「そおい!」 
 バッドをフルスイング。直撃、破裂、壁に餡子の花が咲く。 
「ゆんやああああ! こにゃいでええええ!」 
「ゆっくりしてええええ!」 

「おらおら、どうしたお前ら。自分の家なんだろ、ここ。邪魔者なんだよな、俺。なら、さっさと制裁してみやがれええ!」 
 拳を突き出し、皮を突き抜け、餡子を貫く。中心にある中枢餡を握り、砕く。ゆげえ、と醜い断末魔が漏れ出した。 
「おいおい、なんだァオイ。前に侵入してきた家族は、もちっと骨があったぞ?」 
 俺は、床でしーしーを漏らしながら震える子ゆっくりを見て、にたり、と笑った。 
「さあ、泣いて喚いて足掻けよ」 
「ゆんやあああああ! やああああ!」 
「おい、どうしたんだよ」 
 俺は子ゆっくりを摘みあげ、 
「ゆっくりしていきやがれえええ!」  
 口に放り込む、咀嚼した。 

 ――【始祖ゆっくりと虐待おにいさん】 

 家の窓は基本的に開けっ放しだ。 
 この辺りにはゆっくりも多く、その行為は褒められるものじゃない。 
 なら、なんで開けてるのか? 簡単だ。公然と虐待できるゆっくりを呼び寄せているんだ。 
 ゆっくりには人間に劣るものの、動物以上の知識を有し、街ゆっくりにはある程度の権利が保障されている。 
 普通に買い物を行うゆっくりも多いし、つい数ヶ月前にコンビニのバイトにゆっくりを用いたコンビニが登場した。 
 数は3程度までしか数えられないが、子供レベルの思考は出来るため、道具の使い方を覚えたら簡単な仕事を任せられるわけだ。 
 もっとも、ゆっくりに仕事を奪われた労働者がゆっくり虐待を行う事もあるが、これに関しては厳しく罰せられている。 
 ゆっくりにはある程度の人権――この場合ゆん権か?――を保障されており、それを侵害する事は許されていない。 
 これで虐待は消えたか? と言えばそうではない。 
 森から来たゆっくりには街の倫理は通じない。勝手に家に侵入し、お家宣言をするのは大抵山や森に住む野良の連中だ。 
 最初は融和の対策を用いられたが、わざわざ住み慣れた森から人間の街に来る連中は多くの場合、群れから追放されたゲスである。 
 そいつらは、同じ言葉を話しているだけで、会話が成立しない。勝手に己の理屈を並べ立て、人間にたてついてくる。 
 このゲス種の登場によって、人間とゆっくりに確執が生まれる。それを怖れた国は、『そいつらのみ潰す事』を許可した。 
「そろそろ、来てもいい頃だがな」 
 要するに俺は、公然と虐待を行う為、常に窓はフルオープンにしているのだ。 
 もちろん、ゆっくりが触れる範囲には貴重品などは置かないし、テレビなどの周りにはゲスゆっくり避け用の唐辛子スプレーを定期的に噴射している。 
 今日は来ないのかな、と溜息をついて、俺はテーブルに着き、 
「ゆっくりしていってね!」 
 でん、と陣取るゆっくりれいむと目が合った。 
「おにーさ」 
「いいいいいやっほおおおおおおおおおう!」 
 サーチ・アンド・デストロオオオオオオオオイ! 
 俺の拳がれいむの頬に突き刺さり、弾け飛ばす! 
 ヒャッハアアー! よく跳んだぜええええ! 
 自分でもハイテンションにも程があるだろうと思うが、ハイパー虐待タイムに入った俺は止められない止まらないカッパエビセン状態なのだ。 
 ぼよん、ぼよん、と鞠のように跳ねたゆっくりれいむは、もぞもぞと起き上がる。 
 さあ、泣くか? 喚くか? それとも新たなリアクションをしてくれんのか!? 
 俺の最上級の期待。それに答えるように、れいむは口を開いた。 
「いたいね! けどそんなことより、いっしょにゆっくりしようよ!」 
