ある晴れた日のことである。 
広い公園があった、緑も多いがあまり手入れは行われていないのか特に人が訪れない場所は林の様になっていた。 
ただ、その広い公園は残念なことに室内で遊ぶことに夢中の子供たちは公園を訪れることは少なくなってきている、代わりに居着いたのはゆっくりたちだ。 

この公園では、子供たちよりもゆっくりを多く見るようになった。 
そんな公園のダンボールの中で一つのゆっくりの家族がいた。

「もっちょむーちゃむーちゃしちゃいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 
「ごはんしゃんぎゃじぇんじぇんちゃりにゃいよ! ゆっくりできにゃいよ!」 
「おにゃきゃちゅいちゃぁぁぁぁぁぁ!! ゆっくちできにゃいぃぃぃぃぃ!!!!」

そうわめいているのは3匹の赤れいむ。 
その在り方はゲスという存在を赤ゆっくりにして極めている。 
3匹の周りには口から飛び散らかった食べカスが付着していた。 
今しがた、むーしゃむーしゃしあわせー! と叫びながら食べたために出たものでもある。 
そんなに腹が減っているなら土でも食ってろと言いたいところだ。 
しかしお腹がすいていると叫んでいる割に血色は妙に良く身体も丸々と太っている。 
餌は足りているのだろう、腹がいっぱいではないというだけの単なるわがままだ。

「ゆぅ~、ぺーろぺーろ、おちびちゃんたち、もうちょっとまってね、いままりさがかえってくるからね」

その三匹の前には成体のゆっくりれいむが三匹の赤れいむを宥める。 
その表情はイライラとしたものだが、赤れいむ達は気付く気配はない。

「ゆぅぅぅぅ~~、れいみゅはもっちょいっぴゃいむ~ちゃむ~ちゃしてゆっくりしちゃいだけにゃんだよぉぉぉ! どうしてそんにゃこというにょぉぉぉぉ!」 
「しょうだ! しょうだ! れいみゅをゆっくちしゃせにゃいおやはしんでにぇ! ゆっくちちにゃいでしんでにぇ!」 
「れいみゅをゆっくちしゃしぇにゃいくじゅおやはれいみゅおこりゅよ! ぷきゅーーー!!」

あまりの暴論、自分のことしか考えていない赤れいむ達はただゆっくりしたいがために叫ぶ。 
赤ゆっくりとは、自分がゆっくりしたいと泣き喚くものだが、これはひどい。 
ただただ限度を弁えさせずに甘やかすと、赤ゆっくりは際限なくゆっくりを求め、このような醜態をさらすのである。

その赤ゆっくり達の姿にれいむは目を見開き、無い青筋をビキビキと浮き上がらせて、その口元は歯茎が剥き出しになるほど食い縛られている。 
その表情と雰囲気は殺気に満ち溢れるものだが、赤れいむ達は全く気付かない。

「どうしてそんなこというのっ! ……ちょっとれいむはおそとにいくからね! まりさ! ついてきてね!!」

表情も雰囲気も変わらず、れいむは怒鳴るように言った。 
だがれいむが言った言葉にも赤れいむたちはまるで耳を貸さない、おそらく今の状態では自分の都合のいい音しか拾わないだろう。 
赤ゆっくりのゲスとはそういうものだ。

そして、よく見るとダンボールの隅で2匹の赤まりさが身を縮めこませていた。 
名前を呼ばれ、一匹がビクリと身をすくませる。 
餌が足りていないのだろう、赤れいむに比べると体は一回り小さく、あまり血色がいいとは言えない。 
その中の一匹の赤まりさが恐る恐る言葉を発する。

「ゆ、ゆっくちりきゃいしたよ……」

その表情は絶望そのもの。 
諦めきっているモノの顔をしていた。 
呼ばれた赤まりさが残った赤まりさに言う。

「まりちゃ、ゆっくちしていってね」 
「おねーしゃん……」 
「ぐずぐずしないでね! まったくぐずのまりさだね!」

今にも飛びかかりそうなほど怒気を放つれいむ。 
呼ばれた赤まりさは残される赤まりさにそう言うと、れいむの後をついて行った。 
その後ろ姿を残されたまりさは心配そうに見つめる。 
以前もこんなことがあった。 
怒ったれいむが姉の赤まりさを一匹外に連れて行き。 
れいむだけが帰ってきて、姉の赤まりさは遂には帰ってこなかった。 
どうかこの予感が当たらないようにと、そう願った。






そして姉の赤まりさが戻ってくることはなかった。







「ゆっゆっ! きょうもごはんさんをとってきたんだぜ!」

赤まりさを連れて行ったれいむが一匹で帰ってきて、ほどなく、赤れいむたちは泣き疲れ寝てしまい、そして起きた頃。 
成体のゆっくりまりさが、先ほどのれいむのダンボールに入ってきた。 
れいむの番のだろう、労働を終えようやく我が家に帰ってこれたことにやりきった表情をしている。

「おそいよ! れいむもおちびちゃんたちもまちくたびれちゃったよ! ゆっくりしないでさっさとしてね!」

そんなまりさへの第一声は怒声。 
怒鳴られたまりさは先ほどの表情は何処へやら、悲しい顔をしながら言葉を紡ぐ。

「ゆぅ、ごめんなんだぜ、でもきょうもたくっさんたべものさんとってきたんだぜ!」

そう言うまりさの帽子はそれなりに重そうになっている。

「きょうもたくっさん! じゃないでしょぉぉぉっぉっぉぉぉ!! あんなんじゃぜんぜんたりなかったかったんだよぉぉぉぉぉ!」 
「ゆっ、ゆゆ!! ごめんなんだぜ! ごめんなんだぜ!!」

れいむは唾を飛ばしたながらまりさに不満を叩きつけた。 
まりさは地面に顔が付きそうなくらいな勢いで頭を下げる。 
もはやこの家ではありふれた光景となってしまった、この圧倒的な上下関係。 
とても番の関係と呼べるモノの姿ではなく、在りて言えば奴隷と主人といった風である。 
れいむ種の赤ゆっくり達はその姿をニヤニヤと見て、まりさ種は奴隷で良いんだという認識を深めた。

「ゆぅ! まったくまりさはむのうだね、さっさとたべものさんだしてね!」 
「……わかったんだぜ」

そう言うと、まりさは帽子から食べ物を取り出した。 
と同時にれいむと赤れいむ達は一斉に食べ物に飛び込む。

「ゆっくちたべむーしゃむーしぁわしぇぇぇぇぇぇ!!!!」 
「はふ! はふ! むーしゃむーしゃ! げぇっぷ! はふ! むーしゃ!!」 
「ばーくばーく、しあわしぇ! しあわしぇ!」 
「がーつがーつむーしゃむーしゃくっちゃくっちゃ、しーはー、それなり―!」

地獄の餓鬼もびっくりの浅ましさでれいむと赤れいむ達はゴミの様な餌にありつく。 
一番多く喰い散らかしているのは親というのはどういうことだろうか。 
そんな様子をしり目にまりさは赤まりさに近づく。

「どうしたんだぜ、おちびちゃん? たべないんだぜ?」 
「ゆぅ…… だ、だいじょうぶだじぇ! まりしゃはすこしでだいじょうびゅにゃんだじぇ!」 
「ゆ~、それならいいんだぜ、ゆ? まりさのもうひとりのおちびちゃんはどこだぜ?」 
「ゆぅぅぅ~~」 
「どこかにあそびにいってるんだぜ、しょうがないんだぜ」

まりさは赤まりさの伝えたいことは全くわからなかったが、とりあえず自己完結したようだ。 
毎日の狩りとれいむの対応に疲れているまりさは子供たちに意識をあまり裂かなくなっていた。 
現に最初に消えた赤まりさのついてももう日々の疲れの忘却しつつあった。 
そして疲れた体を休める為、休憩する、いやなことなど思い出さないように。






まりさが休み始めると、赤まりさはダンボールの外へ出た。 
その顔は暗い。

「ゆぅ~」

赤まりさはどうすればいいか分からなかった。 
赤まりさはれいむに連れていかれて戻っていないと言ってしまったられいむに制裁されるのではないだろうか。 
しかし本当に遊びに行ってるだけもしれない。 
赤まりさはそう自分に言い訳する。 
ゆっくりにしては無駄に後ろ向きの赤まりさは不安な未来ばかりを考え、結局切り出せなった。 
そして当たり前のようにお腹がすいたため、まりさの目を盗み不味い雑草を食べる。 
それは親であるまりさを心配させないため。

「む~ちゃむ~ちゃ、ぎぇろまじゅ……」

遂に一匹で食べることになった赤まりさはいつも以上に不味く、どこまでも不幸せに感じる食事をとるのであった。

「ふちあわちぇ…… ふちあわちぇぇぇ ゆっぐゆっぐ…… どぼぢでぇ……」




「げぇふっ!」

れいむは一つ汚らしいゲップを出し、今日の餌のことについて思う。 
今日も満足に食べられなかったと。 
ゆっくりというのはいい加減ななまもので、食べる気になればかなりの量が入る。 
お腹を一杯にしてゆっくりしようと思うと、野良では集められるモノではない。 
一家すべてを賄おうとすれば、不可能と言っていいだろう。

そして、食べれば出る。 
一丁前にゆっくりもその行為をする。

「ゆゆ! ごはんしゃんをたべちゃきゃら、うんうんしゃんぎゃでりゅよ!」 
「ゆー、あにゃるしゃんがむじゅむじゅしゅるよ! にゃんだきゃとってみょむじゅむじゅしゅるよ!」 
「うんうんしゃんがでりゅりょ! ゆっくちでりゅよ!」

「「「しゅっきりー!!!」」」

長い前置きとくだらない宣言しながら、赤れいむの三匹は汚らしい穴からうんうんと呼ばれる餡子をひり出す。 
普通の量を食べたゆっくりでもうんうんはそれなりの量が出る、無駄にたくさん食べたゆっくりは、その分無駄に多くうんうんを出す。 
そして、うんうんはゆっくりにとって臭いものに感じる。 
ゆっくり以外から見れば、それはただの餡の塊なのだが、ゆっくりは何故かそれから異臭を感じ取るのだ。 
3匹は排泄物を出した余韻を味わい、その余韻が終わると騒ぎだした。

「ゆゆ~ん、ゆゆ!? うんうんしゃんはくしゃいよ! どっかいっちぇね!」 
「くしゃいのはゆっくちできにゃいよ! ゆっくちちにゃいでしゃっしゃといにゃくにゃってね!」 
「しょうだよ! れいみゅぷきゅーしゅるよ!」

