まりさは常々、この世の中を憂いていた。 
どうして、この世は自分中心に動かないのか。 
どうして、この世は自分の思い通りに動かないのか。

どうして、どうして、どうして。

不満ばかりがまりさの頭に浮かび続けた。


悩んで、悩んで、考えて、考えて。 
自身の餡子脳が沸騰するほど無意味に悩んで、無駄に考えて。

そしてまりさは決意する。 
この現状を打破するために、自分は立ち上がるのだと。 
戦うのだと。



「さいきょーのまりささまがこのよのなかをかえるためにたたかうんだぜ!」


「ゆゆ! ほんとうおとうさん!」 
「おとーしゃんしゅぎょーい!」 
「ゆっくりできるんだぜ!」 
「ゆー! ほんちょー!」

キリッと表情を引き締め、そう宣言した。 
宣言した先には、まりさのかわいいかわいい子供のゆっくりがいる。 
まりさと番であるれいむの子供達だ。 
野良である、このゆっくり一家である、当然の如く汚らしい。

アスファルトが続く、道路のど真ん中でようやくまりさは一家で住処である公園を出た意味を語った。

目的を告げないで、目的を達成する自分カッコいい!  
と思っていたまりさだったが、家族があんまりにもうるさいのと言いたくて言いたくてムズムズしていたためやっぱり言ってしまった。 
結果、子供達には、この壮大な目的を受け入れられ、凄い凄いと言っている。 
子供達はなんか凄そうなこと言ってるから凄いと言っているだけなのだが。 
まりさのほうはそんなこと少しも気にせず無い鼻を伸ばし、天狗になっていた。

そこで一つの声が、まりさを現実に引き戻す。

「まりさっ!」

その声の主は、れいむだ。 
まりさの番であり、当然の如く野良でありそのみすぼらしい姿はまりさとドッコイドッコイである。

まりさはいきなり大声を出したれいむに驚いた。

れいむは、その汚らしい体をわなわなと震わせている。 
その表情は体が俯きがちで、怒っているのか笑っているのか、それとも悲しんでいるのか、どうなっているか伺えない。

「ど、どうしたんだぜ?」

まりさは恐る恐る、れいむに聞く。

「……まりさ……」

低い声でもう一度、れいむはまりさの名前を呟く。 
そのことに、少しビクリと体を震わせた。 
もしかして、怒られるのではないか? そんなことが想像してしまう。 
そして、れいむが顔を上げると、そこには笑顔のれいむがいた。

「さすがれいむのだーりんだよ! よのなかをかえるなんてすごいよ!」 
「ゆゆ! そうだぜ! まりさはすごいんだぜ!」

やはり、馬鹿の番を持ち馬鹿の子を持つ親ゆっくりは馬鹿だったようで、滞りなくまりさの案は通ってしまった。




「まりさ、よのなかをかえるにしても、まずなにをするの?」

と、れいむはまりさに、聞いた。

「ゆ! ゆー……」

流石は餡子脳、何も考えていなかったようだ。

「……とにかく、まりさがさいきょーであることをしらしめるためににんげんさんをぎったんぎったんにするんだぜ!」

無計画の第一歩目で自ら墓穴に突っ込むところはやっぱり流石としか言いようがなかった。 
と、ちょうどよく、そこに暇そうな青年が現れる。

「ゆゆ! このまりささまといまであうなんて、なんてふこうなにんげんさんなんだぜ!」

何処からか、根拠もなく溢れてくる自信がまりさを奮い立たせた。 
もう、まりさに止められるものはいない、青年の目の前へ躍り出る。

「おい、そこのにんげんさん! まりさとしょうぶするんだぜ! ぎったんぎったんにしてあげるんだぜ! さいきょーでごめんね!」

そう言い、まりさは青年にケンカを吹っ掛けた。

「あぁ? ……最強ねぇ」

青年は足を止め訝しげにまりさを見る。 
宣言をし終えて、その余韻に浸る様に表情をキリッとさせるまりさ。 
余韻を味わい終えたのか、まりさはごそごそと帽子の中を漁り始めた。

「ゆー! おとうさん、やっちゃえー!」 
「ゆぷぷ! おちょうしゃんがさいきょーでぎょめんね!」 
「ゆっへっへ! おとうさんがかったら、まりささまのどれいにしてやるんだぜ!」 
「ゆっくちー! おとーしゃんしゅぎょーい!」

