『はぁぁ、良いもんだなぁ、森林浴』 
森、とまでは行かないけど林の中を俺はゆったりと歩く。 
木々の隙間から零れてくる日差しに、そっと目を細める。 
その優しい光に心が洗われる様な気がしてくる。 
俺は友人の勧めで、休日に森林浴とやらに来ていた。 

森林浴と言っても、一人ピクニックのようなもので帽子にブーツ、そして背中に背負ったリュックサックには重くならない程度の食料を入れてある。 
他にも、タオルや軍手、スコップに鋸やナイフになる便利十得などの探検道具のような物も入っている。 
自然の中に向かうというとこで年甲斐もなく、はしゃいでしまった結果だった。 
『なんか、本当にゆっくりしてるなぁ……』 
優しい木々の気配に抱かれながら、立ち止まり深呼吸をする。 
ここから数百mも歩けば、車の排気ガスの立ち込める人間社会に辿り着くとは思えないほどに清廉で静かな空間。 
空気の美味しさがまるで違い、普段歩いてるコンクリートの地面とはまるで違う柔らかい土と落ち葉が敷き詰められた地面はいくら歩いても疲れない。 
そこかしこで聞こえてくる虫の音や、鳥の囀り。 
『リスとかいるのかもなぁ……』 
木々を見上げながら、今度カメラでも買っても良いかも知れない、そうホクホクと感じながら首から下げた水筒から麦茶を一口飲み、また歩き出す。 
名も知らない綺麗な花、見たこともない虫。 
街中で見たなら見逃してしまうだろう自然そのものに注意深く視線を向けながら俺は奥へ奥へと歩く。 
といっても、ペースが遅いのでそんなに距離は進んでいない。 
『田舎暮らしとか、良いのかもなぁ』 
都会生まれ都会育ち、こんな林だって最近まで知らなかった俺はゆっくり目を細めながら田舎暮らしに夢を馳せる。 
実際はとても困難なことなのだろうけれど、俺にはとても素晴らしいことに感じられた。 
『いっそ、婆ちゃん家にでも置いて貰おうかな……』 
今の仕事を捨てることさえ考え始めたそのとき。 
「そこでなにそしてるのぜっ!!」 
『は?』 
急に声をかけられ足を止めて、周囲を見回す。 
林に入って1時間ほど、誰にも出会わなかった為に間抜けな反応をしてしまい、自分に声をかけた存在を探す。 
『あれ? さっき、声が……』 
「なにしているのかってきいてるのぜっ!!」 
『ん? ……あ』 
声のした方向を見る、目線をかなり下げた地面ギリギリにその声の主はいた。 
「ここはまりささまのむれのなわっばり なのぜ! さっさとでていくのぜ!」 
『なんだ、ゆっくりか……』 
地面ギリギリにいたのは、黒い帽子のゆっくりまりさ。 
ゲームキューブほどのサイズで、街で見かけるゆっくりより綺麗ではあるが土くさい感じがした。 
俺はさっきまでの気分を害された気分になって、無視して進むことにする。 
『ったく、こんなとこまでいるなよな……』 
「むしするんじゃないのぜっぇぇええええ!!! ここはまりささまのむれのなわっばりだっていってるでしょぉおおお!!!」 
無視してやろうとする俺の後ろをまりさは、跳ねながら追ってくる。 
ゆっくりと歩いていたので、まりさはどうにか食いついてくる。 
俺はゆっくりは好きでも嫌いでもないので無視をしようとしていたのだが、あまりに煩いので少しイライラして早足になろうとしたとき。 
「さっきからおさのことをなにむししてるの!」 
「なんていなかものなのかしら!」 
「むっきゅ、にんげんはあたまがわるいって ほんとうなのね!」 
『うわっ、また出た……』 
そこからの草むらや木の陰から、ゆっくりたちがワラワラと現れて俺を囲んでいく。 
何だこれ、と顔をしかめていると、息を切らせたまりさが俺にやっと追いついてきた。 
「ゆ、ゆへ、ゆは、ゆ、ゆぅ、に、にげるのは、もうおしまいなのぜ?」 
『…………』 
背後の足元を見ると、まりさがニヤニヤと笑いながら良く解らないことをほざいていた。 
どうやらまりさの中では勝手なシナリオは進んでいたらしく、いつの間にか俺が逃げていたことになったらしい。 
呆れて溜息をつく間にも、ゆっくりたちは増えていく。 
子ゆっくり赤ゆっくりもいるらしく、全部で50以上はいるだろう。 
別にゆっくりなんぞいくら増えても10分かからず皆殺しに出来るだろうけど、俺はこの自然を汚したくなかった。 
