「むきゅうううううううう!」 

俺の飼いゆっくり――ぱちゅりーの悲鳴が聞こえた。 
慌てて声の元、居間の方へ駆けつけると、そこには本を読んでいるぱちゅりーの姿がある。 
つい先ほどまで楽しげに読んでいたぱちゅりーは、今や涙目だ。 
その舌はだらんと垂れ、舌の表面には一筋の線――傷つき、クリームが漏れだしたことで 
できた線がある。 
そんなぱちゅりーの悲惨な様を見て、 

「ああ、またか……」 

俺はため息を吐いた。 

それでもぱちゅりーは本を読む 


ゆっくりぱちゅりーは本を読むのが好きである。 
最初のうちは本である必要ですらない。家電機器の説明書だろうとピザのチラシだろうと、 
とにかく字が書いてあればいい。読んだふりができれば満足なのだ。内容なんてわからな 
いクセになんでもかんでも「むきゅきゅ、これはすごいまどうしょだわ」とありがたがる 
のである。バカでウザくて、でもそこがかわいいと言えばかわいい。 
だが、だんだん字というものに慣れてくると話が変わってくる。ひらがなぐらいは読める 
ようになると、ナマイキにも本物の本を求めてくるのだ。 
ここで問題になるのが、ゆっくりが基本的に生首饅頭であるということだ。 
まず、生首だから本のページをめくるのに口と舌を使わなくてはならないこと。わずかな 
がら、本が濡れてしまう。 
これだけならまだいい。問題なのは、ゆっくりが饅頭であり、その体液がことごとく糖分 
を含んでいることだ。当然ツバも糖分入りでべたつくわけで、口や舌でページをめくった 
りしたらページがくっついてしまうことがある。 
だからぱちゅりーには基本的に読み終えた雑誌など、いらない物を与えている。 
だが、それで問題解決かというと、面倒なことにそうじゃないのだ。 

「今回はまたざっくりやっちまったなー」 

ぱちゅりーの舌の傷口を確認しながらぼやく。 
ゆっくりで一番身体の弱いぱちゅりーは、本を読んでいるときページで舌を切ってしまう 
ことがあるのだ。 

「むきゅ……えれえれえれ!」 

舌の傷口は浅いが広い。出血、即ち流れ出るクリームが多く見え、それで気分が悪くなっ 
たのか。ぱちゅりーは、クリームを吐き始めた。 

「ぱちゅりー! ほら、『ごっくん』だ、『ごっくん』!」 
「えれえれ……ごっくん……むきゅぅ……」 

ぱちゅりーは身体が弱いだけでなく、精神的に脆いため簡単に身体の構成成分にして命の 
源、クリームを吐き出してしまうのだ。簡単に死にかけるのである。 
そこで俺はぱちゅりーに「ごっくん」を覚えさせた。ゆっくりは基本的に中枢餡か内容物 
――ぱちゅりーの場合はクリーム――を過剰に吐き出さなければ死ぬことはない。 

「むきゅぅ……むきゅぅ……」 

顔を真っ赤にし、涙目になって荒い息を吐くぱちゅりー。ちょっと妄想というスパイスを 
降りかければエロい顔に見えなくもない。 
まあ、俺はゆっくりに欲情するような変態紳士ではないのだが。 
だが、あえぐぱちゅりーというのはなかなかかわいいので嫌いでもない。 

「待ってろよ。今オレンジジュース持ってきてやるから」 

そして、俺はぱちゅりーを治療してやる。 
まあ、なんて言うか。もう慣れつつあった。 

今まで何匹もゆっくりを飼ってきたが、ぱちゅりー種はこいつが初めてだ。 

今まで飼うのを避けていた。なにしろ今実感している通り、こいつは脆いのだ。 
飼うのはゆっくりの飼育になれてから、と決めていた。実際、こいつを飼うのはなかなか 
苦労している。ゆっくりのことは知り尽くしたつもりだったが、新しい体験が多い。 
それは楽しいのだが、少々困ってもいる。 
俺は日中は仕事があり、家を空ける時間が長い。その間ぱちゅりーは本を読む。俺が居な 
い間に今みたいな事があると最悪「永遠にゆっくり」してしまいかねない。 

