『恐怖と言うモノは、言ってみれば精神で感じる痛みだ。 
精神が許容できなければソレは恐怖ではなく肉体的な痛みでしかなく 
理解が及ばなければ精神が恐怖として認識しない。 


とすれば、僕たち人間の手による素手の 
或るいは道具による激痛が、彼女達に恐怖として認識されているかは…』 

「些か疑問である…と」 

装丁の荒い、紐を通して綴じただけの薄い冊子を捲りながら 
僕は思考に没頭する。 

拷問では――だめ 

息が苦しい 
動悸がする 

『自身に置き換えて考えてみれば良い 
自身の十倍以上の巨体を誇る化け物に 
見たことも聞いたことも無い様々の道具で 
嬲られ、抉られ、斬られ擂られ割かれ折られ搾られ潰され挽かれる事を。 

その他、人語に形容するも不可能な様々の仕打ちで 

何の理由も無く、何の落ち度も無く 

死ぬまで、或いは死に瀕する間近までただ理不尽に虐げられる事を 

その何処までを、あなた自身が恐怖と認識できるだろうか。』 

目を閉じて考える 

駄目だな、まるで駄目だ 

『我等人類の意識ですら、リアルすぎる死を間近には 
肉体の痛みが精神の恐怖を凌駕するせいで恐怖など消し飛んでしまう 
ましてや塵芥に等しい卑小な精神しか持たない彼らのこと』 

溜め息をついて、読み終えた―否、?解読"し終えた資料を 
捧げるように厳粛に、もとあったデスクに戻した。 

恐ろしく難解な内容だった 
文体もさる事ながら、真意をはぐらかす様に何ヶ国かの言語を混ぜて 
章を跨いで綴られる唐突で理解しがたい発想の飛躍をまとめると 

結局の所、この僅かな冊子は 

人間とゆっくりを徹底的に比較し 
人間の基準でゆっくりに触れることの無意味さが綴られていた。 

愛でるにしても、虐げるにしても 

それらを彼等の心に響かせるには、彼等の側から行わなければ彼等の意識に届かない。 

『生れ落ちたその瞬間から継承される彼等だけにしか通じない閉じた常識 
それに合致する方式でなければ、あれらは結局何をされても理解する事など出来ていないのだ』 

思考が疾走して、堂々巡りを始める。 

走馬灯のようにこれまでの行いを振り返って 

自分の程度の低さに驚愕する 

彼等の心を知らなければならない 

幸い一からの思考ではない、道標は示されていた。 

死と苦痛と恐怖は同一ではないが酷く近しく 
根源的に『感じるもの』である事を同じくしている。 

だから、彼等の最も根源的な?死"に習えば良い…例えば天敵とか 

『彼等を最も殺すものは、結局彼らなのだろう』 

そう、道標は示されている。 


  *   *   * 



殴打、それも特殊な 

それが一応の答えだった。 

理解を促してそういう形で殴打する。 
まずは道具を揃えなければならない 

包むものの素材はどうするべきだろうか 
平均的な成体の重量が5キログラム前後、脆弱な素材では無理だし、結局の所意味が無い 

化学繊維、例えばビニール呼吸穴を開けて試すも 
5度目の試用で心太(ところてん)の様に中身を撒き散らすか 
素材自体が耐え切れずに穴が開いた。 

中身を軽くする事も考えたが、それでは威力が下がってしまう。 

威力が下がれば痛みが軽くなり、軽い痛みは恐怖を緩和させる。 

あ、いや、それが良いのか…故事に倣うとしよう 

「おにいさーん!」 

「あぁ、れいむか」 

作業台の上の試行錯誤の成果を片しながら椅子を回して 
足元のれいむを拾い上げる。 

膝の上で黒い髪を弄い、求められるままに頭を撫でてやる。 

「ゆゆん、おにいさぁん…」 

撫でられて媚びるのではなく、此方を僅かに責めるような甘えの表現。 
この反応は記憶にある、思考して… 

「あぁ、おやつの時間を忘れていたのか」 

一つの事に熱中しすぎて時間の経過を忘れるのは僕の数ある悪癖の一つだ。 

膝の上でおやつを待ちかねているれいむもう待てないとでも言いたげな様子に 
苦笑しながら机の上に散逸した寒天や飴、餡子を適当に繕って 
切り分けていた皮で包んで即席の饅頭を三つ、用意する 

