「……ざあ、おだべな、ざい……」 


ボロ雑巾同然となったまりさが最後の力で言葉を紡いだ途端、まりさの身体が真っ二つに割れた。 
傷つき汚れたその表情は、二つに分かれて尚、とてもゆっくりしていた。 
そんなまりさを見て、でっぷりと肥えたでいぶと2頭の子れいむが、ニヤニヤと薄笑いを浮かべる。 



「ふん! ぐずまりさはこのぐらいしかつかいみちがなかったね! れいむもようやくしんぐるまざーだよ!!」 

「「ゆぷぷぷ! つきゃえなきゃったおとーしゃんだよ! れいみゅたちゆっくちしててごめんにぇ!」」 

「さあ、おちびちゃんたち! すーぱーむーしゃむーしゃたいむ、はじめるよ!!」 

「「れいみゅのしゅーぱーむーちゃむーちゃたいみゅはじまりゅよ!! しょれーっ!!」」 


でいぶ達は二つに割れた夫まりさに躊躇なく齧り付いた。 
たちまち夫まりさの身体が形を崩し、食い散らかされていく。 


「「「ぐぁっつぐぁっつはふっはふっ!! うっめ! まっじうっめ!! まじぱねえぇーーーっ!!」」」 


普段から人気の無い公園であることに加え、現在は夜明け前。 
悦びに震えるでいぶ達を邪魔する者は誰もいなかった。 



でいぶは公園に住む生粋の野良ゆっくり。夫まりさは元銀バッジ飼いゆっくりだった。 
夫まりさが飼い主の「おねーさん」と散歩に来た時、隙をついてでいぶが夫まりさを誘惑したのが馴れ初めである。 
飼いゆっくりと番いになって子供さえ作れば、自分も飼いゆっくりとなり「にんげんさん」を「くそどれい」にできる。 
聞きかじった野良ゆっくりの都市伝説を、でいぶは信じていた。 

しかし飼い主の「おねーさん」は、まりさからバッジを奪って去ってしまった。 
実ゆを結んだでいぶを忘れれば連れて帰るが、家族で暮らしたいなら公園に置いていくと言う「おねーさん」。 
その言葉に対し、夫まりさは野良になって家族と暮らす、と返答してしまったのだ。 

目論見が外れたでいぶは怒りが収まらず、夫まりさを朝から晩まで酷使し罵倒することで憂さを晴らした。 
温室育ちの夫まりさは抗いもせず、でいぶの言いなりになって消耗するばかりである。 

夫まりさ似の子供も2頭生まれたが、でいぶは自分似の子供達2頭を可愛いがり、夫まりさ似の子供達を虐め抜いた。 
結果、一度もゆっくりを与えられなかった夫まりさ似の子供達は、三日経たないうちに永遠にゆっくりした。 
その死因すらも、でいぶは夫まりさのせいと言いがかりを付けたのである。 



そして今日、いよいよ満足に狩りも出来なくなった夫まりさに、でいぶは宣告した。 
家族を想う気持ちさえあれば、「おたべなさい」が出来るだろう、と。 
「おたべなさい」は自らの身体を食料として相手に捧げる、ゆっくり最大の奉仕行為。 
夫まりさは「おたべなさい」を成功させ、家族の為に殉じたのだ。しかし、その想いを汲み取った者は、誰もいない。 


「ゆふぅ、ぽんぽんいっぱいだよぉ! さあ、おちびちゃんたち! けいっかく!をじっこうするときがきたよ!」 

「ゆん! れいみゅたちが!」 

「かいゆっくちになるために!」 

「かいゆっくりをれいむのだんなにするよ! そうすればゆっくりしほうだい! あまあまたべほうだいだよっ!!」 

「「やっちゃー!!」」 


幼少から生粋の野良として生き抜いたでいぶにとって、飼いゆっくりは夢の「ゆっくり」。 
「にんげんさん」を従え散歩に興じ、巨大な「おうち」でゆっくりする、飼いゆっくり達の姿。 
何としてでも憧れの飼いゆっくりになる為に、でいぶは計画を練っていた。 

今度は飼いゆっくりの「おうち」に出向いて、新たな番いに相応しい飼いゆっくりを見つけよう。 
身繕いも万全。夫まりさを使って満遍なく「ぺーろぺーろ」させたので、他の野良ゆっくりからも一目置かれるほどだ。 
しかも、今回はでいぶ似の可愛い「おちびちゃん」達も育っている。 
可愛い「おちびちゃん」達を見れば、「にんげんさん」も喜んで「おつむ」を下げるに違いない。 


「さあ、おちびちゃんたち! しゅっぱつ!するよ! れいむのおつむにのせるからおちないでね!!」 

「「ゆん! おかーしゃんのおちゅむはゆっくちできりゅよ~!!」」 


今こそ夢を実現するために。 
東の空が白む頃、夫まりさを全て平らげたでいぶ親子は意気揚々と公園を去っていった。 








「ぽんぽんいっぱいあまあまたべるよ~っ! おちびちゃんいっぱいつくるよ~っ! 
 ……ゆふ、ゆふふふっ!」 


住宅街の一角。子供達を偵察に出して休憩していたでいぶは、細い路地の陰で妄想にふけっていた。 
そこに、飛び跳ねながら無事戻ってきた2頭の子れいむ達。 


「ゆっくちおまたちぇー! おかーしゃん、あっちのおうちに、かいゆっくちのまりちゃがいたよ!」 

「ゆん? ゆっくりおかえりなさい! それはほんとうかい? かわいいおちびちゃんたちぃ!」 

「なきゃなきゃのびゆっくちだよ! ゆーん、はやきゅれいみゅのおとーしゃんにしちゃいー!」 

「ゆふふん。きまりだね。そのまりさを、れいむのだんなにして、みんなでかいゆっくりになるよ!!」 

「「ゆん、ゆん、おーっ!!」」 


子れいむ達の案内で意気揚々と向かった「おうち」に、そのまりさはいた。 
「まどさん」に近寄って「のーびのーび」して見れば、とてもゆっくりしている姿を確認できた。 
かつての夫まりさと同じ「ぎんばっじさん」を付けている。間違い無く飼いゆっくりだ。 
でいぶの「おつむ」の上に乗った子れいむ達も、そのまりさを眺めて御満悦である。 


「ゆほぉーんっ!! これはじょうっだま!なまりさだねぇ! いいよいいよーっ!」 

「ゆふふっ! こんぢょはちゅかえるおとーしゃんぢゃといいね!」 

「いっぴゃいこきちゅかおーにぇ!」 


でいぶ達が庭先で盛りあがってると、そのまりさが「まどさん」に近づいてきた。 
視線はでいぶ達に向いており、明らかにでいぶ達を捉えている。実に順調だ。 
後は自分達の魅力で籠絡するのみ。 
でいぶ達は精一杯ゆっくりした雰囲気を繕うと、生前の夫まりさを誘惑した口調で、眼前のまりさに媚を売る。 


