滑らかな山の傾斜に敷き詰められたくすんだ笹の葉、黒ずんだ土を割って生える何本もの竹は青々しく春先の空に伸びている。 

使い込んだ古い手拭いを首から下に掛けて、鍬を肩に担ぎ背中に籠を背負ったもんぺ姿の初老の男が鼻歌交じりに山道を進んでいく。 
老人は軽々とした足取りで山麓と中腹の中間地点に辿りつくと、徐に肩に乗せた鍬を持ち、右足の近くで黄色い芽を出す筍を掘り起こす。 

「ありゃぁ……この筍さ齧られとるわ、猪でも出だがね」 

引っ張りあげた筍は先端からちょっと下が抉られており、とても売り物にならなかった。 
老人はぽりぽりと頭を掻いて、とりあえず籠に放り投げると近くの筍を漁った。 

「これも駄目が、猪にしじゃあ歯型が小さいけえ……こらぁひょっどすると」 

ふと視線を移すと、そこにぽよんぽよんとゆっくりれいむが跳ね回っている。 
どこから沸いたか分からない、いつの間にか住み着いたゆっくりの仕業じゃないかと睨んだ老人は 
皺だらけの顔でにんまりと笑顔を作ると、れいむに近付いた。 

「ゆゆっ!?おじいさんふもとのにんげんさんだね!ゆっくりしていってね!」 

れいむに警戒心はない、この山にはゆっくりたちの集落が存在しているが、 
その群れのゆっくりたちも人間に対して無警戒である。 
それは老人の私有地である山には害意を持った人間が立ち入ることがなく、 
老人もゆっくりが筍を食い荒らす虫を駆除してくれていたため今まで共存を許していたのだ。 
唯一の天敵と言えるのがせいぜい野生の猪だけの、ここはまさしく野生のゆっくりたちの理想郷と言えた。 

老人は嬉しそうに足元を回っているれいむに、老人らしいゆっくりとした口調で尋ねた。 

「おらぁの筍さ食っだの、おめえさんがい?」 
「ゆー?たけのこさん?とってもおいしかったよ!たけのこさんはゆっくりできるよ!」 

そうかいそうかい、と何度も頷く老人、手に持った鍬を力強く握り締めると、れいむの次の言葉を待った。 

「ぱちゅりーが、おさがねっ、むしさんがいなくなったからたけのこをたべようってきめたんだよ!」 

どうやら先月にたまたま近所の農家で余ったからという理由で譲り受け撒いた農薬、 
殺菌剤と殺虫剤がゆっくりたちの食べ物事情を一変させてしまったようだ。 
筍を食い荒らした犯人を見つけた老人は、ぎらりと銀色に輝く眼光を一瞬だけ垣間見せると 
手に持った鍬をれいむの脳天に振り下ろし、捨て台詞さえ吐かせる暇も与えず永遠のゆっくりへと旅立たせた。 

「まずいこどになっただ……」 

手拭いで汗を拭った老人は鍬を持って山の奥へと進んでいった。 


老人が知らぬ間にゆっくりたちが筍の味を占め、食い荒らすようになっていたと気付いた時には既に遅かった。 
出荷予定であった筍のほとんどが売り物にならず、残されたものは半端物ばかり、 
更に悩まされたのが、賢いゆっくりが居ることだった。 
筍の芽の部分が黒ずんだ粗悪品ではなく、黄色く新鮮な甘みを持つ高価な筍ばかりが狙われていたようで 
ある程度の知識を持った首謀ゆっくりが群れ全体を指揮した大規模な行為であったのは一目瞭然だった。 
老人はその日の内に町外れの加工所へ連絡を入れると、夕日が沈みかけた頃にスーツ姿の若い職員が訪れた。 

「いやぁ、よう来てくださっただ」 
「こんばんわ、連絡を受けやってきました駆除課の神江という者です」 

神江と名乗った男は玄関先で丁寧に御辞儀をすると、老人もつられて頭を下げ手招きをして居間へと案内する。 
居間に入りまだしまわれていない掘り炬燵を囲い、神江が手に持っていた鞄から資料を並べる。 