子供のゆっくり達から、ヤジが飛ぶ。 
青年がとりあえず手を出さないでいると、ようやくまりさは目当てのモノを取り出したようだ。 
木の棒である。 
太さは割り箸より一回りほど太いほどで、長さはそこまで長くない、所詮はまりさの小さなおつむを覆う帽子に入っていた棒である。

「まあ、いいや、ほらさっさとかかってきな」

青年は特に構えもせず、まりさをまつ。

「ゆふん、ずいぶんとよゆうなんだぜ、だけどすぐにおわらせるんだぜ!」

棒を前歯で銜え、まりさは渾身の一撃を喰らわせるため全身に力を込める。 
目をギュッと閉じ、底部に力を一杯溜め、地面を跳ねた。

「ゆーっ!」

突撃しながら、まりさは一撃で終わってしまった。 
もしかしなくても青年は死んでしまっただろうと、思った。 
そんな幻想を抱いたまま

「っゅげぇぇぇぇ!!!」

まりさの左頬は盛大に蹴られた。 
追いつかない思考、突然蹴られた衝撃に思わず叫び声を上げる。 
それもまた一瞬。 
まりさは息もつく暇もなく地面に激突する。

「ゆげっ!!」

そして、地面を転がり、ピクピクと震え始めたかと思うと。

「ぃ、ぃ、ぃ、い、い、いだぃぃぃぃぃぃいいいいぃぃ!!!」

盛大に痛みを訴えた。 
あまりの痛さに叫びまわる、その痛みを散らす為、恥も外聞もなくその場でゴロゴロと転がりはじめた。

口から止めどなく砂糖水の涎が、目から溢れる砂糖水の涙が、全身から滴る砂糖水の冷や汗が。 
転がりまわれば転がるほどつく埃やゴミが。 
全てがまりさを惨めに演出させた。

「ゆひぃーっ、ゆひぃーっ」

あともう少しダメージが多かったら、まりさはしーしーも漏らしていただろう。 
というか、ちょっぴり漏らしている。 
想像だにしない痛みはまりさに多大なダメージを与えていた。

ようやく痛みが収まってきたときに待っていたのは子供たちからの冷たい視線だった。

「……おとうさんがさいきょーだったのってうそだったの?」 
「うしょちゅきはゆっくちできにゃいよ! ぷきゅーすりゅよ!」 
「おとうさんのうそつきっ! うそつきなんだぜ!」 
「ゆっくちできにゃいよぉぉぉぉ!!」

まりさは常々、自分は最強だと誰にも負けたことはないと子供たちに言っていた。 
まりさは嘘をついていない、一度も勝負したことなんてないのだから、負けなんてありはしない。 
誰も勝負しないのは、相手がいないわけじゃなくて、自分が強くて誰も戦わないだけだと思っていた。 
思い込みの強いゆっくりである、自分の都合の良いことを肯定するのは時間はかからない。 
その結果最強と自称するに至り。

そして、無勝無敗のまりさの最強伝説は砂糖菓子より脆く、あっけなく崩れてしまった。

「ゆ、ゆあぁあっぁ、あ、あれはちょうしがわるかっただけなんだぜ! ほんとなんだぜ! うそじゃないんだぜ!」

まりさは必死に言い訳をする。 
しかし、子供たちの視線は冷たいままだ。 
このままでは愛しいれいむにも嫌われてしまう、そう思った矢先。

「おそらとんでるみたい!」

青年がまりさを持ち上げた。

「まりさ、仮にも最強と言ったんだ、これから頑張れるようにいろいろと指導してやるよ、暇だしな」 
「ゆ?」

まりさは訳も分からないまま、さっきまで銜えていた木の棒を青年に銜えさせられた。 
次にまりさは地面に置かれ、片手で体を押さえつけられる、まりさが動かないようにするための処置だ。 
もう片方の手はまりさに棒を銜えさせたまま棒を握っている。

「さーて、棒の銜え方から既に悪いなー、お前、前歯で銜えるだろ」

たしかにまりさは先ほど前歯で棒を銜えていた。 
今もまた前歯から銜えるだけだ。 
口を閉じ唇である程度固定されたかのように見えるが、これでは固いモノには刺さらない。