意志も何もない、自分からひり出されたうんうんに向かって赤れいむたちは退くように言い、威嚇する。 
もちろんそんなことで動くことはない。 
その光景は滑稽である。

「ゆー、まってねおちびちゃんたち、まりさ! ゆっくりしないでさっさとかたづけてね!」

ゆっくりにとってうんうんは臭い、よって処理する身も大変である。 
ましてや手足の無いゆっくり、必然臭いの元であるうんうんに顔を近づけなければならない。

もちろん、そんなゆっくりできない行為を、この親のれいむがしようと思うわけがない。 
一応親のまりさがトイレとして置いてある葉っぱの上にうんうんはするように言っているのだが、赤れいむたちがした試しはない。

「ゆぅ、ゆっくりりかいしたんだぜ……」

まりさは臭い物の処理のことで顔をしかめながら、うんうんを処理し始める。 
その様を見て赤れいむたちはまりさを貶し始めた。

「ゆぷぷ、きちゃにゃいうんうんしゃんをきゃたづけてるよ」 
「おおくちゃいくちゃい」 
「くしゃいきゃらしゃっしゃとどっきゃやっちぇね! すぎゅでいいよ!」

自分が出した物を、せっかく片付けてくれるまりさ向かっての尊大な物言い。 
いつものことながら、まりさはゆっくりできなかった。

「ゆぅ、そんなこといわないでほしいんだぜ、おちびちゃんたち」

そうまりさが言うが、さっさと片付けろコールが響く。 
可愛い自分の子供の為。 
そう自分に言い聞かせながら、まりさはゆっくりできない気分で片付け始めた。





うんうんを片付ける番をしり目にれいむは全くゆっくりしていないゆっくりを番にしてしまったモノだと後悔する。 
理想はこうだった。 
常に餌に満たされ、住処は他のゆっくりを見降ろせる高いところ、人間やゆっくりなんて寄せ付けず、他のゆっくりや人間が全て平伏する。 
子供は自分の言う事を何でも聞いて、自分にそっくりで可愛らしくそれでいて美しく、何もかも完璧なとってもゆっくりした子供が生まれるはずだったのに。 
蓋を開けてみれば、どうだろうか。

餌は常に空で、住処は臭いダンボール、隠れるように日当たりの悪い場所で、たまに他のゆっくりが勝手に巣の目の前を横行している。 
子供は口応えはする、うんうんは臭い、うるさい、食っちゃ寝食っちゃ寝ばかり。 
そんなところ誰似たのかとれいむは嘆く。

子供である赤れいむ達の唯一の美点はと言えば、あまりに可愛くないが、自分の姿に似ている子供であるということ。 
れいむの劣化しきった餡を十二分に受け継いでいると思うのだが、そこを理解するにはれいむの餡子脳では不可能の様だった。

姿が少し似ていること、それ以外は駄目だ。

れいむは溜息を吐く。 
きっと、あの脳なしの番のせいだと思う。 
自分の餡子が少しでも流れていなくて姿も少しも似ていなかったら、潰していたろう。

そう、あの赤まりさ達のように。

れいむは潰した赤まりさ達を思い出しニタニタ笑いと暗い悦に浸る。


チラリとまりさの方を見る。 
狩りが上手くて、カッコいいと評判だった公園一番のまりさを番にすれば一生ゆっくりできると思ったのに全く、と。 
実際には狩りで疲れて帰ってきたところを無理やりすっきりをして、子供を作り逃げ場をなくしただけだ。 
殆ど強姦のようなものである、さらには図々しくも番になった、これはもうれいぱーよりも性質が悪い。

そうこうしている内に、まりさはうんうんを片付けたようだ。

「ゆっ! きれいきれいにしたんだぜ!」 
「くちゃいきゃらこにゃいでね!」 
「ほんちょうだよ! おおくちゃいくちゃい」 
「うんうんくちゃいおとーしゃんはゆっくちちにゃいでしゃっしゃとどっきゃいってにぇ!」 
「ゆぅ……」

そんな情けない番の姿を見てもう一つ、れいむは溜息をつく。 
まったくゆっくりしていないまりさだと見下しきった目でその光景を見ていた。




日も傾き、ゆっくり達の就寝の時間になってきた。 
あの後も、番のまりさを姑もびっくりのねちっこさでいびり倒し、一息ついているとれいむは隣の一家を見た。

この一家の少し離れたダンボールにはもう一つのゆっくりの一家がいるのだ。 
この広い公園を根城にしているゆっくりは多く、広く分布している。 
あまりれいむの家の周辺に住んでいるゆっくりはあまりおらず、必然れいむの目には隣のゆっくり一家がよく目に入った。

その一家は、このれいむから見れば、認めがたいことに非常にゆっくりしていた。 
れいむの言い方からすると、自分よりも一つ下くらいにゆっくりしている、だ。 
自身以上にゆっくりしているゆっくりは存在していない、そう思っているこのれいむから見れば、非常に高い評価であろう。

というか何というか、とてもゆっくりした家庭を持っているように見えると言うべきか。

とても利発的そうで、うるさくもない赤れいむや赤まりさがいる。 
その一家の母親役であろう、れいむの言うことはよく聞いていて、まるで、このゆっくりしていない家族のれいむの妄想がある程度形になったかのような赤ゆっくりである。 
外で遊んでいても、一声かければ、すぐに遊ぶのもやめて親の言う事を聞くところも見た。 
自分の命令を全く聞かない子供たちとは全く別物だとも思った。

そこまで教育するには赤ゆっくり性格の良さも手伝いながら子育ての才能があったのだろう、隣の親れいむ。 
それでもゆっくりだ、大変なこともあっただろう、それでもやってこれたのは子のかわいさか、番との愛情か。 
しかしそんな大変な部分を見ていないれいむはひどく羨ましく理不尽に思えた。

そして今、れいむの餡子脳にキラリと一つの考えが生まれる。



あの子たちは、自分の子ではないか! と



きっとそうに違いない。 
れいむは何の根拠のないそのことを、確信を持って事実と断ずる。

自分の家に住みつくあんな汚らしく馬鹿で何も考えてなさそうなゆっくりが自分の子であるはずがないと。

そう思うと、れいむは腹が立ってきた。 
そうだれいむ常々思っていたのだ。 
今まで疑問に思っていたはずだ。

あんな小汚く我が儘な子供を育てさせられたのだ、餡子脳が煮立つような怒りを感じる。

そうと決まったら自分のかわいい子供を取り返しに行くべきだろう。 
れいむは決断する。

バッとダンボールの家から飛び出ると、丁度そのれいむが一匹外に出ているではないか。


怒りに身を任せ、れいむは叫ぶ。

「でいぶぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」 
「ゆゆゆゆ!?」

叫ばれた隣のれいむは、怒りの形相で詰め寄るれいむに驚く。

「おまえよぐもぉぉぉぉぉぉ!!!」 
「なんなのれびゅぅ!!!」

困惑する隣のれいむに、怒りのままれいむは体当たりをかます。 
そのまま、二匹そろってダンボールから離れる形になった。

「ごのげず! よぐもでいぶのおぢびぢゃんをざらっだぁぁぁぁあっぁ!!!!」 
「やめでね! いだいよ! やべべぇ!!!」

全く身に覚えのない事を言われながら、というかそんな事を聞きとる余裕もなく隣のれいむは一方的に攻撃されていた。 
最初に体当たりをもらったせいだ。 
成すすべもなく攻撃される。

「どぼじでごんなごどずるのぉぉぉぉぉぉ!!!」 
「おまえのぜいだぁぁぁぁあ!!!」 
「なんでぇぇぇっぇぇ!!!!」

隣のれいむは攻撃をされながら酷い理不尽だと感じた。 
当たり前だ、訳も分からずお前のせいだと攻撃されたいるのだ。 
ちらほら言葉の端に子供という単語を聞き取れるが、全く心当たりがない。 
それでも続く理不尽。

遂に隣のれいむは上に乗られる。 
マウントポジションだ。

「ゆっ…… ゆっ、ゆっゆっ」

理不尽な暴力に涙しながら、口からは吐きたくもない餡子が出てこようとしている。

「あやまれぇぇぇぇ!!」 
「ど、どぼじで……」 
「ゆがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

謝らない隣のれいむにれいむの怒りのボルテージはウナギ登りだ。 
その怒りをぶつけるように隣のれいむの上を跳びはねる。

「ゆ、ゆびゅびゅっ!」

れいむが隣のれいむの上を跳びはねるごとに口から出る餡子の量が増える。 
それを必死に止めようと口を結ぶが、全く意味をなしていない、れいむが跳ねるたびに口の端から行き場を失った餡子が勢いよく飛び出てきている。 
訳の分からないまま、これ以上は命の危機を感じ隣のれいむは謝った。

「ご、ごめんなざいぃぃぃぃい!! れいぶがわるがっだでずぅぅぅぅぅ!!!」

中身の無い謝罪。 
ただ必死の命だけを助けてもらいたいと言うだけだ。 
まあ、謝罪を要求する方の言い分も中身もなく主張も意味不明である、それでもいいかもしれない。 
そして、こんな謝罪にもれいむは満足する。

「ゆふー、ゆふー、ようやくつみをみとめたね! まったくとんだげすだよ!」 
「ゆ、ゆぐっ、ゆっゆっゆっ」

隣のれいむは全く身に覚えのない罪を突き付けられ、その罪を認め、涙を流すしかなった。 
あまりの理不尽だ、ゆっくりできない、だがここさえ乗り切ればきっともう何もしてこないだろうと。 
そう隣のれいむは自分に言い聞かせる。 
たった一つの希望を見出し、それに縋る。 
だが

「だから、そんなげすはれいむがせいっさいっするよ!」 
「ゆ゛え゛ぇぇえ゛え゛ぇぇぇ!!!!!!!」

そんな事はありえない。 
相手はゲスでゆっくりだ。

「ぞ、ぞんなのっでないよぉぉぉぉ!! どぼじで、どぼじでぇぇぇぇぇぇ!!!!」 
「ゆふん! げすのことばにみみをかすれいむじゃないよ! きよくただしくてごめんねー!」 
「ま゛、ま゛り゛」