「ゆ、ゆっふぅ~ん! れいむはしんぐるまざーでかわいいれいむだよぉ! ゆっくりしていってねぇ!!」 

「「ゆんゆん! れいみゅはれいみゅだよ! きゃわいくちぇごみぇんにぇ! ゆっくちしていっちぇね!!」」 

「ゆっくりしていってね!! ここはおにーさんとまりさのおうちなのぜ! でいぶたちは、なにかまりさにようなのぜ?」 

「かわいいれいむはすてきなまりさとけっこん!したいんだよ~! ひとめっぼれ!だよ~! 
 れいむとまりさのおちびちゃんは、とってもゆっくりできるよ~!」 

「まりさはきょせいずみなのぜ。ぺにぺにがないからまむまむもないのぜ。だからおちびちゃんはつくれないのぜ」 

「きょ、きょせい? ゆ? ゆ?」 


でいぶの誘惑にゆっくりした表情を崩さなかったまりさの言葉は、逆にでいぶを動揺させた。 
意味不明の「きょせい」によって「ぺにぺに」が無い? 「おちびちゃん」が作れない? 
理解が追い付かないでいぶに、今度はまりさが話かける。 


「もしかして、でいぶはかいゆっくりになりたいのぜ?」 

「……ゆ? そ、そうだよ! でいぶはかいゆっくりになりたいんだよお!」 

「ゆーん。ちょっとまってるんだぜ。おにーさーん! おにーさーん!」 

「ゆ、ちょ……!」 


つい本音を晒してしまったでいぶは、「にんげんさん」の存在を失念していた迂闊さに気付いた。 
今のままでは自分はまりさと何の関係も無い、ただの野良だ。下手したら潰されてしまう。 
ここは逃げて別の飼いゆっくりを探そうと思った矢先、すでに窓辺にはまりさの言う「おにーさん」が来ていた。 


「ゆ、ゆゆゆ……!!」 

「どうした、まりさ。……何このでいぶ? 潰されに来たの?」 

「でいぶたちはかいゆっくりになりたいのぜ。おにーさーん、でいぶたちをかいゆっくりにしていいのぜ?」 

「それで良ければ飼いゆっくりにしてやるよ。正直調達する手間が省けた。準備するから待たせといて」 

「ゆわ~い! やったのぜー!!」 

「ゆ、ゆ、ゆん!?」 


狼狽するばかりだったでいぶの眼前で、トントン拍子に事態が進展した。それも、でいぶ達にとって望んだ通りに。 
「おにーさん」は確かに言った。でいぶ達を、飼いゆっくりにすると。 
僅かに違和感を覚えたでいぶだったが、膨らむ期待の前ではそれも消え失せた。 
情勢を見守っていた子れいむ達も、良い方向に転んだと感じとれたのか、安心してでいぶの元にすり寄る。 


「ゆーん……、やったよおおお! おとーさん、おかーさん。れいむ、かいゆっくりなんだよぉ!! 
 これかられいむのさくせすすとーりーがはじまるんだよおおおっ!! ゆんごくでみててねえええええっ!!」 

「やっちゃねおかーしゃん! れいみゅたちのかんっじぇんしょうり!だよ! ばんじゃーいっ!!」 

「れいみゅあみゃあみゃいっぱいたべりゅよ! そしたらあみゃあみゃいっぱいたべりゅよ! そしたら……」 

「かいゆっくりになれて、しーしーをながすほどうれしいのぜ? まりさもうれしいのぜ!」 


浮かれるでいぶ達の様子を、まりさは「まどさん」越しに眺めてゆっくりしている。 
ついに念願叶った。その想いがでいぶ達の身体を満たした時だった――。 


「お待たせ。じゃ行こうか」 


いつの間に外に出たのか、「おにーさん」はでいぶ達の傍らに立っていた。 
「おにーさん」はでいぶの身体を髪の毛を掴んで持ち上げ、もう片方の手で子れいむ達2頭を同様に掴み上げた。 
自らの自重で髪の毛が引っ張られる形となり、有頂天のでいぶ達に激痛を課す。 


「いだだだだだだあだだだあだだだだだっ!!? ぢょ、なにじでるのおおおおおっ!! 
 でいぶはがいゆっぐりでじょおおお!? ごのぐぞどれい! ばなええええええっ!!」 

「「いぢゃいよおおおおおっ!! ゆっぐぢじないでばなぜぐぞどれいいいいいいっ!!」」 


痛みのあまり常套句すら紡げなかった。逃げ出そうと身をよじる程に痛みが増す。 
でいぶ達は「おにーさん」に解放するよう要求するが、「おにーさん」はそのまま歩み始めた。 




そうこうしている内に、でいぶ達は「おうち」の中に運び込まれる。 
初めて入る「にんげんさん」の「おうち」は巨大で色取り取りだったが、痛みで感慨を抱くどころではない。 
そして、でいぶ達は殺風景で無機質な一角に連れて来られた。 


「ゆっぐりじないでばなぜええええええっ!! ……ゆん? ここどこ? ゆっくりしてないよ?」 

「風呂場だ。見た感じ身繕いはちゃんとしてるようだが、ホコリぐらいは落とさせてもらうよ」 

「ゆふん? だれもがみとれるれいむをもっときれいにするんだねぇ! ゆっくりしないではやくしてね!!」 

「「きゃわいいれいみゅがもっちょきゃわいいれいみゅになりゅよ! きゃわいしゅぎてごみぇんね!!」」 

「ああ、すぐ済むよ。浴槽に放り込むだけだから」 

だぱぁん!! 