そんな悩みを持っていたとき。 
仕事帰りに寄ったとあるゆっくりショップで、いい商品を見つけた。 

「おいぱちゅりー! 喜べ土産だ!」 
「むきゅ? おにいさん、なにかしら?」 

気ままな一人暮らしだが、やはりこうして出迎えられるのは悪くない。今日は土産を買っ 
てきてやったこともありいい気分だ。 

「ほら、見ろ! ゆっくり用の本だ!」 
「むきゅ! ごほん!」 

包みから一冊取り出し渡してやると、ぱちゅりーは大喜びで読み始めた。 

「むきゅ! これはきょうみぶかい『まどうしょ』だわ!」 

とりあえずぱちゅりーは気に入った本を見れば「まどうしょ」と呼ぶ。ぱちゅりー種特有 
の定型句、といったところだろうか。 
ゆっくり用の本。 
まず、大きさ。やや小さめで、薄手の絵本と言った感じだ。このサイズならゆっくりでも 
無理なく扱えるだろう。 

「むきゅ!? このごほん、とってもめくりやすいわ!」 

本の各ページは防水加工してある。風呂で読める本なんてのがあるが、あれと同じような 
ものだ。表面はペタペタしているから、ゆっくりの舌のくっつきが良い為めくりやすいら 
しい。また、ページの四隅も丸めてあるから、舌を切ってしまうこともそうそうないだろ 
う。 

「むきゅむきゅ……なるほど……きょうみぶかいわ……」 

更に、絵を多くして字もひらがな、内容もゆっくりでもわかる簡単なものにしてある。 
ちなみに今渡した本に書かれているのは飼いゆっくりに必要な基本的なマナーだ。このぱ 
ちゅりーはそれなりに躾けてあるが、これを読んでいっそうゆっくりして欲しいものであ 
る。 

「むきゅ~、なんだかとってもゆっくりできるわ~」 

とか思っていたら、ぱちゅりーは普段以上にとてもゆっくりしだした。 
これがこの本の最大の特徴だ。 
なんでも、ゆっくり用の本はゆっくりがゆっくりできるあまあまの香り、「ゆっくり芳香 
剤」が出るようになっているという。 

「むきゅ! おにいさん、ありがとう! このごほん、とってもゆっくりできるわ!」 

ぱちゅりーはすっかり本を気に入ってくれたようだ。これなら俺が居ない間でも暇になら 
ずゆっくりと過ごしてくれることだろう。 

「本は安売りしてたんで何冊も買ってある。だからって、粗末にするんじゃないぞ? そ 
れをきちんと読み終わったら、新しいのをやろう」 
「むきゅ……わかったわ……むきゅ……」 

どうやらもうすっかり本に夢中らしい。 
まあ、これは俺にとっても喜ばしいことだ。本でぱちゅりーが色々な事を覚えてくれるの 
は楽しみではある。 


「むきゅ! おにいさん、ぱちゅがおそうじしておいてあげたわ!」 
「むきゅ! ぱちゅのおうちをみて! ごほんでおぼえた『とかいはおうちこーでぃねい 
と』でおうちがすごく『とかいは』になったのよ!」 
「むっきゅっきゅ~♪ むっきゅんむきゅきゅん♪ ごほんでおうたをおぼえたのよ!  
おにいさん、ぱちゅのおうたでゆっくりしていってね!」 

本で知識が得るだけでなく、使うのも楽しいらしい。 
人間の本はゆっくりには難しすぎる。今までのぱちゅりーは基本的に「本を読んでいた」 
と言うより、本を読む振り……言ってしまえば、ごっこ遊びをしていたようなものだ。 
だが、ゆっくり用の本ならきちんと理解できる。きっと読むのが楽しく、覚えたことを試 
したくなるのだろう。 
実際、役に立っていることも多いし、俺としても見ていて楽しいから問題ない。 
さて。こうして読む喜びを学んだのだから、そろそろあの本を渡してみるか。 

「むきゅ! お、おにいさん! ぱちゅにはこのごほんはちょっとしげきがつよすぎるわ!」 

ぱちゅりーに新たに渡したのは、世にも珍しいゆっくり用のエロ本、「ひとりできるもん! 
 ~すっきりーへん~」だった。 
ゆっくりの四十八手を書き上げたと言う狂える絵師の手によるこの本は、なかなか過激な 
内容だった。ちょっと読んでみたが、人間に置き換えたら今のご時世発禁になってしまう 
んじゃないかというレベルだ。 