 こいつ、なんてタフなんだ! 
 俺の一撃を喰らって、泣きも怒りもしない、それどころか「いっしょにゆっくりしよう」ときたもんだ。 
 俺はかつてない興奮に包まれていた。こいつを泣かせる時、俺は虐待お兄さんの頂点を極められるだろう、と。 
 バッドを片手に、力の限り叫んだ。 
「ゆっくりしていきやがれえええ!」  
 力の限り振るったバッドは、れいむの体をぽよんぽよんと――なにいいいいいい!? 
「ゆわーい。ゆっくりおもしろいよー」 
 跳ね回ってる!? 傷一つなく、むしろ楽しそうに!? そんなバカな、あれが俺の全力全開虐待ブレイカーだぞ!? 
「打撃は駄目か? なら、火だ!」 
 俺はすぐさまサラダ油を取り出し、れいむの口に注ぎ込んだ。「ゆぶへえぇ……ゆっくりとしたおてなみで」って、普通に飲むな! 
 だが、その余裕な表情もそれまでだ。俺はすぐさま使い捨てライターに火をつけ、れいむの口に投げ入れた。 
 瞬間、ボン! と燃えるれいむの体! ヒャッホオオイ! 燃えろよ燃えろよ、炎よもえろっはあああアアアイ! キャンプファイヤー(虐待)でダンス(踊)っちまいなァ! 
 ゆるゆる、と火が治まっていく。あ、まずい。床は燃えてないけど、れいむの悲鳴きいてねえ。 
 失敗だったか、と思った矢先。黒々とした塊が、ぴょいん、と跳ねた。 
「うわああああああああ!?」 
「ゆっくりともち肌になったよ! おにいさんありがとう!」 
 コゲが床にボロボロと落ちて、もちもちの素肌が露になっていく。うわー、綺麗な肌ーって違ぇよバカ! 
「かくなる上は……!」 
 油を鍋に注ぎ、火をつける。しばし時間を置き、油は沸騰する。れいむはゆっくりとしていた、くくく、これからお前は死ぬというのにバカな奴め。 
「今宵は揚げ饅頭ぅァアアアァヒャアアアアイ!」 
 むんず、と持ち上げ、投擲! ウェルカム油の海へ、グッドバイ現世! 
「ゆふーん。お風呂はあついのにかぎるよね! おにいさんわかってる!」 
「テメエどういう体してやがんだ!?」 
 全世界の虐待お兄さん、助けて。俺の常識がレイプされて別の常識を孕まされてます。 
 俺が真っ白になっている頃、「ゆっくりと上がったよ!」とテーブルに戻ってくるれいむ。うわーい、小麦色にやけてるーう。こうばしいー。おいしそー……そうか! 
「どんな耐久力があっても、しょせんは饅頭じゃねえか! カモン! ジャスティスブレード!」 
 叫び、愛用の包丁を取り出し、必殺、真っ向唐竹割りゃああああああああ! 
 れいむの脳天に包丁を叩きつけ、見事に両断! 全世界のおにいさん、見えますか、餡子が丸見えです、なんていやらしい…… 
 その片割れを口に含む。うむ、うまい。 
「れいむもー、れいむもー、れいむもあまあまー」 
 うるせえちっと黙っ――……馬鹿ニャあああああ!?  
 半分のままこちらを見上げるれいむ。うわー、なんていい加減なナマモノだ、ゆっくりの中でもトップクラスにいい加減だね! 
「お前の体じゃねえか! 食えるもんなら食ってみろ!」 
「ゆわーい、ありがとー」 
 俺が叩きつけた己の半身を、はむはむとかむれいむ。共食いどころか自分食いですか、もうなんでもいいよ。 
「お前、なんなんだ一体」 
「ゆう?」 
 微妙に左右非対称(たぶん俺が食った分が減ったからだろう)なれいむは小首をかしげるような動作を行った。 
「れいむはれいむだよ?」 
「だよなあ、普通にゆっくりだよなあ」 
「おにいさん、ゆっくりしてるね! いっしょにゆっくりしようよ!」 
「――あーもう、勝手にしてくれ」 
 それが、俺とれいむの出会いだった。

【おわり】