まぁ、ゆっくりがいる時点で大分汚れている気がするけど、そこは無視して、とりあえず跨いで通ろうとか考えていたとき。 
「ゆへ、またにげるのぜ? でも もうおそいのぜ、おまえはかんっぜんに りょういきをおかしたのぜ! これはせいっさいにそうとうするのぜ!」 
「そうだよ! しかもクソにんげんなんだからせいっさいはにばいだよ!」 
「むきゅきゅ、おろかなクソにんげんのだんまつまが いまからきこえてくるようだわ!」 
『はぁ……』 
俺は知らなかったが、こいつらは捨てられた飼いゆっくりがこの林の中で世代交代してきた群れで、人間に対して悪い感情と、自分達に従う存在だと間違った認識を持っている。 
捨てられるゲスの子孫なのだから仕方がないことなのかも知れない。 
そして、こいつらは林から出ることはなかったので、今までほとんど人間と交流したことがないので、力の差もまったく理解が出来ていない。 
高々数十匹のゆっくりで囲んだだけでニヤニヤしているのだから、それも解ることだろう。 
街のゆっくりならば、人間を見ただけで逃げ出すか土下座がデフォルトだ。 
人間はそんなゆっくりたちをイライラしたと蹴ったりすることもあるし、たまにいるゲスを潰したりは当たり前にする。 
何となくで命を奪えるほどの力の差が人間とゆっくりの間には存在しているというのに、このゆっくりたちは完全に人間を下に見ていた。 
それに何となくイライラしながら、せっかくストレス解消に来た先でこんな目に会うなんてと気分が重くなる。 
こいつらを振り切るために走っても良いが、わざわざゆっくり相手に疲れることをするのも面倒だ。 
何よりカバンの中には、弁当が入っている、走って崩れでもしたら目も当てらない。 
俺はどうしたものかと悩んでいると、長と呼ばれたさっきのまりさがニヤニヤ俺を見上げてきた。 
「こわい? こわいのぜ? いまから せいっさいされる きぶんはどうなのぜ?」 
何とも的外れな台詞に、他のゆっくりたちもニヤニヤ笑いながら俺に声を向けだす。 
「ゆぷぷ、きっとしーしーどころか うんうんまでもらしたい きぶんだよ!」 
「なさけないんだねー、わかるよー」 
「ほんっとうにクソにんげんはいなかものね、ありすならしにたくなるわ!」 
「ゆきゃきゃ、しーしーもらしのくしょじじー!」 
『…………』 
好き勝手ほざくゆっくりたちに、だんだんイライラしてきた。 
ここで全部潰してやろうかと半ば本気で考え出したけど、やはりこの自然を汚したくはない、そう考える。 
「それじゃあ、そろそろ……」 
「「「「「ゆっ」」」」」 
何やら長まりさは、そこでタメを作り。 
「せいっさいをはじめるのぜぇぇぇぇえぇぇえええええ!!!!」 
「「「「「「ゆぅぅぅぅぅぅぅん!!!」」」」」」 
お下げを振り上げて、何やら宣言をしだした。 
それに合わせて、周りのゆっくりたちは枝を持ったり、もみ上げをわさわささせたりしながら、ジリジリと近づいてくる。 
どうにも面倒なことになりそうな予感がした俺はとりあえず、長まりさをビシっと指差した。 
『まりさ、勝負だ!』 
「「「「「ゆ?」」」」」 
俺の突然の行動にゆっくりたちは動きを止める、森にさっきのような静寂が訪れた。 
ニヤニヤ笑っていたゆっくりたちは、それぞれ目を見合わせて身体を傾げる。 
長のまりさもポカンとしている。 
俺はそこで、もう一回しっかりと言ってやる。 
『長のまりさ、俺と勝負だ、ジャンルは、巣作り、狩り、喧嘩の三本勝負でどうだ? 俺が勝ったら制裁はなし、まりさが勝ったそうだな、あまあまでもくれてやるよ』 
「ゆ!? あまあま!?」 
俺の話をポカンと聴いていた長まりさは、あまあまの下りでやっと動き出した。 
それほどのゆっくりにとってあまあま、甘味は重要なものなのだろう。 
「あまあま?!」「れいむ、あまあまたべたいよ!」 
「むっきゅぅぅう!? あまあま、ほんとうにあまあま!?」 
「なんてとかいはな、ひびきなの、あまあま……」 
他のゆっくりたちもにわかに騒ぎ出した。 
無理もないだろう、餡子に刻まれた単語あまあま、しかし、この林の中で手に入るあまあまなんて花の蜜くらいのものなのだろうから。 
「あまあま! さっさとまりささまのよこすのぜ!」 
長まりさは、目の色を変えて俺に命令をしてきた。 
