とある公園にて、ゆっくりがいた。 
全体的に薄汚れたその様は野良ゆっくりと呼ばれる、少しでも害悪な行動をすれば害獣の様に駆除される存在だ。

日差しがサンサンと公園を照らしている。 
そんな日に一匹のゆっくりまりさが成体として家を離れることになった。 
その晴れた空に、まりさとその親のまりさは、まるで自分達を祝福してるようだと感じる。


「おとうさん、まりさはこれからがんばっていくんだぜ」 
「まりさ……」

親まりさは、自分譲りの奇麗な髪と素敵な帽子を持つ、精悍な顔つきになった自分の子供のまりさを頼もしく思った。 
番のれいむは子守を任せていたら、住んでいた家と共に蒸発、その際一緒に居た子れいむ達も消えてしまった。

その時子まりさだったまりさは、親まりさと共に狩りをしていため、いなくならなかった。

ついでに周囲に居たゆっくり達もいなくなってしまい。 
それ以来、親まりさとまりさは、二匹だけになってしまった。

それから、寂しさを紛らわすように、まりさは遊ぶことを止め、親まりさと共に狩りの練習を続けた。

成体になり立てだというのに、もはや狩りの腕は親まりさに並ぶものだろう。 
これなら引く手数多だと親まりさは思う。 
それに加えて、自分譲りの綺麗な髪、素敵な帽子、精悍な顔、相手が羨ましいとさえ思った。 
ここまでくるともはや自画自賛以外何物でもない。

じゃあ、なぜその親まりさ基準でモテモテのまりさと似ているという自分がモテないということは、そういうこと。 
狩りに行けば、他のゆっくりにも会うことがあるが、何も言われたことがない。 
所詮、石を投げれば当たる様な有象無象の野良ゆっくりの一匹でしかないということだ。

「まりさはもういちっにんまえだぜ! まりさはまりさのほこりなんだぜ!」 
「おとうさん……」

親まりさの激励にまりさは胸を熱くする。 
しかし、これ以上話すと別れがもっと辛くなる。 
もっと話したいことを我慢する。

まりさもおとうさんがほこりだぜ! 
あのごはんおいしかったんだぜ! 
おそらとんでるみたい! 
がんばるんだぜ!

いろんな言葉が浮かぶ、しかしどれも別れに相応しくない。 
ブツブツと呟きながら、ようやく相応しい言葉が見つかる。 
最初から、この言葉しかなかったのだ、どんな気の利いた言葉よりも、別れ際に使うなら。

親まりさも心を決めたようだ。

二匹はまるで心がつながったように、一斉に口にする。

「「ゆっくりしていってね!!」」

そう言うと、親まりさはまりさをその場で見送り。 
まりさは何度も振り返りながらその場を後にした。





「れいむ、まりさはちゃんとまりさをいちっにんまえにそだてんだぜ……」

藪の中に消えて行く我が子を涙ながら見送った親まりさ。 
空に浮かぶ雲が居なくなったれいむ達に様に見えた。

「さあ、まりさもゆっくりかり おそらとんでるみたい!」

突如高くなる視界。 
持ちあげたのは人間で、これからどうなるのかは、言うまでもないだろう。










「ゆぅ……」

親元を離れたまりさは、聞いたことがある様なゆっくりできない叫び声を聞き、眉をひそめた。 
まさか今しがた離れた親がすぐに人間に見つかり甚振られた末に死ぬなんてことはまりさの餡子脳の欠片すら考えていなかった。

「ゆっくりできないぜ」

そう呟いた。 
まりさには、友達が居ない。 
れいむも、まりさも、ありすも、ちぇんも、姉も妹もいつの間にかいなくなってしまった。 
同じ時期に生まれた、幼馴染達。 
同じ茎から生まれた姉妹。 
そのいきなりの喪失は、子ゆっくりの時のまりさには大変堪えた。 
一人で遊ぶことは空しく、否が応でも友達を姉妹を思い出させた。

そこでまりさは、親の狩りを手伝い続けた。 
狩りはあまりゆっくりできないが、ゆっくり出来ない辛い気持ちを胸に抱えるよりマシだった。

広場で、人間の子供たちが何かを楽しげに蹴って遊んでいる。 
その様子をまりさは隠れながら見た。 
人間の間ではサッカーと呼ばれる遊びだが、まりさにはそれが何かを蹴り合うことにしか見えない。 
少年達を見て思い出してしまう、ああやって皆と丸い石を蹴り合っていたことを。 
ただ楽しかったあの時を。

「行くよ! 林君!」 
「来い! 羽井!」

「行けぇぇぇぇぇぇえ!」

そんなことを叫びながら、羽井と呼ばれた少年は何かを蹴る。 
林と呼ばれた少年は、それを取るべく真横に飛ぶが、届かず、何かは壁にぶち当たり黒い染みを作る。

「ナイスゴール羽井君!」 
「やった!」 
「やられたぁ!」 
「くそっ」

少年達が集まり、羽井少年を褒めたたえる。 
一方、林と呼ばれた少年と同じグループの少年達は悔しそうにしている。 
その讃えあいもすぐに終わり、壁の染みに視線が注がれる。

