庭の一角に置いた耐水性のあるダンボールのおうちにゆっくりの一家を飼っている。 
飼っているといっても住む場所と食べ物の援助をしてやっている以外は殆ど放置している状態だが。 


ダンボールの入り口に立ててある風除けの板をどかして一家の長である親まりさが餌を受け取るためにゆっくりと這い進んでくる。 
このまりさ一家が最初に俺の家に来た時は、厚かましくも家を乗っ取ろうとしたり俺を奴隷扱いにしようとさんざん悪態をついてきたものだが今は見る影も無い。 
ヨレヨレでところどころ穴の開いたみっともないお帽子は、以前に俺がまりさをボッコボコにしてやった時に目の前で踏み潰してやった名残だ。 
それ以来、親まりさは俺に対してやたらと卑屈になり、家に上げろともここはまりさのゆっくりプレイスだから出て行けとも言わなくなった。 
疲れきった表情と、ビクビクした目つきで俺を見上げる親まりさに、今日も餌を入れた皿を投げつける。 
顔面に皿がぶつかり、帽子や顔中に餌をぶちまけられて悲鳴をあげる親まりさは 
「ありがどうごじゃいまず! きょうもごはんをありがどうごじゃいまず! ゆっぐりでぎまず!」 
と地面に顔を擦り付けながら俺に感謝の言葉を述べた。 

そして散らばった餌を必死でかき集めて、のたのたとダンボールのおうちの中へと戻っていく。 
餌は安物で1グラムあたり2円の粒状ゆっくりフードだ。 パサパサしている上に味も殆ど無い。 
小麦粉をそのまま食ってるようなもんだろう。 だが食えるだけ幸せだ、飢え死にはしない。 
一家の内訳は親まりさ、親れいむ、子まりさ1匹に最近生まれた赤まりさと赤れいむが2匹ずつ。 
計7匹で餌を分け合うが、足りているとは思えん。 
それもそのはず、元々この量は親まりさ・れいむと子まりさの3匹分の餌なのだが、一週間前に親まりさ・れいむがすっきりーして子供を増やしてしまったのだ。 
別に俺はそれを知っても気にも留めなかった。 
ゆっくりはとかく沢山の子供を欲しがるものだし、この一家も当初は親子合わせて10匹の大家族だった。 
それを、俺が親をフルボッコにした上で子を間引きしてやったのだ。 
恐怖に泣き喚きながら命乞いをして何とか助けてもらった最後の子まりさを、親まりさと親れいむは溺愛した。 
が、やはり子供が一匹だけというのは寂しかったのだろう。 
作ってから親まりさは俺の顔色をうかがいながら、増えた分だけ餌も増やしてくださいと懇願に来た。 
親まりさには餌皿を叩きつけて答えてやり、親れいむには子らの生えた茎を握って「引っこ抜くぞ?」と脅したら両方ともガクガク震えながら何も言わなくなった。 
そして俺はぷくーとか膨らんで威嚇している子まりさにしこたまデコピンを加え、餌は変わらない定量のまま飼いつづける事を宣告した。 

最初はどうなるのかと思っていたが、親たちが自分の食べる分を減らすことでどうにか子供らを飢えさせずに凌いでいる様だったが、とても満足させているとは思えない。 
今日も、ダンボールの中から子ゆっくり赤ゆっくりたちの「ゆんやぁー!」「おにゃかすいたよぉー!」という悲鳴が聞こえてくる。 
餓死したければ餓死すればいい。 ここを出て行きたければ出て行くがいい。 
親まりさは痛めつけられた時に這いずるしかできない体になっているし、親れいむも代わって一家全員の餌を集めるほどの能力は無いというし。 
だが不思議なもので、この一家を痛めつけて子の多数を殺した当人でありながら、俺はこんな一家を哀れにも思った。 
このまま放り出したら確実に一家は路頭に迷って飢え死にするだろう。 
だから、温情で住む場所と食べるものを施してやっているのだ。 
子供を増やしたことに関しても完全にこいつらの責任だ。 養えない子供は作るべきじゃあない。 
それでも生きている限りは最低限助けてやろう。 
ゆっくりという生き物はウザムカつくし不愉快な存在ではあるが、俺とて鬼にはなりきれないのだ。 

さて今日も、ダンボールおうちの前にしゃがんで中の様子を窺う日課だ。 
ゆっくり一家の会話は結構外に漏れてくるので、中を直接見なくてもどんな風に生活しているのかがわかる。 
家にいるときは暇さえあればこうして観察をしている。 まあ基本的には寒い、お腹空いた、ゆっくりしたい…の会話の繰り返しだが。 