勝負の話は聴いていなかったらしい。 
『だから、勝負して勝ったらって言ってるだろ?』 
「ゆふん! そんなのするまでもなくまりささまのかちなのぜ! だからさっさとわたすのぜ!」 
「そうだよ! おさはすごいんだよ!」「おしゃはおうちつくりのたくみなのじぇ!」 
「そうよ! おさはかりだってうまいんだから!」「ちょかいはにゃありしゅのあこがれよ!」 
「そしてもちろんけんかだってさいきょーだよー!」「くしょにんげん、かんおけしゃんはよういしてありゅの?」 
「ゆっふっふ、みんないいすぎなのぜ……まぁ、たしかにまりさはおうちづくりとかりのたつっじんで、けんかはかみクラスなのぜ」 
うざいことこの上ない。 
人間の力を知らないにしてもサイズの差くらい理解してほしい。 
どこかで、ゆっくりは余りに大きいと認識できないと聞いたことがある、もしかしたらその話は本当なのかも知れないな、と溜息一つ。 
そして、なるべく馬鹿にしたような声音を喉で作り。 
『あー、なんだー、まりさは俺に負けるのが怖くて勝負から逃げてるんだー、本当は家も作れない狩りも出来ない喧嘩も弱い、ダメダメゆっくりなんだー、なっさけなーい』 
「ゆはぁぁぁあ!!? なぁぁあに もうげんたれながしてるのぜっぇえぇえ!?!?」 
とても簡単に食いついてきた。 
『えー、だってそうだろー、俺に勝てないから勝負から逃げる! んだろー』 
逃げるを強調して、無駄に、本当に無駄に高いプライドをくすぐってみる。 
「ゆぎぎぎぎっ! そこまでいうならやってやるのぜ! でも、まけたらおまえはあまあまけんじょうでせいっさいなのぜ!!」 
『はいはい、んじゃルール決めるから頭良いの連れてきてよ……いる? 頭良いの?』 
「ばかにするんじゃないのぜぇぇぇぇええ!!! おまえはもうぜんっごろしなのぜ!!」 
適度に挑発を繰り返して、そしてルールを決めることに成功した。 
ルールの説明と理解にかなり時間を食ってしまった。 
途中でなんでこんなことしてるのか解らなくなってしまったが、もうやり通すことにした。 
ルールは以下のとおり。 
第一種目[おうちつくり]
時間はまりさが完成させるまで
勝敗を決めるのは群れゆっくり、どちらの家に住みたいかで



第二種目[かり]
時間はまりさが集め終えるまで
勝敗を決めるのは群れのゆっくり、どちらの狩りの成果を食べたいか
その際に、どちらが作ったかは明かさないで審査させる



第三種目[けんか]
勝敗は相手にまいったを言わせる



とまぁ、こんな簡単なルールだ。 
こんなルールを説明して理解させるのに30分もかかってしまった。 
説明する間も、説明が終わっても長まりさを含め、群れのゆっくりはニヤニヤ笑っていた。 
既にまりさの勝利は決まっていて、俺を制裁することと、あまあまを食べることで頭がいっぱいらしい。 
『それじゃー、そろそろ始めるか』 
「ゆっ、いいのかぜ? もうすこしゆっくりしててもバチはあたらないのぜ……なんたってこれがさいごのゆっくりになるんだぜ!」 
「ゆぷぷ、ちからのさがわからないってあわれだね!」「なさけないのぜ、バカは」 
「にんげんのおろかさはめーりんいじょうね、むっきゅきゅ」「はぁぁぁ、いなかものねぇあのクソにんげんは」 
相変わらず勝つ気満々らしい。 
「ま、しかたないのぜ、そろそろはじめるのぜ! クソにんげんのこうかいしょけいなのぜ!!」 
「「「「ゆぉぉおおおお!!!」」」」 
『趣旨違うっつの……』 
そんなこんなで第一種目が始められた。 
長まりさはその辺をキョロキョロ見回して、口に咥えた枝で地面を突き刺したりしている。 
どうやら地面の柔らかさを確かめているらしい。 
言うだけのことはありそれなりに家を作るノウハウは持ち合わせているらしい。 
「ゆぷぷ、あのクソにんげん おさのてぎわにみとれてるよ!」「いまさらあやまったっておそいよ!」 
「きづくのがおそすぎるのぜ!」「ほんとうにバカね、にんげんって」 
『うっさいなぁ……』 
しばらく観察していただけでこの言い草だ。 
俺は何度目かの溜息をついて、作業を開始することにする。 
まずはリュックから軍手を取り出し、装着。 
そして、ナイフ、鋸などに変化するサバイバルグッズを取り出す。 
『工作は得意だ』 
