二人の青年が、今後の予定について話し合っていた。 
頭にタオルを巻いた青年がいろんな案を出すが、もう一人のメガネの青年に駄目だしをされている。 
しかし、数打てば当たるのか、その中で幾つかは採用されていく。 
いろいろと話を進めていると、一つの話が出てきた。

「花火やろうぜ、花火」 

「花火ぃ? 野郎二人で悲しくないか」 
「いや、中々面白い花火になるとおもうぜ」

まあ、やるかと、適当に了承すると青年達はまた話を続けた。







「と、言うわけで花火大会と相成りました!」 
「テンション高いなー」

場所は見晴らしの良い空き地、あまりの見晴らしの良さにゆっくりすら住んでいない。 
住んでいても、すぐにここを遊び場にする子供達の餌食になってしまうからだ。 
これなら何かに燃え移ることもないだろう。 
青年達の傍らには花火の入ったビニール袋と一抱えほどのダンボールが用意され。 
花火はタオルを巻いた青年が用意した、金は折半だ。 
そして水の入ったバケツ、準備は万端といったところか。

「で、バケツだが、一応用意したけど、基本的に使うつもりはない!」 
「は?」

燃え移るようなものがないとはいえ危ない。 
メガネの青年は頭にタオルを巻いた青年を訝しげに見る。

「大丈夫、我らの火消はこれだ!」

その腕には傍らに置いてあった一抱えほどあるダンボール。

「さっきから思ってたが、なんなんだそれ?」 
「ゆっくりだ、ラムネで眠らせておいた」 
「ほう……」

ラムネはゆっくりに対して、睡眠作用がある、これを使えば運搬程度ではゆっくりが起きることはない。 
そしてゆっくりと聞き、聞いた青年は嬉しそうに笑みを浮かべる。 
何を隠そう、この二人はゆっくり虐待の趣味を持つのだ。

ダンボールを開けると夏の蒸し暑さにも負けず、少しばかり苦しげに寝入っているゆっくりの一家が入っていた。 
タオルを頭に巻いた青年はダンボールの出入り口の部分を上に向けた。

「ゆびゃ!?」 
「ゆゆっ?」 
「ゆぎぃ!」 
「ゆぎゅ?」 
「いじゃぃ!?」

突然、床が壁になり、ゆっくり一家の5匹は重力に引っ張られ床に叩きつけられた。

「な、なんなんだぜ!」 
「ゆっくりできないよ!」 
「ゆゆゆっゆ?」 
「にゃににゃに?」 
「いじゃいんだじぇ!」

痛みに騒ぐゆっくり一家だが、青年達は気にせず花火の用意を始めた。

「じゃあ、ここはまず普通にこれを使うかー、うわっ、懐かしいな!」

まずタオルを頭に巻いた青年が手に取ったのは変色花火と呼ばれる花火だ。 
名前の通り、火花の色が途中で変わっていくと言う、とても綺麗に映る花火である。

たった今用意した蝋燭を使い花火に火を灯す。 
パシュゥという音とともに花火の筒の先端から美しい閃光が数え切れないほど炸裂する。 
その閃光は赤、緑、黄、青、白、と徐々に色を変えて見る人を楽しませる。

「ゆわー、きれいなんだぜ」 
「ゆっくりできるね」 
「ゆゆ! にゃんだきゃしゅぎょいよ!」 
「ゆっくちできりゅね!」 
「まりしゃしゃまにふしゃわしいきりゃきりゃしゃんにゃんだじぇ!」

メガネの青年も既に同じタイプの花火を両手に空中にその軌跡を作ったり落ち葉に当てたりと遊んでいる。 
数十秒もすると、花火は消え蝋燭の火だけが当たりを照らすだけになった。

「すごかったんだぜ……、ゆゆ! にんげんさん! みんなにげるんだぜ!」 
「に、にんげんさん!?」 
「ゆゆ! にんげんしゃん!」 
「ゆっくちゆっくち!」 
「ゆっ! おんしょくのききょうしのまりちゃがゆっくちにげりゅんだじぇ!」