「そんなんじゃ虫にだって刺さらないだろ、それに前歯で銜えてたら」

こうなるぞ。 
青年がそう言った瞬間、ビッと何かが引っかかるような音が聞こえた。

「ひゅ?」

まりさの呆けた声が口の隙間から洩れた。

青年の片手には先ほどまでまりさが銜えて全部が見えなかったはずの棒が握られている。 
地面には黄ばんだまりさの砂糖細工の歯が転がっていた。

「ゆ、ゆ、ゆ、ゆぎゃぁぁぁぁっぁあ!! ばりざのくらやみでもひかるしろいはがぁぁぁぁあぁ!!!」

青年がまりさが銜えていた棒を一気に引っ張ったのだ。 
小さいとは言え幾つもの引っかかりがある木の棒である、それを勢いよく引っ張ったことでまりさの歯に幾つも引っかかり。 
上顎の前歯は数本は抜け、下顎の前歯は欠けてしまった。

「いじゃいぃぃぃぃぃ!!!」

まりさは先ほどの様に痛がったが、青年ががっしりとまりさを固定しているためその場から少しも動けない。 
ただ、その場で髪を振り乱し、体液を撒き散らすだけだ。

「おいおい、まだ先は長いぞ」

青年は気にせず続ける、想定の範囲内だ。

「ちゃんと棒を銜えるなら、こうだ」 
「ゆっがが」

青年は棒をまた、まりさの口の中に入れる。 
今度は奥歯から、がっちりと無理やり銜えさせた。

「これでちょっとは固定されたろ」

と、青年が頭から手を放す。

「ゆっぐりやめろぉぉぉぉ! いだいぃぃぃ!!」

すぐにまりさは銜えていた棒を吐きだし、痛さの抗議を始める。

「まだまだ、終わらないからちゃんと銜えてろ」

青年はもう一度、がっちり棒を銜えさせると、思い切り頭を押さえこむ。

「ゆぎぅぅぅ!!」

まりさはまたしても痛みで呻く。 
今度は歯が抜けた痛みで呻いたわけではない。

思い切り頭を押さえたせいだ、そしてそのことで青年の思惑通り木の棒はがっちりとまりさは銜えることになった。 
しかし、それはまりさの限界を超えた咬合力である。 
棒を噛みしめる砂糖細工の歯は軋みを上げ、餡子である歯茎は歯に貫かれる様な痛さを感じる。 
もうどんなことになってもいいから、せめてひたすら暴れてこの痛みを紛らわしたい、そう思うまりさだが青年の力は緩まない。

「俺に体当たりする時に目を瞑っていたな、あれもダメだな」

青年はその手に感じるまりさの健闘ぶりを感じながら説明を続ける。

「戦いって言うのは、相手の目を見るもんだ、まあそれだけじゃ駄目だけどな 
 相手の呼吸を読んだり、相手の行動を予測して隙を見つけたり、そんな時に目なんて瞑ったら逆に隙なっちまう、漫画の受け売りだけどな」

そして、青年はまりさの瞼に指を添える。

「まー、口で言っても分からないお前らだ、忘れてもいいように処置してやろう」

青年はまりさの瞼を摘むと、一息で瞼をちぎり取った。

「っ!っ!っ!っ!!!」

叫べないほどにがっちりと棒を噛んでいるせいで、まりさはただ眼を見開くだけだった。 
目からボロボロと今まで以上に涙が溢れる。

「さてさて、まあ、心得みたいのは分かったな、次はゆっくりとの戦いでも教えてやろう」

青年は、視線をまりさから別なところへ向ける。 
そこには、まりさへの指導を見てだろう、腰を抜かしたと言うべきか、恐怖で震えながら先ほどの場所から一歩も動いていない一家がいた。 
先ほどまでの威勢は何処へ? おそらくだが。 
蹴られた、それだけならまだ偶然だと、頭の緩いゆっくり達は思っていたのだろう。 
しかしどうだろう、歯を抜かれる、瞼を引きちぎられる、圧倒的な力をもってして行われた行為。 
流石のゆっくりでも、コレは偶然でも奇跡が起こったのだの思っている暇もない。 
決定的に、完璧に、完全に、敗北した。

そして、その尋常じゃない痛みを発する様な出来事を目の前に、同じゆっくりの苦痛の叫び声に怖気づいてしまったのだろう。 
子ゆっくりや赤ゆっくりに至ってはおそろしーしーまで垂らす始末である。

