「ゆっくちしちぇいっちぇね!」 
「ゆ! ゆっくちしちぇるね!」」 
「ゆっくち! ゆっくちぃ!」

部屋の中では百匹にも及ぶ赤ゆっくりが賑やかに遊んでいた。 

大きな部屋だ。ちょうど一般的な学校の体育館を思わせる広さで、たくさんの赤ゆっくり 
がいても手狭には感じない。 
床には緑のカーペットが敷かれており、壁には緑の木々や青い空に白い雲が描かれている。 
湿度も気温も快適に保たれ、じつにゆっくりとした雰囲気に溢れていた。 
部屋の各所には飼いゆっくり向けの餌場や遊具、あるいはトイレなどが備えられている。 
ゆっくりに詳しい者が見れば、ここがゆっくり育成用の施設であることがすぐにわかるだ 
ろう。 
だが、そうした者がなにより目を惹かれるのは、施設そのものよりゆっくり達に違いない。

「ゆっくち! ゆっくち!」

艶やかでしとやかな黒髪。 
宝石みたいな大粒の黒い瞳。 
鮮やかに形の整ったおりぼん。 
ふっくらもちもちしっとりしたお肌。 
太陽の暖かさを詰め込んだような明るい声。 
なにより、全身から溢れるゆっくりとした雰囲気。 
全てがれいむ種。それも、極上のれいむ種だった。 
ここはゆっくりの育成施設の中でも特別なものだ。 
ゴールドバッジゆっくりとなるべく産まれ、ゴールドバッジゆっくりとなるべく育てられ 
る。ここは、そんな高級ゆっくりを育成するための施設なのだった。




システム・オブ・ブラック




「ゆああーっ!?」 
「ゆんやぁぁぁぁぁぁ!」 
「ゆっくちできないよぉぉぉ!」

ゆっくりの教育は悲鳴から始まる。

「逃げるな。よく見ろ。人間の言うことを聞かないゆっくりは、この『黒バッジ』をつけ 
られて、『永遠にゆっくり』することになるんだ」

ブリーダーの男が潰れた赤れいむを見せつけるように掲げる。 
そのおりぼんには、男の言葉取り黒いバッジが不気味に輝いていた。

今ここにいるのは、施設に運ばれてきたばかりの赤れいむ達だ。全てゴールドバッジ取得 
済みのゆっくりを親に持つ。 
ゴールドバッジを持つ親が居るなら、その親に育てられた子も優秀――普通はそう考える。 
だが、ゆっくりにゆっくりを教育させるとどうしても質にばらつきが生じる。ゲスになっ 
てしまうことすらある。ゴールドバッジだろうと、所詮ゆっくりはゆっくりなのだ。 
だからこの施設では、赤ゆっくりを親ゆっくりから隔離して育てる。 
潰された赤れいむは、いくら男が言い聞かせても親ゆっくりを求めて泣き喚いたゆっくり 
だ。

「静かに! ゆっくりしろ!」

張りのある声に、赤れいむ達はびくりと身体をすくませる。

「いいか、よく聞け! お前達はこれから、ゴールドバッジを取る為に生きる! それだ 
けがお前達の生きる意味だ! ゆっくり理解しろ!」 
「おとーしゃんや、おかーしゃんとあっちゃいけないの……?」 
「必要なことは全て私達人間が教える! 親は必要ない!」 
「どぼじでぇぇぇぇ!」

何匹もの赤れいむが泣き叫ぶ。 
中には反抗するものもいた。

「ちねぇ! ちねぇ!」 
「おかーさんとゆっくちさせてくれないじじぃは、ゆっくちちねぇ!」

ぽすぽすと、男に体当たりを繰り返す二匹の赤れいむ。 
この段階で、この二匹はゲスと呼ぶには至らない。なぜなら「親ゆっくりといっしょにい 
ないとゆっくりできない」というのは本能に刻まれたことであり、この行動はある種必然 
的なことなのだ。 
男は素早く二匹を捕まえ、黒バッジをつける。そして、両手それぞれに掴むと、赤れいむ 
の群れに見せつけた。