俺は、まず地面を踏みしめて調度良い場所を探す。 
硬すぎず柔らか過ぎずの場所を探す。 
「ゆぷっ、みてよあのクソにんげん、くやしいからじだんだふんでるよ」「ゆっくりしてないねー」 
この際無視無視。 
良い場所を見つけたら、そこの周りの小石を取り除き均す。 
それが終わったら、そこら中から木の枝を集める。 
『なんだか楽しくなってきたな……』 
学生時代は良くプラモデルや、木工細工を作ったりしていたもんだから最近ではめっきりしなくなっていた。 
久しぶりに手に感じる工作の期待は、どうにも押さえきれない。 
周りのゆっくりどもの声なんか無視だ無視。 
チラッとまりさを見ると、場所を選定し終わったのか、その場所をさっきより太い枝で掘り進んでいる。 
ゆっくりたちは皆そっちを見に行ってしまったようで、俺はゆったり作業が出来る。 
今の内に逃げるのもありかと思ったけれど、やはりここは勝負をすることにした。 
『絶対に勝つ』 
集めた枝を鋸で長さを整えながらつぶやく。 
……。 
…………。 
「かんっせいしたのぜぇぇぇええええ!!!!」 
「ゆわぁぁあぁすごくゆっくりしてるよぉおおお!!」「むきゅ、これは、さすがね」 
「こんなおうちにすみたいんだよー!」「なんてとかいはな まんっしょんなの!」 
「ゆっぽんぎヒルズさんだね!」「さすがはおさなのぜ!」 
『ん? あ、出来たの?』 
俺が家を作り終えて一時間ほどして、歓声が聞こえてきた。 
俺は声の方に歩いて向かう。 
『よう、やっと完成した?』 
「ゆぁぁぁあん? まけいぬがなんのようなのぜぇぇえ?」 
声をかけた俺に、長まりさは自信満々の笑みを浮かべてきた。 
『まだ審査してないっつの』 
「するまでもないのぜ! このまりささま いじょうのおうちなんて そんざいしないのぜ!」 
「クソにんげんじゃ いっしょうかかってもすめない ごうっていだよ!」「むきゅ! ぱちぇがせっけいしただけはあるわ!」 
「コーディネイトはありすよ!」「まりさも土をはこんだのぜ!」 
「ゆっ! だめだよ、みんなそれはないしょだよ!」「ゆゆ!? そうだったわね!」 
『…………ふぅん、別に良いけどね』 
どうやら、長まりさは俺が作るのに夢中になっているときに、他のゆっくりを動員させて製作したらしい。 
実に汚い方法だけど、まぁ、それも仕方ないだろうと納得。 
『まっ、じゃあ審査に入ろうぜ』 
「ゆっ、わかってるのぜ、まりささまのかちはゆるがないのぜ」 
まりさの言葉もあながち嘘ではない。 
群れのゆっくりは長まりさが作ったお家を知っているのだ。 
そうなれば自然と長まりさの家を推すだろう。 
最初からこれはハンデマッチの超アウェーなのだ。 
それでも俺は負ける気は一切しなかった。 
そして審査に入った。 
まずはまりさのお家への審査だ。 
まりさの作ったお家は、ゆっくり一人分ほどの入り口の穴で、俺には内部は伺い知れないが、入り口の周りには花やら枝やらが置かれていた。 
これがコーディネートなんだろうかと無秩序にちらかされただけに見えるそれをゲンナリと眺める。 
しかし、審査する群れのゆっくりたちはそれを思う存分に褒め称えた。 
素晴らしいコーディネイト、広いお家と。 
似たようなことを延々と繰り返していた。 
俺も穴に手を入れてみたが肘まで入らない程度の深さで、巣のサイズは成体ゆっくり二匹分程度の広さだった。 
短時間で作ったにしては頑張った方なのかも知れない。 
『この程度か、まぁ、そりゃそうか』 
既に勝利ムードで騒ぐゆっくりたちを引き連れて今度は俺のお家の審査に入る。 
「ゆひゃっひゃ! もうまりささまのかちはきまったのぜ!」 
『さぁ、それはどうかな……ん、これが俺の作ったお家だ』 
「どんなひんっそうなおうちかみてや、るの、ぜ……」 
「おうち、これが、おうち?」「すごく、とかいは……」 
「なんだか、なつかしいきがするわ」「わ、わからないよ……」 
俺の作ったお家を目にして、ゆっくりたちはさっきまでの勝ちムードから一転する。 
あり得ない物を見たような眼差しに、俺の心が満たされる。 
俺が作ったのは小型のログハウスのようなもの。 
枝を切りそろえて、ナイフで薄く切った木や、蔦、草で頑丈にパーツを汲み上げた一品。 