最後に呟いたのは隣のれいむの番のまりさのことか。 
ブチュッと、潰れる音と共に、隣のれいむはモノ言わぬ潰れ饅頭と化した。

「ゆー、いいことをしたあとはきぶんがすがすがしいね!」

隣のれいむの死骸をしり目に、れいむは自分の行ったおぞましい行動に何一つ疑問に思わない。 
自身が正義であることを疑わないのだ。

「ゆふふ、まっててね、おちびちゃんたち、かわいくてかんっぺきにゆっくりしてるれいむがむかえにいくよ!」

そう言いながら、その場から立ち去った。



隣のれいむを殺害したところからすぐそこ。 
れいむは隣のれいむの家までやってきた。

「ゆっ! れいむのかわいいおちびちゃんたち! むかえにきたよ!」

馬鹿面を引っ提げて、やってきたれいむ。 
それを見る隣のゆっくり一家のまなざしは、一様に不思議なものを見る様だった。

「ゆ? なんなんだぜ、れいむ、むかえにきたってどういうことだぜ」 
「ゆっ! そうだよ! あのげすをせいっさいしてほんもののおかあさんがかえってきたんだよ! これからおちびちゃんたちはれいむがそだてるよ!」 
「げすって、せいっさいって…… なんなんだぜ?」 
「ゆぅにゃんにゃの? ゆっくちできにゃいよ……」

最後に言った赤ゆっくりの言葉が赤ゆっくりの総意でもあった。 
いきなり隣の家のれいむが乗り込んできて、ゲスだの制裁だのゆっくりできないことを言うとともに、実の親は自分だという。

「ゆふん、じゃあいくよおちびちゃんたち」

隣の一家の言うことなんて耳に貸さずれいむは赤ゆっくり達に来るように促す。 
しかし、赤ゆっくり達の言葉はれいむの想像だにしないことであった。

「にゃんでしりゃにゃいおばしゃんのとこりょにいきゃないといけにゃいの?」 
「しょうにゃんだじぇ! しりゃにゃいゆっくちについていっちゃだめにゃんだじぇ!」 
「おきゃーしゃんがいってたんだよ!」

あったのは拒絶の言葉、箸にも棒にも引っかからない。 
それどころか隣に住んでいるにもかかわらず、知らないゆっくり扱いだ、家でグータラとしていて、たまにしか外に出なかったれいむの顔を覚えてすらいない。

「ゆ? どうしてそんなこというの? れいむはれいむだよ、おちびちゃんたちのおかあさんなんだよ」

れいむは困惑した顔だ、想像と違う赤ゆっくり達に戸惑う。 
れいむの頭の中ではこんなことはありえない。 
れいむが欲する子供は、自分の命令に口答えなんてしないですぐに実行する子供だ。

「しりゃにゃいっていってりゅんだじぇぇぇぇぇぇ!! おきゃーしゃーん! どきょにゃんだじぇぇぇぇぇl!!」 
「ぎっ、おがあざんはでいぶだっでいっでるでじょぉぉおおおお!!! ぞんなごどもわがらないげずはでいぶのおぢびぢゃんじゃないよ!!!」

れいむの意の沿わぬ事を叫んだ赤ゆっくりの一匹。 
あにゃるより緩いれいむの堪忍袋の緒はいとも簡単に解け、噴出する。 
その感情のままに、れいむは飛び出す。

ブジュリとれいむの着地と共に、音が聞こえる。

とっさの出来事に反応できず、隣のゆっくり一家は一匹の赤ゆっくりを失った。

「……ゆ、ゆわぁぁぁぁぁぁ!! ばりざのおぢびぢゃんがぁぁぁぁぁぁ!!!!」 
「……お、おにぇーぢゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」 
「……まりちゃのいみょうとぎゃぁぁぁぁ!!!」

「だまれぇぇぇぇぇぇぇ!!!! ごんなのでいぶのおぢびぢゃんじゃないよ!! よぐもだまじだなぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

爆発した感情は未だ収まらず、れいむは叫ぶ。 
おまけに隣の赤ゆっくり達が自分の子供ではないことを騙したとさえ思っているようだ。 
その怒声に隣のまりさ一家は、口を閉ざしてしまった。 
れいむは勢いそのまま、涙を流しながら体をビタンビタンと跳ねさせ不満を叫ぶ。

「どぼじでぜんぶでいぶのおもいどおりにいがないのぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!! 
 ごんなにゆっぐりじでるでいぶがどうぼじでごんなにゆっぐりでぎないごどばっがりおごるのぉぉぉっぉぉぉ!!!! 
 みんながわいいでいぶにじっどじでるんでじょぉおおお!! 
 ごんなのぶごうべいだよぉぉぉぉぉ!!! あんまりだよぉぉぉぉぉ!!! 
 ぼがなんでどうでもいいでじょぉぉぉぉぉ!! でいぶがもっどゆっぐりでぎればごうべいでじょぉぉぉぉっぉ!!! 
 でいぶをもっど、もっどゆっぐりざぜろぉぉおぉお!!! ぜんぜんゆっぐりでぎないんだよぉおぉおぉおぉおお!!!」

世間一般の公平とれいむの中の公平とは、よほどの隔たりがあるようだ。 
叫んだれいむの荒い息だけが、しんと静まった辺りに響いた。

そんな突然叫び出したれいむ、隣のまりさは呆然としながら思わず自分の思いを口にする。

「そ、そんなことは…… ぜんぜん、ゆっくりしてないんだぜ……」

「ゆがぁぁぁぁぁ!!」 
「ゆぶぇ!!」

自分への悪口には異常に敏感なゲスのれいむである、今の状態では見境はない。 
機敏にその言葉を聞き取り、激昂したまま隣のまりさに体当たりをかます。

「ゆっゆっゆっ……」

当たり所が悪かったのか、その一撃で隣のまりさは白目をむき出しに気を失ってしまった。 
冷静に対処できれば、いつも狩りに行っているまりさだ、返り討ちにもできただろう。 
しかし唐突なことの連続に、隣のまりさの餡子脳は殆ど動いていないも同然であった。

「ごのぐぞゆっぐりがぁぁぁ!!」 
「ゆあああああああああああああ!!!」

れいむの隣のまりさへの攻撃は続く。

「だれがゆっぐりじでないんだぁぁぁぁ!!」 
「ぼう、やべっ」

ゆっくりがゆっくりしていないと言われたのだ、それはもう、お前は何で生きているの? と本気で聞かれている様なものであり。 
れいむの存在そのものの否定に他ならなかった。 
通常のゆっくりでさえ怒り狂い、途方もない悲しみにくれるその言葉。 
このれいむがただその言葉を聞いて感情を荒立てるだけにとどまらない。

怒り狂った感情をただ振り回す。

「ごのぐず! まりざだぢはほんどうにずぐえないんだよっぉぉおぉお!」 
「ゆっ…… っぐ……」

先ほどよりも強く荒々しくれいむは隣のまりさに体当たりを繰り返す。 
最初は体当たりの痛みに叫んでいた隣のまりさも徐々にその呻くだけになり、最後にはモノ言わぬただの平べったい饅頭と化した。

「ゆふぅぅぅぅ、ゆふぅぅぅぅ」

未だ怒りを発散しきれないれいむは歯茎をむき出しにもはやゆっくりとも思えない醜い悪鬼の様な表情で荒く息をつく。

「ゆわぁぁぁぁ!!! おどーじゃぁぁぁん!!!!」 
「おどーじゃんぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

その叫びが二匹の赤ゆっくりにとって致命的な叫び声だった。 
もはやれいむは溜まった怒りを晴らすことしか考えていない。

「でいぶのいうことをきかないゆっくりしてないゆっくりはぁぁぁぁ! ゆっくりしないでぇぇぇ! しねぇぇえぇぇぇぇ!!!!」 
「ぶびゅぅ!!」

れいむは怒りをそのままに体当たりを放ち、一匹の赤まりさを潰した。 
赤まりさの口からあにゃるから餡子が吹き出すように飛び出て、ダンボールの壁を汚した。

「れいみゅのおにぇーちゃんぎゃぁぁぁぁあ!! ゆんやぁぁあっぁぁぁ!!!」

無残につぶされた姉妹に、赤れいむは何度目かの悲鳴を上げる。

「どびょちてきょんなきょとしゅりゅにょぉぉぉっぉお!!」

あまりに理不尽な出来事の連続に、赤れいむは訴える。 
誰に言うのではない、ゆっくりは理解不能なことが起こると、思わず口走ることが多々あるのだ。 
しかし、その言葉は現状を好転させるはずがない。

「おまえたちがわるいんだよ!」

相手は理屈も理性もない、ゲスのれいむであることもあるが。 
その言葉には特に意味もないのだから。

「……にゃ、にゃんでにゃんだじぇ、れいみゅがきゃわいいきゃら……?」

赤れいむは悪いと言われ、理由が思いつかない。 
もう現状を理解したくないのか、餡子脳が狂ったのか。 
律儀に悪いと思った部分を答えた。

「でいぶのほうがかわいいよっ!」

そう言うと、れいむは赤れいむを潰した。 
ただ自分の感情を発散させるために。

「ゆふーーーー、まったくゆっくりしてないゆっくりがおおいね! でもれいむまけないよ!」

そうぬけぬけと言い放つと、壁に飛び散った餡子がこびりつく、ゆっくりから見たら凄惨なダンボールの家から抜け出した。



結局あの赤ゆっくり達は自分の子供ではなかったのだろうと、全てが終わりそう結論づけるれいむ。 
親を親と認めないのはれいむの中では許せることではない。 
相手もそう言っているのだから、こっちからも願い下げだ。

そう思いながら自分の家のダンボールに帰り、れいむは寝た。






日はほぼ完ぺきに登り切ったその日。

「ゆゆ~ん、あさっだよ!」

ゆっくりにしても遅すぎる目覚めである。 
赤れいむも起こされていないため、未だにグースカと寝続け、赤まりさは隅の方で俯いている。 
親まりさは既に狩りに出かけてのだろう、姿は見えない。 
よくある日常だ。

「さあ、おきてねおちびちゃんたち!」

れいむは赤ゆっくり達を起こした始めた。

「ゆ~んまじゃやじゃ~……」 
「あちょたきゅしゃん~……」 
「あみゃあみゃしゃん~」

そう寝ぼけながら起きようとしない3匹。

「ほら、はやくおきないとあさごはんさんたべちゃうよ!」

ダンボールの中には既にまりさがとってきた餌であろう、餌の山がある。 
まりさは朝昼と、ほぼ一日を狩りに費やす、この餌の山も朝の狩りの成果である。

だがれいむにとっては、それはあって当然のモノであり、まりさへの感謝の念は全く無かった。

あさごはんの単語に、3匹は何とか体を起こし始めた。

「ゆぅ~、ごはんしゃんごはんしゃん……」 
「ゆっくちゆっくち……」 
「ゆっ! れいみゅのあみゃあみゃしゃんは? あみゃあみゃしゃんどきょ!?」

1匹は未だに夢の中の出来事を引きずっているようだ。 
その寝言に2匹は反応する、なんせ自分の家族よりも大切な甘いモノの話だ。 
すぐに意識を覚醒させ、存在しない甘いモノを探す。