人間の危険性を知っている親まりさはすぐに逃げるように指示 
逃走経路を探すべく、辺りを見渡す。 
そして気付く。

「どうしてでぐちさんがないんだぜぇぇぇぇぇ!!」 
「なんでぇぇぇぇぇ!!」

そんなコントをやっている、親ゆっくり達。 
赤ゆっくり達は困惑していた。 
その予想通りの反応に満足しながら青年達が動き出した。

「じゃあ、バケツ代わりは親のまりさとれいむね」 
「あいよ」

そう言うと、青年達は先端が筒の部分が焦げた棒をまりさに向けた。 
アレを突き刺すのだろうか、まりさは餡子脳の奥から震えあがることを感じだ。 
狭いダンボールの中では逃げる場所もなく、まりさに棒の先端が付いた。

「あづぃっぃぃぃ」

棒の先端は熱かった。 
当たり前だ、今の今まで火を吹き出していたのだから、熱を持っていて当然だろう。 
まりさは泣き叫ぶ、その尋常ではない痛みに、しーしーも漏らして、ただ少しでも痛みを散らそうと叫んだ。

続いて二本目はれいむに突き刺さる。

「ゆぎぃぃぃぃぃぃ!!!」

異物が体内に入っていく感覚。 
そして感じる灼熱。 
蒸し暑いれいむの中の餡子程度ではすぐに冷えることは無く、じわじわとれいむに熱を与え続ける。 
今まで感じたことの無い痛み、焼き貫かれる痛みは、あまりに辛く。 
れいむは、ボトボトと砂糖水の涙を垂れ流した。

「次これ行くか!」

タオルを頭に巻いた青年が次に取り出されたのは練りモノと呼ばれる花火。 
所謂、スパークラー、電気花火とも呼ばれる、まるで電気を発する様な火花が飛び出す花火である。 
火をつけると、先ほどの筒に付けられたように一方向だけでなく、周囲に火花を散らす花火だ。

「オレこれ苦手だったんだよね、火花が手に当たりそうでさ」 
「あー、そうな」

そして、その電気花火を、ゆっくり一家が入ったダンボールに近づける。

「ほーら、さっきお前達が綺麗って言ってた花火だぞー」

ダンボールの中心に電気花火を持っていく。 
バチバチと全体に火花を散らす。

「ゆ、きらきらさんなんだぜ! ゆっくりつかまえるんだぜ! ぎゃぁぁぁぁ!!! あづぃぃぃぃ!!」 
「なんであづいのぉおおおぉ!! やめでぇぇぇぇぇ!」 
「ゆびぃぃぃぃ!!!」 
「どぼぢでごんにゃごどじゅるにょっぉぉぉぉl!!!」 
「やべるんだじぇぇぇえぇ!!! ぎらぎらじゃんやべべぇぇぇぇ!!!」

最初は綺麗でゆっくりしていた火花、しかしそれは見た目だけだった。

最初は無謀にも捕まえようとしたまりさ、しかし無理という話だ。 
親のまりさとれいむは目に火花を入れないようにか、逃げようとしてか火花に背を向けた。 
赤まりさの一匹は四隅に体を突っ込むように尻をブリブリと振っている。 
赤れいむは親のれいむの陰に隠れ、別の赤まりさはピョンピョン逃げ回っていた。

「あづぃぃぃぃぃぃ!!」 
「ゆひぃぃぃぃ!!」 
「あじゅいがらやめるんだじぇぇえぇぇぇ!!!」 
「ゆふうゆふう、これにゃらあちゅくにゃいよ!」 
「にゃんでぎらぎらじゃんごっぢぐんだじぇぇぇぇぇ!!」

必死にまりさ達は火花から逃げる為にダンボールに壁に体を擦りつけるようにへばり付く。 
砂糖水の汗がダンボールの壁を濡らすだけだった。 
ダンボール内を逃げ回っても、あまりにも狭すぎて無意味だった。 
殆ど一か所に固まっているゆっくり一家に、その花火は徐々に近づいてくる。 
花火のほうを向いていないまりさ達は熱い何かが近づいてくると思っているだけだろう。

