『ネズミサンヲクレテアリガトウネ! オレイニアマアマヲアゲルヨ!』 

機械音声と共に取り出し口が開き、そこにはアンパンがある。 
それを見て、ゆっくりありすは、「ゆふぅ」満足げなため息を吐いた。 

「これでれいむとおちびちゃんをゆっくりさせてあげられるわ」 

そして、おうちへ帰るため跳ね出した。 


この街ではゆっくりがネズミの駆除に協力している。 
ゆっくりは殺鼠剤入りのダンゴをネズミの通り道に仕掛ける。その結果、死んだネズミを 
この自動交換機に入れると、アンパンと交換してくれるのである。 
ダンゴも自動交換機も、人間が害獣であるネズミを駆除するために用意したものだ。 
このありすも、たった今ネズミの死体を交換したばかりだ。 
最近はネズミもその数を減らし、なかなかアンパンを手に入れる事ができなかった。久し 
ぶりのごちそうなのだ。 
ありすは喜んでいた。家族でゆっくりできると、無邪気に喜んでいた。 
なぜなら、ありすは知らない。ゆっくり達は、誰も知らない。 
人間にとって、ゆっくりもまた排除すべき害獣であることに。 
ごちそうであるアンパンの中に、ゆっくりを滅ぼす「殺ゆ剤」が仕込まれていることを知 
らない。 
だからありすは実にゆっくりした笑みを浮かべ、家路を急ぐのだった。 




ゆっくり害獣駆除・餡子サイド 




――殺ゆ剤。 
種類は様々だが、今回この街で使われたものはかなり特殊なものだ。 
摂取してもすぐには効果が発揮されない。ただ、うんうんやしーしーで排出されずにゆっ 
くりの体内に留まり続けるだけだ。 
その毒性が増すのは生殖時だ。 
たとえばあるゆっくりが殺ゆ剤に侵されていたとする。そのゆっくりがすっきりーすると、 
相手のゆっくりは元のゆっくりより少し強い毒性の殺ゆ剤に侵される。そして、赤ゆっく 
りは更に少し強い毒性の殺ゆ剤に侵された状態で産まれることになる。こうして毒性を徐 
々に増していくのだ。 
ただし、毒性がある一定以上を越えるまでは全くの無害である。しかしその一定ラインを 
越えたとき、ゆっくりは永遠にゆっくりすることになる。 
こんな特殊な変化をするのはゆっくりの不思議のひとつ、餡子の変換能力を利用している 
からだ。ゆっくりは食べ物を餡子に変換するだけでなく、餡子を皮や活動のエネルギーに 
変換する。殺ゆ剤はこの能力に潜り込み、利用するのだ。 
殺ゆ剤の広まり方は、薬剤でありながら伝染病に似ている。なにしろ殺ゆ剤を直接摂取し 
なくても殺ゆ剤に侵されることになるのだ。それも、本来なら種の保存のための生殖行為 
こそがその根源となる。 
一般に、ゆっくりを全滅させるのは困難とされている。ゆっくりはいくら潰そうと、その 
旺盛な繁殖力ですぐ元の数以上に増えるからだ。 
だが、この殺ゆ剤を使えば別だ。その旺盛な繁殖力によって殺ゆ剤の汚染は容易に広がる 
からだ。 
試算によれば、殺ゆ剤に侵された数匹のゆっくりを送り込めば、大規模な群れでもおよそ 
一年もあれば全滅させることが可能だと言う。 
世代を重ねるという効き目の遅さが欠点ではあるが、今回はプラスに働いた。 
人間の計画は、害獣であるゆっくりとネズミの除去だった。ゆっくりはアンパン目当てに 
ネズミを殺し、そしてゆっくりは殺ゆ剤で全滅する。計算によれば、ネズミが害にならな 
いほどに数を減らし、そしてゆっくりが全滅するタイミングはほぼ同時になるだろうと予 
想されていた。 
そして、その予想は今や実現しようとしていた。 