「まずは赤ゆっくりだ、こいつは棒を使わなくていい、ただ一息に上に乗ってやればいいだけだ、端に乗っても死なないからな、そらっ!」

そう言って、青年はまりさを二匹の赤ゆっくりの上へ放った。 
バスケットボールほどの成体まりさだ、ピンポン玉程度の赤ゆっくり二匹を容易に潰せる大きさである。 
恐怖で一歩も動けない赤ゆっくり、まりさは重力に引かれる。 
赤ゆっくり達は自分の頭上へやってきたまりさを見つめて、一歩も動けないまままりさは赤ゆっくり達の上へ落ちる。

プチ

そんな音がまりさの底部から聞こえた。

「ゆぃっ……」 
「お、お、おぢびぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

地面に落ちた痛み、本ゆんは分からないが赤ゆっくりを潰した感触に、思わずまりさは呻く。 
れいむは潰された我が子に叫んだ。

悲鳴一つ残さず、まりさは的確に赤ゆっくりを仕留めた。 
底部から、赤ゆっくり達のであったのだろう餡子がじわりと滲み出る。 
銜えた棒を放すことも忘れ、まりさはそのにじみ出る餡子を凝視する。 
れいむはおぢびぢゃんおぢびぢゃんと呟きながら、ずりずりとナメクジの様に這いながら、潰れた赤ゆっくりに近づく。

「よしよしそんな感じで、赤ゆっくりは潰すんだ、ヘタに端を潰すとうるさいしな」

よくできましたと、花丸を書いてやろうと言わんばかりのいい表情を浮かべる。 
まりさは何が何だか分からない、表情をしながら、じわりじわりとまだ滲む底部の餡子見て、その情報を処理しようとしていた。 
次第に、理解していく、自分が何をやったのかを、なにを潰したのかを。

「お、お……」 
「次行ってみよう、子ゆっくりだな」

そう言って、青年はまりさをまた持ち上げる。

「おそらとんでるみたい!」 
「ちゃんと木の棒銜えてろって」 
「ゆぶっ!」

まりさが悲しみにくれる暇もない。 
ゆっくりの条件反射がついつい出してしまった。 
その声には何故か悲壮感はない、自分が子供を潰してしまった現実をまだ呑み込めてないのだろう。

青年はまりさを次の標的である子ゆっくりに狙いを定める。 
二匹いたはずの子ゆっくりだが、子れいむの隣に居た子まりさがいなくなっていた。 
が、人間の足で数歩のところですぐに見つかった。

「そろーりそろーり、あんなうそつきでよわよわなげすおやといっしょになんかいれらないんだぜ! 
 これからまりさはあまあまさんをたくさんむーしゃむーしゃして、びゆっくりをおよめさんにもらって、まりさのおちびともにゆっくりするんだぜ!」

一応見つからないための配慮なのだろう、跳ねていない。 
が、いかんせん、速度がなさすぎである。 
本ゆんは見つかっていないと確信しての行動なのだろうが、滑稽としか言いようがない。 
頭も尻も隠さず見つかっているのだから。

「家族を見捨てるとかゲスだなぁ、ま、まずはこのれいむからいこうか、動かないから丁度いい」

青年はまりさの頭を押さえながら地面に置く。

「まりさ、ゆっくりってのは中枢餡っていうそれを一刺しすれば死ぬっていうゆっくりの急所があるの、わかるだろ」

まりさの対面には、恐怖に震える我が子がいた。 
何をされるかを理解したまりさは、必死に体を動かす。 
逃げてと叫びたかった、しかし、棒を噛みしめて頭を押さえつけられているまりさは声が出せなかった。 
青年に立ち向かいたかった、しかし、今も力の差は一目瞭然、動けなかった。 
しかも、子れいむの目にはまりさは自分の姉妹を殺したゲスにしか映っていない。 
瞼のないまま見開かれ目が、赤ゆっくりを潰して付いた餡子が、銜える棒が、その事を肯定しているようにしか見えない。

「大体真ん中にあるはずだから、そこを狙え」

そう言うと、青年はゆっくりとまりさを子れいむに近づけて行った。 
棒が子れいむの眉間にめり込んでいく。

「ゆ、ゆぎゃぁぁぁぁぁっぁぁ!!!」

恐怖で動けなかった子れいむ。 
しかし、棒がめり込むと痛みで我に返ったようだ。 
その叫び声を聞いてか、圧死した赤ゆっくりを無意味にペーろぺーろと言いながら舐めていたれいむが振り向き、気付く。