「早速ですが、我々に駆除のご依頼との事ですけど幾つかプランがありまして――」 

次々とゆっくり駆除に関する計画案が持ち出されるが、老人は掛かる費用に思わず渋い顔をして見せた。 
それに気付いた神江が老人の顔色を伺うように尋ねる。 

「あ、あのー……いかがなさいましたか?」 
「あぁ、すまなんだぁ。おらぁ年金生活でよぉ、こんげな大金持っでなぐでよ……」 
「そうでしたか……あっ、そうだ。よかったらなんですけど費用無料でお試し頂けるプランがあるんですが」 
「ほぉ、そげなのがあるのがい?ぐわしく聞かせでぐれるが?」 

神江が老人に理解できるよう分かり易く説明を続ける。神江の言う内容はこうだ、 
加工所本社の企画課が設計したゆっくり駆除用に作られた試作品の評価試験をやらせてもらうこと 
そのために、竹林に監視カメラの設置と加工所職員の出入りを許可してもらうこと 
報奨金も僅かに出て、最終的に試作品で駆除できなくても低予算プランで残ったゆっくりを駆除するという二段構えな事も伝えた。 
それを聞いた老人は満足そうに頷いて了承した。 

「それでは本社の方に連絡を入れた後、駆除に取り掛からせて頂きますね。今日はありがとうございました」 
「いやぁ、お礼さいうのはおらぁのほうだ。加工所さまさまやが」 

一通りの趣旨を伝えた神江は老人と正式に契約を結ぶと低姿勢で何度も頭を下げ、老人の家を後にした。 



一週間後、神江が本社からきた企画課の男たち4名を引き連れてが山入りする。 
ゆっくりたちが寝静まった夜に大きな荷物を抱えペンライトの明かりを頼りに進む 
作業着姿の男たちは、加工所の職員というだけあって山でのゆっくりの生態をすぐさま看破し、 
落ちているうんうんやゆっくりが通り過ぎた後を調べると、幾つかの巣の入り口をいとも簡単に割り出した。 
要所を押さえ巣の付近に重点を置き監視カメラを設置していく。 
一通り設置し終えたところで、企画課の男が背に持ったリュックサックを開くと、 
中から大福のような甘い香りがする食べ物を大量にばら撒き始めた。 
リュックサックに詰まったそれは大小様々に、数十個近く敷き詰められている。 

「これはどういったものなんですか?」 

思わず神江が尋ねると、人の良さそうな企画課の課長が笑いながら説明をしてくれた。 

「今回のは力作だよ。この大福がそれなんだけど、ゆっくりがこいつを食べるとね 
ゆっくりの中の餡子が幾つもの豆粒状に固まって凄い勢いで外に放出されるんだよ、 
いわゆるゆっくり爆弾、巣に帰ったゆっくりが仲間を巻き込んで破裂するのさ」 
「そ、そんなことできるんですか?……そういえば前回の発火性の奴と似てますね」 

どういう原理なのか全く理解できない神江は驚いた顔をしてみせる。 
しかし神江は直接部署の自分には関係無いことだと思ったので詳しくは尋ねなかった。 

「前に企画された発火性の奴は安全性が皆無だったからね、今回のは特定状況に限っての安全性はクリアしたけど 
強度にまだ問題があって、あと爆発までのタイムラグが曖昧なのも課題かな」 
「へ、へぇ……」 

男たちが大福を撒き終わると、残った機材を老人宅に置かせてもらい山を降りた。 
そしてばら撒かれた爆弾を、山では到底味わえないあまあまを、ゆっくりたちが口にする事になる――。 


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


                      ~ゆっくりまりさの場合~ 

ゆっくりまりさはその日狩りに出ていた、番のありすがまりさの赤ゆっくりを産んで間もないこともあり、 
はりきっていたまりさは裏返した帽子にこれでもかというくらい大量の筍を詰め込んで巣への帰り道を目指していた。 
緩やかとはいえ傾斜がある山の斜面では、ゆっくりのような丸いナマモノは転がりやすいので注意が必要で 
まりさは慎重に慎重に帽子を口で引っ張りつつ、可愛い新妻のありすと赤ゆっくりたちを想い下っていく。 
まりさは途中、見慣れないある物に眼がいった。 