しかし、火はまりさ達に触れる前に消えた。 
まりさ達の髪には、幾つも焦げ跡が付いている。 
そして、火が消えた花火の棒はれいむに刺さった。

「ゆびぃぃぃぃ!!」

今度は棒の先端だけでなく、れいむに突き刺さる部分殆どに熱を持つ。 
れいむの苦しみが増え、涙の量も増えた。

「次行こうぜ、次」 
「はいよ」 
「それじゃー、この赤れいむもらい」

頭にタオルを巻いた青年が、親れいむの陰に隠れていた赤れいむをダンボールから引っ張り出す。

「おしょらとんでりゅみたい!」

親れいむの陰に隠れて、もう安心だと思っている赤れいむは空を飛んだことを本能のままに喜んだ。 
自分飛んでいる、親を越え、家を越え、夜空に舞っている。 
なんてすごいんだ、赤れいむは自画自賛だ。

「ゆゆ! にんげんしゃん!」

そして赤れいむは青年に気付いた。 
頭にタオルを巻いた青年の顔ほどに宙に浮いた赤れいむ、今にも食べられそうなほど近くに顔がある。 
しかし赤れいむは恐れない、何故なら地に足付けている人間なんかの足よりも、よっぽどすごい空飛ぶあんよを持っているからだ。

「にんげんしゃんにゃんてこわくにゃいよ! れいみゅおしょらとべりゅんだきゃら!」

顔をキリッとさせ、実質の勝利宣言を告げる赤れいむ。

「しゃああんよしゃん! にんげんしゃんにゃんかおいておしょらにとんでにぇ!」

赤れいむは更に空を飛ぶべく、あんよにそう言う。 
数秒、赤れいむなりに格好をつけた体勢で待つが動かない。 
あんよの方はいつものように動く感じがしても、まったく空を動く気配はない。

「ゆ? あんよしゃんにゃんで! どうしちぇ! うぎょいてよ! にぇえ! にぇえ!!」

幾ら言っても先ほど軽やかに飛んだ風に動かない。

「どびょじでぇぇぇぇぇ!!!」

涙を流してあんよに言う。 
当たり前のように空中で静止したままだ。

「れいみゅのしゅてきにゃそらとびゅあんよしゃん、にゃんでうぎょいてきゅれなにゃいの…… れいみゅがきゃわいいきゃらしっとしてりゅの?」

その発言は冗談ではなく、本気でそう思っての発言だ。 
赤れいむの必死の説得の中、頭にタオルを巻いた青年がようやく口を開いた。

「やっぱゆっくりはおもしれーなぁ」

ただ持って見るだけでこれだ。 
頭にタオルを巻いた青年は笑いをこらえながら、赤れいむを地面に置く。

「ゆぅ、じめんしゃんについちゃったよ……」

よほど残念なのか、沈んだ声で言う赤れいむ。

「まー、良いじゃないか、遊ぼうぜ!」 
「……ゆぅ? あしょんでくりぇりゅの?」 
「あー、遊ぼう遊ぼう」 
「にゃにしてあしょんでくりぇりゅの?」

先ほどのこともさっぱり忘れるため、遊んでくれると言う言葉にのる赤れいむ。 
嫌なことはすぐに忘れる。 
それがゆっくりだ、赤ゆっくりならそれが顕著に表れる。

「良い子はしちゃいけない、火遊びだ」 
「ゆ?」

頭にタオルを巻いた青年はそう言うと、ライターで手に持った花火に火をつけた。 
吹き出し筒物と言う、よく見るタイプの花火を取り出す。 
細長い棒の先端にタバコほどの大きさの筒がつけられている。