「ゆゆ! あみゃあみゃしゃん!?」 
「あみゃあみゃしゃん! ほんちょ!」 
「れいみゅのあみゃあみゃじゃんんんん、どぎょぉぉぉぉおぉ! ゆんやぁっぁぁぁぁぁぁ!!!」

3匹は幻の甘いモノをは何処だと騒ぐ。 
寝ぼけていた最後の一匹も完璧に覚醒するが、その場の状況に自分もすぐに参戦し始めた。

「おきゃーしゃん、あみゃあみゃしゃんどきょなにょ! いわにゃいとれいみゅおこりゅよ! ぷきゅー!」 
「しょうだよ! れいみゅにないしょであみゃあみゃしゃんたべたんだにぇ! このげしゅ!」 
「にゃんであみゃあみゃしゃんたべちゃうにょぉぉぉぉぉ!!!」

すでに幻の甘いモノはれいむが食べたことになり、自分に甘いモノを食べさせないなんて、なんてゲスだと3匹は親であるれいむに敵意をむき出しだ。 
それをやられているれいむはもう、目を見開き今にも零れ落ちそうである。 
額にはビキビキと青筋がメロンのように張り巡らされ、今にも飛び出しかねないほどその姿勢は前傾だ。 
残った理性を総動員し、なんとか止まっている。

そして怒りを発散させるためには何と言っても、一匹の赤まりさだ。

「まりざぁぁっぁぁぁぁぁ!! ぞどにごい!! いまずぐだ!!!」 
「ゆ、ゆぴ!」

いつも以上の迫力に赤まりさはしーしーを漏らしてしまったほどだ。 
れいむは今すぐここで殺しかねない勢いで外に出る。 
赤まりさはただ恐怖に身を任せて着いてった。

「ゆぴゅぴゅ! げしゅにきゃったよ! れいみゅのぷきゅーはさいきょうだにぇ!」 
「まっちゃくだよ! げしゅはゆっくちしてにゃいにぇ!」 
「そうだにぇ! ゆゆ! にゃんだきゃおにゃかしゅいたよ! ごはんしゃんたべりゅよ!」

そして3匹は当初の目的を忘れてれいむを追い出したことにゆっくりする。 
それもすぐに忘れ、まだ朝ご飯を食べていなかったための空腹を思い出したようだ。

「れいみゅがたべりゅよ! ゆっくちたべりゅよ!」 
「むーちゃむーちゃちあわしぇー!」 
「くっちゃくっちゃちあわちぇぇぇぇぇ!!」








「ぐぞぉぉぉぉっぉっぉ!!! なんでっ! でいぶがっ! あまあまざんだべだごどになっでるのぉおおおぉお!!!」 
「ゆびぃ!」

れいむは振り上げたもみあげを赤まりさに叩きつける。 
脆弱なれいむの一撃だが、赤まりさにとっては驚異の痛みを感じる一撃だ。

「ゆひぃ…… ゆひぃ……」

涙を流しながらそれを耐える赤まりさ。 
れいむは木の棒を銜え、赤まりさに突き刺した。

「ゆべっ、ゆびぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

今回で3匹目の赤まりさ虐めである。 
れいむは、一撃で潰すと気分は一時的すっきりできるが、その潰した少しの時間ということに気付いた。 
何匹も潰すととてもすっきりするが、今はこの赤まりさ一匹だ。 
なら、この赤まりさをじっくりと甚振るしかない。

自分のもみあげで叩いたり、そこらへんで拾った木の棒でぶすぶすと赤まりさを突く、その時の泣き声を聞くことで実にゆっくりできる。 
そのことに気付いた、れいむのいじめは陰湿になっていく。 
しばらくの間、赤まりさはいじめられ続けた。

「ゆふぅゆふぅ、そうだよ、れいむはとってもゆっくりしたゆっくりだよ……」 
「ゆひぃ、ゆひぃぃぃ、ゆぎぃぃぃぃぃぃぃ!! だじゅげ、だじゅげじぇぇぇぇ、おねぇじゃぁぁっぁぁあん!!!! にゃんでだじゅげでぐれにゃにょぉおおおぉ!!」

赤まりさはボロボロと涙を流した、気にせずれいむは木の棒を赤まりさの頭に突き刺す。 
赤まりさは痛みか、頭に棒を突っ込まれていて少し壊れたか、幻覚でも見ているようにいるはずの無い姉に助けを求める。

そしてれいむが今やっていることは、ゆっくりしていないゆっくりへの制裁だ。 
まず帽子を外して、ゆっくりしていないゆっくりという大義名分を得てからの制裁だ。 
だからこの行為は正当性があり、自分は全く潔白。

負け犬の様に泣く赤まりさの様子は実にゆっくりできる。 
ゆっくりできる、ゆっくりしている。 
そう、れいむはゆっくりしている実感が沸くのだ。 
親まりさをねちねちといびっている時もそう思っていた。 
底部の下でブチッと最初に潰した時に心の底からゆっくりできた。 
鳴き声聞いても実にゆっくりできる。

赤れいむたちへの怒りが少しずつ消化されていくようだ。 
最近はいつにもまして生意気になったとれいむが思いながら、赤まりさに突き刺した棒をそのままグリグリと動かしていると。

「だじゅげでよぉぉぉ、おねぇぇぇぇじゃぁぁぁぁ、あっ、あ゛っ、ゆ゛っ!」 
「ゆ?」 
「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ……」

中枢餡を傷つけてしまったようだ。 
しかし、れいむは全く悪びれない、最初からそうするつもりだったからだ。

「ゆゆ~ん、まったくゆっくりしてないゆっくりだったね!」

そう、先ほどまでの怒りに染まった表情はどこへやられいむはすっかりすっきりとした顔をしていた。 
と、そこに拍手が一つなる。

「ゆ?」 
「いや~、お帽子をとってからの虐待、もとい制裁、なかなか頭の回るゆっくりだね~」

拍手のした先には人間がいた。

「ゆっ! そうだよ! ゆっくりしてないゆっくりをせいっさいしてあげたんだよ!」

しかしれいむは物怖じせずその人間に返事をした。 
何処からかわいてくる自信がれいむをまったく怯えさせないのだ。

「ゆっ! れいむがかわいいからってかいゆっくりにするつもりだね! あまあまさんをたくさんくれたらかんがえてあげてもいいよ!」

遂にこの時が来たかと、れいむは自分を飼うようにアピールすることにした。 
もちろん図々しい要求も忘れない。

「はっはっは、いやいや、可愛いれいむにはもっといい飼い主に巡り合えると思うよ ……多分」 
「……そうだね! びんぼうくさいじじいになんてやっぱりかいゆっくりになんてなってあげないよ!」

人間の言葉に反応してれいむは思いとどまる。 
そうだ、世界一ゆっくりしているゆっくりである自分は安売りなんてしないのだ。

「君はおちびちゃんを持っているかな?」 
「ゆっ、もってるよ! れいむのおちびちゃんがたくさんいるよ!」 
「そうかい、良ければ僕に見せてくれないかな?」

れいむは考える、相手は人間であり、見せるのは自分の子供だ。 
そして、ピンと考えつく。

「いいよっ! れいむのおちびちゃんたちをみせてあげるよ!」 
「ああ、ありがとう」

人間はそんなれいむを見ながら薄く笑った。




「ゆっ! れいむのかわいいおちびちゃんたちだよ!」

れいむはそう言って、子供たちを見せる。

「ゆゆっ! くしょじじいがれいみゅをみてりゅよ! きゃわいくてぎょめんねぇ~!」 
「ゆぷぷ、ゆっくちちてにゃいくしょじじいだにぇ! れいみゅのこうきにゃあにゃるしゃんをにゃめたらゆっくちしゃせてあげるよ!」 
「あみゃあみゃしゃんちょうだいにぇ! たくしゃんでいいよ! とってみょたくしゃんでいいよ!」

相変わらずの屑っぷりを人間に見せつけるれいむの子供達。

「はっはっは、いやはや、これはまた随分と」

流石に苦笑いをせざるおえない人間。 
ここまでふてぶてしくなれるかと聞かれたら、野良では中々なれないだろう。

「ゆふん、れいむのかわいいおちびちゃんをみせてあげたんだから、あまあまさんちょうだいね! たくさんでいいよ!」

れいむはここぞとばかりに人間に甘いものをねだった。 
とってもゆっくりしている自分、そして、自分に少し似た子供。 
これを掛け合わせれば、なんとゆっくりしているだろうか! 人間も甘いものを献上せざるおえない!

とれいむは先ほど考えたことを実行しているのだ。 
しかしながら生ゴミに生ゴミを足してもゴミの量が増えるだけである。

「ははは、いやー、ははは」

そんなれいむの思考が手に取るようにわかるのか、人間は笑うしかない。 
と、その時。

「ゆっゆっ! きょうもゆっくりかりにいってきたんだぜ!」

まりさが帰ってきた。 
今回も狩りは順調に言ったのか、帽子はパンパンである。

「ゆ?」

そして、自分の家の前に立つ人間に気付いたのか、硬直する。 
そのままわなわなと震えだし。

「に、にんげんさんだぁぁっぁぁぁ!!!」

そう叫んだ。 
狩りに行っているまりさにとって、人間は見つかったらもう大変な存在だ。 
今まで影で何とか人目をかいくぐってきたまりさにとって、死が家の前に突っ立っている様な物で。

「いや、そう警戒しないでくれ」

しかし思った以上に人間は穏やかな態度をしてきた。

「ぁぁぁぁぁぁ……!! ゆ?」

その対応に、まりさは困惑した。 
有無も言わさず潰されると思ったが違うのである。

そして、その反応にれいむ達は嘲笑った。

「ぷっ、ゆぷぷ、こんなくそじじいなんかにあんなにおびえて、まったくまりさはぐずのだめだめだね!」 
「げらげらげら、まっちゃくゆっくちちてにゃいおとーしゃんだにぇ!」 
「ぐずでよわよわだにぇ!」 
「おにゃかしゅいたよ! しゃっしゃとたべものしゃんちょうだいね!」