「あー、ボールがついに壊れたか」 
「じゃあ、補充だね」

そう言うと、少年達は各々に散った。 
少年達が何かを探す中、羽井少年がまりさを見つけた。

「ゆっ!」

まりさは楽しげに遊んでいた少年達を見て、自分を重ねた。 
昔の楽しかったはずの思い出を今はゆっくりできなくても、昔は確実にその時、その一瞬をゆっくり楽しんだはずなのだ。

思い出に浸っていた、まりさ。 
それゆえ、少年の接近に気付かず、こうして目の前までの接近を許してしまった。

「ゆ、ゆっくりしていってね!」

慌てて挨拶をする。 
人間はゆっくりできない、親まりさにそう言われていたし、餡子脳にもそう刻まれていた。 
しかし、少年達が遊んでいる姿は紛れもなくゆっくりしていて、どうにかなるのもしれないと思ったのだ。 
その願いが通じたように、羽井少年は答えた。

「ゆっくりしていってね」

まりさは驚いた、まさか挨拶を返してもらえるとは思っていなかったのだ。

「まりさも一緒に遊ばない?」

そして、そう問われる。 
餡子脳に衝撃を受けるほど、その言葉は唐突なことだった。

「ま、まりさと?」 
「そうだよ、そして友達になろう」

友達がいなくなった。 
成体となった今でも、その事実はまりさの餡子を締め付ける、悲しい過去である。

友達がまたできる。

まりさは気付くと頷いていた。 
しかし、頷いたことを否定しようとは思わなかった。 
消えてしまった友達、失われた皆と遊ぶ時間、成体ゆっくりにもなってようやく取り戻せるかもしれない。

「……わたったん、だぜ!」

一筋の涙を零し。 
まりさは、そう元気よく返事を返した。

「じゃあ、僕達とまりさは友達だ!」 
「ともだち……、そう、そうなんだぜ! まりさたちはともだちなんだぜ!」

ああ、ああ、まりさは涙する。 
失われたモノが取り戻されていく。 
思い出すのが辛かった皆と遊んだ思い出が、楽しかった思い出へと昇華されていく。 
口の中で転がすように、友達と何度も呟く。

「おーい、みんな見つかったよ!」 
「おー」 
「わかったー!」

羽井少年が大声でそう言うと、いろんな場所から返事が聞こえてくる。 
はて、見つかったとは何なんだろうと、まりさは思ったが、すぐに忘れた、どんな遊びをするのだろうと思ったからだ。 
羽井少年はまりさを持ち上げ、広場に戻った。

少年達が集まり、まりさがその中心に居る。 
こんなに人間に囲まれたら恐ろしくて泣いてしまうだろう、しーしーも漏らしてしまうかもしれない、しかしそんなことはない。 
まりさと少年達は友達なのだから。

「じゃあ、そっちがゴールしたから、こっちボールな」 
「うんわかった」 
「わーくわーく」

そう言うと、羽井少年グループはまりさから離れ、林少年グループの数人がまりさの近くに残った。 
羽井少年グループの動きが無くなる。 
まりさは今からどんなことが起こるのかと、胸を躍らせる。

「いっくぞー!」

その掛け声ともに。


まりさは蹴られた。


「ゆっ?」

いきなり反転する視界、空が地面になり、地面が空になる。 
しかしそれも一瞬、景色が何度も入れ替わる。 
地面と顔が何度もぶつかる。 
回転が弱まった時。

「ゆべっ!?」

また別な方向から衝撃が来る。 
それが何度も。

「いだっぃぃぃぃぃぶけぇ!! たずぶぇぇえ!!」

現状に混乱しながら、まりさは痛さを叫んだ。 
友達に助けを求めた。 
しかし、一向に助けは来ない、蹴りが続く。 
と、今まで一番強い衝撃がまりさの右頬を襲い、同時に浮遊感が伴った。

「おぞらどんでるみだ、ゆげっ!?」

一瞬でまた地面と熱いちゅちゅをすることになり。 
また、衝撃がまりさを襲う。 
その時、まりさの頭の大事な大事な帽子が脱げる感覚にみまわれた。 
転がりながら、既にボロボロになった帽子を見つける。

「まりざのおぼぉい!!」

今まで以上の強い衝撃がまりさを襲う。 
今度は両方向からだ、ぶちゅりという音とともに、まりさの餡子が口からあにゃるから出た。 
目も今にも飛び出しそうなほどに、体内に圧力がかかる。

「!!!」

叫ぶ余裕すらなく、まりさは声もなく絶叫する。 
そしてまりさは弾かれ、ようやく止まった。

「線出たぞー」 
「わかったー」

その声とともに、羽井少年がまりさに近づいてくる。 
まりさは、物理的なダメージ、精神的なダメージを両方受け、ピクリとも動けない。

そして、羽井少年がまりさを両手で掴み、持ち上げた。 
そこでようやく、まりさは言葉を口にする。

「どぼじで……」

まりさは痛みで気絶しそうなのを堪える。 
ただ一つ、言いたいことがあるために。

「どぼじでごん゛な゛ごどずる゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!」

友達だと、そう言ってくれたはずの少年に。 
精一杯の力を込めてそう叫んだ。



「ボールは友達さ!」



そうまりさを友達と言った時と変わらぬ様子で言うと、羽井少年はまりさを思い切り振りかぶり、まりさを熱い視線で待つ少年達の元へ投げた。



【おわり】