「ゆゆっ?なにかあるのぜ、おちびちゃんのおみやげにするのぜ」 

微生物に分解されかけて色を失った笹の葉の上に見慣れない物が落ちている。 
最初まりさは赤ゆっくり用の玩具に最適な変わった物程度にしか思っていなかったが、 
距離が短くなると徐々に伝わるいい匂いのするそれに、まりさは惹きつけられる様に近付きそれを見た。 
白くてふわっとしたとてもゆっくりできる匂いを持ったものが転がっている。 

「ゆゆ!?こ、これは……あまあまさんなのぜ!?すごいのぜ!こんなきちょうなものはめったにおめにかかれないのぜ!」 

山ゆっくりにとって生涯見る事も味わうことも叶わない程に珍しい『あまあま』が落ちていることに 
興奮を隠し切れないまりさは、ぐるぐるとその周りを跳ねて周囲に他のゆっくりがいないことを確認すると徐にそれを口に運んだ。 
口の中に伝わる極上の食感、とろける頬に史上最高の幸福感を笑顔で表現するまりさ。 

「うっめっ! これっ!むっちゃうめぇっ!うめぇ!!」 

もぐもぐと口を動かして至高の時間に酔いしれるまりさ、食べ終わると「しあわせー!!」と大声で言い放った。 
一口サイズのそれだけではやはり飽き足らず、まりさは周囲を見渡す。 
落ちていたのはそれだけのようで、他にそれらしいものは見つからない。 

「ゆー……もうおちてないのぜ……あまあまさんはかくれてないででてくるのぜ」 

きょろきょろとまりさは眼を光らせ辺りを徘徊するもやはり見つからない。 
30分ほど時間を費やした後、まりさは名残惜しそうに諦め、置いておいた帽子を口に含むと再び巣へと引き返し始めた。 

「ゆぐっ……またあったらおちびちゃんとありすのおみやげにしたかったのぜ……」 

まりさは帰り道もあまあまが落ちていないか詮索しつつ這って行く。 
残念なことに結局見つかることはなく、がっくりと身を落としてまりさはありすたちが身を休めている巣へ帰還した。 


                      ~ゆっくりちぇんの場合~ 

ゆっくりちぇんはまだ子サイズのゆっくり、その日はお友達のゆっくり子ありすと一緒に巣の近くで遊んでいた。 
母親の言いつけであまり巣から遠くへ行く事はなかったが、今日は事情が違った。 
ゆっくり子ありすと隠れん坊をして遊んでいたところ、熱の入りすぎたちぇんは少し遠くまで来てしまっていた。 

「ここはどこなのー?わからないよー……」 

巣を見失ったちぇんは、辺り一面の竹林に不安げな顔で俯いている。 

「ちぇんはまいごなんだねー……わかるよー……」 

どっちへ行けばいいのか、それとも立ち止まって誰かが迎えに来てくれるのを待っていればいいのか、 
ちぇんは「わからないよー、わからないよー」と繰り返しその場に蹲っていると、 
竹を揺らし葉を落とす音が響いてちぇんは振り返った。 
猪さんはとってもゆっくりしていないこわいものなんだよー、と突然と過ぎった母の言葉にちぇんは2本ある尻尾を立てて 
びくびくと全身を震わせるが、その音の主が野生の野兎であると分かるとちぇんはホッと胸を撫で下ろした。 

「うさぎさんなんだねー、わかるよー」 

兎は近付かなければゆっくりにはほぼ無害な生き物だったので、 
ちぇんは身動きを取らずやり過ごしているとその兎は跳ねながらどこかへ行ってしまった。 
改めて周囲を見回すと、ちぇんはある物が大量に落ちている事に気付いた。 

「なにかとってもいいにおいがするよー、わかるよー」 

素早い動きでちぇんはそれに近付き、まじまじとそれを見つめる。 
雪のように真っ白なふにふにの物体、ちぇんは小首を傾げていると後ろからちぇんを呼ぶ声がして振り返った。 

「ちぇーん!!どこにいるのー?」 

友達の子ありすの声だった、ちぇんはぴょんぴょんと跳ねて自分をアピールすると、ありすもそれに気付きゆっくりと歩いてくる。 

「ここにいたのね!こんなとおくまできちゃうなんてとかいはじゃないわ、おかーさんにおこられるまえにかえるのよ!」 
「なにかゆっくりできるものがおちてるんだよー」 

やや大人びた感じの子ありすにちぇんは尻尾を器用に曲げて落ちていた謎の物体を指す、 
その存在に気付いたありすもそれを見ると、ありすは強張った声を上げてちぇんに飛びついた。 