この親にして、この子ありだろう。 
まったくのマイペースである。

「ゆ、ゆぅ、そんなこといわないでほしいんだぜ……」

まりさはそんなれいむ達にゆっくりできない気分を味わいながら、たしなめる。 
れいむ達も無事だし、どうにかなるのではないかと思い始める。

「に、にんげんさん、いったいなんなんだぜ?」

何もしてこない人間にまりさは少しばかり警戒を緩めながら聞いてみることにした。

「ん、いやー、れいむが面白いことをしてたから、どんな家族なのかなーと思ってね」

人間は面白いことが何かとは言わない、興味が出たと言うのは本当なのだ。 
そして、やはりれいむの番であるまりさも人間の予想通りのゆっくりであった。

度合いの差があると言え、中々のテンプレ一家だ。

「おもしろいこと、だぜ?」 
「ああ、まあ、気にしなくていい」

人間は、穏やかな口調なままである。

「ところで、れいむ達はゆっくりしているな」 
「ゆっ、そうだよ! そんなあたりまえのこといわないでね! あまあまさんちょうだいね!」 
「しょうだよ! だきゃらあみゃあみゃしゃんちょうだいね!」 
「あみゃあみゃしゃん! あみゃあみゃしゃん!!」

そんなお世辞にれいむ達は喜ぶ。

「そうだな、じゃあ、ゆっくりしてるならもっとゆっくりをアピールすればたくさん甘いモノがもらえるんじゃないか?」

と、人間は提案する。

「ゆっ……」

れいむは無い頭をフル回転させ考える。 
自分のゆっくりをアピールすれば、ゆっくりはおろか人間だってメロメロにさせてあまあまやお家を献上しはじめるに違いない。 
と、成功しないアイディアを思いつく。

「そ、そんなむりなん」 
「いいよ!」

今まで狩りをしてきて、人間になにかを要求して潰されたゆっくりを何度も見てきた。 
慌ててまりさは無理だと言おうとしたが、遮られる。

しかしまりさは流石に絶対に無理だとわかっているので食いつく。

「れいむ、むりだぜ! だれもなにもくれないんだぜ!」 
「ゆぷぷ、まりさはゆっくりしてないからだね! れいむがたくっさんあまあまさんをとってめのまえでたべてあげるからだいじょうぶだよ!!」 
「ゆっくちちてにゃいおとーしゃんきゃわいしょうだにぇ、れいみゅのあにゃるしゃんにゃめたらきゃんぎゃえてあぎぇりゅよ!」 
「おお、きゃわいしょうきゃわいしょう、あみゃあみゃしゃんたべりゃれにゃいにゃんてにゃんてきゃわいしょうだにぇ」 
「れいみゅたちぎゃあみゃあみゃしゃんむーちゃむーちゃしゅるときょろをみちぇちぇいいよ!」

それでも自信過剰な4匹は全く持って取り合わない。 
まりさが無理だと言っているのは、ゆっくりしてないから相手にされないと思っているからだ。

「そ、そんな……」

まりさは言葉が全く聞きいられないことに呆然とする。

「さあ、話がまとまったのなら、今から行ってみようじゃないか」 
「ゆっ、そうだね!」 
「「「ゆっくちいくよ!」」」

れいむ達が行くと決まった。 
まりさはそんなれいむ達のあとを沈んだ表情で付いて行くのだった。




「ところでれいむ達、ここは一斉に行かないで、一匹ずつ行かないか?」 
「ゆゆ? どうして?」 
「そりゃ、みんなで行ったら分け前が減るだろ、ここはもらったモノはキチンと本ゆんだけのモノにするんだ」 
「……そうだね! みんなわかったね!」 
「「「ゆっくちりきゃいしちゃよ!」」」

分け前が減る。 
れいむ達にとって、甘いモノは家族を殺してでも食べたいものだ。 
それが分けられるなんて知ったらとても了承できない。 
自分が一番ゆっくりしていると、思い込んでいるとれいむ達は、自分のおかげで甘いモノを得られると思っているためだ。 
そんなとらぬ狸の皮算用をしているうちに、一匹のゆっくりが見つかった。 
ゆっくりまりさだ。 
狩りの帰りなのか、その顔には疲れがにじんでいる。

「ゆゆっ、れいみゅがいきゅよ!」

と、赤れいむが名乗りを上げた。 
奴隷であるまりさにたかれば簡単に手に入るという、浅い考えからだ。 
そもそもまりさが甘いモノを持っていないという考えがないのが不思議である。



「ゆゆっ、しょこのまりちゃ!」 
「ゆっ、なんなんだぜ?」

狩りの途中にいきなり現れた赤れいむにまりさは何だと思う。

「ゆっくちちてりゅれいみゅをみていいきゃら、あみゃあみゃしゃんちょうだいにぇ!」

そういきなり言ってきた。

「……ゆ?」

そんな発言にまりさは体を横に傾ける。 
同じゆっくりにすら、理解しがたい言葉だったようだ。

「ゆゆっ、あみゃりにゆっくちちてりゅれいみゅをみちぇおどりょいてりゅんだにぇ! ゆっ! れいみゅのしぇくしーだんしゅをみてたくしゃんあみゃあみゃしゃんをよういしてにぇ!」

そう言うと、赤れいむはダンスと称して、気色の悪い動きをし始めた。 
ウゴウゴというべきか、ブリブリというか。 
とにかく人間としては生理的嫌悪感を与える動作である。

「ゆぅ、べつにそんなものをみてもまりさはゆっくりできないんだぜ」

まりさはようやく正気に戻ったようで、れいむの不気味な踊りについての感想を言った。

「はぁぁぁっぁ!! にゃいいってりゅにょぉぉおぉ!!! こにょとってみょゆっくちちたれいみゅのしぇくしーだんしゅだよ!」

一応ゆっくりということか、踊りに関しては気持ち悪いでも何でもなく特に感想は無いようだ。

「しょんにゃこというゆっくちはげしゅだにぇ! おお、おろきゃおろきゃ」 
「……ゆ?」

いきなり会った赤れいむに、ゲス扱いされる。 
適当にあしらおうと思っていたまりさだが、ゲス扱いはゆっくりに対してはかなりの侮蔑の言葉なのだ、黙ってはいられない。

「おちびだから、むししてあげようとおもったけど、げすあつかいされたらはなしはべつなんだぜ、おやもいないみたいだからまりさがきょうっいくをしてあげるんだぜ!」

そう言って、まりさは帽子から木の棒を取り出した。 
それを見ても、赤れいむはそれを鼻で笑う。

「ゆふん、どりぇいのまりちゃがいくりゃぶきしゃんをもってもこわくにゃいよ! ゆぷぷ~、どりぇいはどりぇいりゃしく、しゃっしゃとあみゃあみゃしゃんをもっちぇきてにぇ!」 
「きょうっいくてきしどう!」

まりさは叫びながら、赤れいむをおさげでぶったたいた。 
ぶったたくと言っても、所詮はゆっくりの力、赤れいむを転がす程度である。 
しかし、痛みに敏感な赤ゆの時期と、今まで痛みとは全く無縁だった赤れいむにとって、その衝撃は計り知れないものであった。 
更には今の今まで奴隷扱いしていたまりさ種による反撃は、赤れいむに絶大な精神的なショックを与えた。

「ゆ、ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁl!!! いじゃいぃぃぃぃい!!! どぼぢでごんにゃぎょどじゅるにょぉぉおおぉl!!!!」

あまりの痛みと精神的ショックで赤れいむはその場でゴロゴロと転がりまわる。 
自分が殴られて痛い、更に奴隷であるはずのまりさ種が逆らってきた。 
赤れいむの中のあり得ないことが幾つも起り、赤れいむは大混乱だ。

「ゆあ~ん、おさげでたたかれたこともないみたいなんだぜ、おちびってのはなんどもたたかれてりかいしていくんだぜ、ゆっくりりかいするんだぜ」

それがまりさの一家の教育方法だったのだろう、ゆっくりにしては中々過激だ。 
それにしてもと、まりさは思う、銜えた棒はあくまで威嚇のためだったが、本当になんとも思わないことにまりさは驚く。

「こにょくしょどりぇいぃぃぃぃ!! おみゃえにゃんてしんじゃえぇぇぇ!!!」

ボロボロと涙を流し、涎を垂れ流し不細工な面を更に気味悪く不細工にしながら赤れいむは未だに自分が上位者だと思っているようだ。 
だがその姿はあまりの痛みで漏らしたしーしーで水溜りができている。 
その有様は、そこらへんの虫の方がまだ威厳がある。 
その様子を見て、まりさは決意を固めた。

「これはほんっかくてきなきょうっいくがひつようみたいだぜ」

まりさは棒を帽子の中に戻し、おさげを素振りしながら赤れいむに近づく。 
ブンブンとうなりを上げながら、まりさのおさげは勢いを増していく。

「ゆ、ゆええええ、どうぼぢでぇぇえ!! れいみゅがしにぇっていっちゃらしにゅにょがじょうっしきでちょぉおぉぉ!!!」

先ほど叩かれた恐怖が蘇ってきたのか、赤れいむはガタガタと震えだす。 
赤れいむの足元にあった、しーしーの水溜りの範囲が広がっている。

「しねっていわれてしぬやつはいないんだぜっ!」

まりさのおさげが赤れいむの右頬を打つ。

「ゆびゅ!」 
「とりあえずあやまるんだぜ、わるいことをしたらあやまる、じょうっしきなんだぜ」 
「ど、どびょじででいびゅがあやみゃらにゃいどいげにゃいにょぉぉおぉお!!」 
「まだいうのかだぜ!」

赤れいむの左頬におさげが当たる。

「ゆびゃぁぁぁぁ!! だじゅげでぇぇえ!! おぎゃぁぁじゃあぁぁっぁあん!!」 
「うるさいんだぜ!」

更にもう一度、まりさのおさげが唸りを上げる。 
何度も何度も、赤れいむが口答えをするたびに、そのおさげは振るわれた。





ゆっくりでは数え切れないほど叩かれ、地面にはいつくばることになった赤れいむ。

「……ずびばぜん、でぢだ、でいびゅぎゃ、わるぎゃっだ、でじゅ……」

殴られて抜けた歯が数本散らばり、片目の瞼は殴られて腫れている、そして自分のしーしーの水溜りに何度も顔をうちつけ。 
リボンを奪われ、ついに赤れいむは謝った。 
自分は正しいはずなのに、謝る理由も思い浮かばずただ謝った。 
何でこんなゆっくりしていないまりさなんかにと思いながら。 
一片の誠意もなく、ただこの痛みが無くなればいいと思って口にする。

「ゆふー、ゆふー、そうだぜ! あやまればいいんだぜ! えーっと、まあ、いいんだぜ、これでゆるしてやるんだぜ! かえしてやるんだぜ」

まりさ自身、途中から赤れいむを叩くことに熱中してしまったため何故こんなことをしていたかすら忘れてしまったようだ。 
赤れいむのリボンを投げ捨てるように赤れいむに返した。