「おかーしゃんまりしゃおかなすいたぁぁぁぁ! もっとむーちゃむーちゃしたいぃぃぃ!」 

こういってジタジタとおうちの床を踏み鳴らすのは、一家の子供達の中で最年長となった子まりさだ。 
たった一匹残されて可愛がられた時期があったせいか、我侭に育っている。 
赤ゆっくりたちが生まれた当初は「まりしゃ、おねーしゃんになりゅよ!」とか言って喜んでいたが姉としての自覚は芽生えるまでに至っていないようだ。 
腹をすかせているのは妹たちも同じだろうに、大声で親に不満をぶちまけている。 
親たちの「ゆううう…おかーさんたちもがまんしているんだよ! ゆっくりりかいしてね!」という困り気味の声も聞こえてくる。 

「まりさぁ……どうしよう……もうげんかいだよ! こどもたちがお腹すきすぎてげんきがないし、 
この間なんか、おちびちゃんがあかちゃんの分のごはんをよこどりしちゃったんだよ!」 

親れいむが泣きそうな声音で夫にこぼす。 
昨日見たときは親れいむの頬もずいぶんとこけてやせ細っていた。 
どうやら親れいむは自分の分の餌を分けるだけでなく、自分の餡子を吐いてそれを子供らに食べさせるというような事もやっているらしい。 
自分の身を削る辺りは母親としてまあ愛情深い個体ではあるようだ。 

「ゆう…そういうことしたら、ちびちゃんをしからないとだめだよ。 ちびちゃんはゆっくりはんせいしてね!」 

「だめだよ…ちびちゃんもお腹すきすぎてそういうことしてるから、おしおきとかしたら死んじゃうよ…」 

両親も飢えのあまり子供達、特に子まりさが問題行動を起こし始めているのを由々しく思っている様だが、子への愛情と良いとは言えない健康状態が枷になって強く抑止することが出来ないようだ。 
俺は姉妹の餌を奪う元気があるんだったら別に軽くお仕置きしても死にはしないと思うのだが。 

「ゆう! まりしゃなんにもわるくにゃいよ! いもーとたちがまりしゃのごはんをとっちゃうからわるいんだよ! 
おかーさんたちはいもーとたちをせーしゃいしちぇね!」 

「「ゆうううう!?」」 

子まりさが会話に入ってきて、とんでもない事を言い出した。 
確かに、子まりさの餌が足りないのは親たちが赤まりさ・れいむ達を生んで増やしたからなのだし、正しい一面ではあるが果たしてそれが仮にも家族、姉妹への発言であろうか。 
しかもお仕置きではなく「制裁」をしろとは……多分言葉の意味はわかってないんだろうな。 
どこでそんな言葉を覚えてきたのかも不明だが。 

「いもーとがうまれなかったら、まりしゃはゆっくりできてちゃよ! 
まりしゃがいちばんにかわいがられちぇたんだよ! まりしゃはかわいいまりしゃなんだよ! 
おかーさんたちはどうしちぇまりしゃをゆっくりさせにゃいの!?」 

まあ、妹が生まれるまで自分が一身に両親の愛情を受けて育ってきたんだから、子まりさにとってはそうだろうな。 
子まりさにとっては妹は邪魔者という見方もあるのかもしれない。 
それに、子供を増やしたのは完全に親の責任だし。 

「ゆー! おねーちゃんまりちゃがきりゃいにゃのー?」 
「れーみゅ、おねーちゃんとゆっくちしちゃい! ゆっくちー!」 

「うるしゃいよ! まりしゃのごはんとっちゃうげしゅいもーとはだまっててにぇ! 
まりしゃはべつにいもーとなんかほしくなかったんだよ!」 

「ゆぁーん! ゆぁーん!」 
「どおちちぇそんにゃこちょいうにょー!」 

ああ、子まりさは空腹でイラついているのか。 それとも妹が生まれて以降の不満が爆発しているのか。 
両方の相乗効果で興奮しエスカレート状態なのかもしれない。 幼い妹達にまで当り散らし始めるのは姉失格だ。 
まあ妹達が一気に4匹も増えて以降、親もある程度そだった子まりさより生まれたばかりの妹の方の面倒を見なくちゃならなくなってるから親を取られた気分もするだろう。 
自分も似たような経験はあるしな。 気持ちはわかるよ。 

