「ゆうかにゃん、かぁ…」

5歳くらいの少女の映像が専用フォルダの中に溜まって来た。 
緑の髪、チェックの洋服に麦わら帽子と猫耳猫尻尾 
零れ落ちそうな大きくて澄んだ瞳は、ゆっくりの一種だとは思えないほど愛らしい。


「欲しいなぁ…」

スライドショーで切り替わる画像を、結局私は朝まで眺め続けていた。

小鳥の声に、カーテンを開くと 
窓の外につるして置いた野良まりさの三姉妹が夜露に濡れて震えていた 
晩春とはいえ明け方は冷え込む 
まして3日目の朝ともなると空腹も限界だろう 
口にかませたビニール紐で声を出す事もできないまま 
空ろな瞳でこちらを見ている。

助けてくださいとか、ゆるしてくださいとかそんな視線だ

その姿を見て、思いつく。

「おまえら、ゆうかにゃんになれよ」



【にゃん】



元は縁日で掬った金魚を飼っていた小さな水槽も 
野球の硬球位のサイズしかない三姉妹には十分過ぎる大きさらしく 
まだ怯えているが、それでも中に放り込んだ缶詰のパイナップルは 
最初の一口を口にした後は瞬く間に三匹の腹に収まった。

「食い終わったか?」

「「「ゆひぃ?!」」」

一声かけるだけで震え上がる三姉妹は見ていてとても滑稽だ。

「食い終わったらゆうかにゃんになれよ、ならないと殺すぞ?」

「「おねえじゃん!ごわいよぉ゛」」

妹らしい二匹の饅頭が、僅かに身体の大きい姉まりさの背後に隠れてみっともなく小便・涙・鼻水を垂れ流す。

「お、おにいさん!」

「なんだ?」

「まりさたちには、おにいさんがなにをいっているのかまるでわからないよ!」

ふむ、我ながら確かに脈絡のない話だったか 
妹二匹よりは利発らしいとはいえ、子ゆっくりに気づかされるとは 
寝不足で思考力が落ちているだけでなく、よっぽど画面の向こうのゆうかにゃんに執心しているらしい 
ゆうかにゃんのこと以外が、すごくどうでもいい。

「ああ、ゆうかにゃんというのはな」

プリンタで持っている限りのゆうかにゃんの画像をコピーして、まりさたちに見せてやる

「この仔のことだ」

「ゆ…、ゆうか?」

「でもしっぽさんが…」

「みみさんも…」

困惑しているらしい、がもうこれ以上待ちたくない。

「この仔になれ、出来ないなら死ね、必要なものは用意してやろう」

「ゆ!?いみがわからないよ!!!」

さっきからわからないわからないとばかり…少しは自分で考えられないのか

「ちぇんじゃないんだから、わからないと言えばいいわけじゃない事くらいわかるだろう?」

――?

ちぇん、ちぇんか

「そうだな、耳と尻尾はちぇんのが有る」

「お、おにいさん?」

「少し待っていろ」

階段を下りて、冷凍庫の中で断末魔のまま固まっているゆっくりのなかからちぇん種を一匹取り出し 
レンジで暖めたお湯の中に放り込む。

「……にゃ、ぁ……」

ゆっくりと解凍され、元のやわらかさを取り戻すにつれ 
冷凍され仮死状態だったちぇんが、身体を痙攣させ始める。

流しに湯ごと放り込み、湯気を上げるちぇんを拾い上げて 
まな板の上で耳と「あ゛に゛ゃ!?」尻尾「わがらないよ!!!?」を切断し 
残りはコンポストに放り込む 
「いだいよおぉぉぉ……」