「ゆっ、そうだぜ、まりさはこれからおうちにかえるんだぜ!」

そして、自分の行動を思い出したのか、今まで引っ叩いていた赤れいむには目もくれず、まりさは何処かへ行ってしまった。 
残されたのはボロボロの赤れいむ。

「ゆっぐゆっぐ……」

赤れいむは泣きながら、自分のしーしーにぬれたリボンをつけ直し、ゆっくりできないまま親達がいるはずの茂みに向かった。 
そして、そこで待っていた親に姉妹に叫ぶ。

「……どぼぢで ……どびょじでだじゅげでぐれにゃがっだにょぉぉぉ!!!」

そんな悲痛の中の赤れいむに迎えられたのは、労わりや謝罪でもなく嘲りと侮蔑だった。

「ゆぴゅぴゅ、くじゅのまりちゃにあやみゃるにゃんてゆっくちちてにゃいれいみゅだにぇ!」 
「まっちゃくあんにゃにゆっくちちてにゃいまりちゃにゃんかにまけりゅなにゃんてばきゃにゃにょ? しにゅにょ?」 
「……まりさなんかにまけちゃうれいむなんて、れいむのおちびちゃんじゃないよ、よそのこだよ」

この一家の共通認識、まりさは奴隷。 
その奴隷に負けてしまい、あまつさえ謝罪なんてしてまった赤れいむはもはや、まりさ以下であり。 
そんなものを家族と思っている親れいむではなかった。

「そ、そんな! れいむ、いくらなんでもひどいんだぜ!」

だが、この一家の最後の良心とも言えるまりさが叫ぶ。

「お、おとうしゃ……」

この時初めて、赤れいむは親まりさを見直そうとした。

「うるさいよ!」 
「だみゃれー!」 
「おくちくちゃいよ!」 
「ゆっ……」

が、すぐに口を閉じてしまった。 
やはりまりさなんて、と都合よく見直そうとしたがやめた赤れいむだった。

「にゃんで…… どぼぢで…… れいみゅ、くじゅのまりちゃにいじめりゃれたんじゃよ……」

ボロボロになった体と、ズタズタにされたプライドを癒してくれるはずの家族はいなかった。 
呆然とする赤れいむ、その隙に親れいむは赤れいむのリボンを奪った。

「ゆっ!! かえしてにぇ!! かえしてにぇ!! れいみゅのおりぼんしゃんとりゃないでにぇ!! ゆっくちできにゃいよ!!」

呆然としていたのも束の間、自分の命に等しいリボンを奪われた赤れいむは火が付いたように騒ぎ始めた。 
そして、親れいむは赤れいむのリボンを目の前でビリビリと引き裂いた。

「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、でい゛びゅの゛ゆ゛っぐぢぢだお゛り゛ぼん゛じゃん゛がぁぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 
「れ、れいむ!」

たまらず、まりさが止めようとする。

「うるさいよ! ぐずのまりさなんかにあやまったゆっくりは、ぐずいかのゆっくりなんだよ!」

やはり、一睨みでまりさは沈黙してしまう。

「ゆゆっ! こんにゃとこりょにおきゃざりしゃんがにゃいゆっくちちてにゃいゆっくちがいりゅよ!」 
「ゆっくちちてにゃいゆっくちはせいっしゃいしゅるよ!」

そして、赤れいむ達がいいおもちゃを見つけたと言わんばかりにリボンを失った赤れいむににじり寄る。 
やはりこの赤れいむ達、親れいむの腐りきった餡子をしっかりと受け継いでいる。

「そうだね、おかざりのないゆっくりなんてゆっくりできないよ! だからせいっさいしようね!」

大本の親れいむはもうノリノリだ。 
適当な場所から木の棒を拾い口に銜えた。

「にゃんでぇぇぇぇ!! やめちぇよぉっぉぉぉ!! れいみゅはれいみゅにゃんだよぉぉおぉぉ!! ゆっくちちてりゅんだよぉおぉぉぉ!!!」

そんな家族にリボンを失った赤れいむは必死に止めてくれと叫ぶ。

「うるさいよ!」

親れいむは口に銜えた木の棒で、リボンを失った赤れいむの口の中を突き刺した。

「じゃぎぇびぇえぇぇぇええ!!」

舌ごと突き刺したため、もはやまともな発音もできない。

「ゆぁ~ん、にゃにいってりゅかわきゃらにゃいよ! そんにゃゆっくちはきょうだよ!」

親れいむに習って、木の棒を銜えた赤れいむは続くように木の棒をリボンを失った赤れいむにつきたてる。

「あぎゃぁぁぁぁあああああああ!!!」 
「ぷーすぷーす、ゆぷぷ、ゆっくちちてにゃいおきょえだにぇ!」 
「こうきにゃれいみゅにせいっしゃいされりゅことにきゃんしゃしてにぇ!」

何度も何度も、頬に、尻に木の棒を突きたてる赤れいむ達。 
涙が、涎が、しーしーがあまりの痛みに垂れ流し、刺された場所からはゆっくりの命である餡子がこぼれている。 
先ほどの打撃の痛みではない、刺されると言う体に異物が入ってきて体の中の痛覚を端から引き出していくような激痛。 
親れいむは突き刺していた木の棒を引き抜く。 
それもまた、ひどい痛みが伴った。

「ゆぎゃあぁぁぁぁあ!!」 
「ゆふん、まったくゆっくりしてないゆっくりだね! おやのかおがみてみたいよ!」

見事に自分のことなのだが、もはや親れいむはリボンを失った赤れいむの親ではないという認識である。 
餡子の繋がりは断たれないのだが。 
木の棒を抜かれ、それでも執拗に赤れいむに木の棒を突きたてられるリボンを失った赤れいむ。 
ついに、自分の命が危ういと悟った。

「ご、ごひぇんひゃひゃぃぃぃぃ!! でいひゅぎゃわひゅひゃったでひゅぅぅぅぅ!!」

木の棒で貫かれまともに動かない舌で必死に命乞いをした。 
今しがた、まりさに教育されたことがいかされたのだ。

「ゆぷぷ、なにいってるのかわからないよ!」

だが無意味だ。

「ひ、ひゃんで…… どひょひて……」

家族に家族であることを否定され。 
奴隷以下だと蔑まれ、貶められ。 
全ては、まりさ達やってきた様な事だ、それが返ってきただけである。

「ゆっ! じゃあゆっくりしてないゆっくりはゆっくりしないで、さっさとしんでね!」 
「ひゅびゃぁぁあぁぁぁぁあああ!!!」

れいむはリボンを失った赤れいむの上に乗り力を込めるとブチュリと汚らしい音をたてて、リボンを失ったれいむは潰れた。

「ゆふん、まったくゆっくりできないゆっくりだったよ!」 
「しょうだね!」 
「ゆっくちちてにゃいゆっくちをしぇいっしゃいしてあげちゃよ!」

れいむ達は同じれいむ種が、奴隷であるまりさに負けてしまったと言うゆっくりできない事実を負けたリボンを失った赤れいむを殺すことによって無かったことにし、苛め殺してゆっくりするのであった。

「れいむっ! どうしてこんなことするんだぜ!」 
「ゆっ? れいむはゆっくりできないゆっくりをせいっさいしただけだよ?」

まるで何も悪いことはしたことがないと言わんばかりの表情である。 
リボンを失った赤れいむを潰したことによって、ある程度ゆっくりしているため親れいむである。

「おちびをころしちゃったんだぜ!」 
「ゆゆっ! あんなのれいむのおちびちゃんじゃないよ、ばかなこといわないでね」

しかし、口答えをする親まりさに徐々にその表情はイライラしたモノになっていく。 
と、そこで人間が声をかける。

「さあ、そろそろ次に行かないか? 甘いモノを貰いにさ」 
「ゆっ! そうだね! あまあまさんがれいむのことをまってるよ!!」 
「「あみゃあみゃしゃん! あみゃあみゃしゃん!!」」

もうリボンを失った赤れいむのことなぞ忘却の彼方においやり、れいむ達はまだ見ぬ甘いモノに思いをはせる。 
親まりさは危害を与えてこないとはいえ、恐ろしい人間に言いたいことを遮られこれ以上何も言えない。




そんなれいむ達が次に見つけたのはゆっくりゆうかと男だった。 
飼いゆっくりとその飼い主の関係なのだろう、日当たりの良い場所で、一匹と一人が日向ぼっこをしている、その様子はとてもゆっくりしている。

そんな一匹と一人に目をつけたのはまた赤れいむだ。

「ゆゆっ! れいみゅがいきゅよ!」

そう勢いよく飛び出た。 
勢いそのままピョンピョンと跳びはね、ゆうかと男に近づく赤れいむ。

「おいくしょにんぎぇんとくしょゆうきゃ、れいみゅにあみゃあみゃをよこしぇ!!」

といきなり赤れいむはそう言った。

「……あら?」

ゆうかは目を開け、やってきた闖入者に目を向ける。

「なにかようかしら?」

飼い主である男も赤れいむには気付いていたが、対応は全てゆうかに任せきるつもりなのか口を出す様子はなかった。

「ゆぴゅぴゅ、こうきなにゃれいみゅのおこえぎゃききょえにゃきゃったの? ばきゃにゃの? しにゅの?」

そう、ゆうかに言う赤れいむ。 
ゆうかを馬鹿にしたように、見下した態度と言葉である。

「……あら、そう」

スッとゆうかの紅い目が細まった。 
と、次の瞬間赤れいむには知覚出来ない速さで赤れいむの背後に回り込み、体当たりをした。

「……ゆ? ゆ、ゆぎゃぁぁぁぁぁ!! いじゃいぃぃぃぃ!!」

突然の痛みに赤れいむは、泣き叫ぶ。

「ふふ、野良ゆっくりのようだし、今日はあなたでいいわ」 
「ゆぴっ……!」

嗜虐心に満ちた紅い瞳は爛々と輝き、赤れいむは不思議と泣き叫ぶのも忘れ、奇妙な寒気を覚えた。 
赤れいむも無意識の中ではゆっくりゆうかというモノは強いという意識はあった。 
だが、それは醜いほどに肥大化した自分は上位者という意識が、簡単に蹴り飛ばしてしまった。

自分がゆうかよりも強いと思うほどに。

ゆっくりゆうかとは、捕食種に位置される場合もあるゆっくりである。 
ゆっくりを食べることに禁忌感を持たず、ゆっくりを殺すことに躊躇しない。 
そういった側面もあるが、基本的に通常種のゆっくりとは違い高い知性を持つため、高い基礎能力はむやみに使われない。 
しかしそれらは、希少種と呼ばれる種類にはあまり珍しくないものである。