「おにーさん」の言葉に気を良くした直後、でいぶ達はぬるい水の中にいた。 
「おみずさんのなかはゆっくりできない」。 
大半のゆっくりに刻まれた本能が、でいぶ達を一瞬にして恐慌状態にする。 


「ゆばばなっばっばばっばあffっ!! おmずzんばっ! ゆggじでぎnっ!! だずgでっ!!」 


でいぶは溺れながらも身体を伸ばして顔を水面に出し、助けを乞う。 
一方で子れいむ達は、水中に沈んだままで必死の形相を上に向け、底でコロコロ転がるだけだった。 
ゆっくりできない一時を存分に味わったでいぶ達は、水中から引きずり出されてようやく安堵できた。 


「「「ゆっ、ゆっ、ゆひー、ゆひー」」」 


溶けて無くなってしまうかと思った。 
3頭が感じた恐怖は、先程のように髪の毛を掴み上げられてても痛みを感じない程だ。 


「2、30秒程度で死にそうな顔をするなよ。さ、水を切るからジッとしてな」 

「「「ゆん? ゆぎゃあああああああああああああああっ!?」」」 


落ち着く暇も与えられず、でいぶ達はブンッブンッと振り回された。 
身体の水滴が除かれていく一方で、圧倒的な力をもって身体全体が投げ捨てられる感覚。 
でいぶ達は「おにーさん」が満足するまで振り回され、まるでゆっくりできなかった。 




「ゆひー、ゆひー、ごごはどごぉ? でいぶを、ゆっぐりじないで、ばなじでね……」 

「ここは台所だよ。今から飼いゆっくりになる下ごしらえをするのさ」 

「しぢゃごぢりゃえ? にゃんなのじょれ。いいぎゃられいみゅだぢをゆっぐぢじないでばなじでぇ……」 


生乾きのでいぶ達が次に連れて来られた場所は、同じく無機質ながら異質で異様な空間だった。 
使い方の解らない道具が方々に並び、ゆっくりできない気配を醸し出している。 
特に、高台の上に置かれた金属製の黒い器は、でいぶが収まるぐらい大きくて、一際ゆっくりできなかった。 


「おにーざん、このくろくてまるいの、なに……?」 

「フライパンだよ。すぐ済むから、あまり上で暴れるなよ」 


「おにーさん」がそう言うや、でいぶは「ふらいぱんさん」の上に置しつけられた。 
次の瞬間――、 


じゅううううううううううううううううううううっ!! 

「ゆあぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃっっ!? 
 ゆ゛あ゛ーっ!! ゆ゛あ゛ーっ!! ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーっ!!」 


でいぶの「あんよ」から全身に激痛が駆け巡った。 
痛みのあまりに漏れ出た「しーしー」が音を立てて弾け、白い「くもさん」のようになってでいぶを包む。 
先程まで疲れ切っていた事など忘れ、でいぶは「おつむ」を抑えられながらも必死にもがき苦しんだ。 


「なにずるのおおおおおっ!? でいぶはがいゆっぐりなんだよおおおおおおおっ!!」 

「だから、飼いゆっくりの下ごしらえだよ。まりさをキズモノにされたら困るからね」 

「いいがらばなぜええええええっ!! あづいでじょおおおおおおおおおおおっ!!」 

「焼き過ぎないように、きつね色に、と。こんなものか」 


ようやく灼熱の「ふらいぱんさん」から解放されたかと思えば、でいぶはすぐ横の高台に置かれた。 
焼き立ての「あんよ」は、その時の衝撃ですら耐えがたい激痛をでいぶに与える。 


「ゆっぐああああっ!? い、いぢゃいいいいいいいっ!!」 

「そこで待ってな。オマケのおちびちゃんもすぐに済ますから」 


「おちびちゃん」。そう聞いたでいぶは正気を取り戻した。涙を流してる場合ではない。 
我が「おちびちゃん」である子れいむ達は、自分がされたように「ふらいぱんさん」に押しつけられるところだった。 
子れいむ達は恐怖に引きつった表情を浮かべ、ろくな抵抗もできずに「おそろしーしー」を垂れ流すばかり。 


「ゆああああああっ!? なにずるのおおおおおおおおっ!? 
 がわいいでいぶのおぢびぢゃんをゆっぐりじないでばなぜええええええええっ!!」 

「「ゆんやああああああっ!! きゃわいいれいみゅがだいっぴんち!ぢゃよおおおっ!! 
 おがーじゃん! ゆっぐぢじでないでだずげでえええええええええっ!!」」 


でいぶは子れいむ達を助けようとしたが「あんよ」は動かない。 
必死に身を揺するでいぶの眼前で――、 


じゅううううううううううううううううううううっ!! 

「「ゆ゛あ゛ち゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」」 

「でいぶのおぢびぢゃあああああああああんっ!! おぢびぢゃああああああああああああんっ!!」 


子れいむ達の「あんよ」も、揃って狐色に焼かれてしまった。 








「まりさー、お待たせ。ほら、飼いゆっくりのでいぶだ。俺は用事を済ましてくるから、ゆっくりしていってね!」 

「ゆわ~い! おにーさん、ゆっくりありがとーなのぜ~!!」 


耐えがたい激痛と恐怖を経て、でいぶ達はまりさの前に運ばれた。 
飼いゆっくりであるでいぶ達が受けた、「くそどれい」による仕打ち。 
怒りにかられるでいぶであったが、「あんよ」が不自由では「せいっさい!」どころでは無い。 
何としても、まりさに「くそどれい」を「せいっさい!」してもらわねば気が済まなかった。 


「まりざあああああああっ!! ゆっぐりじないでぐぞどれいをぜいっざい!じろおおおおおっ!!」 

「……くそどれい、ってだれなのぜ? もしかして、おにーさんのことなのぜ?」 

「あたりまえでじょおおおっ!? がいゆっぐりのでいぶに、いだいいだいじだんだよおおおおお!! 
 でいぶをゆっぐりざぜるぐぞどれいが、あんよをじゅーじゅーじだんだよおおおおおおおっ!!」 

「おにーさんはくそどれいじゃないのぜ。まりさがゆっくりさせてもらってるかいぬしさんなのぜ。 
 どうしておにーさんがでいぶたちをゆっくりさせるのぜ? ばかなのぜ? しぬのぜ?」 

「だがらああああっ!! がいゆっぐりのでいぶをぐぞどれいがゆっぐりざぜるんでじょおおおおお!? 
 まりざはぞんなごどもわがらないぐずなのおおおおおおっ!!?」 

「はやきゅせいっしゃい!しちぇこーい! きょのぐじゅまりぢゃあああ!」 

「ぐじゅまりちゃはゆっくちしてないぢぇせいっじゃい!しぢぇごーい!」 


全く話が通じない。でいぶ達は激昂するが、まりさは依然ゆっくりした表情を崩さない。 
そして、まりさはゆっくりした表情のまま――、 


ぽよんっ  ぶぎゅっ 

「ゆぶっげえええええええええええええええっ!!」 


勢いをつけて跳躍すると、でいぶに体当りをした。 
直撃を受けたでいぶの身体は、平らな床の上をゴロゴロと転がされる。 


「だれがでいぶをどめでえええゆぶぎゃっ!?」 


部屋の壁に叩きつけられて、ようやく止まったでいぶの身体。 
痛みを堪えて起き上がったでいぶの眼前には、すでにまりさが追い付いていた。 
まりさは依然としてゆっくりした表情を崩していない。 
突然ふるわれた暴力が餡子に沁みたでいぶは、先程のように罵ろうとするも委縮してしまう。 