作ってるうちにどんどん熱中してしまい、最終的には成体ゆっくりが5匹は余裕で入れるサイズになってしまった。 
入り口は寒さを防ぐようにやや小さめに作り、蔦で編んだ簾のようなものをかけてある。 
『中に入って審査してよ』 
ぽかんとしてるゆっくりに入り口の簾をどかしてみせる。 
「れ、れいむがいくよ!」「ま、まりさもいくのぜ!」 
「ちょ、ちょっとまちなさい! ここはとかいはにじゅんばんを!」「あれはちぇんのおうちだよ!!」 
我先にとゆっくりたちがお家に殺到する。 
中もそれなりに凝ってある。 
床が木では痛いだろうと、蔦に柔らかい葉っぱを通したものを何本も敷き詰め絨毯代わり。 
部屋の中央には移動させることの出来る机。 
部屋の隅には、成体ゆっくりに二匹が乗れるサイズの枝で組んだ枠、中にはナイフで削った大鋸屑が敷き詰められてふかふかだ。 
食料を貯蔵する箱も作ったし。 
完成させて暇だったからゆっくり用に皿なども作ってしまった。 
更に、雨が降っらそれを貯めておける桶も作った。 
かつて飼いゆっくりだった祖先の記憶が蘇るのか、ゆっくりたちは「ゆっくりできるよ」と涙を流しながら家の中でゆったりしていた。 
それを面白くないのは長まりさだ。 
「ゆぎぎぎ、こ、こんな、こんなおうち、まりささまのおうちのあしもとにおよばないのぜぇ……」 
歯を食いしばって、何やら呟いていた。 
まったくゆっくりしていない様子だったが、俺はゆっくり相手でも自分の家が認められるのが嬉しくてニヤニヤしてしまった。 
『いやー、まりさのお家も良かったけど、俺の方が人気みたいだねー』 
「ゆぎぃ!! みんな! そんなおうちからさっさとでるのぜ! さっさとでて しんさをして まりささまのかちをきめるのぜぇぇえ!!」 
「「「「「ゆっ!?」」」」」 
長まりさのヒステリックな叫び声に、俺のお家に群がっていたゆっくりたちは自分達が今何をしているか思い出しのか、気まずそうにこっちにやってくる。 
やってきても、チラチラとログハウス風のお家をチラチラ見ていた、名残惜しいのだろう。 
「さぁ! しんさのじかんなのぜ!! みんなどっちのおうちがいいかいうのぜ!!」 
「ゆぅ……」「どっちのおうち……」 
「ゆっくりしてる、のは」「とかいはな……」 
長まりさの言葉に群れのゆっくりたちは、ブツブツと呟く。 
俺のお家の方がゆっくりしている、しかし長まりさも裏切れない。 
そんな空気がありありと感じ取れた。 
「さぁ! さぁ! いうのぜ! まりささまのおうちがゆっくりしてるって、いうのぜぇぇええ!!!」 
「「「「ゆぅ…………」」」」 
長まりさの恫喝に、一同暗い雰囲気を出す。 
ゆっくりという生き物は嘘が苦手な生き物だ。 
どこまでも自分に正直で、本能のままに生きる。 
その為、自分の考えを曲げることは実に[ゆっくりできない]のだ。 
「いうのぜ! まりささまのかちをいうのぜ!」 
と、言っても長まりさのこの恫喝では、いずれ一匹くらいが長まりさの家が良いと言うだろう、そうなれば後は総崩れだ。 
そこで、俺は一言だけ告げる。 
『あぁ、もちろん俺はこの群れのものじゃないからあのお家は、俺の家を選んでくれたゆっくりにあげるよ』 
「「「「「「ゆゆゆっ!!!!」」」」」 
俺の言葉に、長まりさを含めその場にいた全ゆっくりが反応した。 
そして次の瞬間に……。 
「「「「「「こっちのおうちのがゆっくりしてるよ!!」」」」」」 
満場一致で俺の勝ちは決まった。 
家は一個しかないのに、全員が自分の物になると信じている様子で俺のお家をキラキラした目で見ていた。 
「な、なにいっでるのぜぇぇぇぇぇえええ!!! ま、まりささまのおうちのが、ゆ、ゆっぐりしてるのぜっぇええ!!」 
「ゆぅ、おさのおうちは、ねぇ」「せまいし、きたないし」 
「おちびちゃんをつくるスペースもないじゃない」「あんなのただのあななんだよー、わかれよー」 
「ゆっぎぃいいぃいいいい!!!」 
見事な手のひら返しに、まりさは涙を流しながらその場でジタバタと暴れていた。 
俺はそれをクスクス笑いながら眺める。 
「なぁあにわらってるのぜっぇえええ!! つぎの、つぎのしょうぶなのぜぇぇぇええええ!!!」 
『ん、あぁ、ごめんごめん、次ねはいはい』 
