びょうびょうと、雪が咽び泣くように吹雪いた。 
 洞穴の中、その群れ飢餓に喘ぎ、苦しんでいた。 
 いや、『群れ』というよりは家族レベルの数だ。ありすとぱちゅりー、そして数匹の子ゆっくりと赤ゆっくり。少し見ただけなら、番とその子供たちに見えるだろう。 
 しかし、その子供たちはれいむ種、まりさ種――本来、ありすとぱちゅりーの間では生まれない子供ばかりだ。 

「むきゅ……だいじょうぶ、ありす」 
「だいじょうぶよ。なんたって、ありすはとかいはなんだから」 
 頬のコケたありすは、それでも心配をかけないように冗談めかして笑った。 
 ――悪夢の始まりは地震だった。 
 大きな揺れだ、と思った時には何もかもが遅かった。壁が嫌な音と共に崩落し、ありすの番であるまりさ、ぱちゅりーの番であるれいむ――そして、貯蔵しておいた食料が埋まってしまったのだ。 
 これが冬篭りをしてすぐの時ならば、寒いのを我慢して食料を探しに出かける事ができただろう。 
 しかし、外は止む事のない吹雪と、ゆっくりの生命活動などすぐさまに停止させてしまう極寒の世界だ。今、外に出るのは自殺と変わりない。 
 少し吹雪が弱まったら――とパチュリーは考えていたが、ここ一週間、まるで止む気配がない。 
(むきゅー……おちびちゃんたちには、わたしやありすの餡子をあげれば大丈夫だけど。それじゃあ、ぜったいもたないと思うわ) 
 森の賢者と呼ばれた餡子を必死に動かし、解決策を思い浮べる。 
 埋まった食料を掘り起こせば全てを解決できるのだが、この前それを行ったら、壁にヒビが入ってしまった。下手に動かせば、洞窟全体が崩落するかもしれない。 
 しかし、外には出られない。自分たちの餡子だって限界がある。 
 積み。行き止まり。ゲームオーバー。 
 そんな単語が頭に浮かぶたびに、「むきゅきゅっ」と体を左右に振りそれを追い払う。 
「おかーしゃん……」「みゅきゅー……みゃみゃー」  
「ん……むきゅ、大丈夫。大丈夫」 
 己の髪で子供たちを抱きしめながら、ふと、先程からありすの声がしない事に気づいた。 
「むきゅ……? どうしたの、ありす」 
「しっ……! 誰か、こっちにきてる……! いなかものかもしれないわ……!」 
 ありすの言ういなかものとは、こちらに危害を加える存在である。 
 それは、人間だったりゲスゆっくりであったりオオカミであったり――ともかく、自分たちの力ではどうにもできない力で、こちらの自由を――場合によっては生命すら奪う奴らだ。 
 そっと、ぱちゅりーも耳を済ませた。 
『っく……っり……ね!』 
(ゆっくり? お外がこんなに寒いのに?) 
 同じ違和感を抱いたのだろう、ありすも不思議そうな顔をしている。 
「ゆっ! まりさ、ゆっくりできそうな場所があるよ!」 
「ほんとなのぜ?」 
 れいむとまりさの番らしき二人は、ぱちゅりーたちの洞穴に入り込んできた。 
 こんな寒い中歩いてきたからか、体は雪塗れである。けれど、特別寒そうにはしておらず、ゆっくりとした表情をしていた。 
「むきゅ……はじめまして、ゆっくりしていってね」 
 背後でありすが子供を奥に隠そうとする気配を感じる。食料を探してきたゆっくりなのだとしたら、子供たちなど一瞬で食べられてしまう。 
 だが、自分が率先して食われにいけば、お腹が一杯になって食べるのをやめてくれるかもしれない。 
 しかし、二匹はぱちゅりーの悲壮な覚悟に気づいていないのか、とてもゆっくりとした表情で、 
「「ゆっくりしていってね!」」 
 と言った。 
 ……とりあえず、会話は成立するらしい。 
 ぱちゅりーがほっと溜息をつくと、ありすが不愉快そうに口を開いた。 
「いきなり、ありすたちの巣にはいってくるなんて、とかいはじゃないわ」 
「ゆゆっ! ごめんね。お外で遊んでたら雪が降ってきて!」 
「ゆっくりとねむれる場所をさがしてたんだぜ!」 
「バカ言わないで! こんな寒いのにおそとで遊べるわけないでしょ!」 
 ゆう? と。れいむとまりさは本当に意味がわからないと言うように首をかしげた。 
「……おはなしはむっきゅり分かったわ。けど、ここには最低限のしょくりょうもないから、あなたたちとは一緒にゆっくりできないのよ」 
「ゆ! ゆっくりできないのは大変だよ!」 
「そういえば、皆ゆっくりしてないぜ? どうしたんだぜ?」 
「みればわかるでしょ! お腹が空いてるのよ!」 
 ありすの怒鳴り声に子ゆっくりたちが泣き出してしまう。その姿を見て、れいむとまりさは顔を見合わせ、「ゆっ」と頷いた。 
「「みんな!」」 
 じゃん、とぱちゅりーたちの前に立った二人は。 
「「さあ、おたべなさい!」」 
 びり、と。体を引き裂き、食べやすいサイズに自分からなった。 
 中の餡子が、しっかりと見えていた。 
「え……? む、きゅ?」 
 頭が真っ白になった。アリスも子ゆっくりたちも、きっと同様だろう。 
 自分だって、最悪同じ事を子ゆっくりにしていたとは思う。しかし、それは餡子をわけた子供と、同じ境遇となったありすの子だからこそできることだ。 
 見ず知らずのゆっくりに対し、こんな事をするなんて、『異常』の一言である。 
「「おたべなさい! たべないと……ふえちゃうぞ!」」 
 瞬間。断面が消え、新たな皮が生成された。欠けたパーツがすぐさま復元し、れいむとまりさは、れいむ×2まりさ×2となる。 
「――!? ――!?」 
 ――森の賢者と呼ばれた彼女にも、わからないことがあるのだ。 
 しーしーをしながら目を真っ白にしているぱちゅりーをみながら、ありすはそう思った。 