「いだぃぃぃぃぃ!!」 
「おぢびぢゃぁぁぁぁぁん!!!!」

子れいむは痛さのあまり、体を動かし棒から逃げだそうとする。 
だが、既に遅い、棒がめり込んだ時点で棒は上の方からめり込んできているのだ、逃げられない。 
体を動かしても、それは子れいむの体を引き裂くことになる。 
痛いことが大嫌いなゆっくりだ、自ら逃れるに自分を傷つけることはない、それが子ゆっくりなら尚更だ。 
ただ、相手に言うだけだ。

「ごれどっでぇぇぇぇぇ!!! やめでぇぇぇぇぇえ!!! でいぶのがわいいおがおざんがぁぁぁぁぁぁ!!」 
「いだがってるよ! やめであげでね!」

汚らしい顔を醜く歪め、子れいむは喚く。 
れいむは必死に抗議の声を上げる。 
しかし、ズブリズブリと少しずつ棒は子れいむにめり込んでいく。

「やめろっでいっでるでじょぉおぉぉぉ!!! どぼじでごんなごどずるのぉぉっぉぉっぉ!!!」 
「ばりざやめでぇぇぇぇぇ!! あんなにいだがっでるんだよぉぉぉぉぉ!!!」

痛がりながら、蠢きながら、憎悪をこめて、子れいむは自分に棒を突きたてるまりさを睨みつけた。 
れいむは、まりさをただ非難する。 
まりさは涙を溜めて、自分は違うと目で訴える。 
しかし、そんなこと子れいむには通じない、もはやまりさは自身を殺すゲスでしか子れいむの中ではありえない。

「こ、こ、ごのげずお゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

目を見開き、ボロボロと泣きながら眉間の間に入っていく棒を凝視して、子れいむは最後に叫んだ。






「はっはっは、随分な遺言だったなまりさ、次は動く的だぞ」

次はさっき逃げた子まりさだ、子まりさが逃げた方に視線を向けると。 
子まりさはまだ、そろーりそろーりと言いながら地面を這いつくばっていた。 
お似合いと言えば非常にお似合いである。 
まあどうせ、隠れて行動するドキドキ感がたまらないそして見つからない自分カッコいい! 的なことしか考えてないのだろう。

「よし、後ろ向いてるし、一撃で行こうか、まりさ獲物は弄ばず一撃で仕留めるのが基本だ 
 弄ぶのは自分が絶対的な力があるならできることだからな、お前には一生来ないから安心しろ」

青年はまりさを抱えたまま、子まりさの後ろすぐに追いつく。 
まだ誰にも見つかっていないと信じている子まりさは背後の気配にすら気付かない。

「ほーら、中枢餡をザクッと一撃だ」 
「ゆびぃ!」 
「! おちびちゃん!!」

まりさの銜えた棒は青年が動かすままに子まりさの中枢餡を貫き、すぐに痙攣を起こす我が子から離された。

「ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛」 
「……あ、ぁぁあ、ぁあ、ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」

同時に、れいむのけたたましい叫び声が響く。 
子れいむの様に、痛みを感じるよう焦らすことはせず一撃、それだけが、子まりさの救いだったのかもしれない。



「よーし、よくやったぞ」 
「ゆっぐ、ゆっぐ、どぼじで……、どぼじでごんなごどにぃ……」

子まりさの中枢餡を貫かれその痙攣が収まった頃、青年の言葉とれいむのすすり泣くような声が聞こえた。





青年の手から離されたまりさの目からは止めどなく涙が流れていた。 
悲しみではない、痛みでもない、怒りの涙だ。 
弄ばれるように、青年に殺されていった、自分の子供達へのための涙だ。

「結局全部俺がやっちまったもんだなぁ、けど別にいいよな、まあ、授業料はお前の家族の命でいいよ、はっはっは、いやー、安いなー、ただ働きも同然だなー」

笑いながら、まりさに話しかける青年。 
まりさは奥歯を鳴らし、力を込めた、その時。 
横から怨嗟の声が聞こえてきた。

「ごのげずぅぅぅぅ!!! ゆっぐりごろじぃぃぃぃぃ!!!!」

まりさの番のれいむだ。 
その目は自分の子供を殺された恨みしかない、しかしそのれいむの矛先はまりさに向いていた。 
赤ゆっくり達を潰したのはまりさ。 
子れいむを、子まりさを突き刺したのはまりさ。