「そうか。ぱちゅりーにはちょっと早すぎたか。じゃあこの本は俺が預かっておくよ」 
「む、むきゅ! だめよ! おにいさんがそんなごほんをもってたら、きっとへんなきぶ 
んになってたいへんなことになるわ! ぱちゅがきちんとしまっておくわ!」 
「かーちゃんみたいなこと言うなよ……」 

ぼやく俺をよそに、ぱちゅりーはさっさと自分のゆっくりハウスの奥にエロ本をしまい込 
んでしまった。 
まあ、いい。エロ本を隠したくなる気持ちは痛いほど理解できる。 

そして、翌朝。 
俺はぱちゅりーの遊び相手に買ってやったゆっくりまりさのぬいぐるみが汚れていること 
に気がついた。 

「なあ、ぱちゅりー。なんかぬいぐるみが汚れてるような気がするんだが。それもクリー 
ムで」 
「む、むきゅ! ぱちゅがねぼけておといれのほうにけとばしちゃったかもしれないわ!」 
「そうか? でも汚れてるところが変だな。アゴの下あたりっていうか……」 
「む、むきゅぅ……」 
「具体的には……まむまむ?」 
「むきゃーっ!」 

ぱちゅりーは真っ赤になってゆっくりハウスに逃げ込んだ。 
結局ぱちゅりーはあのエロ本を読まずにはいられなかったのだ。それでぬいぐるみ相手に 
ひとりすっきりーをしたのだろう。。 
ありすならともかく、知性もモラルもゆっくりにしては高く、おまけに病弱で性欲に欠け 
るところのあるぱちゅりー種がこんなことをするとは。いや、珍しいものを見たものだ。 
恐るべきゆっくり用エロ本。 

その後もぱちゅりーは様々なゆっくり用の本を精力的に読んでいった。 
ぱちゅりーもすっかり、読書の楽しさに目覚めてくれたようだ。 

    * 
    * 


「さて、ぱちゅりー。これが俺のまとめ買いしたゆっくり用の本の、最後の一冊だ。大事 
読むんだぞ」 
「むきゅ、さいごなの……」 
「大丈夫だ。お前がもし無事読み終えることができたら、また買ってやるさ!」 
「むきゅーん! おにいさん、うれしいわ!」 
「さあ、読むといい」 

ぱちゅりーはさっそく本を読み出した。 

「たいとるは……『ゆっくり……していってね』? むきゅ! とってもゆっくりできそ 
うなごほんね!」 

俺は本に喜ぶぱちゅりーをニコニコしながら眺める。 
ちゃんと読み終えられるかどうかか気になる。 
なにしろ、今回の本は難易度が高いのだ。 

「むきゅ……やせいのくらしもいいわねえ……」 

冒頭では、森の中でゆっくりと暮らす野生の群れが描かれている。そのゆっくりとした様 
に、生まれたときから飼いゆっくりのぱちゅりーもなにか感じるところがあるらしい。 
まあ、人間だって都会に住んでたら田舎に憧れたり、田舎に住んでたら都会に憧れたりす 
るしな。 
ぱちゅりーがページをめくると、場面が切り替わる。 
群れの前に長のぱちゅりーが木の株の上に立ち、ゆっくり達に遠征を呼びかけていた。 

「むきゅきゅ! かしこいぱちゅりーがおさをやってるなんて、とてもゆっくりしたむれ 
ね!」 

ぱちゅりーはとても嬉しそうだ。きっと自分と話の中の長を重ね合わせているのだろう。 
そして、群れは長ぱちゅりーの指示で「野菜が勝手に生えてくる素敵なゆっくりプレイス」 
へと辿り着く。 

「むきゅ……? やさいがかってにはえてくる? おかしいわね……」 

どうやら気づいたらしい。 
そう言えば、ぱちゅりーに今まで与えた本の中には農耕について触れたものがあった。 
ぱちゅりーの懸念の通り、そこは人間の畑。そこにやってきたゆっくりは当然捕まった。 

「むきゅぅ、どうなっちゃうのかしら?」 

つかまったゆっくり達を助けるために、長ぱちゅりーは脱出を試みることにしていた。 

「む、むぼうだわ!」 

こいつは飼いゆっくり。俺との力関係はよく理解している。それはつまり、ゆっくり如き 
では人間に絶対敵わないと知っていると言うことだ。 
本でもそのへんはきちんとリアルに描かれており、ゆっくり達の脱出はあっさりと失敗に 
終わった。 
その後も長ぱちゅりーは様々な「妙案」でピンチを乗り越えようとする。 
人間に取り入ろうとやかましくみんなで歌ってみたり、あるいは他のゆっくりを先導して 
みんなで「野菜は勝手に生える物」と人間を説得してみようとしてみたり……。 
長ぱちゅりーの半端な知識は裏目に出てばかり。ゆっくりに対する人間の心証はガンガン 
悪化していった。 