「おちびちゃん! いもうとにそんなこと言ったらだめなんだよ! おちびちゃんはもうおねえさんなんだから、 
いもうとにやさしくしないといけないんだよ!」 

「まりしゃ、なりたくておねーしゃんになったんじゃにゃいよ! 
ごはんもろくにとっちぇこれにゃいおとーさんのくせに、えらそうにちちおやづりゃしにゃいでにぇ!」 

「ゆぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃぃ!!」 

親まりさが強い調子で言うも子まりさは負けじと大声で言い返す。 
だが子まりさよ、それは言いすぎだ。 
親まりさは毎日俺のご機嫌を伺い媚びへつらいながらプライドも何もかも投げ捨てて、お前たちを生き延びさせる事を選んだ立派な父親だ。 
土下座をしたその頭を踏みつけられようとも、耐えられるのはお前たちへの愛情ゆえだろうに。 
どれだけの屈辱と惨めさに我慢しながら、地面にこぼれた餌を集めなおしてお前の元に笑顔で運んでくると思っているんだ? 
お前以外は皆殺されてしまって、お目こぼしで許してもらってこうして生きているお前を、親まりさは帽子の上に乗せて庭を這いながら遊んでやり、お腹でトランポリンをして可愛がったじゃないか。 
長い茎の高い所に生えている花壇のコスモスの花を、お前が欲しいからと俺の許可を得て取ってきてやった事もあるじゃないか。 
そのお父さんにどうしたらそん冷たい言葉が吐けるんだ。 

まあ親まりさが、お前が多少の我侭を言っても「すこしでもゆっぐりざぜであげだいんでずううう!」と時には俺に縋り付いてまでなるべく願いを叶えてやってきた所為でもあるんだけどな。 


「ちびちゃん! いいかげんにしないとおかーさんも怒るよ! おとーさんやいもうとたちにあやまってね!」 

「ゆう! いつもいもーとばっかしすーりすーりするおかーさんなんか、きりゃいだよ! 
おかーさんのおうたは、かわいいまりしゃだけのおうただったのに! 
おかーさんがまりしゃのこときりゃいになったから、まりしゃもおかーさんなんかきらいだよ! 
いもーとたちなんかきらいだよ! ゆっくりできなくなればいいんだよ!」 

「あかちゃんたちは体がよわいから、すりすりしないとさむくて死んじゃうでしょおおおお!? 
嫌いだなんで、嫌いになっだなんで、どおじでぞんなごどおおおおおおおおおお!!!」 

あーあ。 親れいむは子まりさの物言いに泣き出してしまったようだ。 
そりゃあ、いつも子まりさの事を気遣い、ぺーろぺーろして体を小奇麗にしてやり、夜はすーりすーりして暖めてやったり親まりさに言って床に敷く葉っぱやボロキレを調達してくれるよう俺に頼みに行かせたり 
毎日おうたを歌って聞かせてゆっくりさせてあげて来た愛しい我が子にそんな事を言われたら泣きたくもなるわ。 
もっとも歌は聴いているこっちが不愉快になる音程ハズレまくりのクソ騒音だったけどな。 



「おねーちゃん、まりちゃとゆっくちちちぇね…しゅーりしゅーりしちぇあげりゅかりゃ…」 

子まりさがこんな暴言を吐くのも、妹達が生まれてから自分が前ほど可愛がられていない様な気がするからなのだろう。 
赤まりさのうちの一匹が姉の言葉の裏の寂しさに気が付いたのか、そんな事を言いながら姉を慰めようと擦り寄ろうとしたようだ。 
しかし、次の瞬間怒った凶行によっておうちの中は悲鳴が飛び交うことになった。 

「ゆっ! まりしゃにさわりゃにゃいでにぇ!」 

ポムッ! 

「ゆびぃっ! ゆびぇぇぇぇぇ!」 

「あああああなんてことするのおおおおおおお!? あがぢゃんがあああああ!!」 

「ゆーん! おにぇーちゃんぎゃぁぁぁ!」 

「まりちゃがぁぁぁぁぁ!!」 

「まりざあああああ!! あがぢゃんがこんなにあんごはいぢゃっだよおおおおおお!! 
おにーざんをはやぐよんでぎでええええええ!!」 


「ゆふん! てんばつだよ!」 




飛び出してきた親まりさの要請で、子まりさに乱暴された赤まりさを見た俺はそいつがかなりの重傷であることをすぐに悟った。 
タダでさえ満足な餌を食べておらず体力が不十分である所に、子まりさの体当たりをまともにくらった所為で赤まりさは体の半分の餡子を吐き出してしまい、どうみても致命傷を受けていた。 
すぐに吐いた餡子を体の中に戻してやったが、再生用のオレンジジュースを取りに家の中に一旦入り再び庭に戻ってきた時には赤まりさは事切れていた。 
子まりさも殺すつもりはなかったのだろう。 これは事故だ。 
だが、子まりさは自分の行動がどんな事になるのかを予測してはいなかった。 軽はずみな行動で妹を殺したのだ。 
その後の親まりさたちへの詳しい当時のおうち内部の状況を話させた事で、正確には子まりさが行ったのは体当たりではなく赤まりさの上に圧し掛かって押しつぶしたのだと判明した。 
あの、ポムッという音は体当たりで体が弾んだのではなく赤まりさの体が潰れて弾ける音だったのだ。 
俺は別に、妹を殺害した子まりさをどうこうするつもりは無かった。 
なにか処分を下すとしたら、それは親まりさと親れいむの役割であり領分だ。 
だから俺のやったことといえば、庭に赤まりさの墓を掘ることを許可してやり、それを手伝ったことと間に合わなかったオレンジジュースを香典代わりに餌皿に注いでやった事ぐらいだった。 
悲しみに打ちのめされ元気をなくしている一家の中で、餌皿に顔を突っ込んで「うみぇ! これめっちぇうみぇ!」と喜んでいるのは子まりさだけだった。 