「ひさびさの、とかいはな、ゆっくりね……」

「ッヒ!?」

「おいしそう、だわあなた」

「わがらッ!!」

再び自室に戻り、水槽の中に落としたての猫耳と尻尾を放り込む

「使え、とりあえずあとは任せるぞ」

「おにいさっ」

「俺が起きるまでに一定の成果を上げておけ、でなければ殺す」

押入れの中に放り込んで、眠い目をこする。 
コレで起きた時にはゆうかにゃんができていれば、最高なんだがなぁ…

まぁ、結論として結果は散々だった。

なぜか長女が二つに割れていたのはソコソコ笑えたが 
妹二匹のうち一匹は姉の姿と放り込んだままになっている耳と尻尾が 
相当のストレスだったのか、発狂して「うふうふ」言うだけの饅頭になっていた。 
もう一匹は癲癇を起したようにひきつけながら泣いていた。

だがまぁ、材料としての価値にはいささかの翳りも無いわけで

面倒なのは変わりないが、まぁ一眠りしてリフレッシュしたのだから 
俺が自分で改造するかなぁ…

狂ったまりさ(おそらく次女)を取り出して帽子を取っ払い 
適当に頭を二箇所切り落として耳を乗せ 
水溶き小麦粉を塗りつける。

その姿を、末っ子のまりさが血を吐くような瞳で凝視している。

「ゆっくりしていってね!」

おれはふたたび階段を下り、さらにキッチンから地下室へ。 
肉屋でつるされる牛や豚のように、胴付きのれみりゃが12匹 
こちらは冷凍せずに単なる首吊り状態で天井からぶら下がっている――から 
一匹を力任せに引きちぎる。

「お、ぼゴっぎィ………!!」

ブチンといい音を立てて首が千切れる。 
切断面から湯気の上がる肉まん人形を肩に担いで、再び自室へ。

次女まりさの足を丸く切り取ってれみりゃの切断面とドッキング 
尻尾をつけて…金髪には最後に食紅をぶっかける。

ゆっくりの髪を染めるなら、食紅をつかえば綺麗に染まる。

というわけで完成!オリジナルゆうかにゃん!!

「キモイから出て行け」

あまりの醜悪さに家から放り出す。

おまけに末っ子も逃がしてやる、あぁ…給料でたらゆうかにゃん買おう 
売ってるといいなあ


  *   *   *


「おねえちゃん!おねえちゃん!!」

末っ子まりさは混乱しつつも、姉に必死に語りかけた。 
この世界に残された、たったひとりの餡を分けた家族だ

例えどんな化け物になっても自分の最期の家族から離れる事は、まりさにはできなかった。

「にゃん、にゃん、うふ、うふふ……」

「おねえじゃん!ゆっくりしてぇ!!!」

フラフラと、頼りない足取りでつなげられた成体れみりゃの胴体で歩く。

一歩歩くたびに、一瞬ボコォッと小さな姉まりさが膨れ上がる。

「ゆひ!?」

まりさには理解しようが無いが、ようはポンプの様になっているのだ

まもなく胴体が足をもつれさせ、盛大に転んだ瞬間

「おぶげれれれれれレエエレレレレ!!!!!!」

「お゛ね゛え゛ちゃ゛ん゛ん゛ん゛!!!!!!」

わけのわからない熱いものを吐き出して、次女まりさは死んだ。

「う、うわ、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

逃げ出した末っ子まりさは、その日の内に心優しい人間の少女に拾われ 
薄汚れた身体をお風呂で洗ってもらいながら溶けて死んだ

ゆうかにゃんは品薄で手に入らず

まりさ姉妹は死に絶え

男のフォルダにはゆうかにゃんの画像が増え続ける。

少女が呟く

「おふろのお湯が汚れちゃった…」

男が呟く

「ゆうかにゃん、ほしいなぁ…」

地下室の開いた首吊り紐を見上げて

どこかのひまわり畑で小さな寝息がする 
受け渡される金銭、やり取りされる数枚の書類と、アイドリングするトラック。

【ゆうかにゃん×1:入荷しました】

【おわり】

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挿絵:くらっかーあき