「おまたせれいむ、今日のおやつだよ」 

「ゆゆん!おまんじゅうさんだね!!」 

即席の饅頭には帽子、カチューシャ、リボンを切って作った飾りが載って 
人間の目にも可愛らしく、おいしそうに見える。 

「れいむにそっくりのゆっくりしたおまんじゅうからたべるよ! 
むーしゃ♪むーしゃ♪しあわせー♪ゆっくりおいしいおまんじゅうさんだね!」 

「たくさんあるから、いっぱい食べていいよ」 

「ゆゆっ!ほんとう?!」 

こぼれそうに大きな両目をキラキラと輝かせて望外の幸せに身体全てをふるわせる 

「あぁ、僕がれいむに嘘をついた事があったかい?」 

「おにいさんだいすきっ!!」 

成体に僅かに届かないとはいえ、十分に育った若いゆっくりのれいむに 
膝の上で暴れられては叶わないので、少し乱暴に頭を撫でながら 

「ほんとうにたくさんあるからね、いくらでもあるからね…」 

机の上を見せないように、椅子の高さを一段低く落とした。 



  *   *   * 



「まりさ、様子を見に来たよ」 

「ゅ、おにいさん…」 

ベビーベッドの中で、苦しそうに身悶えしながら此方を向こうとするまりさ 
口より下、腹部に該当する部分を膨らませ 
額からは7本の茎が生えるに任せて伸びている。 

健やかに目蓋を閉じて寝息すらたてずに揺れているのは 
生きるのに必要な全てを母であるまりさに依存する実ゆっくりの計62 
胎内にも一匹~三匹いる事を考えれば、本来なら 
全ての滋養を吸い取られて枯死してもおかしくないところ 

「おにいさんのおかげで、あかちゃんもまりさもげんきなのぜ」 

痛ましい程憔悴しきったまりさ、無理も無い数が数だ 
濃縮したオレンジジュースを大量に与えてもこのザマ 
これ以上の過剰摂取はまりさが溶けてしまう 

このまりさは、二日前にレイパーありすに襲われた。 
まりさの部屋にはまりさの姉妹のまりさとれいむがいたが 
大量の赤ゆっくりを遺して死んでいた。 

姉妹に庇われて最後に強姦されたまりさは生き残り 
「あかちゃんはゆっくりできる」と適当に言いくるめてそのままにしている。 

頭を撫でてやりながら、さっき作った帽子をかぶった饅頭をおすそ分けする 

「ゆ、かわいいおまんじゅうだね…すこしいもうとににてるかも」 

「うん、喜ぶと思って持ってきた」 

「ゅ…、もうすこし、このままみていたいよ」 

「ふふ、まりさがたべないならお兄さんが食べちゃうぞ!」 

「ゆゆ?!」 

つまみあげて口に入れる、こしあんの饅頭に舌鼓を打つ。 

「むーしゃ、むーしゃ、まりさの姪っ子おいしいよ!」 

「ゆゆ!!おにいさんずるいよ!!」 

さっきまでおセンチはいってたのが嘘のように頬を膨らませて抗議する 

「そうそう、そのほうがまりさらしいよ」 

まりさの前に、三種類のお饅頭をたくさんたくさん並べてやる 

「ゆゆ!?」 

「まりさがしあわせーじゃないと、赤ちゃんたちも元気に産まれてこれないよ 
ゆっくり理解してね」 

「おにいさん…」 

れいむにたべさせた即席のソレとは違って 
一個一個表情をつけた、よりゆっくりに近い饅頭を少し躊躇したものの 
まりさが一つ口にする。 


「むーしゃ、むーしゃ…おいしいね、おいしいよ!」 

目尻に小さく涙をにじませながら、幸せそうに目を閉じて口の中の姪を咀嚼するまりさ 

「元気な赤ちゃんを産むんだぞ…」 

「まりさがんばるのぜ!」 

部屋を後にしながら、頭の中で計算する 
早ければ明日にも産まれるから…あさってには実行しよう。 

「忙しくなるなぁ…」 

『ゆっくりで殺す』この思いつきは、かかる手間の分だけ僕を満足させてくれるだろうか 
作業台の素材たちの絶望で、もう半分は満足してるんだけどなぁ… 


【つづく】