「ゆ~ん、ゆゆ~ん」

成体の汚らしい野良ゆっくりのれいむが平日の歩道を歩いていた。 
もちろん平日なので、人気は全くない、血気盛んな虐待鬼意惨達も流石に会社の奴隷や学校の囚人として活動する者も多く。 
たまにすれ違う人達がれいむを見ても、ゴミを見る目つきをするだけで、手出しはしなかった。


そのれいむの後ろにれいむ同様に汚らしい赤ゆっくり達がキャイキャイ騒ぎながら、れいむの後を追う。 
その馬鹿面はまさしくれいむのモノであり、その赤ゆっくり達がれいむの子供だということは言うまでもなかった。

何処で自慢の子供を披露してやろうか。

れいむはそう思い、道を行く。 
平日の真昼間に、こんなことをするゆっくりは少ない。 
大体、番のゆっくりが餌探しに奔走しているくらいなのだが。 
諸事情により、このれいむは番が帰ってこなくなったため。 
仕方がなく、本当に仕方がなく、在るはずのない重い腰を上げたのである。

番がいなくなってしまったれいむ。 
番がいなくなり、稼ぎ頭がいなくなった場合、れいむ種は基本的にとある方向に向かうのである。 
それは、しんぐるまざーという奴だ。

子供を出汁にし、何かとせびり。 
悲劇を装い、何かと騒ぐ。 
子供の為と称して、その実自分のことばかり。

所謂ゲス行為と呼ばれるのだが。 
当のれいむはそんなこと気にしない、それどころがそれが正当だと信じる。

自分は大変だから、自分は可哀そうだから、自分はか弱いから。

だからだからだから。 
それが正当だと言い張る。

そんな権利なんてないのに。 
しんぐるまざーだと。


「はーーーーーっ……」

そこで一人の男が重いため息を吐きながら歩いているのがれいむの視界に入った。 
スーツを着た男だ。 
まだ新品なのか、そのスーツは汚れも擦り切れも見当たらない。 
しかし、その男自体の発するくたびれた様子が、あまりにも大きく、スーツのキリッとした真新しさを打ち消すような陰鬱さだ。

れいむはその男に目をつけた。 
そのゆっくりしていない様を見て、しめしめと思う。 
れいむの頭の中で、餡子脳が穴だらけの自分の良い計画がはじき出す。

れいむの可愛いゆっくりできる子供を見せる、男はゆっくりする、男は泣いて喜びながられいむの奴隷になり、れいむは飼いゆっくりに、しあわせー。

完璧だ、れいむは自画自賛する。 
褒める点が全く見当たらないところが流石としか言いようがない。 
れいむはニタニタと小汚い笑いを浮かべながら、男が来るのを待った、





「おい、そこのにんげん!」 
「あ?」

男はよほど疲れていたのか、れいむの声に反応した。 
その男の目にも力はなく、くまも浮かんでいる、よほどお疲れの様だ。 
そんな様子もお構いなしにれいむたちは声を張り上げる。

「れいむのおちびちゃんをみてゆっくりしていいから、あまあまちょうだいね! そしてれいむのどれいになってね! あとあまあまもちょうだいね!」 
「しょうだよ! たくしゃんでいいよ!」 
「ゆぷぷー! きゃわくってぎょめんにぇ! だからどれいになってもいいんだぜ!!」 
「いましゅぎゅでいいよ!」

あまりにも一方的な言葉。 
二回言ったのは、ボケたのではなく、とても重要だからだ。 
なんて完璧すぎるんだろう、れいむは自分に酔いながら、男の快い返事を待つ。 
しかし、れいむの計画の最大の誤算、ゴミを見て心が和む人間がいるわけがなかった。 
男は疲れた目を更に荒ませる、そんな目で男はれいむに言う。

「……もうちょい、うしろにさがって」 
「ゆ?」 
「「「ゆゆ?」」」 
「ほら、いいから」

何故かよくわからないが、突拍子の出来事に弱いゆっくりである。 
頭に?を浮かべながら、男の言われるがままに後ろに下がる。 
赤ゆっくり達も同様に、後ろに下がる。

「あ、ストップストップ、そのままそのまま」 
「ゆ? ゆん」

ようやく男の気に入る位置についたようだ。 
またそしてまた、れいむたちは騒ぎ始める。

「ゆっ! だからさっさとれいむたちをかいゆっくりにしてね、くそどれい!」 
「まっちゃく! ゆっくちちにゃいでしゃっしゃとしてね!」 
「おお、のろみゃのろみゃ、ゆっくちちてにゃいんだじぇ!」 
「しゃっしゃとしてにぇ!」

男は右手をれいむたちを制するように、れいむたちに突きだし。 
騒いでいるれいむたちを見ないで、遠くを見る。

「あー、もうちょいまって、あと少し、ほんの少し」 
「なんなの! ゆっくりさせてあげないよ!」 
「あー、来る来る、ゆっくりできる感じが来る」 
「ゆぅ?」

訳がわからない。 
れいむ達は本気でそう思う。 
それ故に、ゆっくりらしく特に考えず聞いた。

「いったいなんなの! なにがゆっくりできるの!」 
「えー、今からゆっくりできるっての、オレが、それともわからないの? ゆっくりなのにこのゆっくりできる感じがやってくるのが」 
「ゆ!」