「言うことをどうしても聞かないゆっくりは、この『黒バッジ』だ!」

そして、掴む手に徐々に力を加える。

「やべちぇぇぇぇ!」 
「ちゅ、ちゅぶりぇりゅぅぅぅ!!」

赤ゆっくりの身体は脆い。圧力に押され餡子が口から漏れ始め、飛び出さんばかりに開い 
た目からは目玉が飛び出そうだ。

「やめちぇ! やめちぇね!」 
「いちゃがってるよ! やめちぇあげちぇね!」 
「ダメだ。黒バッジは許されない」

赤れいむ達の抗議など意に介さず、男は黒バッジのゆっくりを時間をかけて苦しませ、潰 
し殺した。 
残された赤ゆっくり達は、ショックのあまり静まりかえった。

「いいか、もう一度言う! 聞き分けのないゆっくりは、『黒バッジ』だ!」

そして、男は透明な箱を取り出す。

「ゆううううううう!?」 
「ゆんやぁぁぁぁぁぁ!!」 
「ゆっくちできないぃぃぃぃ!」

絶句していた赤れいむ達が再び騒ぎ出す。それも無理はない。一抱えほどもある透明な箱 
の中は黒バッジでいっぱいだったのだ。それはゆっくりには到底数えきれない数。 
全ての赤れいむが、自分が黒バッジをつけられた姿を想像して恐怖した。

「いいか! お前らのすることは『ゆっくりする』ことじゃない! 『人間をゆっくりさ 
せること』だ! そのために必要なことは全部教えてやる! 考える前に従え! そして 
ゆっくりするんだ!」

男の言葉は、恐怖と共に餡子脳に刻み込まれた。


基本的に、ゆっくりは頭が悪い。言葉だけでは教育が出来ない。ゆえに痛みと恐怖で一つ 
ずつ教えていかなくてはならない。 
この育成所では、最初に仲間を潰して絶対の力関係と恐怖を刻み込む。 
これは恒例の儀式のようなものだ。実は潰すゆっくりはあらかじめ用意されていた。育成 
対象より低いランクのゆっくりを綺麗に見えるよう細工したものだ。つまり、あれは出来 
レースだったのだ。 
通常の教育では痛み――即ち体罰を与えることで教育する。だが、どうしても言うことを 
聞かない場合、見せしめに仲間を潰す。 
そのために使われるのが「黒バッジ」だ。 
ゆっくりは頭が悪い。ゆえにわかりやすい記号が求められる。育成のなか、黒バッジは行 
儀の悪いゆっくりの象徴として繰り返し使用される。 
だが、使用機会はそう多くはない。黒バッジをつけられたゆっくりは死ぬ。つまり、育成 
所にとっては損失になる。可能ならば黒バッジは使いたくない物なのだ。 
だが、それでも黒バッジは必要になる。


「むーしゃ、むーしゃ、しあわちぇー!」 
「だめだ。れいむ、『むーしゃむーしゃ、しあわせー』は食べた後にやるんだ。食べなが 
らするんじゃない。」 
「ゆゆ? でも、ちゃべにゃがらしあわしぇー、しゅると、しゅごくゆっくちできりゅよ! 
 にんげんしゃんをゆっくちさせちぇあげりゃりぇるよ!」

ブリーダーはれいむに黒バッジをつけると、赤れいむを潰した。

「いいか!? ゆっくりできるかどうかを決めるのはお前らじゃない! お前らを飼う人 
間だ! 『むーしゃむーしゃ、しあわせー』を、大抵の人間は嫌がる! やっていいと言 
われたときだけやれ! いいな!?」 
「ゆ、ゆっくりりかいしたよ!」

赤れいむ達は、恐怖に震えながら理解した。



「ゆ~♪ ゆ~♪ ゆ~♪ ゆっくちしちぇいっちぇね~♪」 
「れいむ、おうたをやめろ。おうたの練習の時間は終わりだと言ったはずだ」 
「ゆゆ? おうたはとっちぇもゆっくちできりゅんでしょ? いっぱいうちゃえば、にん 
げんしゃんもいっぱいゆっくちできりゅよ!