「すごいよちぇん!これはとってもとかいはなたべものよ!おかーさんがいっていたあまあまさんにちがいないわ!!」 
「あまあまさんなんだねー、ちぇんにもわかるよー」 

一頻り喜んだ2匹は、落ちているあまあまにがぶりと食いついた。 
未知の食感にあふれ出す感動、ありすはひたすら「とかいはだわ!!」と呟き、ちぇんはニコニコと微笑んでそれを頬張っている。 
2匹はパクパクと何個か口に運んだ後、舌鼓を打ちお腹が膨れ満足した様子だった。 
まだ数個のあまあまが近くに散らばっていたのでありすは徐に提案した。 

「ありすたちだけでたべるのはとかいはじゃないわ!みんなもよんできましょう!」 
「そうだね、ちぇんもさんせいだよー」 

2匹はとても優しく友人想いなゆっくりだった。 
この感動を共有できることに胸を躍らせながら、みんなで嬉しそうにあまあまを食べている小未来を想像し2匹は巣へと引き返していく。 


                      ~ゆっくりれいむの場合~ 

ゆっくりれいむはしんぐるまざー、番のまりさが不幸にも猪の体当たりで永遠にゆっくりしてしまい 
残った子供を1匹で養っていくことになったやや身体の大きなゆっくりである。 
れいむはぶつくさと文句を言いながら他のゆっくりが漁った筍の実を選別している。 

「ぱちゅりーはやくたたずだよ!!れいむはしんぐるまざーなんだよ!!れいむはかわいそうなんだよ!!」 

ぎりぎりと歯軋りを立てて怒り顔のれいむは、筍を山の麓で拾ってきたビニール袋に入れている。 
れいむは群れの長であるぱちゅりーに再三に渡って非常食用に備蓄している共同食料を要求した 
どの群れにでも1匹くらいいそうな問題児の自分勝手なれいむであった。 

「れいむはひとりでおちびちゃんをそだてなくちゃいけないんだよ!!みんながてをかすのはとうぜんなんだよ!! 」 

ぷりぷりと贅肉が付いた尻を振って、れいむは不平不満をぶつけるように筍に喰らいつく。 
このれいむは長ぱちゅりーの言いつけで狩りに行かされていた、 
それもこれも群れの仲間たちがれいむばかり優遇されているのが気に食わないと長ぱちゅりーに詰め寄ったからで 
長ぱちゅりーは面倒事だと思いつつもれいむに形だけでも狩りに行かせ皆を納得させるよう仕向けたのだった。 
群れの決まりなどと照らし合わせても、かなりの好条件で食に有り付けるにも関わらず、 
れいむはあいつが悪い、こいつが悪いと文句を垂れている。 

「ゆー!かえったらみんなにもういちどれいむがかわいそうなんだってことをきょういくするよ!!」 

ある程度ビニール袋に筍が溜まったところで、れいむは一服するために小石を見つけだし持たれかかるように背を向けた。 
巨体な身体が石に身を任せようと、ゆっくりと下がるが、石の感触が思った以上に柔らかくれいむは転びそうになって慌てて体勢を整えた。 