「な、な、なにずるのおおおおおおっ!?」 

「なにって、しつけ!だぜ。かいゆっくりをぜんぜんわかってないみたいだから、からだでおしえるのぜ」 

「か、か、かいゆっぐりは、にんげんざんを、ぐぞどれいにでぎるんでじょおおおお?」 

「ぜんぜんちがうのぜ。かいゆっくりはかいぬしさんにゆっくりしてもらうのがつとめなのぜ。 
 まりさはおべんきょうができるから、おにーさんがゆっくりしてくれるのぜ。まりさはとてもしあわせー!なのぜ!」 

「う、う、う、うぞだあああああっ! がいゆっぐりは、がいゆっぐりは……!」 


でいぶはまりさの言う事が理解できなかった。今まで信じていた物が完全に否定されているのだ。 
そして、次にまりさが紡いだ言葉こそ、でいぶの理解を完全に超越した。 


「でいぶは、まりさのかいゆっくりなのぜ。まりさをゆっくりさせるためにいるのぜ。りかいするのぜ」 

「――――――」 


かいゆっくりのかいゆっくり? 
でいぶはまりさのかいゆっくり?? 
でいぶはまりさをゆっくりさせるかいゆっくり??? 

思考がグルグルと餡子の中を駆け巡って、でいぶは目の前すら見えなくなった。 
故に、まりさの追撃を顔面で受ける羽目になる。 


「ゆぶぎゅううううううううううううううっ!!?」 

「りかいできないみたいだから、まりさはでいぶをりかいできるまでしつけ!するのぜ!!」 

「ゆひっ! ゆひっ! や、やべでね! ご、ごないでね! 
 ゆ、ゆ、ゆんやあああああぶぎゅあっっ!! ぶぎゅあっっ!! ぶぎゅあっっ!!……」 




コンコン! ……ガチャッ 

「入るよ、まりさ。ゆっくりしてるかい?」 

「あ、おにーさん! まりさ、でいぶがかいゆっくりをりかいできないから、しつけ!してたのぜ!」 

「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ……」 

「ゆぴええええんっ! おかーじゃんをいじめりゅなあああああっ!!」 

「おかーじゃんをいじめりゅげずはじにぇえええええ! ゆぴええええんっ!!」 


「おにーさん」が再び現れるまでの間、でいぶは執拗に「しつけ!」という名の暴力を受け続けた。 
子れいむ達は親が弄られる様を見せつけられ、涙と「おそろしーしー」を流していたが、幸いにもまりさに無視されていた。 
先程までの「しつけ!」を受ければ、小さな「おちびちゃん」達はひとたまりも無いだろう。 
もはや満足に言葉も紡げないでいぶにとって、我が子の無事が何よりの救いだった。 


「で、このでいぶは飼いゆっくりの何たるかが、ちょっとは理解できたのかな?」 

「ぜんっぜん!なのぜ!」 

「……が、がいゆっぐりは、ゆっぐりでぎるんだよお……。にんげんざんをぐぞどれいにでぎるんだよお……」 


でいぶは尚も自らの信念を貫いた。それだけが野良ゆっくりとして生きてきたでいぶの夢であり、希望なのだから。 
そんなでいぶに影が落ちる。「おにーさん」がでいぶの眼前で腰を下ろしたのだ。 


「でいぶはさ、まりさの銀バッジ取得記念のプレゼントなんだよ」 

「ぷ、ぷれ、ぜんと……?」 

「ああ、銅バッジから銀バッジが取れたら、何か欲しい物プレゼントするよって約束したのさ。 
 そしたら、まりさは飼いゆっくりを欲しがったんだ。そこに丁度、でいぶ達が来たって寸法さ」 

「ど、どぼじで? がいゆっぐりががいゆっぐりを? わ、わがらないよ???」 

「別に飼いゆっくりが飼いゆっくりを飼ってもいいだろ? 意外だったが俺も興味があったし。 
 お前はまりさにメシの面倒を見てもらう代わりに、まりさをゆっくりさせるのが務めだ」 

「ふ、ふざげるなあああ。でいぶを、ゆっぐりざぜろおおおおお」 

「もうでいぶ達はまりさの飼いゆっくりなんだ。イヤなら処分する。 
 見どころの無い飼いゆっくりを、生かしたまま捨てるつもりは無い」 

「ど、どぼじでえええええっ!」 


でいぶは選択を完全に誤ったことを痛感した。まさか、全く道理が通じない連中の「おうち」に来てしまったとは。 
いかに自分の正論を理解させようかと、でいぶが苦心していたその時、横で「おちびちゃん」の叫び声がした。 


「きゃ、きゃわいいれいみゅのおきゃーしゃんをいじめるなああっ! ぷきゅーーーーーっ!!」 

「くじゅどもはきゃわいいれいみゅたちをゆっくちさせりょおおっ! ぷきゅーーーーーっ!!」 


横目を向ければ、怒りの感情むき出しで「おにーさん」に抗議する「おちびちゃん」達の姿が見えた。 
「おにーさん」の動きが「おちびちゃん」達の声で止まった瞬間、でいぶの餡子が恐怖で冷える。 


「この際言っておくが、おちび達はオマケだ。正直でいぶ候補なんかいらないんだ。 
 でいぶがまりさの飼いゆっくりの務めを果たし、おちび達の責任の一切を持つなら、特別に置いてやってもいい」 

「で、でいぶどおぢびぢゃんだぢはいっじょだよおおお。いっじょにゆっぐりずるんだよおおお」 

「じゃあ、まりさの飼いゆっくりになるかどうか、さっさと決めてくれ」 


突然、息も絶え絶えなでいぶの身体が「おにーさん」に持ち上げられた。 
そして、でいぶは2頭並んだ「おちびちゃん」達の上に載せられ、ゆっくりと手を離されたのだ。 


「「ゆっぴいいいいいっ!? お、おみょいよおおおおおっ!! 
 おかーじゃん! ゆっくぢじないでれいみゅからどいでええええええっ!!」」 

「……ゆ、ゆああああっ!! がわいいでいぶのおぢびぢゃんがあああああああっ!! 
 で、でいぶのずでぎなあんよざんっ! ゆっぐりじないでおぢびぢゃんのうえがらうごいでえええええっ!!」 


何よりの救いが、今まさに打ち砕かれようとしていた。 
でいぶの「あんよ」は僅かに感触が戻ってきたが、未だ自分の思う通りに動かない。 
このままでは、可愛い「おちびちゃん」達が自分の下敷きになってしまう。 