それはススキ花火という、火花がススキの穂のように広がる花火だ。

バシュと音をたてて、火花を散らす花火。

しかし、先ほど怖い目に合わされた赤れいむにとって、その閃光は美しいモノではなく、なんとなく怖いモノに映る。

「しょれであしょぶの?」 
「そうさー」

頭にタオルを巻いた青年はライターをしまうと、もう一本、同じススキ花火を取り出し、火のついたススキ花火で取り出したススキ花火に火を着けた。

「鬼ごっこだ」

そして、その花火を赤れいむに向けた。 
火花が赤れいむに当たる。

「ゆ、ゆんやぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

頭にタオルを巻いた青年が意図的に遠くから火花を当てているため、致命傷にはならない。 
赤れいむは背を向け逃げ出した。

「あじゅぃぃぃぃぃ!!」 
「あはははは!!」

火花は熱いが、見た目ほどの威力はないのだ。 
よほど接近させなければゆっくりも燃やすことはできない。

「やべべぇぇぇぇぇぇ!!」 
「逃げないともっと熱いよぉぉ!!」 
「きょにゃいでぇぇぇぇぇ!!」

それでもその熱量はゆっくりでは日常で感じるモノではなかった。 
赤れいむはその小さい体を無駄に必死に体を跳ねさせ、逃げている。

「ほーらほーら、熱いよぉぉぉ、燃えちゃうよぉぉぉ!!」 
「ぎょにゃいでぇぇぇぇ、ぎらぎらしゃんぎょにゃいでぇぇぇぇぇぇぇ!! ゆ゛っ!」

躓いたのか、顔面に突っ込むように地面に転がり動きを止める。 
その顔は、地面に接触したままなので見えない。 
ピクピクと底部を震わせているが、力尽きたのかその場から突っ伏したまま気配はない。 
頭にタオルを巻いた青年はすぐに追い打ちをかけることなく、次のススキ花火を準備しながら赤れいむに声をかける。

「おや、れいむちゃん、早く逃げないと熱いよ?」 
「も、もうやじゃぁぁぁぁぁあ、おうちぎゃえりゅぅぅぅぅぅぅ!!!」 
「そんなつれないこと言うなよ」

そう言いながら赤れいむの右側に花火を近づける。

「ゆ゛ぢゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!」

熱源が近づき、赤れいむの顔の皮を焦がすが、赤れいむは叫び声を上げその場で最後の力を振り絞るように暴れた。 
赤れいむの顔の右半分は炭化し、残った片側の顔も痛みと皮が引きつったせいで醜いものだった。 
花火の一部は赤れいむの髪にも及び、火の手を上げた。 
赤れいむの後頭部に着いたリボンに火は回る。