子まりさがダンボールのおうちを追い出されたのは次の日のことだった。 
般若の様な形相の親まりさに銜えられ、泣き喚く子まりさは庭の片隅にポーイっと投げ捨てられて草の上を転がった。 
ぴょんぴょん跳ねながら戻ってこようとする子まりさよりも速く、親まりさはおうちの戸を閉め、子まりさがどんなに泣きながら戸を叩いても開かれることは無かった。 
俺が餌を与える時にだけ戸は開けられ、子まりさがその隙に泣きながらおうちの中に入ろうとするが鬼の様な表情をした親れいむによって阻止され、再び外に追い出されていた。 

「ごべんにゃさい! ごべんにゃじゃいぃぃぃぃ! まりしゃがわりゅかったでずぅぅぅぅ! 
もういもーとをいじめたりしにゃいかりゃぁぁぁぁぁ! ゆるじでぇぇぇぇ!! さみゅいよぉぉぉおにゃかすいたよぉぉぉ!!」 

子まりさは漸く自分のしでかしたことの重大さに気付いたようだが、それで死んだ赤まりさの命が戻ってくるはずも無い。 
もし子まりさが我侭や暴言を重ねたぐらいだけの事だったら、親まりさも親れいむも言葉では叱るもののこのような処置にはしなかったかもしれない。 
しかし同族、それも姉妹殺しという重罪を犯してしまった子まりさは、もう一緒のおうちには置いておけないのだろう。 
それに、あれだけ愛情を注がれていながらさんざん両親を罵倒したのも一要因だろう。 
そんな子供を親が可愛がりたいと思うはずも無い。 子まりさは完全に追放され、見放されてしまった。 



その後、子まりさがどうなったのかと言えば、今も庭で生きている。 
小さめの耐水ダンボールのおうちを与えられ、俺に親まりさたちと同様の餌を与えられて毎日暮らしていた。 
時折、庭で妹達が親まりさの帽子に載せてもらって遊んでいる様子を悲しげな表情で見つめたり、親れいむのおうたが聞こえると前のおうちの側に近寄って涙を流しながらそれを聞いている時がある。 
だがそれは、取り返せない過ちとともに既に過ぎ去った日々だ。 
どうしてこんなことに…とか思っているのかもしれない。 身から出た錆とも言えるし、不運な行き違いとも言える。 
子まりさはただ、ゆっくりが欲しかっただけだ。 その我侭が少しばかり過ぎただけのこと。 
これからは幸せだった時の事を思い出しながら、家族に近づけば睨まれ、拒絶される孤独な日々をこれからも過ごすのだ。 
そして自分がどんなに恵まれていたのかを思い知り、後悔するのだろう。 
俺はそれを哀れだと思う。 だから、住む場所と食べるものを与えてやっている。 

今日も、親まりさたちの分の餌を与えた後に子まりさの分の餌を小さな餌皿に入れて、小さなダンボールの方へと向かう。 
のそのそと這い出てくる覇気の無い子まりさと目が会うと、俺は皿をひっくり返してパサパサした味の無い粒状ゆっくりフードを地面にぶちまけ、そして靴の裏で踏みにじった。 
子まりさの目から、涙が一滴落ちて、悲しげな視線が土と混じって汚れたフードを見つめる。 
一人で生きてゆく術を持たない子まりさには、この庭を出て行くことも出来ない。 
俺にこんな仕打ちを受けながら、餌をくれる俺に感謝の言葉を述べて土と餌を選り分けて集め、大事に口の中に詰めておうちに戻ってゆく。 

「ありがちょ…ごじゃいま…しゅ… きょうもゆっくり…できまじゅ…」 

親の庇護を受ける立場から転落した惨めな後姿だが、それでも生きている限りは最低限助けてやろう。 
ゆっくりという生き物はウザムカつくし不愉快な存在ではあるが、俺とて鬼にはなりきれないのだ。

【おわり】