ブリーダーはれいむに黒バッジをつけると、赤れいむを潰した。

「いいか!? ゆっくりできるかどうかを決めるのはお前らじゃない! お前らを飼う人 
間だ! 人間にはおうたを聞いているとゆっくりできない時もある! やめろと言われた 
やめるんだ、いいな!?」 
「ゆ、ゆっくりりかいしたよ!」

赤れいむ達は、恐怖に震えながら理解した。


黒バッジを使うとき――それは、ゆっくりが「人間のことを思って」間違ったことをやっ 
た 
ときだ。 
ゆっくりの「ゆっくり」と、人間が「ゆっくりに望むゆっくり」には違いがある。 
所詮不思議ナマモノと万物の霊長、相容れない部分があるのだ。 
飼いゆっくりを育てると言うことは、その違いをゆっくりに押しつけることだ。それはゆ 
っくりにとって理不尽なことであり、いくら言葉を費やそうと理解できるものではない。 
そのための黒バッジだった。

やがて、理不尽を受け入れたゆっくりだけが生き残り、金バッジの試験を受けることにな 
る。 
育成所のゆっくりの育成は極めて厳しい。しかし正しく優れたものであり、生き残ったほ 
とんどのゆっくりが試験に合格する。 
そして、金バッジの授与。この育成所では、その授与に一風変わった方法が採られる。


「きょうは『きんばっじ』をもらえるんだってね!」 
「『きんばっじ』はすごくゆっくりしできるんだってね!」 
「とってもたのしみだね! ゆっくりできるね!」

一室に集められたもう子ゆっくりと呼べるほどに育ったれいむ達。もう赤ゆっくり言葉も 
抜けたこのゆっくり達は、いずれも金バッジ試験に合格したものである。 
それぞれが透明な箱に入れられているが、不安な様子はない。箱に収められるのも飼いゆ 
っくりにはよくあることであり、その時の行儀作法も当然教育済みなのだ。 
こうして賑やかに話しているのも、人間にあらかじめ許可されたからだ。勝手に喋ったり 
はしない。その声もまた人間にとって耳障りなものではなく、とてもゆっくりした綺麗な 
声であり、適度な声量だった。

「これから金バッジの授与を始める!」

大きなダンボール箱を台車に乗せ、ブリーダー達が部屋に入ってきた。ゆっくり達が色め 
き立つ。 
ダンボールの中には小さな箱が入っており、その中には豪華な金バッジが収められている。 
ブリーダー達は一匹一匹に金バッジをつけていく。

「おにいさん、ありがとう! とってもゆっくりできるよ!」

ゆっくり達は喜びに興奮しながらも、人間への感謝の言葉を忘れない。本能に流されがち 
なゆっくりがきちんと教育された証拠である。 
まだ金バッジをもらえないゆっくりは、まだかまだかとそわそわする。しかし、決して箱 
をカタカタ言わせたりするような粗相はしない。だからこその金バッジである。 
だが、そんな落ち着かない時間も終わる。 
最後のゆっくりに、バッジがつけられた。

「ゆゆぅぅぅぅ!?」 
「ゆええええええ!?」 
「どうしてえぇええええ!?」

ゆっくり達は驚きの声を上げた。 
なぜなら、最後のゆっくりにつけられたバッジ――その色が、黒だったからだ。

× 
× 
×

そして、黒バッジれいむは部屋から運び出された。 
残された金バッジのれいむたちは押し黙っている。

「お前ら、どうしてあのれいむが『黒バッジ』なのかわかるか?」

どのれいむも答えない。 
部屋にいるゆっくり全てが同じ施設で同じように育てられた姉弟のようなものだ。当然黒 
バッジをつけられたれいむのこともよく知っていた。 
だが、わからないのだ。 
あのれいむは自分たちと同じぐらい優秀だった。自分たちとの違いがわからない。 
その疑問がれいむ達を黙らせていた。何が間違いかわからないのだから、下手なことをす 
れば自分も今すぐ黒バッジをつけられるのではないか――そんな恐怖があった。 
今まで金バッジを目指して頑張ってきた。今やそれが自慢のおりぼんにつけられている。 
それなのに、安心できない。ゆっくりできないのだ。

「お前、わかるか?」

一匹のれいむが問いかけられる。しかし、答えられない。 
ブリーダーが部屋を見回すが、どのれいむも視線を逸らし、答えられそうもない。

「そうだ。それでいい。わからないのが当たり前だ」

ブリーダーの言葉に、れいむ達は驚き目を剥いた。

「いいか? 人間はお前らよりずっと頭がいい。お前らごときが人間の考えすべてを理解 
できるわけがない。あのれいむに『黒バッジ』をつけた理由も、お前らに話したところで 
理解は出来ない。だから説明は無しだ」