「いしさんもっとかたくなってね!!れいむがやすむんだよ!!れいむにきょうりょくし……」 

れいむがぷくーっと膨れた顔で文句をぶちまけていると、石だと思ったものが石でないことに気付きれいむは不思議そうにそれを見つめる。 

「ゆゆ!!これはいしさんじゃないよ!!!あまあまさんだよ!!!!」 

石だと思っていたものが芳醇な香りを漂わせるあまあまさんだと気付いて、口元から涎を垂れ流す。 
良く見れば1個や2個どころではない、かなりの数が落ちている。 

「ゆふっ!だ、だれもみてないね?このあまあまさんはれいむがさいしょにみつけたものだよ!」 

注意深く辺りを見回して、れいむは誰も居ないことを理解するとニターッと肉付いた醜い笑みを浮かべる。 

「これはぜんぶれいむのものだよ!!これはれいむのためのあまあまさんだよ!!れいむにいじわるしたぱちゅりーにはあげないよ!!」 

そこら中に落ちているあまあまを集めて、れいむは大口を開けて掻き込んだ。 

「ゆふっ!!うめぇ!!めっちゃうめえ!!ゆふふっ、ゆふっ、うめぇ!!これうめぇ!!」 

次々とそれを口に放り込むれいむ、ねちゃねちゃと行儀悪く乱暴に噛み込むと 
満足そうに茄子の様に膨らんだ下っ腹を見せ付けた。 

「ゆふーっ!まだまだまんぞくできないよ!もっとたべたいよ!れいむのおなかさんゆっくりしないでへってね!!」 

れいむはころころと脂肪がべっとりとくっ付いた身体を揺らすと、都合よく便意が迫り顔を真っ赤にしてうんうんを捻り出した。 
特大サイズのうんうんが身体から放出されたことで、再びれいむは転がったあまあまを食べ始めた。 
自分の子供のことも忘れ、れいむは不気味な笑みを作り上げてあまあまに夢中になった。 


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


「むきゅー、みんなあつまるのよー」 

日が沈み掛け、夕暮れ時が迫る頃にぱちゅりーの号令で成体ゆっくりたちが次々と巣から現われる。 
巣の近くの広場に集まった群れのゆっくりたちは、切った竹の上に乗った群れの長であるぱちゅりーに視線を集めた。 

「きょうのれんらくかいをはじめるわ、みんななにがあったのかほうこくするのよ」 

この群れでは日が沈む頃に今日一日何があったのか情報の交換が行われる。 
天敵の猪を見たという情報があれば、その区域への狩りを一時的に禁止にしたり 
赤ゆっくりの体調が悪いという情報を聞けば、症状にあわせてぱちゅりーが治療法を伝授したりと 
ゆっくりたちの意識の統一化と危険回避の為の未然防止が計られていた。 
群れが今まで繁栄してこれたのも一重に長ぱちゅりーの舵取りのお陰であると言えるだろう。 

「ぱちゅりー、きょうはあたらしいたけのこがはえているばしょをみつけたわ!」 
「おさっ、れいむのおちびちゃんのあんよさんがけがをしちゃったんだよ!なおしてあげてほしいんだよ!!」 
「ゆゆ!たけさんがおれてとおれなくなったみちがあったよ!みんなでなおしにいくべきだよ!!」 

長ぱちゅりーは順々に話を聞いて、それらの相談事や対処法を決定していく。 
大体の意思の疎通を終えたところで、そろそろ捕食種が活動を始める時間帯になり会議はお開きとなった。 
みんなが疎らに巣への帰路についたところ、長ぱちゅりーは娘夫婦のぱちゅりーとその番であるありすに引き止められた。 

「おかーさん!きょうかりにいったみんなが、めずらしいものをひろってきてくれたのよ」 
「とってもとかいはなたべものよ!おさもびっくりするわ!」 

まだ巣立って日が浅い娘ぱちゅりーは長ぱちゅりーの長女だった、彼女は群れの共同食料庫の管理を任せられている、 
次期群れの長候補として名が挙がっている、長ぱちゅりーの聡明さを受け継いだゆっくりだ。 

「むきゅー、どんなものがとれたのかしら?」 

ぱちゅりーとありすはにっこりと微笑んで、葉で包んだそれを長ぱちゅりーの前で広げた。 
それを見た長ぱちゅりーは一瞬で驚いた表情をして見せた。 

「これはあまあまさんね!!すごいわ、こんなやまのなかでよくみつけられたわ!」 
「そうなのよ!まだまだたくさんあるのよ!!」 

そのありすの言葉に僅かに顔を強張らせた長ぱちゅりー、母親が予想と反して険しい表情を浮かべたことで 
娘ぱちゅりーは不思議そうに尋ねた。 

「……おかあさん、どうかしたの?」 
「たくさんってどれくらいあるのかしら?……」 

長ぱちゅりーがやや小難しそうに眼を細めた、ありすにはその姿が前に群れが嵐に襲われた時に見せた相貌とそっくりだったので 
何かまずいことでもあったのかと不安げになる心情を抑えて返事をする。 