「あ゛ぢゅぃよ゛ぉぉ…… ゅ、ゆ゛ゆ゛!!」

最初は痛みで気付かなかった赤れいむだが、すぐに自分の命の次に大切なリボンが燃えていることに気付いた。

「れ゛い゛み゛ゅの゛お゛り゛ぼん゛じゃん゛も゛え゛に゛ゃい゛でぇぇぇぇぇえ゛!!」 
「もーえろよ燃えろーよーっと」

しかし叫ぶだけで体を動かす力も残っていない赤れいむは大切な大切なリボンが焼失する感覚を味わうしかなかった。

「れ、れいみゅのきにゅしゃんのしゃわりごごちもびっきゅりのお、おりぼんじゃんぎゃ……」 
「おーっと、そんなこと言ってる暇があるのかなー?」

そう、未だに赤れいむの頭の火は消えていないのだ。

「ゆ? ゆぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

その火は赤れいむの髪を全て燃やし、皮も燃やし、口すら覆い、赤れいむは炭と化していく。 
さらに追い打ちをかけるように、まだ火花を発する花火を赤れいむに向ける。

次第に全部分を覆う。 
表皮だけが炭と化し中身はまだあるようだ。 
その証拠にたまに震えて、目があった部分から涙の様な汁が流れる。

「消火消火と」

頭にタオルを巻いた青年はその赤れいむだったものを念入りに踏み付ける。 
断末魔を上げることもなく赤れいむは死んだ。



「おーやってるやってる、あいつの背後にサングラスでモヒカンの姿がうっすらと見えるぜ」

もう一人の青年は手に持つタイプの花火で遊んでいるメガネの青年を横目に別な花火を手に取った。

「これこれ」

手に持ったのは、少し太い紙が円状になっている花火。 
ねずみ花火だ。

「どうせならゆっくりを使った花火にしたいからな」

そう言うと、メガネの青年は赤ゆっくりを一匹引っ張り出す。

「ゆんやぁぁぁぁぁぁ!! やじゃぁぁぁぁ!! あっちのまりちゃにしちぇえぇぇ!!」 
「どぼぢでぞんにゃごぢょいうんだじぇっぇぇぇえ!! ぞっぢのまりじゃのほうぎゃいいんだじぇぇぇぇえ!!」

手の中と巣の中で騒ぐ2匹。

「おやー、楽しいこと言うなぁ、どっちにしようかねぇ」

どうするか悩んだことに気付いたのだろう、手の中の赤まりさが更に騒ぐ。

「そうなんだじぇ! あっちのまりちゃのほうがいいんだじぇ!」 
「ふーん、何がどういいの?」 
「そりぇは…… あっちのまりちゃのほうがいいんだじぇ!」 
「そうかい……」

赤まりさの小さい餡子脳の語彙力ではこんなことしか言えないようだ。 
まったく説得にもなっていないのだが。 
しかしとうの手の中の赤まりさはもう説得は完璧にこなしたつもりになって、もはや自分が助かった気でいる。

「ゆっへん、しゃあまりちゃをはなすんだじぇ! きちゃにゃいおててでしゃわったんだからあまあましゃんをよこすんだじぇ!」

もう赤まりさの頭の中では、メガネの青年は泣いて土下座しながら非礼を詫びて自身に甘いものを献上する、そんな妄想が浮かんでいる。 
ゆっくりの夢物語は口に出さず頭の中だけにして欲しいものだ。 
メガネの青年はそんな赤まりさの横を少し潰し、ねずみ花火の輪に入る様にする。

「にゃにしゅりゅんだじぇ!」

もがくが無意味。 
赤まりさの目と口の間あたりにねずみ花火の輪が嵌まる様にした。

「にゃんにゃんだじぇぇぇぇぇ!!!」 
「それはこれからのお楽しみだ」

体に訳の分からないモノが付いている不快感、これから何が起こるかという恐怖感が走り、赤まりさは騒ぐ。 
メガネの青年は、巣の中にいる先ほど、手の中の赤まりさと騒いでいたもう一匹の赤まりさを引っ張り出した後、ライターでねずみ花火に火をつける。 
すると花火の先端から火花が飛ぶ。

「ほら、まりさよく見てろよ?」 
「にゃ、にゃんにゃんだじぇ……」

「ゆ? ゆ? ゆ? ゆ?」

いきなり火花を飛び散らすモノに赤まりさは動揺する。 
ねずみ花火は最初の数瞬は動かない、それに普段にはない赤まりさがあることでその時間が伸びた。 
それはただ単に赤まりさの混乱する時間が延びただけだが。

「にゃんにゃびゅゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ!!!!!!!」

と、いきなりまわり始めた。 
人間から見ても早いのだ、ゆっくりから見ればそれはもう高速である。 
中の赤まりさはあまりのゆっくりしてなさに機能停止しているかもしれない。 
高速回転することで、あんよもガリガリと削られ、餡子が洩れている。 
赤まりさが動いたところには餡子がへばり付いていた。

パンっと音が鳴る。

そう、ねずみ花火の最後は爆発するのだ。 
ついでに薄い白煙が爆発した辺りを少しばかり見えなくし、火薬のにおいが辺りに漂った、爆発の中心が白煙が消えるとともに見える。 
そこには、高速で回ったせいで口から餡子を垂れ流し、ねずみ花火の爆発のせいで体が半ば吹き飛んでいる赤まりさだった。

「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ」

そんな瀕死の声を上げ始め、オレンジジュースでもぶっかけなければ数秒も待たず死んでしまうだろう。 
もちろん、メガネの青年はそんなことする気もないし用意もない。 
その光景に手の中の赤まりさはガタガタと歯を鳴らし、おそろしーしーを垂れ流す。 
冷や汗をだらだらと流す。