れいむたちは混乱した。 
今までなにか悪いことしたら、かならず説明があった。それを学んでゆっくりしてきたの 
だ。それができない。

「理解しろ。お前達は所詮、ゆっくりに過ぎない」

愕然となった。自分たちは、厳しい教育を受け、難しい金バッジ試験を受けた優秀なゆっ 
くりのはずだった。他とは違うはずだった。 
でも、結局、ゆっくりに過ぎない。いつ黒バッジをつけられるか――いつ人間に殺されて 
しまうか、わからないのだ。 
金バッジをつけた誇らしい気持ちは今やコナゴナになってしまった。 
暗く沈むれいむたちを、ブリーダーはじっと眺める。全員、打ちひしがれたのを確認し、 
十分な時間をおいてから再び声をかける。

「いいか、この育成所でおぼえたことを決して忘れるな。そうすれば、お前達は人間をゆ 
っくりさせられる。人間がゆっくりできれば、お前達もゆっくりできる。お前達が今まで 
必死に覚えてきたことだけが、お前達の生きる唯一の道だ。それを、決して忘れるな」

れいむ達の心にわずかな明かりが灯った。 
自分たちがゆっくりするために学んできたこと。それは無駄な事じゃない。その証が金バ 
ッジだ。 
人間はゆっくりより強い。難しいことを考えることが出来る。そんなことはこの施設に初 
めてきたとき、仲間の死で思い知らされたことだ。 
初心に帰り、そして今までしてきたことを思い出す。積み上げてきたことは無駄ではなく 
い。 
金バッジは「貰った」ものではない。自分の力で「勝ち取った」ものなのだ。 
おりぼんについた金バッジが、その重みと輝きを増したように思えた。

「お前らに最後の言葉を贈る――ゆっくりしていってね!」 
「ゆっくりしていってね!」

今までの教えに従い、金バッジれいむたちは、聞いた誰もが心からゆっくりできる素晴ら 
しい声でゆっくりの定型句を唱和した。 
その声には、金バッジを受け取った誇りと、これからなお一層のゆっくりに励もうという 
揺るがぬ決意があった。

× 
× 
×

黒バッジのれいむは震えていた。透明な箱の中で、脂汗にまみれて震えていた。

なぜ。 
なにがわるかったのか。 
どうしてこんなゆっくりできないことになってしまったのか。

尽きぬ疑問と死の恐怖に、れいむは答の出来ない疑問を餡子脳の中で繰り返すばかりだっ 
た。箱を運ぶブリーダーには聞けない。聞いた途端、ゆっくりできないことになってしま 
いそうに思えたからだ。 
やがて、れいむは部屋の中に運び込まれた。真っ白な、殺風景な部屋だ。 
ここに自分の黒い餡子が広がるのだろうか。その想像にれいむは震え上がった。 
れいむは透明な箱に入れられたまま、部屋の床に置かれた。 
そして、ついに、ブリーダーから決定的な言葉を投げかけられた。

「れいむ、おめでとう!」

理解できなかった。 
しかし、やがて言葉の意味を知る。ゆっくりでもわかるシンプルな祝福の言葉だった。

「お、おにいさん……おめでとうって……どうして?」 
「れいむ。お前は特別優秀なゆっくりなんだ。だから金バッジよりすごいバッジをもらえ 
たんだ」 
「で、でも! 『くろばっじ』はゆっくりできないよ!」 
「れいむ。お前はひとつ勘違いしている。『黒バッジ』は『ゆっくりするためのもの』だ」 
「ゆ、ゆゆ!?」

れいむはすっかり混乱してしまった。黒バッジをつけられたら潰されてしまう。ゆっくり 
できない。だから黒バッジはゆっくりできないもの――それは、れいむの餡子脳の奥の奥 
まで刻み込まれた恐怖だ。

「ほら、思い出してみるんだ。確かにお前の仲間が黒バッジをつけられ、潰された。だが、 
そのたびお前はゆっくり出来るようになっただろう?」

言われ、れいむは気がついた。 
確かに黒バッジを見るたびに、れいむは一つずつ、人間と暮らす上で大切なルールを覚え 
ていった。飼いゆっくりとして、ゆっくりできる方法を身につけていった。

「お前は一番ゆっくりしたゆっくりだった。だから、金バッジ以上のバッジ……黒バッジ 
が与えられたんだ。ほら、見てごらん」

ブリーダーは鏡を見せた。そこには黒バッジをつけた自分の姿が映っている。 
そして、れいむは気がついた。今まで見ていた黒バッジは、丸いだけでなんの飾り気もな 
い安物だった。だが、れいむがつけているのは金バッジ同様に、細かい細工が施された立 
派なものだったのだ。