「むれのちょぞうこに、え、えっと……」 
「むきゅー、およそ30こほどあるわ!」 

数を把握し切っていなかったありすに代わり娘ぱちゅりーが返す、 
長ぱちゅりーは益々険しい目付きに、娘ぱちゅりーとありすは顔を合わせて小首を傾げた。 

「……すこしひっかかるの、さいしょにみつけたゆっくりをよんできてほしいわ」 
「わ、わかったわ!ゆっくりしないでよんでくるわ!!」 

長ぱちゅりーはこの群れの長を務める前に麓の人間に飼われており、プラチナバッチを帽子に掲げるほど優秀なゆっくりだった。 
飼い主だった人間はこの付近の筍の出荷を纏める総元締めであったが、不況の煽りから多くの借金を抱えてしまい倒産。 
裁判所の差し押さえが長ぱちゅりーにも及びと知った飼い主が、他の誰かの手に渡ってしまうくらいならば 
自然豊かなこの近辺で野生のゆっくりとして暮らして欲しいと、長ぱちゅりーも同意の上で野に放たれたのだった。 
長ぱちゅりーが筍は芽が黄色いものが美味しいことを知っていたり、あらゆる物事に精通しているのもそのためである。 

その長ぱちゅりーがどうしても気掛かりでならない、言い知れぬ不安を覚えるのには訳があった。 
人間は時に、害虫や害獣を駆除するのにそれらの好物に毒性の強い物質を塗りこんで与える習慣がある事実を知っていたからだ。 
一つ二つのあまあまならば不審だと勘繰ることはなかったが、数多くとなれば話は別だった。 

「よんできたわー!」 
「ゆゆっ、おさ?どうしたのぜ?」 

ありすが連れて来たのは、群れでも狩りの名手として知られているゆっくりまりさだった。 
既にゆっくりとしては老齢な身体で、現役は引退しゆっくりとした余生を過ごしているが、 
経験豊富で多くの場数を踏んでいることから、時折若い連中に狩りやり方を伝授する教官の役を買って出ていた。 

「むきゅー、すまないわ。いくつかたずねたいことがあるの」 
「ありすからきいているのぜ、あまあまのことがききたいみたいだね、なにかあったのぜ?」 
「……えぇ、ちょっとしつもんにこたえてくれるかしら」 

長ぱちゅりーとまりさはゆっくりと問答を繰り返す。 

「まりさはもうわかくないんだよ、あんよさんもいうことをきいてくれないのぜ、 
でもわかいゆっくりにたよってばかりじゃだめだとおもったのぜ、だからすのちかくでかりをしていたのぜ」 
「そのとき、あまあまさんをみつけたのね?」 
「そうなんだよ!まりさはゆっくりしないでむれのみんなをよんであまあまをあつめたのぜ」 

話を聞けば聞くほど不自然だった、あまあまを持っているとする人間がこの山を出入りするのはせいぜい麓の老人くらいで、 
無干渉な老人がゆっくりのために餌をばら撒くことなど今まで一度もなく、長ぱちゅりーはどうも不安を拭うことが出来なかった。 

「まりさはあまあまさんをたべたのかしら?」 
「わかいゆっくりたちとむーしゃむーしゃしたよ!とってもおいしかったのぜ!」 
「……そう、すこしからだをしらべさせてもらっていいかしら?」 
「ゆ?かまわないのぜ」 

まりさの眼や舌、背中など軽く問診をしたが長ぱちゅりーには特段変わった点を見つけることができなかった。 

「むきゅー……きのせい、なのかしら……」 
「おさっ、もういいのぜ?まりさにかわったところはないよ!」 

やはり杞憂だったのかと、長ぱちゅりーは引っ掛かる物を感じつつも老体に鞭を打って受け答えてくれたまりさを巣に返した。 

「どうやらかんちがいのようね、あまあまさんはまだたべてないゆっくりたちにわけてあげましょう」 
「むきゅー、よかったわ!おかーさんもぜひたべてね!!」 

何事もなく安心した娘ぱちゅりーは嬉しそうに微笑んで、葉に包まれたあまあまを長ぱちゅりーに差し出した。 
娘の急かす姿に押される形でそのあまあまを口に放り込もうとしたその時、異変は起こった。 

「おさっ!!たいへんよ!!まりさがたおれているわ!!!」 

ありすの声に振り向くぱちゅりー親子、そこには先ほど話し込んでいたまりさが道端でうつ伏せになって動かなくなった姿があった。 
急いでありすがまりさの介抱をしようと近付いた時、それは起こってしまった――。 