ネズミは数を減らした。ゆっくりが街に入り込んだことにより、ゆっくりを餌として爆発 
的に増えたネズミ。そのネズミも、最近はあまり見かけられなくなっていた。 
ゆっくりもまた末期に来ていた。既に街のほとんど全てのゆっくりが殺ゆ剤に侵されてお 
り、その毒性の強さも高まった。殺ゆ剤の毒性で永遠にゆっくりするゆっくりも増えてき 
た。全滅は時間の問題となっていた。 


    * 
    * 



「ゆっ、ゆっ、ゆっ……!」 

路地裏をありすは進む。その口にはアンパンをしっかりとくわえている。先ほどネズミと 
引き換えに得た、久しぶりの上等なあまあまだ。 
ゆっくりは普通、食べ物を得れば脳天気かつ無警戒に跳ねて進むものだ。だが、このあり 
すは違った。 
時折立ち止まっては空を見上げる。跳ねる道も、なるべく狭いところ、あるいは屋根のあ 
る場所を選んでいた。実に注意深かった。 

「ゆ!」 

なにかに気がついたのか、あわててありすは物陰に隠れる。 
その上空を飛んでいくものがあった。 
漆黒の翼とくちばし。カラスだ。 
かつて、街のゆっくり達の天敵はネズミだった。鈍重で栄養価の高いゆっくりはネズミに 
とって格好の獲物だったのだ。 
そして、ネズミは爆発的に増えた。しかしひとつの生き物の増加はそれを捕食する生き物 
を引き寄せる。カラスはその一つだった。 
カラスは当初、ゆっくりには手を出さなかった。 
ゆっくりは人の顔をしており、拙いながらも人語を操る。カラスは賢い。人間を危険な生 
き物として認識している。だから、人間に似たところのあるゆっくりのことも警戒してい 
たのだ。街にはネズミという食料が豊富にあったこともあり、あえて手を出すカラスはい 
なかったのだ。 
ところが、ゆっくりが人間の差し金でネズミ退治を始めてから事情が変わった。 
ネズミが、すなわちカラスの食料が減ってしまったのである。 
そうなると、カラスがゆっくりを襲うようになるまで大して時間はかからなかった。 

「……いったようね。まったく、からすはとかいはじゃないわ……」 

再び、ありすは進み始める。 
ありすは憂鬱な表情だ。カラスを見るたびに思い出す。子供の頃、ありすは身体が弱かっ 
た。そのありすを愛情を込めて育ててくれた両親――まりさとありすは、共にカラスにや 
られたのだ。 
仲間達も次々とやられた。特にまりさ種はめっきり数を減らした。 
まりさ種はカラスに狙われやすい。その理由は、まりさ種特有の帽子にある。 
まず、帽子は大きくて目立つ。そして広い帽子の鍔は、空を見るのに邪魔になる。他のゆ 
っくりに比べ、カラスの接近に気づきにくい。 
ありすが物心ついた頃は、平和で暮らしやすい街だった。ちょうどネズミ退治がうまくい 
っていた時期で、安定してアンパンが手に入った。両親も元気だった。なんの心配もなく 
ゆっくりできた。それが今や、カラスに脅え食べ物もなかなか手に入らない過酷な生活だ。 

「ゆっくりできないわ……」 

ありすは呟く。しかし、ゆっくりできない理由は、街が危険になったことばかりではなか 
った。 

    * 
    * 



「とかいはなありすがいまかえったわ! ゆっくりしていってね!」 
「ゆっくりしていってね……」 
「ゆっ……」 

ありすがおうちに帰ると、元気のない声とうめき声が迎えた。ツガイのれいむと、子れい 
むである。 
ありすが路地裏の隅にダンボールを組み合わせて作った「とかいはなおうち」。そこは、 
建物の屋根や突起物が組み合わさり雨から守られたゆっくりぷれいすだ。 
だが、その中の様子はあまりゆっくりしたものとは言えなかった。 
まず、ツガイのれいむ。 
普通の成体ゆっくりではあるが、眉をひそめ元気がない。肌もがさがさだった。ありすと 
出会ったときは健康なれいむだったが、赤ゆっくりを出産後すっかり病弱になってしまっ 
た。あまり跳ねることも出来ず、どうしても家に籠もりがちだった。 
そして、子れいむ。 
こちらはもう動くことすら出来ない。目をキョロキョロと動かし、時折うめくように喋る 
――それが子れいむができることの全てだった。 
殺ゆ剤の毒がほとんど限界まで高まってしまった結果である。 

