ジージージー 
ジージージー

ゆえーんゆえーんゆえーん

ジージ-ジー

ゆえーんゆえーんゆえーん

日が昇り、徐々に気温が上がり始める。 
喧しいほど元気に鳴くセミの声に、ゆっくりの泣き声が混ざる。


ジージージー 
ゆえーんゆえーんゆえーん 
ジージ-ジー

まるでセミに負けないように張り合っているのかと思うほど、ゆっくりは元気に泣いている。 
セミの鳴く木の下で、小さな子まりさと子れいむが泣いている。 
二匹の視線の先には、地面に広がった大きな黒いシミ。 
肌色の皮と、金髪に混ざって白と黒の生地が、べったりと地面に張り付いている。

二匹の子ゆっくりは蟻が群がるその死骸を見て、小刻みに震えながらポロポロと涙を流す。 
力強くて大きな存在だったはずの親まりさが、まるで敷物のようにのっぺりと伸びて無残な姿を晒している。 
子ゆっくり達にとっての強さの象徴、ゆっくりの象徴が見る影もなく砕け散っている。 
それが悲しくて悔しくて、ただゆんゆんと泣き続けた。

「ゆっく…ゆっく…ゆわぁぁぁぁぁぁん!おちょーしゃんをかえせぇぇぇぇ!おちょーしゃんをかえせぇぇぇぇ!!」

突然子れいむが叫びながら勢い良く跳ねる。 
そして土とコンクリートブロックの境までやってくると、行き交う通行人を睨むように見上げる。 
子まりさはそんな子れいむを涙目で見つめると、潰れた親まりさの残骸に語りかける。

「おちょーしゃ…おめめをあけちぇよ…すーりすーりしちぇよぉ…ゆえぇぇぇぇ…」

目も口も何処にあるのか分からない塊に向かって、涙を流しながら何度も呼びかける。 
当然ながら親まりさだったものは、動く事もなく沈黙を守っている。 
子まりさは悔しそうに口を閉じて目を瞑る。 
そして物言わぬ屍を、ペロペロと舐め始める。

「ぺーりょ…ぺーりょ…おちょーしゃ…ゆっくち、げんきになっちぇよぉ…ぺーりょ…ぺーりょ…ねちぇないで…おきちぇよぉぉ…」

無駄だと解っていても、何かせずにはいられない。 
もしかしたら、寝ているだけなのかもしれない。 
その内父の傷が癒えて、また元気になるかもしれない。 
様々な思いが、子まりさの足りない餡子脳に浮かんでは消えていく。

「ゆんやぁぁぁぁぁ!おちょーしゃんをかえせぇぇぇぇ!おちょーしゃんをかえぶびょ?!」

グチャ!

「うわっ!きったねぇ…ゴミ踏んじゃったよ…」

鈍い音と共に、子れいむの泣き声が止む。 
子まりさもそれに気がつき、子れいむを見る。 
子れいむは揉み上げをワサワサと動かしながら、小刻みに震えている。

「れーみゅ?どーしたのじぇ?へんなおとが、きこえたのじぇ?」

子れいむは子まりさの問いかけに答える事無く、ワサワサと震え続ける。

「れーみゅ、なにしちぇるのじぇ?…れーみゅも、おとーしゃんを………ゆゆ?」

嫌な予感がした子まりさは、慌てて子れいむの方へと跳ねていく。 
そして子れいむの顔を見て思考が停止する。

なにこりぇ? 
れーみゅはどーしちぇ、ふるえてるのじぇ? 
れーみゅはどーしちぇ、なにもしゃべってくれないのじぇ?

どーしちぇ、れーみゅのおかおがまっくろなのじぇ? 
どーしちぇ、れーみゅのおかおがないのじぇ?

どーしちぇ? 
どーしちぇ?





「ゆびゃぁぁぁぁぁぁん!ゆびゃぁぁぁぁぁぁん!れーみゅぅぅぅぅ!おちょーしゃぁぁぁぁぁ!どーしちぇぇぇぇぇ?!ゆんやぁぁぁぁぁ!!」

硬直が解けた子まりさは、再び火がついた様に泣き始める。 
体をグネグネと動かして、小刻みに震えながらゆんゆんと泣き叫ぶ。 
セミにも負けないくらい位の大声で、誰に問いかけるわけでもなく「どーして」と繰り返す。

「うるせーよ!」

びゅ?!

通行人の一人が、子まりさの顔を蹴った。 
突き刺さるような痛みが子まりさの体を駆け抜ける。 
瞬間体が宙に浮き、ゆっくりには信じられないスピードで子れいむの死体から離れていく。

びびゃ?!

今度は後頭部に鈍い痛みが走る。 
体が内部から揺られる様な衝撃に、思わず顔をしかめて餡子を吐き出しそうになる。 
両目がくるぐると回り、あまりの痛みに涙としーしーが溢れ出す。 
だが、どういう訳か声が出ない。

がしゅ!べしゅ!ぶしゅ!

口が麻痺したかの様に、まったく動かなくなる。 
父に、れいむに向かって歩き出そうとするが、あんよに力が入らない。 
ようやく動かせるようになった目で、自分の体を見ようと視線を下に移動させる。 
そして再び子まりさは固まる。

自分の口と腹が、大きな凹みで消えている。 
自慢の白い歯も、器用に動かせる舌も、どこにあるのか解らない。

ジージージー 
ジージージー 
ジージージー

子まりさは自分の体と、蟻に集られている家族を見比べてはポロポロと涙を流す。 
やがて黒い死神は、子まりさの体にも群がり始める。 
自分の末路が、目の前の家族の残骸だと理解する。 
子まりさはセミの鳴き声を聞きながら、痛みに身を震わせる。

ジージージー 
ジージージー 
ジージージー

セミは何事もなかったかのように鳴き続けた。
 
【おわり】