「パァンッ――!!」 


風船が破裂するような乾いた衝撃音、ぱちゅりー親子は一瞬身を屈めて眼を瞑った 
ゆっくりと視界を開くと、そこには下半身のあんよ付近を僅かと帽子だけを残して見事に爆ぜてしまったまりさと、 
全身に無数の穴を開けぴくぴくと悶えているありすの姿があった。 

「むきゅぅうううううん!!!あぁ、ぁありりぃいいずぅううう!!!」 

番のありすが無残な姿になり果て、慌てて娘ぱちゅりーは駆け寄った。 
穴の開いた伴侶に涙を流しながらぺーろぺーろと舌を這い回し応急処置を施そうとするものの、 
どくどくと流れ出るカスタードは止まらず、ありすは何も言い残すことなく絶命した。 
長ぱちゅりーはハッとなって葉に包まれたあまあまを見下ろす。 

「まさかっ……そんなっ!!」 
「おがーざんっ!!おがぁああざん、ありぃずぅううがぁああ!!ぱぢゅりーのありずがぁああ!!」 

わんわんと泣いて娘ぱちゅりーは長ぱちゅりーの胸に飛び込んだ、危惧の念が現実になってしまったと知った長ぱちゅりーは 
突然の事に震えが止まらない娘ぱちゅりーの頬を髪で叩いて、正気に戻させた。 

「おちついて!!いいからよくきいて、あなたっ、あのあまあまさんたべたの!?」 
「……むぎゅぅ……ぱ、ぱちゅりーもたべだわ……」 

その言葉に長ぱちゅりーは唇を噛み締めた、周囲を見渡すと異常を聞きつけた他のゆっくりたちが巣から顔を出していたので 
長ぱちゅりーは駆け寄ってくるみょんに、巣で保管してある貴重品のブルーシートの手配と、 
もう一度緊急の連絡会を始めるから急いで群れ中の、子供も含めたゆっくりを呼んで来るように頼んだ。 

「おがーざんっ、ば、ばぢゅりーも、ばぢゅりーもあんなふうになっじゃうの?」 

母の賢さを受け継いだ娘ぱちゅりーは爆発したまりさを見下ろし、自身の未来と重ねるだけの想像力があった。 
長ぱちゅりーは一瞬だけ迷った仕草を見せたものの、はっきりと娘に対して現実を知らしめた。 

「……そうよ、あれはにんげんさんがゆっくりをくじょするためにおいたものにちがいないわ……」 
「むぎゅう……むぎゅうぅうう!!ありずぅうう!!いやだよぉおお!!たずげでよぉお、ありずうう!!!」 

事実を知った娘ぱちゅりーは骸と化したありすに救済を懇願した、長ぱちゅりーは酷い事だと理解しながら 
娘ぱちゅりーを強引に引っ張り、頬をその髪で何度も弾いた。 

「むぎゅうぅうう!!いだいっ、やめでよ!!おがーざんっ!!」 

痛みで落ち着きを取り戻したところで、長ぱちゅりーは娘に命令する、それは非情な選択だった。 

「いいっ、あまあまさんをたべたむれのみんなもじきにああなってしまうわ……そのまえにたべてしまったゆっくりをせんべつして 
なるべくとおくにいどうさせるの、のこされたかぞくにきがいがおよばないようにするのよ!!」 
「お、おがーざん……?」 
「あなたがせんどうになるのよ……これはあなたにしかできないわ……」 

まだ涙の跡も消えていない娘に対して、長ぱちゅりーは何度も何度も心の奥底で謝りながらそれを言いつけた。 

「ありすをうしなったばかりなのに……こんなことたのんで……わるいとおもっているわ……おかーさんを、うらんでくれていいわ……」 

母の心情を掬ったのか、娘ぱちゅりーは小さく頷くと眼を見開いた。 

「おかーさん……ぱちゅりーにまかせて……やってみせるわ!」 

暫くして何事かと、群れのゆっくりたちが集会所である広場に集まり始めた。 
既に日は落ち、東の空の方から順に闇に染まり始めていた。 

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anko2219 ゆっくり爆発していってね 後編