「自分はまりさをゆっくりさせる為の飼いゆっくりだ、って理解できないとおちび達は永遠にゆっくりする。 
 ゆっくりしないで理解したほうがいい」 

「ぢぐじょおおおおおっ!! ぶざげるなごのぐぞどれいがああああああああっ!! 
 でいぶをおぢびぢゃんのうえがらゆっぐりじないでどがぜろおおおおおおおっ!!」 

「ゆんやああああっ!! おがーじゃん、うごいぢゃいやああああっ!!」 

「ちゅぶれるっ!! きゃわいいれいみゅがぢゅぶれりゅううううううううっ!!」 

「ゆああああっ!? がわいいでいぶのおぢびぢゃんだぢ! ごべんねえええええっ!!」 


身体をよじって逃げる事も叶わず、でいぶは自ら可愛い「おちびちゃん」達を葬らんとしていた。 
まりさも「おにーさん」も、でいぶ達を救う素振りも見せない。じっとでいぶ達を見つめ続けている。 
この状況から逃れる方法は検討がついていたが、でいぶは実行に踏み切れなかった。 


「ゆぐぐぐぐぐぐ……!」 

「おがーじゃーんっ! ゆっぐりじでないでだじゅげでえええええっ!! ゆぶぶぶっ!!」 

「お、おにーじゃん! まりちゃ! たちゅけちぇぐだじゃいいいいいっ!! ゆぶりゅぶっ!!」 


迷っている間に、子れいむ達は餡子を吐きだしたようだ。一刻の猶予も無い。 
「ソレ」を行うのは、恐らくとてもゆっくりできない事だろう。 
しかし、自らの「あんよ」で可愛い「おちびちゃん」達を潰してしまうわけにはいかない。 
でいぶは目をつぶり、まりさに向かってゆっくりと「おつむ」を向けた。 


「……で、でいぶは、ま、まりざざまの、がいゆっぐり、でず」 

「ゆん、でいぶはまりさのかいゆっくりなのぜ。でいぶはまりさになにをするのぜ?」 

「ま、まりざざまを、ゆっぐりざぜるのが、でいぶのづどめでずうう。だ、だがら、おぢびぢゃんを」 

「まりさをゆっくりさせるのが、でいぶのつとめなのぜ。でいぶはそれでゆっくりできるのぜ?」 

「ゆっ……ぐっ!!」 

「「ぢゅっ!! ぢゅぶりぇりゅううううううううううううううううっ!!」」 


「おつむ」をまりさに向けながら流した涙が、床に幾つも落ちた。 
問答している暇など無いと言うのに、まりさは許してくれない。 
もはやでいぶには、屈辱を飲み込むしか術が無かった。 


「ゆ、ゆっぐりでぎまずうううううっ!! でいぶはまりざざまがゆっぐりずればゆっぐりでぎまずうううっ!! 
 でいぶはっ! まりざざまのっ! がいゆっぐりでずうううううううううううっ!!」 

「ゆん、おにーさん!」 

「ああ。今この瞬間から、でいぶはまりさの飼いゆっくりだ。とりあえずおちび達の上からどかしてやる」 


自分の認識を否定する事は、ゆっくりにとって極めてゆっくりできない事である。 
今、でいぶは自らの飼いゆっくり観を覆し、まりさの飼いゆっくりである事を宣言した。 
身悶えする程ゆっくりできなかったが、それと引き換えに「おちびちゃん」達は助かるのだ。 
安堵したでいぶを「おにーさん」が持ち上げようとした、その瞬間――、 


「「……も、もっぢょ、ゆっぐぢ、じだが……」」 

ぷちゃぷちゃあっ! 


感覚が鈍ったでいぶの「あんよ」が、恐ろしくゆっくりできない現象を確かに感じた。 
2頭の「おちびちゃん」の感触が消え失せ、替わりにベットリと濡れたような感触が発生したのだ。 
それが何を意味するのかを、解りたくもないでいぶは硬直してしまう。 


「……ゆーん、でいぶのおちびたち、つぶれちゃったのぜー」 

「一足遅かったな。でいぶが早く言えば助けられたのに」 


まりさと「おにーさん」が告げる淡々とした事実が、でいぶには信じられない。 
しかし、「おにーさん」に位置を移し替えられれば、否応なく事実を目にしてしまう。 
可愛い「おちびちゃん」達は、身体中の穴から餡子を吹き出して、真っ平らに潰れていた。 


「お、おちびちゃん……? どぼじだの? ゆっぐりじないで、べんじじでね……」 

「出来るわけ無いだろ。でいぶがモタモタして潰しちゃったんだから」 

「う、うぞだよおお。でいぶじゃないよおおおっ! でいぶがづぶじだんじゃないよおおおおおっ!」 

「でいぶがゆっくりしなかったら、つぶれなかったのぜ。かわいそうなおちびちゃんなのぜ。 
 でいぶはほんとうにおちびちゃんがだいじだったのぜ?」 

「ゆ゛あ゛っ! ゆ゛あ゛っ! ゆ゛あ゛あ゛っ!」 


もっと早く「おつむ」を下げていたら、子供達は永遠にゆっくりすることは無かった。 
本意ではなかったにしろ、子供達を自分が潰したという事実を、でいぶは理解させられた。 


「ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!」 

「まりさ。とりあえずでいぶに掃除の仕方ぐらい教えておいてくれ」 

「わかったのぜぇ! でいぶにおそーじしてもらうのぜぇ!」 


慟哭するでいぶは、背後に回りこまれたまりさに、赤いリボンのお飾りを奪い取られた。 
まりさの舌に捕らえられた、生まれた時から一緒の素敵な「おかざりさん」。 
それを見たでいぶの感情が、さらに激しく揺さぶられる。 


「ゆあああっ!? でいぶのだいじなだいじなおがざりざんがえじでええええええっ!!」 

「べつにとったりしないのぜ。おそーじしてもらうだけなのぜ。 
 まずはまりさがおてほんをみせるから、よーくみてるんだぜ!」 

「ゆ゛……!?」 


まりさはそう言うと、舌で掴んだお飾りを子供達の死骸の上に乗せた。 
そのまま、死骸を拭うように、お飾りを床に擦りつける。 
自慢の可愛い「おちびちゃん」が「おかざりさん」で形を失っていく。 
自慢の素敵な「おかざりさん」が「おちびちゃん」の餡子に塗れていく。 