ゆっくりゆうかの特徴の一つして嗜虐心が高いと言う事がある。 
つまり、Sだ。

痛みで泣き叫ぶ様が好きだし。 
無様に謝る姿を嘲笑ってやるのが大好きだ。 
そう、このゆうかは赤れいむを標的にしたのだ。

「いつまではいつくばっているの? まさか一回であやまったりしないわよね」 
「ゆ、ゆぎゅ、せきゃいいちゆっくちちてりゅれいみゅがそんにゃことしゅるわけにゃいでしょぉぉぉおぉ!! ぷきゅーーー!!!」

一世一代のぷくーに、赤れいむは決まったと、会心の表情をふくれっ面で浮かべる。

「ふふ、それでいいのよ」

ゆうかは残虐に笑みを歪ませる。 
赤れいむはその笑みにゆっくりできないモノを感じる。 
だが今更ぷくーをやめることはできない。

「それにしても、それ、うっとうしいわね……」

そうして、ゆうかが目をつけたのは、ピコピコと赤れいむの感情に反応するように動く赤れいむのもみあげだ。 
今は、ぷくーという、ゆっくりの威嚇の様なモノをしながら、力を込めているようでピンと張っている。

「先にそれ取っちゃいましょう」

そう言って、ゆうかは赤れいむのもみあげを銜えた。

「ゆ?」

赤れいむは不思議そうな顔でそれを見つめる。 
が、徐々に力が加えられていき、もみあげの付け根に痛みを感じた。 
流石にそこまで来れば、何をされるのか気付いたのだろう、赤れいむが騒ぎ始めた。

「ぷひゅるる~、や、やめちぇにぇ! れいみゅのしゅてきなぴこぴこしゃんをとりゃにゃいでにぇ!!」

ゆうかは赤れいむの必死の懇願に笑みを深める。 
暴れもするが、所詮は赤ゆっくりと成体ゆっくり、おまけに通常種と希少種という能力の差が赤れいむの抵抗を全く意味を成さない。 
じりじりと力を込められ、遂にブチブチと髪が引き千切れる音が聞こえ始めた。

「やめじぇぇぇぇぇぇえ!! れいみゅのびごびごじゃんにゅがにゃいじぇぇぇぇぇぇ!! いぎぃぃいぃぃいぃぃ!!!」

ブチッと言う音と共に、赤れいむのもみあげが取れた、わざとゆっくり抜いたため、根元から抜けたのである。 
先ほどまで勢いよく動いていたのが嘘のように、そのもみあげはピクリとも動かない。

「あら、気色が悪いのが取れちゃったわ」

ワザとらしく言いながら、ゆうかは口の中のもみあげを見せつける。

「れ、れいみゅのびごびごじゃんはぎじょぐわりゅぎゃぁぁぁぁぁ!!! ゆびゅ!」

うるさい赤れいむを軽くごつき黙らせると、赤れいむのもみあげを地面に吐き捨て、すかさず赤れいむの残ったもみあげを引きちぎった。

「いぎぃぃぃぃぃ!!!」

赤れいむの残ったもみあげからブチリと音が鳴る。 
ゆうかはそのもみあげも最初に吐き捨てたもみあげの場所に吐き捨てた。

痛みでしばらく騒いでいた赤れいむだが、ようやく痛みが無くなったのか涙をためた目を吐き捨てられたもみあげに向ける。 
大切なもみあげが両方とも失ったと言う事実を、改めて見てしまった赤れいむの目からボロボロと涙がこぼれる。 
赤れいむは、その吐き捨てられたもみあげに近づいた。

「ゆっ、ゆっ…… れ、れいみゅのしゅてきできゃわいいぴこぴこしゃん…… ぺーりょぺーりょ、もどっちぇねもどっちぇね……」

赤れいむは必死にぺろぺろともみあげを舐める。 
ゆっくりにとって、舐めるという行動は治療行為でもあるが民間療法ほどの効果しかない、重症には意味がないのだ。 
地面に吐き捨てられたそれを無意味に舐め続けると言う行為はひどく惨めであるが、本ゆんがそのことに気付かないことにはあまり面白いことではない。 
ゆうかは舐め続ける赤れいむを痛みを感じない程度にぶつかる。

「ゆっ、こーろこーろ!」

コロコロと転がる程度に力を押さえた体当たりで、ゆっくりの餡子脳に刻まれた間抜けな条件反射により思わず口走る。 
先ほど、自分の大切なもみあげをちぎられた直後だと言うのに嬉しそうに声を上げて。 
と、転がるのが止まり、自分がいたところに視線を向ける赤れいむ。

「れいみゅのぴこぴこしゃん……」

やはりそこにあるのは、二つの髪の束。 
さっきまでの喜色円満の顔はすぐになりを潜め、悲しげな表情になる。 
のろのろと近づいていくと、急にそのもみあげが視界から消えた。

「ゆっ!」

視界から消えた原因はゆうかがもみあげの上に乗ったからだ。 
ゆうかは、ニコリととてもゆっくりしていそうに微笑む。 
今とてもゆっくりしていない赤れいむは、そのゆっくりした表情が酷く癇に障った。

「くしょゆうきゃぁぁぁぁあ!! きちゃにゃいあんよをれいみゅのしゅてきにゃぴこぴこしゃんからはにゃしぇぇえぇぇええ!!」

そう叫びながら、赤れいむはゆうかに体当たりをする。

「こにょ! こにょ! いちゃかっちゃらしゃっしゃとどいちぇにぇ! ゆっ! ゆっ!」

ポスポスと気の抜けた音がゆうかと赤れいむの体当たりした場所から鳴る。 
何度もその音は鳴るが、ゆうかは微動だにしないし、赤れいむは懲りずに何度も体当たりをした。

「ゆひぃー、ゆひぃー、しゃあどいちぇね!」

疲れたのかゆうかに体当たりを止め、荒い息を吐きながら赤れいむは言う。 
とてもゆっくりとした微笑みがニィと三日月のように変わる。 
そして、その場でグリグリと足元のもみあげを目茶苦茶にするように動いた。 
劣化した餡子脳でも足元のもみあげがどうなってるか想像できたのだろう、赤れいむは騒ぐ。

「ゆゆゆゆゆゆ!! やめちぇにぇ! やめちぇにぇ!」

それでもゆうかはやめない。 
やめないゆうかに、赤れいむは体当たりを更に敢行するが全く効果が見られない。 
しばらくしてゆうかが満足したのか、その場を退くと。

「ゆ、あ、あああ、れいみゅの…… れいみゅのぴこぴこしゃんぎゃ……」

そこにあったのは目茶苦茶になった、赤れいむのもみあげだったもの。 
元々千切れていたものだ、二度と戻らないものであった。 
ゆっくりというのは、舐めれば怪我関連は何でも元通りになると思っている節がある。

しかしそのことに気付かない赤れいむは無意味に、このぐちゃぐちゃになったおさげにも再び舌を伸ばそうとした。

その様子にゆうかの笑みは深くなる。 
いつの間にか銜えた木の棒で赤れいむの舌を串刺しにした。

「??! !!!!」

地面に縫いつけられた赤れいむの舌。 
ゆうかは、別な木の棒を改めて用意する。

「!!!」

その木の棒で自分が突き刺されると思ったのだろう。 
赤れいむは逃げよう様とするが舌から伝わる激痛が辛くて、これ以上身動きができない。

「はへへ……、はへへぇぇぇっぇ!!」

不明瞭な発音で必死に言うが、ゆうかは止まる気配がない。 
ゆうかは木の棒を赤れいむの頬に斜めから刺し込む。

「あぎゃぁあぁぁぁあ!!!」

そのまま刺し込み、地面に到達する事を感じると、ゆうかは木の棒から口を放した。 
その具合を見て満足そうにゆうかは頷き、また木の棒を持ってきた。

「ひ、ひ、ひ……」

再び何をされるのかわかったのだろう、赤れいむは震える。 
言葉は出ない。

ゆうかの笑みは深く、深くなる。

「あと何本ささるかしら…… 一本? 二本? 三本? 四…… なんて言われてもわからないわよね、たくさんね、うん、たーくさんさしてあげるわ」

花でも咲きそうなほどゆっくりしたその笑みは、赤れいむにとって恐怖以外の何物でもなく。 
半狂乱になって赤れいむは叫ぶ。

「ひぎゃぁぁあぁっぁああ!! やへへえぇぇぇぇええ!!!」

これ以上の痛みが、これ以上の辛さがまだあるのかと。 
赤れいむは叫ぶ。 
だが、その叫びは正しく誰にも伝わらない。

その叫びを主に聞くゆうかの聴覚にはとてもいい音にしか聞こえない。





それから。 
赤れいむは生きていた、全身木の棒だらけになって。 
最終的に木の棒が無くなり、ゆうかも満足したのか、そのままゆうかと男は帰ってしまった。

そんな奇怪な現代オブジェの様な赤れいむが一匹残ったその場の近くで笑い声が聞こえる。

「ゆぴゅぴゅ、あにょれいみゅはれいみゅたちのにゃかでいちびゃんゆっくちちてにゃいゆっくち……」 
「げらげらげら! しょせんれいむたちのつらよごしだよ!」

今度は、一応まりさにはやられなかったため同じれいむカテゴリーだ。

しかし目の前で、自身の家族が虐待されている様を見ても、なんとも思わない。 
所詮このれいむ達から見れば、何事も他ゆん事である。 
自分が一番ゆっくりしていればいい、それだけだ。

「お、おちびをたすけにいくんだぜ!」

親まりさが助けに行こうと飛び出そうとする。

「待つんだ、まりさ」 
「ゆ゛っ にんげんさん!」 
「あの怪我じゃ助からない、諦めるんだ ……直すの面倒くさいし」 
「どぼぢでぞんなごどいうのぉおぉぉお!!!」

実際、あの怪我を直すのは骨である。 
傷をアレ以上広げないように慎重に木の棒を外し、ある程度形を整形してからオレンジジュースをかけなければ元には戻らないだろう。 
ただオレンジジュースをかけても、痛覚が強くなり発狂するであろう。

「うるさいなぁ、ほら、もうれいむ達は次行ってるぞ」 
「でも! おぢびが、おぢびがぁぁぁぁぁ!!!」

未練がましく、現代オブジェと化した赤れいむを見るまりさ。 
両目は涙でぬれていて、口は歯ぎしりを起こさんばかりに食い縛られている。 
しかし、人間が止めているせいか動かない、自分の意志と奴隷根性がせめぎ合っているのだ。 
人間は溜息をつく、面倒くさくなったのだ。

「まあ、そこまで言うなら仕方がない、れいむ達は見ているから、そこのれいむはお前がどうにかしろ」 
「ゆっ?」

てっきりこのまま、また目の前で死にゆく子供を見捨てなければならいと思ったまりさだったが、今回はどうにかなりそうだった。 
まあ、結果はまりさ以外にはわかりきっているのだが。