「みんなもいつまでもそんなおうちにはいってるんじゃないのぜ! つぎのしょうぶがはじまるのぜ!!」 
「「「「「「ゆ、わ、わかったからこわいかおしないでね」」」」」」 
順番で家に入っていたゆっくりたちは、名残惜しそうにぞろぞろ出てきた。 
赤ゆっくりたちはベッドで固まって寝てしまったらしく、そのままに放置されていた。 
「ゆっへっへ、ちょっとおうちつくりがうまいからって ちょうしにのるのははやいのぜ! まりささまのしんこっちょうはかりにあるのぜ!」 
「おさはすごいんだよ!」「ミミズさんでも、いもむしさんでもかんったんにつかまえられるんだよ!」 
「おいしいくささんも」「はなさんだっていくらでもとってこれるのよ!」 
さっきまで長まりさのお家をボロクソ言っていたゆっくりたちは、また長についた。 
実に適当な人間、いやゆっくり関係なんだろうかと笑えて来る。 
『まぁ、いいやちゃっちゃかやろう』 
「ゆっへっへ、まぐれはにどは つづかないってしらないのかぜ?」 
『じゃ、もっかい俺が勝ったら実力だろ』 
「ゆひゃひゃひゃ! あ、ありえないのぜ!」 
「まったく、クソにんげんはみのほどしらずねぇ」「おさにかてるわけないよ!」 
「おさはちぇんよりすごいんだよー!」「まりさのほこりなのぜ!」 
圧倒的な長まりさへの応援。 
苦笑しながら俺は適当に頷き、そして二回戦が開始された。 
長まりさは直ぐに跳ねてどこかに向かっていった。 
その後ろを何匹かのまりさや、ぱちゅりーが追っているのでまた今回も他のゆっくりの力を借りるのだろう。 
『まぁ、別に良いけどね』 
俺はゆっくりとゆっくりと離れていく長まりさを見ながら、リュックサックを漁る。 
……。 
…………。 
「ゆっへっへっへっへ、やっぱりまりささまはてんっさいなのぜ!」 
『ふぁ、あ、やっと来た』 
携帯電話を弄って待っていたら、何やら長まりさの声が聞こえてきた。 
俺はその声に呼ばれて向かう。 
『よう、いいのとれたか?』 
「ゆふん、あたりまえなのぜ!」 
長まりさはあちこちに泥をつけながら、大きく胸を張った。 
長まりさの前には大きな葉っぱに乗せら、大ぶりの芋虫が何匹も乗っていた、更に綺麗な花や、キノコまで揃っていた。 
『へー、やるもんだなぁ』 
俺はそれを見ながら、習って大きな葉っぱに俺の成果を載せる。 
「ゆぷぷ、なんなのぜそのゆっくりできないまっくろは? ゆぷぷ、ドロでももってきたのかぜぇ?」 
相変わらず勝ったつもりの長まりさに、肩をすくめて返す。 
そして、俺たちの元へ群れゆっくりたちが集まる。 
今回の勝負はどっちが二人のものか明かされていない。 
しかし、まりさは自信満々の笑みを崩さない。 
確かに、数匹で取って来たにしてもゆっくりにとってはごちそうなのかも知れない。 
群れのゆっくりたちは涎を垂らして、まりさの方の葉っぱを見詰めている。 
「さぁ、みんなたべてはんだんするのぜ!!」 
長まりさの声に、群れゆっくりたちが殺到する。 
まっすぐ長まりさの方に向かっていた、しかし葉っぱに近づくにつれてだんだんと動きはゆっくりになり。 
「ゆっ、このにおい」「すっごく、すっごくとかいはなにおいがするわ」 
「す、すごい、なにこれ……」「わ、わからない、よー」 
まるで呼び寄せられるように、群れのゆっくりは俺の葉っぱの黒い物体、一口チョコに群がる。 
それを見て、長まりさは口をあんぐりあけていた。 
それはそうだろう、仲間を動員して狩った成果が完全にスルーされたのだから。 
しかも、スルーした中には狩りに同行したゆっくりもいるのだ。 
群れのゆっくりたちは、俺の葉っぱを囲んでごくりと唾を飲み込み。 
一匹のぱちゅりーが恐る恐るチョコを舌で掴み口に運んだ。 
「むーしゃむーしゃ…………」 
「ゆっ? ぱ、ぱちゅりー? どうしたの?」 
口に含んで動きを止めたぱちゅりーに、心配そうに声をかけるれいむ。 
そして、10秒ほどの静寂の後に。 
「じ、じ、じじ、じ、じあばぜっぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇえええええ!!!!!!!」 
「「「「「「「ゆゆっ!?」」」」」」」 
ぱちゅりーは、しーしー垂れ流し涙を流しながらチョコの甘さを堪能した。 
その声に惹かれるように、我先にと他のゆっくりもチョコを食べる。 