「れいむ、お前は特別なゆっくりなんだよ。だが忘れてはいけない。死んでいったゆっく 
り達がいたからこそ、お前は特別なゆっくりになれたんだ。そのバッジはとても大切で価 
値のあるものだ。お前はそれに相応しいゆっくりとして、人間をゆっくりさせるんだ。い 
いね?」

れいむは理解した。このバッジはただのバッジじゃない。犠牲になった仲間達の餡子で黒 
く染まったか、けがえのないバッジなのだ。 
れいむは誇らしさと同時にその責任の重さを感じだ。だが、厳しい教育を乗り越えたれい 
むは、その重さに負けなかった。

「お前に最後の言葉を贈る――ゆっくりしていってね!」 
「ゆっくりしていってね!」

今までの教えに従い、黒バッジれいむは、聞いた誰もが心からゆっくりできる素晴らしい 
声でゆっくりの定型句を叫んだ。 
その声には、黒バッジを受け取った誇りと、これからなお一層のゆっくりに励もうという 
揺るがぬ決意があった。

× 
× 
×

黒バッジ。 
この育成所においては見せしめの象徴。 
だが、世間における公式な扱いは違う。 
表向きには、金バッジの教育を受けたが、何らかの障害を持つゆっくりに与えられるもの 
とされている。 
金バッジゆっくりは最高の品質を求められる。だから身体に障害を持ったゆっくりから金 
バッジは剥奪されてしまう。だが、厳しい教育を受けたゆっくりにそれはあんまりではな 
いか――最初は、そんな声から生まれたものだった。 
しかし、現在、裏では別の意味を持つ。 
即ち、「公認虐待バッジ」だった。 
金バッジを受けるほど優秀なゆっくりは、当然虐待を受けることなど社会的に許されない。 
だが、黒バッジゆっくりは違う。どんな虐待をしても罰せられることはない。 
あんよを焼くことも、目を抉ることも全て許される。なぜなら黒バッジを与えられたゆっ 
くりは障害を持っているはずなのだから、どんな傷を負っていても「そういうゆっくり」 
ということで通ってしまうのだ。 
虐待を目撃されても、「治療行為だ」と言い張れば多くの場合は許される。ゆっくりの生 
態は謎が多く、何がゆっくりを癒すかわからない。だからあからさまな虐待であっても、 
「障害をなんとかなおしたいと願う飼い主の行きすぎた行為」と見なされることが多いの 
だ。 
あんよを焼いても「悪い患部を焼き切っただけ」、針を無数に刺しても「針治療」、生ゴ 
ミを喰わせても「特殊な食事療法」と幾らでもヘリクツが利く。裏では黒バッジ用の虐待 
言い訳例集まで売られているくらいだ。 
しかも、表向きは金バッジと同等のゆっくりだ。迷子になれば保護されるし、飼い主の許 
し無く虐待すれば罰せられる。まさに虐待おにいさん垂涎のゆっくりなのだ。

ゆっくり育成所では、この黒バッジに目を付けた。

元々、ゆっくり育成所では金バッジ取得後のゆっくりをランダムに一匹殺していた。これ 
は金バッジの「選民意識」をなくすためである。 
金バッジ取得は難しい。ゆえに、金バッジゆっくりは他のゆっくりを見下す傾向がある。 
これにより、金バッジのゆっくりと言えどゲス化することがある。所詮、ゆっくりはゆっ 
くり。金バッジを一度は取得しても、転落するゆっくりは少なくないのだ。 
それを防ぐため、ゆっくり育成所では金バッジ取得ゆっくりを見せしめに、無作為に潰し 
ていた。そうすることで「自分はいつ殺されてもおかしくない、他のゆっくりと変わらな 
い饅頭に過ぎない」ということを思い出されるのだ。 
だが、潰してしまうのは明らかに損失だ。 
そこで黒バッジに目を付けた。金バッジゆっくりの質を高め、なおかつ黒バッジゆっくり 
を出荷することで利益を得られる。一石二鳥とはこのことだ。

このゆっくり育成所から出荷される黒バッジゆっくりは優秀だ。金バッジ以上のゆっくり 
であるという自負があり、躾も性格も金バッジを持つに相応しいものだ。 
しかし、このゆっくりの未来は真っ暗で、真っ黒だ。

飼いゆっくり。 
それは人間に理不尽を押しつけられる存在。 
黒バッジとは、その理不尽の象徴なのかも知れない。


【おわり】

anko0122
元ネタ:M1