「おそうじはこうやるんだぜぇ! ごーしごーし! ごーしごーし! ごーしごーし!」 

「やべでえええええっ!! おぢびぢゃんがあああああっ!! おがざりざんがあああああっ!!」 

「さあ、おてほんはみせたから、これからはでいぶがやるんだぜ! ごみはあそこのおといれにあつめるのぜ!」 

「おと……いれ……?」 


まりさが向いた先に、白い器が置いてあった。 
その内側に鎮座する見覚えのあるモノ。紛れも無く「うんうん」だった。 


「い、い、いやぢゃああああっ!! おぢびぢゃんはうんうんじゃないよおおおおおっ!!」 

「おちびちゃんはでいぶのせいでごみになったのぜ。でいぶもごみになりたいのぜ?」 

「ゆびぃぃっ!?」 


心身ともに痛めつけられた上、孤独となったでいぶは気弱な悲鳴を上げた。 
このままでは、自分も「おちびちゃん」と同じ目に遭ってしまう。 
ゆっくりできない想いを噛み締めながら、汚れたお飾りを舌で掴み、でいぶは再び「おつむ」を下げる。 


「わ、わがりまじだあああ。でいぶ、おぞうじ、じまずううううう」 

「ゆっくりしないでやるんだぜ。おにーさーん! まりさのしつけ!じょうずにできたのぜ?」 

「悪くないんじゃないか。今日からでいぶにもゆっくりさせてもらえばいい。 
 ここはでいぶに任せて、日課の散歩に行こうか、まりさ」 

「ゆわ~~い! でいぶ、ちゃんとおそうじしてないと、またしつけ!するのぜ! じゃあいってくるのぜぇ!」 

「でいぶのがわいいおぢびぢゃあああん。ごべんねえええ。ごべんねえええ。ごべんねえええ……」 


まりさと「おにーさん」が退出した広い部屋に、でいぶだけが取り残される。 
焼けた「あんよ」は全ての機能を失わなかったが、微々たる速度でしか移動できない。 
自らの「おかざりさん」を用いて「おちびちゃん」を「おといれ」に捨てる。この行為は日が暮れた後も続けられた。 
でいぶは涙を流しながら、眠りにつく間際まで子れいむ達に許しを乞い続けた。 








飼いゆっくり生活は、でいぶにとって「くそどれい」そのものだった。 
用が無ければ「とうめいなはこさん」に押し込められ、まりさが外から開けなければ出る事はできない。 


「ゆっくりおはようなのぜ! さあでいぶ、きょうもぺーろぺーろするのぜ!」 

「ゆっくりおはようございます、まりささま。ぺーろぺーろ、させていただきまずううう……」 


朝になって窮屈な箱から出されれば、「かがみさん」の前でまりさの身繕いをすることが一日の始まりだ。 
頬や髪の毛、お飾りや「あにゃる」に至るまで、全身くまなく「ぺーろぺーろ」しなければならない。 
その際に「かがみさん」に映る自分の姿は、かつて自身の身繕いを任せていた夫まりさの様だった。 


「ゆひぃ、ゆひぃ、お、おわりまじだあああ……」 

「……ねぐせがなおってないのぜ。こころがこもってないしょーこなのぜ!」 

「ゆぶぎゃああっっ!!」 


心を込めた「ぺーろぺーろ」は、不思議な力で相手をキレイにしたり治したりできる。 
「ぺーろぺーろ」してキレイにならなければ、心が込もってない証拠だと「おにーさん」は言っていた。 
それを理由に、至らなければ容赦なく「しつけ!」を受けた。 

これに限らずとも、まりさの気分次第で「しつけ!」は何時でも行われる。 
時に遊ばれるように、時に八つ当たりを受けるように、非を一身に受け止める事もでいぶの「つとめ」である。 
でいぶが夫まりさに行った腹いせのように、まりさが満足するまで「しつけ!」は行われるのだ。 


「……ゆ゛、ゆ゛、ゆ゛……」 

「おにーさーん。でいぶがこわれそうなのぜ~」 

「加減しろ。死んだら新しいのを調達するのが面倒くさい。生きてればオレンジジュースで大抵治るんだから」 


どれだけ傷ついても、でいぶは「おにーさん」に治された。 
故にでいぶは、飼いゆっくりの「つとめ」を休みなく続けなければならなかった。 




まりさが散歩などに出かけている間は、部屋中を「おそうじ」しなければならない。 
道具は自らのお飾り。かつての誉れだったそれは、今や酷く汚れて所々破れてもいる。 
何より子供達の死臭が染み付いているようで、「ぺーろぺーろ」で手入れしようという気も起きなかった。 
ノロノロと這いずるしか出来なくなった「あんよ」に鞭打って、でいぶはお飾りで床を磨き続ける。 


「ごーしごーし、ごーしごーし、ごーしごーし……」 

ガチャッ 

「たっだいまーなのぜ~! おそうじおわったのぜ? でいぶ!」 

「ゆひぃっ!? す、ずびばぜええええん! もうすごじでございまずうううううっ!! 
 ごーしごーし! ごーしごーし! ごーしごーし!」 


まりさが帰ってくれば、でいぶは必死に「つとめ」を果たす姿を見せる。 
気に入られなければ、大抵はゆっくりできない目に遭うからだ。 


「ゆーん、でいぶはのろまなのぜ! まりさがてつだってやるのぜ!」 

「げっ、げっごうでずうううっ!! やべでぐだざいいいっ!! ゆんやああああああっ!!」 


でいぶは否を訴えるも、髪の毛をまりさに咥えられて床の端から端まで引きずり回された。 
かつて夫まりさに磨かせたモチモチお肌が、床を磨く道具にされている。 
でいぶは汚辱に悶えるしかできなかった。 


「またでいぶを汚したな。まりさ、たまにはぺーろぺーろで綺麗にしてやったら?」 

「ゆ~ん。まりさはおべんきょうがいそがしいのぜ~。おにーさん、おふろにいれてあげるのぜ~」 

「やれやれ、またか。じゃあまりさ、そこの例文集を読み上げてるんだぞ。次のバッジ更新で金が取れるようにな。 
 行くぞ、でいぶ」 

「ゆひぃぃっ! で、でいぶは、けっこうでずうううっ!!」 

「雑巾代わりにされたんだから、洗わないわけにはいかないだろが」 


無理矢理の床掃除の後、決まってでいぶの身体は乱暴に水洗いされる。 
浴槽に張った水の中に落とされる度、でいぶは永遠にゆっくりするような思いをするのだ。 




でいぶの食事は「おにーさん」がまりさに与えた分量から、改めてまりさによって分け与えられる。 
その量は多くなく、まりさの気分次第で変動する為、決して機嫌を損ねてはならなかった。 


「でいぶ、きょうのばんごはんさんなのぜ! きょうはゆっくりできたから、とくべつなのぜ! 
 よんこからごこにばいっぞう!なのぜ!」 

「ゆうぅ……。ありがとう、ございます……」 


小皿に盛られた「ゆっくりふーど」は、2以上の数を数えられないでいぶにとって普段より多く見えるような気がした。 
現実には身体を満たさない量に変わりなく、味もゆっくり出来る程のものではない。 
片や、まりさは色取り取りで沢山の「ごはんさん」を食べている。 
ロクに分け与えなかった夫まりさの食事を、でいぶは「ゆっくりふーど」を噛み締める度に思い出した。 