殺ゆ剤の毒――その効果は、ゆっくりの「餡子の変換能力」の破壊だ。 
ゆっくりは食べたものを何でも餡子に変換する。そしてその餡子を変換し、皮や活動の為 
のエネルギーを生成する。コレが出来なくなると言うのは、人間で言うなら消化器系の内 
臓と筋肉が全てダメになるようなものだ。まさに致命的な毒なのだ。 

ありすは知らない。自分の注ぎ込んだ精子カスタードが濃度の高い殺ゆ剤を含んでおり、 
それがれいむから元気を奪ってしまったことを。子れいむに重い障害を負わせてしまうこ 
とになったことを。 
そんなこと、夢にも思わない。 

「さあ! きょうはとかいはなあまあまをてにいれたわよ! ゆっくりみんなでたべまし 
ょうね!」 

ありすは務めて明るく言う。おうちの中のゆっくりできない空気を「とかいは」に変える 
には、自分が明るくなくてはならないと自負していた。 
そんなツガイの想いを受け、れいむは暖かく微笑んだ。 

「ありす、れいむはいいよ。おちびちゃんにあげてね……!」 
「さすがれいむはとかいはね! さあおちびちゃん、たべましょう!」 
「ゆ……」 

子れいむはうめいて答える。 
と言っても、子れいむは自分で食べることが出来ない。だからありすはアンパンを割ると、 
中の餡子を口移しで子れいむに食べさせる。 

「はい、とかいはなすいーつよ! おちびちゃん、あーんして、ゆっくりたべてね!」 
「ゆ……むーちゃむちゃ……しあわちぇ……」 

ありすはほっとした。子れいむが久しぶりに食べ物を食べてくれたからだ。 
餡子の変換能力の低下した子れいむはほとんどの既に食べられるものがほとんどない。口 
に出来るのは変換の負担が少ない餡子ぐらいなのだ。 
子れいむが食べてくれて、ありすは嬉しくなって笑った。れいむは微笑んだ。 
子れいむも、うまく動かない唇を歪に曲げ、どうにか笑みの形を作った。 
それは見方によっては痛ましい有様と言えるかも知れない。 
しかし、互いを思い合う心がある。家族の絆がある。暖かな空気がある。 
そこには確かに、「ゆっくり」があった。 


「う……う、ん……うん……」 

食事を終え、ありすが休んでいたとき、子れいむの声を聞いた。 
とぎれとぎれだが、ありすは察した。子れいむはうんうんがしたいのだ。 
ありすは素早くおうちの隅から小さくちぎった新聞紙を取り出す。子れいむは動けないの 
でこの上にうんうんをさせるのだ。 

「ほら、ままがぺーろぺろしてあげるから、ゆっくりうんうんするのよ!」 

ありすは子れいむのあにゃるを舐める。子れいむの皮はすっかり固くなってしまい、こう 
しないとなかなかうんうんが出来ないのだ。ありすはこの行為を汚いと思ったことはない。 
愛しくてたまらない子供のどこを舐めたってゆっくりできるのである。 

「う……ん、……しゅるよ……!」 

やがて、あにゃるがひくひくし始めるとありすは舐めるのを止めた。 
あとは、うんうんの片づけをするだけだ。そう、次の行動に思考を切り替えたときだ。 

何かが、致命的に、裂ける音がした。 

ありすは一瞬その音に気を取られた。だから目の前のものを理解するのに時間がかかった。 
目の前に、うんうんがあった。それだけなら驚かない。問題はその量だ。あまりにも多い。。 
成体ゆっくりが普通にするものの、ゆうに三倍近くはある。 
なんで、こんなに……? 
混乱にありすの思考が止まる。 