「さあ、今度はお前の番だ」

手に持ったもう一つのねずみ花火を持って、メガネの青年は赤まりさから見て凶悪な笑みを浮かべながら言った。

「ゆ、ゆ、ゆんやぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!!!」






「待った!」

そこに赤まりさを助けるかの如く、待ったの一声が響く。 
その救世主の様な声の持ち主、頭にタオルを巻いた青年に赤まりさは希望を見出す。

「お、おにーしゃん……」 
「あん? なんだ?」 
「いや、同じの2回でもつまらないだろう、これを使うべきだ!」 
「ゆがーん!」

救世主は悪魔だった。



持ってきたのは、ロケット花火。 
ロケット花火というのは、やはりその名の通り、ロケットのように飛ぶ花火のことである。 
しかし、花火にしては珍しく、その火花を楽しむモノではなく、飛ばすことが楽しいと言う話だ。

この花火はパイプの部分がプラスチックでできているため自然崩壊しない、環境の為にロケット花火は打ったら回収しよう。

まあ、そんなロケット花火だが、普通は導火線に火をつけて飛ばすだけだが、今回は違う。

「パイロットはまりさだ!」 
「おー、よかったじゃねーか、まりさ」

パイロット付きである。

「やじゃぁぁぁあ!!! やじゃぁああああ!!」

そう騒ぐのは、ロケット花火に紐でくくりつけられた赤まりさである。 
ロケット花火は地面に刺さり、夜空に向かって伸びている。

赤まりさは体をグネグネと動かし、必死に逃げようとするがまったく逃げられそうにない。 
赤まりさの貧相な発想ではどうなるか見当もつかないが、目の前で姉妹の一匹が凄惨な死にざまを迎えたのだ。 
流石に鈍感なゆっくりでも次は自分と察せる。

「じゃあ、火つけっか」 
「ああ」 
「どぼじでごん゛なごどずる゛の゛っぉぉぉぉお゛お゛お゛!! お゛ぎゃーじゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!! お゛どーじゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

ライターを取り出した頭にタオルを巻いた青年の姿に、赤まりさの脱走の為の体の動きはさらに加速する。

「よし、点火!」

遂に、ロケット花火の導火線に火がつく。

「夕日に向かって飛びたとうぜ!」 
「今、夜だけどな」 
「ゆ゛ん゛や゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

そのまま、赤まりさは悲鳴を残しながら夜空へ消えて行った。 
ロケット花火はピューと笛を吹くような音と共に軌跡を作りながら、空を飛ぶ。 
軌跡の最後に爆発が生じ、破裂した音も聞こえた。

「おーおー、いったねぇ」

そしてパラパラと何がか降ってくる。 
赤まりさの破片だろう。

「汚い花火だ」 
「それ言っちゃうの?」

メガネの青年に突っ込みが入った。 
赤ゆっくりも尽きてしまったので、ここで二人は普通に花火を消化することにした。


メガネの青年が使い終わった花火を片手にまりさに近づく。

「なー、まりさよ、ゆっくりってなんで目が二つ付いていると思うー?」 
「そ、そんなのしらないんだぜ!」

まりさは自身に降りかかる何かゆっくりできないモノを感じた。

「それは片方は潰れたりするためだと思うんだ!」

そして、まりさの右目に使い終わった棒が突き刺さる。 
熱を持つそれは、まりさの餡子を熱する。

「ゆがぁぁぁぁぁ!!!」

まりさの悲鳴を楽しみながら、メガネの青年は次の花火に火をつけた。

しばらくするとまりさとれいむには数十本モノ使い終わった花火が突き刺さり、その痛みで不細工な顔お更に醜くしていた。 
餡子の焦げたにおいと火薬のにおい、まりさとれいむの悲鳴がこだまする。