なけなしの母性とやらが出てきて叫ぶばかりで、助けすらしなかったそれは。

全部直接はまりさ、そう、思ってしまうほどに

思いこむ。

かわいいかわいい、そう言っていた自分の子供が、自分の番に潰され、刺され、殺していったことにれいむは怒り狂う。 
こんなのはゆっくりできないと。 
ただ、その怨嗟を何かにぶつけたかっただけなのだろう。 
もしかしたら、シングルマザーとやらにもなれないと思ったのかもしれない。 
そして、狭い視野に入ったのがまりさで、実際潰したり刺したりしているように見えた、れいむの恨みはただまりさに集約し思いこんでしまった。 
全く持ってお門違いな恨みだが、親れいむにとってはそれが真実であり、全てだった。

れいむは体当たりをするべく、底部に力を込める。 
それに対し、まりさは銜えた棒を奥歯でがっちりと銜え、歯を噛みしめる。 
青年の教えを全うしようと思ったのではない、ここでれいむに殺されてもいいと、しょうがないと思ったのだ。 
憎悪を溢れんばかりに持つその表情に、自分がすべて悪い気がした。 
言い訳をする気力すら湧かない。 
罪悪感を持ったまま生きて行くのはゆっくりできないと、ここで死んだほうが、ゆっくりできるかもしれないと思ってしまった。 
ただ、れいむの攻撃を受けようと、ただ反射的に体が強張っただけだった。

「じねぇぇぇぇえっぇえ!!!!」

怒りで何も見えないれいむはまりさに向かって突っ込んでいく。





「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」





悲鳴は一つ。 
れいむに木の棒に突き刺さった。

「ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛」 
「ぃぎ……?」

中枢餡を貫かれたのだろう、最後の痙攣が起こる。 
まりさは瞼のない開くことしかない片目と無事な目を見開きその光景を凝視してしまった。 
何故だ。 
こんな筈ではなった。 
れいむに殺されるつもりだったのに。 
なのに、なんで、どうして。 
徐々に動かなくなっていく番を目の前に、まだ死の直前を前にしても憎悪に染まったその目を逸らさない番をまりさは見続けることになった。 
体はこわばりその憎悪から視線をそらすこともできない、瞼はなくなり閉じることもできない。 
ゆっくりできない。

「おっ、さっそくやってるな」

青年の笑いでも聞こえてきそうなくらい明るい声がまりさの聴覚を刺激する。 
瞬間、怒りが湧いた。 
一気に燃え上がるように、その怒りの炎はまりさを焼いた。 
自身の餡子脳が燃えるように熱くなる。 
まりさはもう動かないれいむから離れた。

この怒りを晴らす為に。 
まりさは棒を奥歯を使いがっちりと自身の歯も砕かんと言わんばかりに噛みこんだ。 
飛び出そうなくらい眼を見開き、相手に穴が開くほど睨みつける。

青年は笑いながら、背を向けた。

相手の隙を見つける。

ガラ空きの背中、これを隙と言わずして何を隙というのだ。

まりさは底部に力を込める。 
怒りの力だ、どんな感情より爆発力をもつ感情、怒り、その力。 
家族を殺された怒りだ。

その込められた力ただ一つの目的の為だけにを開放する。 
ピョンピョンと跳ねる、いつもならポインポイン程度しか音が出なさそうなジャンプ移動もいつもと違う。

「あー、最後にな」

青年は何かを言おうと立ち止る。 
まりさには好都合だ、近ければ近いほど威力は増すはずだから。

「色々勘違いするゆっくりだ、これも言っておこう」

何かを言っている青年を無視し、まりさは飛びかかる。 
生涯最速と良いってもいいほどの加速力を感じた。

「ゆ゛っ゛ぐぎぎね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛え゛ぇ゛ぇ゛え゛!!!!!」

そして、見開いた目は、青年が振り向くのを見た。

「ちゃんと身の程弁えて戦い挑めよ」

見開いた目は、青年の蹴りを見た。

「生きてたらな」



最後には、木の棒を生やして事切れたゆっくりまりさがいたそうだ。






========あとがき============
18作目です。


ご意見ご感想、ありがとうございます。 
車田あきさんと全裸あきさんからまた挿絵を頂きました、ありがたい限りです。

では、最後まで見ていただけたら幸いです。

大きく振りかぶったあき