「おちびちゃぁぁぁん!」 

れいむの絶叫に我に返る。 
子れいむの様子を見るにはうんうんが邪魔だ。ありすは素早く回り込み、愛するわが子の 
元に向かった。 

そして……そこには、愛するわが子の姿はなかった。 

しぼんだ風船のような皮があった。おりぼんを見なければ、ゆっくりが飾りで個体を識別 
する能力が無ければ、わからなかったかも知れない。 
それが子れいむのなれの果てである、と。 
ゆっくりのうんうんとは、体内で古くなり不要となった餡子を排出するという生理現象だ。 
子れいむは殺ゆ剤により、体内の殆どの餡子が喪失していた。そして、わずかに生きてい 
た機能がその餡子を「うんうん」と認識し、排出したのだ。 
通常ならばありえないことだ。これは言わば、体機能の暴走だった。ありすの聞いた音は、 
あまりに大量の餡子の排出によってあにゃるが裂けた音だったのだ。 

「おちびちゃん、ゆっくりしてぇぇぇぇぇぇ!」 

ありすは絶叫し、子れいむにすーりすりをした。すがるように、そうすれば子れいむが元 
気になるかというように。 
ありすがすーりすりした分だけ皮がへこんだ。その振動で、子れいむの目玉が空っぽの身 
体の中に落ちた。 
子れいむは、もう完全に「永遠にゆっくり」していた。 


    * 
    * 



ありすは街中を駆けていた。 
子れいむはいない。だが、その悲しみに負けていられない。まだれいむがいる。動けるの 
は自分だけだ。休んでいる暇はない。 
それに……休んでいる方が、きっと辛い。 
だから早くおうちに帰りたかった。ひとり待つれいむはきっと自分より辛いに違いないの 
だ。 
そんな思いが天に届いたのだろうか。 

「ねずみさん!」 

ネズミを見つけることが出来た。これでアンパンが手に入る。ありすは一目散にネズミに 
向かった。 
ネズミもまた、ありすに向かってきた。 
ありすが違和感を覚えたときは遅かった。 

「ゆうぅぅぅ!? いぢゃあああああいぃぃ!!」 

すれ違いざま、ネズミはその鋭い前歯でありすの頬を切り裂いたのだ。 
凄まじい痛みだった。だが、ありすは痛みに浸ることすら許されなかった。 

「ゆぎゃああああああ!!」 

今度はネズミが頭の上にのっかり、頭の天辺に前歯を突き立てたのだ。 
痛みと混乱でありすは走り出すが、突き刺さった前歯とがっしりありすをつかむ四肢は外 
れそうにない。 
理解できなかった。ありすの知るネズミは二種類しかいない。すなわち、死んだネズミか 
殺鼠剤の幻覚作用で千鳥足のネズミだけだ。こんな風にゆっくりを攻撃してくるネズミな 
ど、ありすはしらない。 

「いぢゃいいぢゃいいぢゃいぃぃぃ!」 

痛みは永遠に続くかと思われた。 
しかし、不意に。頭にのしかかる重みと、前歯の刺さる痛みが消えた。 
おそるおそる後ろを見ると……ネズミと目があった。 

「ゆぴぃぃぃ!」 

だが、不思議なことにネズミは襲いかかってこようとしない。路地からこちらの様子を窺 
うだけだ。 
そしてありすは気づく。ネズミが狭い路地に留まり、自分が広い通りの真ん中にいること 
に。それが、何を意味することかを。 
ひどく、ゆっくりできない予感。 

そして。予感を、黒い羽音が確たる現実に変えた。 

漆黒の翼。 
鋭くて大きな暗黒のくちばし。 
ありすの目の前に、カラスがいた。 

カラスはくちばしを天に向けていた。 
くちばしの先に、ガラス玉のような綺麗なものをくわえている。 
くちばしに力がこもり、それを砕いた。水っぽい音がして、汁が垂れた。 
砕いたそれを、漏れ出る汁を。カラスは全部、とてもうまそうに呑み込んだ。 