「じ、じあばぜぇぇえ!!」「しゃーわせっぇええええ!!!」 
「しあわせ、しわせだよぉおおおお!!」「とっかいはあっぁぁあああ!!」 
食べた全員が転げ周り痙攣しながら、その美味しさを認めた。 
当たり前だ、虫や草しか食べてこなかったゆっくりがチョコを食べたらこうなるに決まっている。 
俺は持ってきたチョコを出したのだった、わざわざ虫を取るのも嫌だったので。 
俺の金で買ったんだ、狩ったに変わりない。 
『いやー、俺の方が好評みたいだね?』 
「ゆんぎぃぃぃいいいい!!!!」 
長まりさはさっき以上の歯軋りを見せてくれた。 
これまた笑ってしまった。 
まりさは口を利くのも大変そうだったので、俺が代わりにゆっくりたちに聞く。 
『さ、審査に入ろうか? どっちが美味しかった?』 
「もちろんこっちだよ! こっちがおさのだね!」「さすがはおさなのぜ!」 
「まさかあまあまとってくるなんて! さすがおさ」「むきゅぅ、けんじゃのぱちぇもよそうがいよ おさ!」 
俺の葉っぱを選んだ上での、長コール。 
長まりさは帽子で顔を隠してしまった。 
『えー、みんなこっちの葉っぱので良いのかな?』 
既に一欠けらも残っていない俺の葉っぱを指差し、もう一度質問する。 
「そうだよ! そっちのがよかったよ!」「おさ! こんどあまあまのとりかたおしえてね!」 
「おさはきせきのつかいてだったんだねー!」「さっすがおさ、とかいはなかりゅうどね!」 
『だってさ、ね、長?』 
「ゆぎぃぃい…………」 
答えを聞いて、改めて発表する。 
『こっち、さっきのあまあまが俺の方、長のはこっちでした、また俺の勝ち』 
「「「「「「ゆ?!?!」」」」」」 
俺の言葉に、ゆっくりたちはフリーズする。 
そして、ゆっくり長まりさに視線を向ける。 
「お、おさ?」 
「……べるのぜ」 
「ゆ? なんて 「たべるのぜ! たべてからはんだんするのぜ!!」 ゆ、わ、わかったよ!」 
長まりさの剣幕に、さっきまで騒いでた群れのゆっくりたちは気まずそうに、虫や草の元に向かう。 
「「「「「「…………」」」」」」 
そして、長まりさの葉っぱを囲んで全員沈黙する。 
ついさっきまでご馳走に見えていた芋虫や、草、キノコ、それらにどうしても食欲が湧かないらしい。 
さっき食べたチョコのせいで一気に舌が肥えたのだろう、本当に野生生物失格なやつらだ。 
「さぁ! たべるのぜ! たべればどっちがおいしいかわかるのぜ! さっさとするのぜぇっぇええええ!!!」 
「わ、わかったから、そんなこわいかおしないでね……ゆぅ」 
一匹のれいむが代表のように前に出て、気乗りしない表情で芋虫の端を齧る。 
「むーしゃむーしゃ、げろまずー……」 
舌が一気に肥えたれいむの味覚では芋虫は「げろまず」らしい。 
他のゆっくりたちはそれを見て、自分から食べる気もしないのか長まりさをチラチラ見てはさっきのチョコの味を思い出してニヤけていた。 
『いやー、まぐれは二度は、なんだっけ? ねぇ? ねぇ?』 
俺は完全勝利の気分に笑いを抑えきれずに、つま先で長まりさをツンツン刺激する。 
『で、どうする? もう俺の勝ち確定だけどどうする? 最後の勝負する? 逃げる?』 
挑発するように、わざと馬鹿にした口調で話しかける。 
「やってやるのぜ、さいごのしょうぶなんだぜっぇぇえぇぇえええええ!!!!!!」 
長まりさは、鬼の形相で雄たけびをあげた。 
頭から湯気が出そうなほどの怒りを見せる。 
プライドを完全に粉砕された結果か、目は血走り、食いしばった歯にはヒビが入っていた。 
「ちょこぉぉぉっとおうちつくりとかりがうまいからって、ちょうしにのるんじゃないのぜぇぇぇえええ!!!」 
『めちゃくちゃお家作りと狩が下手なまりさも調子に乗らないでね』 
「うるっさいのぜぇぇぇえええええええぇえぇぇええ!!! だばれぇぇぇえぇ!!!」 
長まりさはその場で何度もぴょんぴょん跳ねて、怒りを表す。 
「おうちつくりも、かりも! まりささまのつよさのまえではゴミどうっぜんなのぜぇええええ!!!」 
『へぇ、じゃあまりさはお家つくりと狩りが自慢だったみたいだけど、ゴミを自慢してたの?』 
「うるざいのぜ! いまからしぬおばえに、がんっげいないのぜぇぇえええええ!!!」 