れいむは困惑する。 
ゆっくりであるれいむ達がゆっくりできる感じがやってくることが分からないはずがない、とれいむ達は思う。 
しかし、実際れいむ達には全くそんなもの感じられない。 
それでも、これを認めたら、れいむ達はゆっくりがわからないゆっくり扱いされてしまう。 
そんな事は許されない。 
しかし、わからない。 
浅はかな赤ゆっくり達は、どうすればいいかと思い、思いつく。

「ゅ、ゆぅ、れいみゅわきゃったよ! ゆっくちできりゅきゃんじがきゅるよ!」 
「ま、まりちゃもきゃんじだよ! きゅるよ! きゅるぅぅぅ!!」 
「ゆ? ゆ? ゆ? ゆー、れ、れーみゅもわきゃるよ! ほんちょだよ! うしょちゅいてにゃいよ!!」

嘘をつくことだ。 
赤ゆっくり達が知ったかぶりをする。 
しかしそこは、思い込みの強いゆっくり、さらに赤ゆっくり達である、自分で着いた嘘をすぐに本当だと思いこむ。 
嘘をついて、少しゆっくりできなくなった、だからゆっくりできる方法が本能的に思い浮かぶ。 
見下すことはゆっくりできる、程度の低いゆっくりがよくやるゆっくりする方法を赤ゆっくり達は本能的にやってのけた。 
標的はもちろん、未だ理解していないれいむだ。

「ゆ? おきゃーしゃん、わきゃらないの?」 
「ゆぷぷ、こーんにゃにゆっくちできりゅのがくるにょにわきゃらないにゃんできゃわいしょーなんだじぇ!」 
「ほんとうだにぇ! おおきゃわいしょうきゃわいしょう」

れいむにはまだ分からない、なにが来るのか未だ分からない。 
嘘をつくのはゆっくりできない。 
しかし、馬鹿にされるのはもっとゆっくりできない。 
れいむは良く消化できないまま、嘘をつく。

「わ、わかるにきまってるでしょぉっぉぉぉぉ!!! わかるよ! 
 れいむにもゆっくりできるかんじがくるよぉぉお!!! びっぐうぇーぶさんだよぉぉお!! ゆほぉぉぉぉ!!!」

馬鹿である。 
真なる馬鹿とは、何もわからないことではなく。 
わからないモノを認めない、そしてそのことを改めないモノだろう。

「おー、わかってくれたか、ほら来る来る、もう来るぞ、今来るぞ」 
「ゆ! ゆ! ゆ! ゆ!」 
「ゆっ~~~~!!!」 
「ゆっきゅりできりゅんだじぇ!」 
「ゆぅ~~」

馬鹿は馬鹿らしく、とにかくその場に合わせるべく、テンションを上げるれいむ達。

「来た来た来たー」 
「ゆー!」 
「「「ゆぅーーーー!!!」」」

ゴウと、轟音とともに一陣の風が吹く。 
その風に騒いでいたれいむ達が収まる。 
そして男の声が聞こえる。

「はー、そこそこゆっくりできたわ、じゃな」

そう言うと、男は少しばかり足取りを軽くして、その場から立ち去った。

「???」

最後まで訳が分からない男だったとれいむは思う。 
思わず男の後を追うことすら忘れてしまった。 
消えない疑問をそのままに、れいむはこのわけのわからない感じを打ち消すべく、自分のかわいい子供たちを見ようとする。

「ゆぅ、まったくゆっくりしてないにんげんだね、おち……」

そこに見たモノは。

飛び散った餡子と、そこに残るタイヤの跡、そして、その餡子の上には紛れもない、れいむの子供であった証であるお飾りがポツンと残っていた。






「お゛、お゛、お゛ぢびぢゃぁぁぁあぁぁっぁぁぁぁぁぁあっぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」






そこに残ったのは、しんぐるまざーでも何でもない、ただの動く、ゴミ以下の存在だけだ。



「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛~、ごれじゃ、でいぶゆっぐりでぎないよぉぉぉぉ」

れいむを汚らしく涙を流しながら赤ゆっくり達の死骸に這いよる。

「おぢびぢゃんが、おぢびぢゃんだぢがいないど、でいぶ、でいぶじんぐるまざーじゃなぐなっぢゃうでじょぉぉぉぉ!!」

が、あくまで自分の為であった。 
勝手に死んでしまった自分の子供にれいむは怒りをあらわにする。

「ゆぎぎぎぎぎっ! このげすっ! おやふこう! やくたたず!」

怒鳴るだけでは飽き足らす、れいむは死骸を踏み付ける。 
既にほぼ平面になっている赤ゆっくりの死骸の餡子を撒き散らす。

何度も何度も踏みつけ。

「ゆふー! ゆふー! まったくげすなちびたちだったよ! こんどはもっとゆっくりできるおちびちゃんをうむよ!」

荒い息を吐きながら、最低の決意を口にする。

「ゆふぅ、ちょっとうごいたらつかれちゃったよ! ゆふぅー」

そう一息つき、隣を見ると。

「ゆ゛っ゛」




黒いタイヤが通過した。




最後にそこに残ったのは、シングルマザーでもなくなり、動かない、ゴミ以下以上にカスの様な存在だけだった。





========あとがき============
20作目です。

では、最後まで見ていただけたら幸いです。

大きく振りかぶったあき


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挿絵:○○あき