どうして食べてしまうんだろう。 
あんなに綺麗だったのに。 
あんなに大切だったのに。 
食べていいものじゃ、なかったのに。 
ありすは思った。 
一部始終を、残された右目で見て、思った。 
そして、叫んだ。 

「ありずのとかいはなおべべがぁぁぁぁぁぁ!!」 

カラスは一瞬でありすの左目をえぐり出し、喰ったのだ。 
そして、一方的な虐殺が始まった。 
ありすはなにもできない。カラスの獰猛にして素早いくちばしは、ゆっくりにはどうする 
こともできない。逃げることもかわすことも防ぐこともできない。それ以前に、見ること 
すら出来ないのだ。 

「いぢゃいぃぃ! やべでやべでやべでぇ! ごんなのぜんぜんとかいはじゃないわぁぁ 
ぁぁ!」 

カラスは人間の言葉をある程度理解するほど賢いとも言われる。ありすの言うことも、あ 
るいは理解できたかも知れない。 
だが、理解できたにせよできなかったにせよ、なにも変わらない。カラスのくちばしは止 
まらない。 
ありすはなすがままに全身をついばまれた。 

やがて。 
痛みが、止まった。 
そして、身体が浮き上がった気がした。 

……おそらをとんでるみたい。これが、えいえんにゆっくりってすること……? 

その疑問に応えるものはなく、ありすの意識は暗黒に呑み込まれた。 

    * 
    * 



「……ゆ!?」 

不意にありすは目覚めた。 
ぼんやりとした意識のなか、ネズミとカラスに襲われた恐ろしい記憶が甦る。 
一瞬夢だったのではないかと思う。 
だが、全身に走る鈍い痛みと開かない左目が、現実を教える。 

「目が覚めたようだね。どうだい、傷はだいたい治療できたと思うけど、大丈夫かい?」 

見上げると、そこには男の姿があった。 

「おにーさんが、たすけてくれたの……?」 
「そうだよ。さあ、おなかが空いたろう? これを食べるといい」 

そう言って、男はありすに餡ドーナツを差し出した。 
疑問は尽きなかったが、本能があまあまの匂いを優先させた。 

「むーしゃむーしゅ……ゆゆっ!? し、し、しあわせぇぇぇ!」 

とてもおいしいあまあまだった。ありすは夢中で食べ続けた。 
あっという間にぺろりと全て食べきった。 

「なかなかとかいはなすいーつだったわ! おにーさん、ありがとう!」 
「いや、いいんだよ。別にただであげたわけじゃないからね」 
「ゆゆっ!?」 
「ああ、そんなに構えなくていい。ちょっとした頼み事があるだけさ。君は、さっきカラ 
スに襲われていたね? 私達もカラスには困っているんだ。それに、最近はネズミもダン 
ゴに耐性ができたり警戒して食べなくなったらしくてね……それで君達ゆっくりに協力し 
てもらいたいんだ」 

ありすは目を白黒させた。 
ゆっくりできないカラス。そして、さっき出会ったゆっくりしてなかったネズミ。どちら 
も、ゆっくりにどうにか出来るようには思えなかったのだ。 

「あはは、困らせるつもりはないんだよ。君達のすることは今までとあまり変わらない。 
ネズミ退治に、ダンゴを置いていたよね? あれを改良したものを置いてくれればいい。 
やり方は今まで通り、カラスやネズミのいる場所に退治用の新しいお菓子を置いてくれれ 
ばいい。ほら、見てごらん」 

促された方をありすが見ると、そこにはネズミの自動交換機あった。気を失っている間に 
連れてこられたようだ。 
今まで、交換機には「あまあまあげるから、ねずみさんをちょうだいね!」という看板が 
ついていた。 
それが、「あまあまあげるから、からすさんとねずみさんをちょうだいね!」と変わって 
いる。自動交換機の隣には、かつてはダンゴが山積みだったが、今は饅頭が積み上げられ 
ていた。 

