわ!さすがゆー園地のゆっくりね!」
「うさうさ。ゆーえんちにあるのはこんなもんじゃないうさ。」
ゆっくりがアトラクションを行う〝ゆー園地〟。
金バッチの中でも、国から認可された特に能力の高いゆっくりのみがそこで働いている。
人間だけで訪れてもいいのだが、ゆっくりの目線に合わせたアトラクションが多いため、
もっぱら来園客は飼いゆっくり連れが多い。
今日は授業の一環として、人間社会で働くゆっくりの仕事ぶりを直接見ようと言うことで、
兄がゆー園地のオーナーである教師のコネを生かし、特別ゲストとして4匹のゆっくりが招かれた。
胴付きてゐ。主に照明など舞台効果を担当しており、ゆー園地内のお化け屋敷のリーダーだ。
胴無しぬえ。他人から見える自分の姿を、自在に変化させることができる。腐った生首の演出はぬえによるものだ。
胴付きこがさ。人を驚かせるのが大好きで、この仕事は天職だ。人を驚かせるとゆっくりできるそうだ。
胴無しぱるすぃ。てゐにスカウトされたゆっくりで、その妬まし顔は暗い場所で見るとすごく怖い。
ちなみに、ぬえは自前の変化術を、こがさはメイクをして驚かせる演出をしているが、
ぱるすぃのみはノーメイクである。どんだけだ。
今はてゐが今回の件をフィードバックするため、生徒達に感想をもらっているのだ。
他のゆっくりたちは生徒たちにあいさつを済ませた後、廃教室の片づけに行った。
ちなみに、教師も片づけに行っている。むしろセッティングやら片づけで一番働いているのは教師だ。
片づけを行っている彼女らの様子を見てみよう。
「はぁ…わちきしあわせえええ…」
「やっぱりこどもはりあくしょんがいいねえ!」
「わたしだけのーめいく…ねたましい。」
「ぱるすぃあんた…にやにやしながら言っても説得力ないわよ。」
「ぱるぱるぱる…」
和気あいあいと片づけを行っているようだ。
「ぱるすぃ、ねたましいはおばけやしきいがいではやめなっていってるのに。」
「そんなこというなんて…ねたましい。」
「もはや本能ね!まぁいいじゃない。私は好きよ?」
「うーん、きゃくしょうばいなのに…」
「難しい言葉知ってるわね…」
ぱるすぃの〝ねたましい〟は、口癖のようなもの。
しかしこがさとぬえは、それが客と話をした際に悪い印象を与えないか心配のようだ。
ゆー園地では全アトラクション終了後、ゆー園地で働くゆっくり達と来園客がお話し出来る時間がある。
この時間もゆー園地人気に一役買っているのだ。
「ぜんしょする…ぱるぱる。」
「また難しい言葉を…」
「ぜんしょってねえ。」
「まぁ、がんばろうね!」
「…みんな楽しそうで…うらやましい…」
「…ぱ~るすぃ~。さっそくぅ?」
「ぜんしょってことばはいまいちしんようできないね…」
「まぁまぁ、これもぱるすぃの魅力よ。」
「…ぱる?」
一方こちらは生徒達からの感想をガンガンもらっていた。
「あの最初の顔にきたやつびっくりした~」
「こんにゃくうさよ。」
「えぇえ…マジで…」
「あの生首もゆっくりなの?」
「そううさ。ぬえののうりょくうさね。あれでもじちょうしてるほううさ。」
「うぇ…」
「あの顔舐めてきた傘は?」
「あれはこがさのぶんしんみたいなもんうさ。えいせいじょうはもんだいなしうさよ。」
「最後のぱるすぃの顔…やばかったよな~!凄いメイクだった!」
「あれすっぴんうさ。」
「……」
こうして生徒達からどこがどうだったか、といろんな意見をもらい、
ゆー園地でまた活かすのだ。今日は特別にネタばらしもしている。
「あーでも…あの透けた白い手がいっちばんやばかった!」
「そうそう。手首だけのやつだろ?入ったらソッコー来たよな!」
「はぁ?俺は最後の最後に来て死ぬかと思っんだけど。」
「あたしはこがさの後にやられたわね。」
「すっげー!色んなとこで出してるんだなあの手!」
「さすがはゆー園地のゆっくりねぇ。」
「…うさぁ?」
【おわり】
========あとがき============
またまたまた後書きをば。
この度10作目を越えましたので、名乗らせていただくことにいたしまする。
今後は〝紅玉あき〟という名前にて活動してまいる所存です。
命名してくださったふたばスレの皆様、本当にありがとうございました。
この感謝の意、筆舌に尽くし難いです。
ふたばスレの皆様への感謝の思い、そして今まで私の作品達を読み、また、
様々な感想を以て私に道を示して下さった読者の方々への感謝の思い、
全てSSにぶつけてまいりたいと思います。
それでは皆様、ゆっくりしていってね…
挿絵:
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