「わ、わかったんだぜ! まりさがおちびちゃんをぜったいになおすんだぜ!」

とにかく、まりさは駆け出した。 
自分のかわいい子供を治す為に。




「まあ、無理だと思うがね」

ゆっくりがどんなに出鱈目な饅頭だからといっても、それはある程度無茶がきくというだけだ。 
餡子が大量に流失するほどの怪我を負わせれば死ぬし。 
酷く辛い思いをさせれば簡単に狂う。

どうせまりさのやることは舐める程度だろう。。 
木の棒でハリネズミの赤れいむを舐める場所と行ったら、よほど舌を伸ばさなければ傷にすら到達しない。 
寧ろ激痛を走らせるだけだろう。

そんなまりさの背中を見送り、人間はれいむ達の方へ足を向けた。






れいむ達は跳ねていた。 
なんせ、甘いモノがもうすぐ自分の口に入るのだ、甘いものに家族以上のゆっくりを見出すれいむ達は探す。 
しかし慌てはしない、何処からか溢れだす自信が自分には必ず甘いモノが手に入ると思ってはばからないからだ。

だが、焦れていはいる。

もうすぐもうすぐと思っていても中々手に入らない。

それにしても襲う相手、全てが甘いモノを持っているとそしてそれを食べられると都合よく思っている辺り流石ゆっくりである。 
いくら探しても見つからない、実際は数分程しか探していないのだが麻薬中毒者よろしくのれいむたちには十分すぎる時間であった。

「うがああああああ! くそじじい! おまえがでいぶにあまあまさんをけんじょうしろぉぉっぉぉっぉおおお!! たくさんでいいよぉぉぉおおお!!」 
「しょうだ! しょうだ!」

そして、その場にいる他者は後をつけていた人間だけだった。

「はぁ」

人間は、呆れたように溜息をつくと辺りを見渡す。 
そして何かを確認するとれいむ達に条件を提示した。

「そうだな、れいむその赤れいむを潰したら考えてやらないこともないな」 
「ゆぴゅゆぴゅ、にゃにいってりゅの? おきゃーしゃんがきゃわいいれいみゅをつぶしゅわけにゃいでちょ! にぇ! おきゃーしゃん!」

赤れいむはへらへらと笑い、自分の身に起こらないと思っているのだろう。 
しかし、親れいむの目は真剣そのものであった。 
まあ、赤れいむも同じ条件を出されたら、一も二もなく甘いモノを選択するはずだ。

「おちびちゃん……」

親れいむは笑みを浮かべながら、赤れいむににじり寄る。

「ゆ? ど、どうしたにょ? おかーしゃん……」

そんな親れいむに、流石に身の危険を感じ取ったのか、声が震える。

「おちびちゃん、れいむのあまあまさんのために…… しんでね!」 
「ゆぇ」

赤れいむは、親の言葉を理解することなく、潰された。

「ゆっ! おちびちゃんをつぶしたよ! ゆっくりしないであまあまさんちょうだね!」

少しの後悔の念もなく、親れいむは甘いモノを要求した。 
家族のことは二の次三の次、甘いモノは家族よりも貴重なのだ。

「ああ、見事に潰してくれたな」 
「ゆっへん!」

なにが誇れることなのだろうか、れいむは胸を張る。 
人間はついでにと聞いてきた。

「他のまりさの子供達はどうしたんだ?」 
「まりさににたおちびちゃんたちもぜんぶつぶしてせいっさいしてあげたよ! ゆっくりしてなかったんだからしょうがないね! でもれいむがじきじきせいっさいしてあげたんだから、かんしゃしてほしいよ!」

ベラベラとまるで自慢でもするかのように、れいむは赤まりさ達を潰したことを語る。

「ほー、どう思うよ、まりさ」 
「あ、あ、あ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

甘いものよりも家族を重きに置くゆっくりもいる。 
通常種では珍しいことにこのまりさがそうであったようだ。 
まりさは今ここで全てを聞いていた。

目の前で救えなかった家族がいた、そして目の前に家族をゴミの様に潰したモノがいた。 
たとえどれだけ虐げられていても、大切な家族であったのだ。 
そして、自分に似た子供たちを制裁したと言う。 
あまつさえ感謝しろと。

まりさの頭の中には怒りしかない。

自分の欲望の為に大切な家族を殺す、そんなことは許せなかった。

「でいぶぅぅぅぅうううう!!」

今までにない鬼気迫る表情でまりさはれいむに近づく。 
その形相は普通のゆっくりならしーしーでも漏らして、怯え立ちすくむも程のモノだろう。

「ゆっ、なんなの? いまかられいむはあまあまさんをもらうんだよ!」

しかし、れいむにとってまりさは奴隷以下だ。 
そんなものがいくら怖い顔をしても、れいむにとって、何の障害もない。

はずだった。

「ゆっぐりじないでじねぇぇぇぇぇぇ!!」

まりさは近づいてきた勢いそのままにれいむに体当たりをしてきた。

「ゆぶぇぇええええ!!」

全くの想定外の出来事。 
れいむは踏ん張りも利かず、まりさの体当たりの勢いをそのまま受け取り吹っ飛び、地面を転がってようやく止まった。

「……ゆ、ゆ、ゆぎゃぁあぁぁああああああ!!! いじゃいぃぃいいいいい!!」

れいむにとってありえない光景だった。 
あの、まりさに、攻撃されたのだ。 
今まで奴隷以下だと、道具だと見下し、嘲笑っていたのだ。 
だと言うのに、なんということが起こっているのだ。

れいむはビタンビタンと体中を跳ねさせ、痛みを散らす。 
しかしそんな事を悠長にやっているほどの時間もなかった。

「でいぶぅうううううう!!!」 
「ゆひぃぃいいいい!!!」

まりさはまた体当たり、ゆっくりにしては尋常ではない速さでれいむに迫ってきた。 
流石に今度は恐怖が身の内から沸き上がる。

そしてまた、れいむは碌に体勢を整えることもできず体当たりを食らった。

「ゆげぇぇぇえええ!! がっ!」

今度は木に当たり、そこまで吹き飛ばずに済んだ。

いや、済んでしまった。

木に当たったことで痛みが増大した。 
おまけに次のまりさの体当たりがもうすぐなのだ。

「ゆひぃぃ、いだぃいだ、がっ!」

痛みにくれる暇もなく、まりさの体当たりがまた決まった。

「や、やべっ」 
「じねぇぇぇえぇえええ!!」

そしてまた次も、次の次も、次の次の次のも。 
まりさの体当たりは終わらなかった。 
木がつっかえとなり、れいむは動くこともできず、最後にはお互い何の声も発さず、ただベチャベチャと何か水っぽいモノがぶつかる音が続いた。







「……ゆっ」

目を覚ました。

「おはよう、まりさ」

人間の声がした、先ほどまでれいむと一緒にいた人間の声だ。 
まりさは視線を声が聞こえた方へ向ける。

「いいモノ見せてもらったよ」

人間は片手にオレンジジュースを持っていた。 
おそらく、それでまりさを回復させたのだろう。

「れぃ……むゎ?」 
「死んだよ」

先ほどまでまりさが気を失うまで体当たりをしていた場所には、まりさのかれいむのか判別が付かないほど餡子が飛び散っていた。 
ゆっくりから見れば凄惨な光景だろう。

今まりさは人間の手で回復させられた。 
れいむが中身がすべてなくなるほど潰れ、それでもまりさは止まらず歯が砕けて、舌が裂けて、目が潰れて、皮が破れても体当たりを続けた。

「れいむが死んで、どうだ今の気持ちは」

まりさの心の中には何も無かった。 
れいむへの怒りも、子供への悲しみも。

「どうせ何も無いだろ、お前はよく頑張ったよ」

慰められた。 
そうだ、まりさは頑張ったのだ、今の今まで、赤まりさのために、赤れいむのために、……れいむのために……。 
まりさの心の中に今までの努力が、ゆん生の記憶が蘇る。 
楽しいことがたくさんあった、辛いことももっとたくさんあった。

「そう、毎日辛い餌探しをして、どうせ子供の世話もして、れいむになんか言われて…… そして……」

一端、間が開く。

「……そして、何も無いな」

言われて気付く。

今のまりさには何も無いことを。 
今までの努力はもう何も無く、楽しい事さえ、辛い事さえ、何も無い。

「しかし、大丈夫だ、次がまだある、また番を見つけよう、また子供をこさえよう、まだまだ、頑張れるだろう? 生きていれば」

まりさの目に希望が宿った。 
そうだ、次があるのだ、生きてさえいれば、まだ。

「そうだ、まりさ」

そうだ、まりさは生き抜く希望を持つ。 
まだ自分は死んでいないんだ、まだ次があるんだ。 
徐々に生きる気力を取り戻すまりさ。

「だから、俺がお前を潰してやるよ」 
「ゅぇ……?」

まだ治りきっていない、口から声が漏れた。

「お前のこれからは、今から無駄になる、努力も希望も夢もな」 
「ぃゃ……」

ガタガタと体が震えだす。 
まりさはこれからなのだ、また新たな一歩がこれから始まるのだ。 
スッとまりさの頭の上に足が乗り、冷たい靴底の感触がまりさの頭に感じる。

ゆっくりと、治りきっていない皮を押す感触がまりさに伝わる。

「ゅ」

治る途中の突っ張った皮がブチリブチリと音をたてて切れて行く。 
裂けた薄皮からは痛々しいほど黒く、甘そうな餡子が流れ出始めた。

まりさの両目から砂糖水の涙が溢れだす。 
溢れる涙が増えるほど、まりさは過去を思い出す、ただ楽しかったあのころを。

「ゅ……!」

痛みがまりさを襲う、それ以上の絶望がまりさを蹂躙する。

これからなのに、これからなのに。 
これから、まりさは新しいゆっくりを番にして、可愛い子供達を産んで、みんなで楽しくむーしゃむーしゃとご飯を食べて、みんなで仲良くすーやすーや寝て、皆で元気におはようの挨拶をして、それでたくさんのご飯を狩ってきて、皆に褒められて。 
たくさんのゆっくりがこれから待っているはずなのに。 
やっと、希望が信じられるようになったのに。

「ゅぁ! こ、ごろざなぃでぇぇえぇぇぇぇぇええええ!!!!」

まりさの治りきっていない喉が裂けるように、最後の断末魔が辺りに響き渡る。 
そして、潰れる音が響くことなく、人間の足元で鳴った。




残ったのものは、夢も希望も未来もない、ただでいぶに使い潰された饅頭だけだった。


【おわり】