こんな食事事情だから、「あまあま」なんて食べられるはずもない。 
今も眼前で、まりさが「けーきさん」を「しあわせー!」な表情を浮かべて食べている。 


「ゆ、ゆうぅぅ! まりざざまあああっ! で、でいぶに! あまあまをぐざざいいいいいっ! 
 ひどぐぢだげでもおおおおおっ!!」 

「いつもいってるのぜ。ゆっくりしてないかいゆっくりにはあげないのぜ。わかるまでしつけ!なのぜ!」 

「ゆぎゃあっ!! ゆぎゃあっ!! ゆぎゃああああああっ!!」 


でいぶはガマンできなくなる度に必死におねだりする。必ず手痛い「しつけ!」を受けると解っていても。 




就寝の時間になれば、「とうめいなはこさん」に押し込められる。 
まりさが「ふかふかべっどさん」に横たわれば、「おにーさん」が部屋を暗くして、一日が終わりだ。 
しかし、でいぶはすぐに眠る事が出来なかった。 


「……ゆ゛っ、ゆ゛ぅっ、ゆ゛え゛え゛え゛え゛え゛ん゛! がいゆっぐりはゆっぐりでぎないよおおおおっ!!」 


まりさの前で封じ込めていた、ゆっくりできない想いが、涙となって溢れだす。 
防音効果のある箱の中でゆんゆん泣く事がでいぶの日課なのだ。 
飼いゆっくりはゆっくりできない。だから、でいぶは思い出の中の「ゆっくり」に浸るしか無かった。 


「でいぶににだおぢびぢゃん、ごべんなざいいい、ごべんなざいいいいいっ……」 


思い出に浸りながら、でいぶは自ら潰した子れいむ達に詫びる。 
自分が飼いゆっくりになるなんて言わなければ、あの「こうえん」で一緒にゆっくりしてたのに。 
そして、「こうえん」でのゆっくりした生活を思い浮かべれば、でいぶはより深い悔恨に襲われてしまう。 


「ま、まりざあああ。ごべんなざい、ごべんなざい、ごべんなざいいいいいいっ……。 
 まりざににだおぢびぢゃあああん。ごべんなざいいいいいっ……」 


かつて夫まりさを無下に扱った過ちを、自身が無下に扱われて苦しみ抜く毎日の中で、ゆっくり理解してしまった。 
夫まりさは、ゆっくりできる「にんげんさんの飼いゆっくり」を捨てて、でいぶと共にゆっくりする選択をしたのだ。 
それなのに、でいぶの元に残った夫まりさに、まりさ似の「おちびちゃん」に、取り返しのつかない事をしてしまった。 
どんなに苦しめても、夫まりさはゆっくりした表情を崩さなかったのに。自分に食べられるその瞬間まで。 


「まりざああああああああっ!! ゆるじでぐだざいいいいいいいいいいいいいっっ!! 
 ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛っ!! ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛っ!!」 


思い出に塗れて泣き疲れた頃に、でいぶはようやく眠りにつく事ができた。 
このようなゆっくりできない日々は、でいぶの「ゆっくり」を削ぎ落し、失わせていった――。 








季節は巡り、まりさの飼いゆっくりとして過ごし続けたでいぶは、新たな「ゆっくり」を見い出していた。 
幾分痩せて皺を刻んだにも拘わらず、その表情は、当初に比べ格段にゆっくりしていた。 


「おはようございます、まりささま。みづくろいをさせていただきますよ」 

「ゆーん。でいぶもぺーろぺーろがうまくなったのぜ~。かっこいいまりさがさらにかっこいいのぜ~」 

「ありがとうございます。れいむはまりささまにゆっくりしていただいて、しあわせー!ですよ」 

「最近はでいぶも飼いゆっくりらしくなったなぁ。 
 どうだ、でいぶ。まりさの飼いゆっくりはゆっくりできるか?」 

「はい。まりささまがゆっくりすると、れいむもゆっくりできます」 

「それは何よりだ。まりさもゆっくりできて学力も上がってるし、これからもまりさの飼いゆっくりでいてくれ。 
 まりさも、たまには働きに応じてでいぶをゆっくりさせてやれよ」 

「ゆん! それじゃきょうからごはんさんをひとつふやすのぜ!」 

「……ありがとうございます、まりささま。れいむはしあわせー!です!」 


「つとめ」を果たしてまりさがゆっくりすれば、でいぶの身体に自然と「ゆっくり」が湧く。 
「おにーさん」も一緒にゆっくりしていれば、より多く「ゆっくり」が湧く。 
自分の行いで誰かをゆっくりさせることができる。でいぶには、ただそれだけが心地よかった。 

寝る前には、やはり家族達の思い出に涙を流したが、ただ後悔するばかりではない。 
もうゆっくりさせる事のできない家族達の分も、まりさや「おにーさん」にゆっくりしてもらおう。 
そう想えば、より献身的に「つとめ」を果たす事ができた。 

飼いゆっくりの「つとめ」を果たして得る「ゆっくり」は、かつて考えていた飼いゆっくりの「ゆっくり」とは全く違う。 
それを享受するでいぶの心は、すでに壊れてしまっていたのかもしれない。 








「いよいよ明日はバッジ更新試験日だな。準備は万全か? まりさ」 

「だいっじょうぶ!なのぜ! まりさはきんばっじさんになるのぜ!」 

「まりささまなら、きっとだいじょうぶですよ!」 


でいぶがこの「おうち」に来てから一年が経とうとしていた。 
今、飼い主であるまりさが、一つ高みに登ろうとしていた。自信に満ちる主の姿を、でいぶは心から喜ばしく思うのだ。 
永遠にゆっくりするその日まで飼い主をゆっくりさせる。それが、でいぶにとっての「ゆっくり」なのだから。 


「それでね、おにーさん。まりさおねがいがあるのぜ。 
 まりさ、きんばっじさんがとれたらあたらしいかいゆっくりがほしいのぜ!」 

「飼いゆっくりはでいぶがいるじゃないか。切りが無くなるから増やすわけにはいかない」 

「でいぶはあきたのぜ! だからちがうのがほしいのぜ!」 

「……俺は構わんが、それで本当にいいのか? でいぶは処分しなければいけないんだぞ?」 

「いいのぜ~!」 


でいぶの感情は平静を保っていた。 
遂にこの日が来たのだ。かつての夫まりさのように、自分に残された最後の「ゆっくり」を捧げ切る日が。 
果たして自分にできるだろうか。飼いゆっくりとして得た「ゆっくり」が、でいぶの身体に満ちる。 