「それは恐らく、原始の餡子ゆっくりだね」 
「むきゅ、原始の餡子ゆっくり?」 
 その後、まりさとれいむを食べる事で食糧問題をクリアーしたぱちゅりーたちは、すぐさまドスの元へと駆け寄った。 
 あの不思議なゆっくりについて、ゆっくりしてられないほど知りたかったのだ。 
「そうだよ。ぱちゅりーたちは、私たちゆっくりがなんであるか、知ってるかな?」 
「えっと……にんげんさんが食べてる饅頭に近い生き物よね?」 
 ありすはカスタードだけどねっ、と子供を頭に乗せてあげながら言うと、ドスはゆっくりと頷いた。 
「それは正解でもあるし、間違いでもある。……ゆっくりはね、元々は妖怪だったんだよ。我々と同じ姿だけど、中身は不明で、お茶を飲みながら人間さんに『ゆっくりしていってね』と言って回る、ちょっと変わった妖怪だったんだ」 
 ドスの帽子の先が揺れる。その上では、れいむとまりさが走り回っていた。 
「いつ頃だったかな。誰かがゆっくりの中身は餡子だ、って言ったんだよ。妖怪の中でもあまり強い力をもたないゆっくりは、それにすぐ影響されて、『生きている饅頭』に変わった」 
「むきゅ、そんなことが可能なの?」 
「もちろんさ。妖怪と幻想は切っても切り離せない関係にあるからね。それに、私たちは元々安定した幻想から構築された妖怪じゃないからね。不安定な分、人間さんの言葉にすぐ影響を受けてしまう」 
 髪の毛さんだって、生えると思わなくちゃ生えないだろ、とドスは優しく教え諭してくれる。 
「人間さんが私たちを弱い饅頭だと言えば、弱い饅頭の固体が百生まれる。何人かの人が、ゆっくりはうざいと言えば、うざいゆっくりが千匹産まれる。それらが交配し、新たなゆっくりが生まれる。私も、か弱いゆっくりを守るために産まれた幻想なのかもしれないね」 
「むきゅ、ということは、あのれいむとまりさは、ドスよりも長く生きてる? だって、かよわいって幻想がうまれる前に産まれた個体なわけしょ?」 
「そうだね。きっと、私なんかよりもずっとずっと前から、人間さんやゆっくりをゆっくりさせようとしてると思うよ」 
 ゆっくりし、ゆっくりできてないゆっくりや人間をゆっくりさせ、ゆっくりと遊ぶ。 
 それがきっと、あの二匹の生活なのだろう。 




「「ゆっくりしていってね!」」 
 春の日差しの下、れいむとまりさは、とてもゆっくりとした顔をしていた。 
 廃れ、この幻想郷ですら薄れ掛けていたその二匹は、今日も元気にゆっくりと跳ね回っている――