群れのゆっくりたちは、長まりさへの気まずさ、不信感、そしてあまりの怒りに恐怖を覚えてか、遠巻きにこちらを見ている。 
何匹かは、チョコの乗っていた葉っぱを舐めていたが。 
「ばいざが、ばりざがさいっきょうのところみせてやんのぜえっぇぇえ!!」 
『よし、じゃあ最後の勝負だ……まぁ、もう俺の勝ちなんだけどね』 
「おばえはしぬからかんっけいないのぜぇぇええ! やってやんのぜぇぇぇえぇぇええええええええええ!!!!」 
長まりさは、怒りのままに全力でジャンプして俺の脚に向かって飛んできた。 
俺がしたのは……。 
『ほいっ』 
「ゆびぇぇぇぇえええ!!?!??!」 
サッカーで言うなら、練習パスを出すように軽く足を出して、向かってきた長まりさを蹴っ飛ばした。 
ただそれだけで、長まりさは大げさに吹っ飛び、一回戦で自分が作ったお家に頭からはまってピクピク痙攣していた。 
『これじゃあ待ったは言えないだろうけど、俺の勝ちだよな』 
「「「「「「ひぃっ!?!?」」」」」」 
群れのゆっくりに視線を向けると、怯えた声を出してしーしーを漏らす者もいた。 
群れの長たるまりさをこうも簡単に倒したのだから、怯えもするだろう。 
普段人から恐れられたりなんてまったく経験ない俺は、妙な高揚感があった。 
別に人を殴りたいとかは思わないけど、充足感と疲労が合わさり、とても気分が良かった。 
『んじゃ、俺の勝ちってことで……行くけど良い?』 
「は、はいぃいい!! どうぞ!!」「れ、れいむたちはおさなんかぜんっぜんしんじてなかったよ!」 
「そ、そうよ、クソ、じゃなくて、にんげんさんのかちをかくしんしてたわ!」「わ、わかってねー!」 
『露骨に媚売らなくて良いって、まぁ、楽しかったよ』 
俺はそれだけ告げて、リュックを背負って歩き出す。 
『あ、これ、赤ちゃんにも』 
ポケットにとっておいたチョコを、赤ゆっくりが眠る俺の製作のお家に投げ入れる。 
『いやー、まだ16時だけどいろいろやって疲れたから今日はもう帰ろう』 
帰りにホームセンターによって、木工細工の材料でも買おう。 
ついでに、コンビニで酒を買って、飲もう。 
予想以上のリフレッシュ出来たことに驚きながら、軽快な足取りで俺は林を抜けていった。 
後に残されたのは、後に残されたのは痙攣する長まりさと、それを冷めた目で見つめる群れのゆっくりたちだけだった。 
……。 
…………。 
『いやー、森林浴なんて久しぶりだなぁ』 
およそ一ヵ月後、俺は再び林に来ていた。 
ガラガラと猫車を押しながら、そこには成体ゆっくり3匹は入れるお家が5つ乗せられていた。 
あれから何故かミニハウス造りに凝ってしまい、その中の失敗作をこの楽しみを思い出させてくれたゆっくりたちにあげようと持ってきていた。 
ついでに、チョコレートも持ってきてある。 
『ゆっくりと遊ぶの案外楽しいからなぁ、俺もゆっくり飼おうかなぁ』 
以前より軽い笑顔を浮かべながら、どんどん進んでいった。 
適当に歩きながら、周囲を見回す。 
『あれ、この辺のはずなんだけどな……お、あったあった!』 
勝負の際に作ったお家を見つける。 
雨風に少しやられてはいるが、まだまだ壊れてはいなかった。 
その事実に嬉しくなり、声をかける。 
『おーい、お家もってき、うわっ!』 
声をかけたとたん、巣の中から小さな動物、リスが出てきた。 
手に何かの実を抱えたまま、さっと俺から距離をとった。 
『リスが、住んでるんだ……って、写メ写メ! あー、逃げられたかぁ』 
木の上に消えていったリスを残念に思いながら、俺は持ってきたお家をそこらに設置する。 
『にしてもゆっくりいないなぁ、引越し? せっかく持ってきたのに……まぁ、リスとかが住んでくれるか』 
俺は首を捻りながら、来た道を戻った。 
俺は知らなかった、あの後癇癪を起こした長まりさが群れのゆっくりからせいっさいされたことを。 
俺は知らなかった、このお家をめぐってゆっくりたちが争ったことを。 
俺は知らなかった、騒ぎで目を覚ました赤ゆっくりはチョコを食べて、もう他のものが食べられなくなったことを。 
俺は知らなかったし、これからも知ることはない。 
『ゆっくり飼ってー、俺が作ったお家に住ませてみたいなぁ、ゆっくり出来るって言ってくれるかなぁ』