「これで……からすさんをやっつけられるの……?」 
「ああ、ぜひやっつけてくれ」 
「あまあまをもらえるの?」 
「ああ。カラスやネズミの死体を持ってくれば、さっき食べた餡ドーナツと同じものがこ 
の機械から出てくるよ。ネズミならひとつ、カラスならみっつも出てくる。どうだい?」 

ありすの残った右目が輝いていた。 
両親の敵が討てる。れいむのためにあまあまも手に入る。ゆっくりできる! 

「やるわ! おにいさん! とかいはなありすがみんなやっつけてあげるわ!」 
「はっはっはっ、これはたのもしいな。じゃあ、このことを他のゆっくり達にも報せてや 
ってくれ。証拠として、もうひとつ餡ドーナツを持っていくといい」 

そう言って、男はありすに餡ドーナツをもう一つ渡した。 
ありすはそれをくわえると、巣へと駆けだした。 
だが、途中で立ち止まった。 
そして、満面の笑顔で男に言った。 

「ありがとう! な、なかなかとかいはなおにいさんね!」 

お礼を言おうとしたのに、照れが出てしまった。 
ありすは顔を真っ赤にして、この素敵なニュースを愛するれいむに伝えようとおうちへと 
急ぐのだった。 


    * 
    * 


「なにか、前にも似たようなことがあった気がするな……」 

ありすの走り去る姿を見ながら、男は呟いた。 
男はかつて、殺ゆ剤によって死にかけたありす親子にアンパンを渡したことがあった。 
そのときの子ありすが成長したのが今のありすだと、男は気がつかない。男は害獣駆除の 
研究員ではあったが、ゆっくりの個体を見分けることなどできなかった。 
奇妙な縁だった。 

「ま、どうでもいいか。なにより、ちゃんと成果はあったしな」 

傷ついたありすを治療したのは別に善意からしたことではなかった。 
ひとつは、男の興味からだ。殺ゆ剤が実際の現場でどう機能しているか個人的に知りたか 
ったのだ。ありすの傷口から採取したカスタードは既に採取用の試験管に入れ、カバンの 
なかに収められている。 
もうひとつは、餡ドーナツが受け入れられるか調べ、そしてゆっくり達に広めてもらうた 
めだ。 
ゆっくりは極端な痛みの記憶はなかなか忘れないと言うから、死にかけた記憶は忘れず、 
その後の男の言葉もちゃんとゆっくり達に伝えられるのではないかという計算があった。 
アンパンと違い、今回の餡ドーナツには、殺ゆ剤は入っていない。 
代わりに、ゆっくりをカラスやネズミにとっての毒と変える薬が入っている。 
害獣駆除もネズミとゆっくりの数を減らし、次のステージに移った。次の対象はカラスだ。 
ゆっくりには今まで通り毒の餌をばらまいてもらうではなく、自身も毒の餌になってもら 
おうという計画だった。 
新しく用意した饅頭も、実はゆっくり加工所製の安物の饅頭だ。ネズミもカラスもゆっく 
りの味を覚え、ゆっくりを襲うようになっている。おそらく効果的なはずだ。 
調査によれば殺ゆ剤は十分に浸透している。ゆっくりはもう放っておいても滅ぶ。だが、 
せっかくゆっくり用にネズミの自動交換機まで作ったわけだし、そもそも現在の害獣大量 
発生の元凶はゆっくりなのだ。 

「せいぜい死ぬまで役立ってくれよ」 

男は酷薄に呟いた。 


    * 
    * 




ありすは駆ける。 
自らのすみかへと。 
ありもしない希望を抱いて。 
絶望しかない未来に夢を見て。 
何も疑わない、無垢な笑顔で、ありすは街中を駆ける。 
そこだけを切り取ってみれば、とてもしあわせな、実にゆっくりとした光景だった。 

【おわり】