「だ、そうだ。飼い主のまりさが、でいぶは明日で用済みだとさ。 
 何だかんだで結構長い付き合いになったが、新しい飼いゆっくりを調達するなら処分せざるを得ない」 

「……ゆっくりりかいしました。そのまえに、ただひとつ、れいむにさいごのひとはたらきをさせてください。 
 まりささまが、ずっとゆっくりできますように」 

「ゆん? なにをするのぜ? でいぶ」 

「まりささま。れいむのさいごのごほうっこう!です。ゆっくりあじわってくださいね! 
 ……さあ、おたべなさいっ!!」 


絶叫と共に、でいぶのゆっくりとした表情が分かたれ、身体が真っ二つに割れた。 
真に自らを食べてもらおうと思わなければ成功しない「おたべなさい」を、でいぶは成功させたのだ。 
正に、飼い主であるまりさに全てを捧げきった証明である。 


「まりさ、せっかくだから食べてやれよ」 

「まずそうなのぜ~! おにーさんにあげるのぜ~!」 

「いらないなら処分するぞ。代わりの飼いゆっくりは、銀以上で更新できたら調達してやるよ」 

「ゆわわ~い!! おにーさん、ゆっくりありがとうなのぜ~! 
 あたらしいかいゆっくり、わくわくたのしみなんだぜ~~~!!」 


浮かれるまりさを部屋に残し、「おにーさん」は二つに割れたでいぶを裏庭に運んだ。 
「おにーさん」はでいぶの餡子を指ですくい、一口味わう。そして、物言わぬでいぶに告げる。 


「……まりさの飼いゆっくり、御苦労サン。最初は使い捨てのオモチャのつもりだったが、よく務めてくれたよ。 
 美味かったが、俺に食べて欲しいわけじゃないんだろ?」 


でいぶの身体は、ゆっくりした表情を崩されないよう、「おにーさん」によって地中に埋められた。 



































「だ、だがらあああああっ!! なにがのまぢがいなんでずううううううう!!」 

「あぁ? 誰がどう間違ったら、銀バッジが何のバッジも取れなくなるんだぁ!? 
 前日までの模試は、間違いなく金バッジクラスの結果だったはずだがなぁ!!」 

っぱぁーんっ 

「ゆぶぢゃあああああああああっ!?」 


「おにーさん」が繰り出した平手打ちがまりさの左頬を打つ。痛みが餡子中に沁み渡り、のたうち回って悶えるまりさ。 
まりさが「ばっじしけん」に落第した昨日から、「おにーさん」は全然ゆっくりしていない。 
大切な帽子のお飾りも没収され、まりさはゆっくりできない時間を過ごし続けていた。 


「試験の最中まで次の飼いゆっくりの事ばかり考えて、ろくに回答できなかったのは、まりさだろーがっ! 
 でいぶで満足しておけば、こんな結果にならなかったろうに!!」 

「ご、ご、ごべんなざいいいいいっ!! づぎは、づぎはがんばりまずがらあああああっ!!」 

「駄ゆっくりに次はない。まりさには、俺の飼いゆっくりの飼いゆっくりになってもらう」 

「ゆ、ゆああああああああっ!?」 


それは、散々酷使したでいぶの無様をよく知るまりさにとって、無慈悲な宣告であった。 
そんなゆっくりできない生活はイヤだ。まりさは立ち上がった「おにーさん」の足元に泣いて縋る。 


「お、おにーざんのがいゆっぐりは、まりざだよおおおおっ!! 
 ゆっぐりじでねっ! ゆっぐりじでねっ! ゆっぐりじでねええええええっ!!」 

「ウゼェ」 

「ぶっぢゅうううううぅっ!?」 


「おにーさん」の長い「あんよ」に蹴り飛ばされたまりさは、壁にはね返されて部屋の中央に転がされた。 
激痛に身悶えつつも、まりさは自分の立場を叫び続けるしかなかった。 


「ゆひぃっ! ゆひぃっ! まりざ、がいゆっぐりだよおおおっ! がいゆっぐりだよおおおっ! 
 がいぬじざんをゆっぐりざぜるんだよおおおおおっ!!」 

「ああ、存分に俺の飼いゆっくりをゆっくりさせてくれ。 
 ……お待たせ。狭かったろう、今出してやるからな」 


「おにーさん」は、部屋の隅に置かれた外出用「きゃりーばっぐさん」の扉を開く。 
いつもはまりさが外出するときに使われるが、今日は空のまま運び出された。 
そして先程、帰宅した「おにーさん」が持ち帰ってきたのだ。 
そこから現れた、まりさの飼い主とは――。 


「うー☆ うー☆ ここがおにーさんとれみりゃのこーまかんなんだど~? おにーさん、ゆっくりしていってね!!」 

「ああ、ゆっくりしていってね!」 


にこやかな表情を浮かべた捕食種ゆっくりが、部屋の中を羽ばたいた。 
その姿に、まりさは本能からの恐怖を露わにした。 


「れ、れ、れ、れみりゃだああああああああああああああっ!?」 

「う~? あのまりさはなんだど~? ごはんさんだど~?」 

「あれはれみりゃの飼いゆっくりだ。食事も兼ねている」 

「うー?? れみりゃがまりさをかうんだどー? よくわからないけどゆっくりできそうなんだどー!」 

「あとで教えるよ。さ、腹が減ってるだろう。永遠にゆっくりしない程度に吸ってやれ」 

「おにーさん、ありがとう!なんだどー☆」 


まさか、捕食種の飼いゆっくりにされるなんて。しかも「ごはんさん」でもあるという。 
れみりゃは嬉しそうに宙を舞いながら、まりさに向かってゆっくりと間合いを詰めてくる。 
手向かおうにも身体がブルブル震えて言う事を聞かない。 
まりさは「おそろしーしー」を垂れ流しつつ、程無くして部屋の隅に追い詰められた。 


「ゆあっ! ゆあっ! ゆあーーーっっ!  
 や、やべでね! ごないでね! まりざは、まりざはがいゆっぐりなんだよおおおおおっ!?」 

「うー☆ れみりゃはどうばっじのかいゆっくりなんだど~。まりさはれみりゃのかいゆっくりなんだど~。 
 いただきます☆なんだど~っ!!」 


油断した訳ではない。しかし、まりさは抵抗する間もなくれみりゃに齧り付かれた。 
「おつむ」に突き刺さった牙から、自らの餡子が吸い出されていく。 
そのおぞましい感触に、決して覆る事の無い絶望的なゆん生に、まりさは絶叫を上げた。 


「ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ 
 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!」 


【おわり】