「線香花火やるか」 
「いいね、先に落ちた方がジュース奢りな!」

そして、線香花火を用意した。 
細い、こよりの様な花火である。

線香花火の名前とは、火花の飛び方から由来する。 
まず、火花を飛び方を咲き方と呼び、その様子を花にちなんで表現したそうだ。

「あー、これやってると、花火も終わりって気がするなー」 
「あ、そう言えば、もうひとつ大きいの残ってたわ」 
「お前っ」

とやりながら火をつける。 
パチパチと最初は弱い火花を散らすが、徐々にその火花が強くなっていく。 
その火花は繊細で、触れれば壊れそうなほど、儚い火に見える。

「よくよく考えたら、これ終わったら寂しくなるから大きいの残しておいてよかったかもな」 
「だろー」 
「いや、やっぱ静寂感は変わらない気がするわ」

徐々に火花が強まっていく線香花火の先端に紅い球体ができて行く。 
これこそが、さっき二人が言っていた、先に落ちたら負け、と言っていたモノだ。

そこを中心にバチバチと火花が咲く。

そして1分ほどで球がぽとりと落ちた。

「ふっ、俺の勝ちだな! 静寂とか何だとか、気合入れてないからだ!」 
「んなもんで変わるわけないだろ、運だ運」

どうやらメガネの青年が負けてしまったようだ。 
二人の勝負が終わり、最後の花火の用意が始まった。

「さーて、最後の締めだ、ド派手に行くぜ!」 
「ドラゴン花火か」

そうして用意されたのが、ドラゴン花火。 
地面に置いて着火する花火であり、決して持つモノではない。 
大きく火花が散ったり、色が変わったりと色々と賑やかな花火である。

「ここにセットする」

セットされた場所は先ほどゆっくり一家が寝ていたダンボールだ。 
中にはまだ、使い終わった棒が幾本も突き刺さりハリネズミと化したれいむとまりさがいる。 
先ほどまで、痛い熱いと騒いでいたが、今は静かになっている。 
どうやら、気を失っているようだ。 
その顔は非常に辛そうである。 
その姿を見て、メガネの青年がなぜこうなったか考える。

「花火とかで散々遊んでやったしな、普通のゆっくりはおねむの時間帯だ、疲れてるだろうし気を失ったのか寝たのか」 
「まー、その方が滞りなく進むけどな!」

そうして、ドラゴン花火をセットし、青年が火をつける。

まず、大きな火柱が上がった。 
その輝きは強く、あたりを昼間の様に照らした。

「ゆゆ? なんなんだぜ?」 
「ゆう、もうあささん?」

ダンボールの中の二匹は呑気な目覚めだった。 
二匹は体にだるさを覚えながら、辺りを見渡す。 
しかし、すぐに事態を把握する。

「ぎらぎらざんがなんでごんなどごろにあるんだぜぇぇぇぇぇ!!!」 
「ゆんやぁぁぁあ!! まりさぁぁぁ、どうにがじでよぉぉぉお!!!」

朝のように思えたのは、ドラゴン花火の火柱で明るく感じたから。 
二匹はそろって驚く。 
ドラゴン花火は、続いて火花を上げながら徐々に色を変え、小さい球の様な火花を飛ばす。

「やめでぇぇぇぇ!! ぎらぎらざんやめでぇぇぇぇ!!」 
「いだがっでるんだよ! やめであげでね!」

必死にドラゴン花火に向かって言うが、ドラゴン花火は気にせず火柱を吐き続ける。

「ゆぎぎ! まりさもゆっくりなんだぜ! れいむ! あいしていたんだぜ!」 
「ま、まりさ!」

まりさは決意した様に顔をキリッとさせ、れいむに別れの言葉のように言った。

「まりさすぺしゃるろーりんぐだいなまいとあったーーーっく!」

小学生でももっとマシな名前を考えるであろう、技名を発しながらまりさはドラゴン花火に体当たりをした。 
元々、軽いそれだゆっくりの力でも倒れる。 
もちろんそれは。

「ゆふう、ゆふう、やったんだぜ!」 
「まりさ!」 
「れいむ……!」 
「まりさ……!」 
「……なんだかまだあついよ」 
「ゆっ、れいむとまりさのあいっのあつさだよ!」