「むきゅぅぅぅぅ……えれえれ」 
「おいおいぱちゅりー、吐くな。ごっくんだ、ごっくん」 
「ごっくん……むきゅぅ……」 

話の中の長パチュリーに感情移入し、相当な精神的ストレスを受けたのだろう。ついに吐 
いた。 
だが、それでもぱちゅりーはページをめくるのを止めようとしない。 
きっと本心ではもう読みたくないのだろう。それでも続きが気になるのかも知れない。奇 
跡の逆転劇に期待しているのかも知れない。 
それでも「読み続ける」というのは異常だ。ゆっくりにとって、中身を吐くというのは命 
に関わる。普通は一旦休憩くらいするはずだ。 
しかし、ぱちゅりーは休むことなく本を読み続けた。 

そして、決定的なページに行き着いた。 

「むぎゃああああああああああ!」 

ついに人間がゆっくりを虐待し始めたのだ。 
まずは虐待の基本にして王道。目玉抉り。通称「アマギり」。 
本の中では、当初のほのぼのとした絵柄そのままに、それでいて悲鳴が聞こえんばかりの 
生々しさで「アマギり」が描かれていた。 

「えれえれ……ごっくん……えれえれ……ごっくん」 

それでもぱちゅりーは読み続けた。 
まだゆっくりが助かる展開を期待しているのだろうか? いや、吐くのを堪えながら読み 
続ける様は、何かに取り憑かれているかのようだった。 
その後もゆっくりに対する虐待は留まることを知らなかった。むしろブレーキが壊れたか 
のように加速していった。 
足焼き。全身針刺し。全身やすりがけ。ぺにぺに切断。鉄板焼き。水攻め。強制にんっし 
ん後の赤ゆっくり虐殺。 
そして、ゆっくり共は虐待を受けるたびに叫ぶのだ。 
ありったけの呪いを込めて。ありったけの恨みを込めて。 

長ぱちゅりーのせいでこんなことになったのだ、と。 

「えれえれえれええええ! ご、ごっくん……えれえれ……ごっくん……」 

吐きながら、しかし俺の教え通りそれを飲み込み戻しながら、ぱちゅりーは本を読み続け 
た。 
俺はそんなぱちゅりーが途中で力つきないよう、そっとオレンジジュースを注射してやる 
のだった。 


    * 
    * 


ゆっくり用の本。 
これが安く大量に手に入ったのには理由がある。 
本から香る、「ゆっくり芳香剤」。販売後、これには常習性があることがわかった。本を 
熱心に読むのはいいのだが、やがてそれが止められなくなる。ただただゆっくりすること 
を求め、むさぼるように本を読むようになってしまうのだ。 
当然、正規のゆっくりショップからは回収された。だが、正規ではない店……いわゆる虐 
待系の店では、その大量の在庫を捌こうとたたき売りしていたのである。それを俺は折良 
く飼うことが出来たわけだ。 
もっとも、最後の本だけは別だ。あれは虐待の大家、「鬼意山」の手によるゆっくり虐待 
専用の本だったのだ。 
ぱちゅりーは本を読むのを止めなかったのではない。やめられなかったのだ。本好きのぱ 
ちゅりーはすっかり「ゆっくり芳香剤」に侵されていたのだ。 

もともとぱちゅりーは最終的には虐待するつもりで飼っていた。最弱のゆっくりの生態研 
究のため、とりあえず普通に飼っていただけだ。実際いろいろ勉強になったし、最後に面 
白い死に様を見せてくれた。 
ぱちゅりーは、本の最後のページにのしかかるように「永遠にゆっくり」していた。 
本の中で、長ぱちゅりーは最後まで仲間の死に様を眺め続け、最後にはストレスの余りク 
リームを吐き出して死んでしまう。 
俺の飼っていたぱちゅりーもストレス死。まったく同じ死に様となったわけだ。 
まったく。さすが「鬼意山」の監修した本である。まさに、タイトル通りの虐待となった。 
ぱちゅりーは漢字がわからないから、完全には読めなかった。本の正式なタイトルは、こ 
うなのだ。 


『ゆっくり自滅していってね!』 


【おわり】