余計に悪いことにしかならない。 
まりさが倒したドラゴン花火は、そのまま火を発し続け、ダンボールに火をつけた。

二匹は気付かず、そのまま愛とやらを語り合おうとする。 
見つめ合う二匹だが、火がダンボールに廻っていることにようやく気付いた。

「ゆっ! ゆゆっ! いったいどうなってるんだぜ!」 
「めらめらさんが! めらめらさんがきてるよ! どぼじで!」

もちろん、まりさのせいだ。 
ドラゴン花火は真上にしか火を発さない、青年達はせいぜいまりさ達の悲鳴が上がればいいな程度で考えていたのだが、まりさが勝手に事態を悪くした。

ダンボールの火はすぐにまりさ達を襲った。

「れ゛い゛む゛も゛う゛ぢょっどむ゛ごう゛い゛ぐん゛だぜ! ばり゛ざがも゛え゛じゃう゛ん゛だぜ!」 
「も゛え゛じゃえ゛ばい゛い゛でじょっぉお゛お゛お゛!!! でい゛ぶばい゛ぎの゛ごる゛ん゛だよ゛ぉぉぉ!!!!」 

先ほどまでの二匹はなんだったのか、二匹の間にもはや情なんてものは存在しない。 
迫りくる火の手に二匹はどうすることもできない。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! ばり゛ざの゛お゛ぼう゛じざん゛がぁぁぁぁ!!」

遂に、火に近かったまりさの帽子に火がついた。

「や゛べでぇぇぇぇ!!!」

帽子を燃やしつくすまでもなく火はすぐにまりさを燃やし始めた。

「ゆ゛ぎゃぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

帽子を燃やし、髪を燃やし、遂には皮をも燃やしていく。 
燃えて行くのは背面からなので、まりさは大粒の涙と大量の涎、そして汗をかいて痛みで動かなくなった体で必死に耐えるしかなかった。

「ゆふふ! でいぶはだすかるんだよぉぉぉ!! まりさはそこでもえてね! れいむはにげるよ!」

流石餡子脳、なぜ火がここまで回って逃げられなかったのかさっぱり忘れている。 
そして辺りを見回す。

「どぼじででぐぢざんがないのおぉおおぉ!!!」

やはり絶望的だと思い出す。

「めらめらさんはさっさときえてね! ふーふー!」

暑い時は風、そう思ったれいむは火に向かって息を吐く。 
しかしそれは焼け石に水どころではない。

「どぼじでぇぇぇぇえぇl!!!」

火は消えず、寧ろ勢いを増してれいむに襲いかかってきた。 
すぐに火は全身に廻り、まりさを焼きつくし、れいむに火が移り、同じように全身に回った。

「や゛め゛でぇぇぇぇ!! でい゛ぶがぁぁぁ!! ぜがい゛の゛だがら゛も゛の゛の゛でい゛ぶがも゛じゃう゛よ゛ぉぉぉぉ!! ぜがい゛の゛ぞん゛じづだよ゛ぉぉぉぉぉお゛お゛!!!」




「おい、そろそろやばいぞ、水水」 
「アイアイサー!」


れいむ全身に火が回った頃、青年達はが水をかけ、消化したのだ。 
流石に火が大きくなりすぎて、何回もバケツを汲んでくる羽目になったが。 
何も無い広い空き地でよかったということだ。

「見事に炭饅頭が出来上がったな」 
「こりゃまずそうだ」

真っ黒な炭と化した二匹。 
流石に中枢餡とまでは行かなくとも、ほぼ全部が炭である。 
もはや反応も見込めないだろう。

「さて、ゴミは持ち帰りますか」 
「だな」

バケツに二つの炭の塊を入れると潰す。 
サッカーボールほどの大きさだったそれは崩され、バケツの中に入る程度に崩れた。

そして二人は立ち去る。

花火の後の騒がしさは、耳が痛いほどの静寂を持って幕を閉じるのであった。

【おわり】