「ゆっへっへ、くじゅにおしおきなのじぇ!」 
「ばーきゃ、ばーきゃ! ぱきゃなおやは、ゆきゅりちないでちにぇっ!」

数匹の赤れいむと赤まりさが騒いでいた。 

水槽の中、その一角には檻がある。その檻は、赤ゆっくりならば容易に通り抜けられるほ 
ど格子の間隔は広い。 
そして、檻に閉じこめられているのは一匹の成体れいむだった。 
酷い有様だ。 
バサバサに乱れた髪、やせこけた頬。このれいむが長期に渡り食事を摂れてないことのは 
明らかだった。そして、身体のそこかしこについたアザの数々は、

「ちねぇっ! ちねぇっ!」

今も執拗に飛びかかってくる赤ゆっくりの体当たりによるものだった。 
れいむが仮に反撃しようとしても、赤ゆっくりは容易に檻の外に逃げてしまうだろう。そ 
もそも傷つき消耗しきったれいむは、もう動くことすら出来ないようだ。 
今や、れいむは、「永遠にゆっくり」しようとしていた。 
悲惨な光景である。 
しかし、何より悲惨と言えるのは。 
れいむを執拗に痛めつけているのが、れいむの餡を分けた赤ゆっくりであるということだ 
ろう。 
その一部始終を眺めていた男は、

「また失敗か……」

憂鬱なため息を吐くのだった。





ゆ~性遺伝の育てたモノは




ゆっくり。喋り、動き、考え、そしてゆっくりする謎の饅頭。 
その最大の謎のひとつは、赤ゆっくりの諸機能力の高さだ。 
生まれた直後の状態に限ってのみ比較すれば、ゆっくりは人間より豊富な知識を持ってい 
る。 
ゆっくりは生まれ落ちたその日から、喋り笑い跳ねる。生まれ落ちるまでに、親からゆっ 
くりとしての基本的な性質を受け継ぐのみならず、性格や言葉遣い、基本的な知識と言っ 
たことまで受け継いでいるのだ。 
この様々な要素の継承を、俗に「ゆ~性遺伝」と言う。

この「ゆ~性遺伝」に着目する者は多い。 
なにしろ、ゆっくりはバカで性格の悪い個体が多い。だが、親から知識や性格を継承でき 
るのなら、賢く性格の良い理想のゆっくりを人為的に作ることができるかもしれないのだ。

男が研究しているのはこの「ゆ~性遺伝」だった。

まず、ゆっくりの持つ「母性」を強化することを考えた。子供を大切にするゆっくりなら 
生存率が高く、また性格も良いはずだ。それはつまり、より優良な個体を作るための基礎 
に相応しいゆっくりだということだ。 
母性を高めるため、男はれいむ種を選んだ。 
実験の方法は、ゆっくりにとって過酷な手順を取ることになった。


まず、出産。

「んほ、んほ、んほおおおおおおお!」 
「やべでぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

れいむ種を他のゆっくりにれいぷさせることでにんっしんさせる。 
ゆっくりは一般にれいぷで産まれた子をなかなか大事に育てない傾向がある。母性が強い 
と言われるれいむ種であろうとそれは例外ではない。

「れいぷでうまれたこなんて、れいむのこじゃないよ……」


次に、子育て。 
これには特殊な環境を用いる。 
ゆっくり飼育用の水槽の中。それを、段差で仕切るのだ。 
段差の上には親れいむ、下には赤ゆっくりを配置する。 
そして、段差の上、親れいむの方に餌を与える。段差は高いため、赤ゆっくりは自力で餌 
を得ることは出来ない。親れいむが子育てしようと思わない限り、赤ゆっくり達は飢え続 
けることになるのだ。

「ゆえーん! ゆえーん! おにゃかすいちゃよー!」 
「おきゃーしゃーん! かわいいれいみゅとまりしゃにごはんをちょーだいね!」 
「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー! おまえたちなんかれいむのこどもじゃないよ!  
ゆっくりおなかをへらしていてね!」 
「ゆんやああああああ!」

望まぬれいぷで産まれた赤ゆっくりに、親れいむは餌を与えない。 
一見、母性を強化する研究の主旨に反するように見える。 
だが、違う。ここで重要なのは「赤ゆっくりがまともな子育てをされず、飢えること」だ。


そして、報復。 
また別の特殊な環境を用意する。 
今度はゆっくり飼育用の水槽の中、段差は作らない。ただ、檻を用意し、そこに親れいむ 
を閉じこめるのだ。檻の格子は間隔が広く、赤ゆっくりならば自由に出入りできる。 
そして、今度は赤ゆっくりの方に餌を与える。親れいむは檻から出られないのだから、赤 
ゆっくりに餌を運んでもらわなくては何も食べられない。

「おちびちゃんたち……おかあさんに、ごはん……ごはんちょうだいね……おかあさんも 
うみっかもたべてないんだよ……」 
「ばーきゃ! れいみゅたちにごはんをくれなかったおまえにゃんか、おやぢゃないよ!」 
「むーちゃ、むーちゃ、ちあわちぇー! まりしゃにやさしくしてくれなきゃったばきゃ 
なれいみゅは、そきょでゆっくちこうかいしてね!」

自業自得。親れいむは餌を与えられない。それどころか、親れいむが栄養不足で弱ってい 
るのをいいことに、今までの鬱憤を晴らそうとリンチをするのだ。

「ゆぎゃ、おちびちゃん、やべでぇぇぇぇ!」 
「ばーきゃ、ばーきゃ!」 
「おお、ぶじゃまぶじゃま! ゆぷぷぷ!」 
「じゃみゃーみりょ! おみゃえなんかゆっくちちないでちねぇぇぇ!」

親子の争う様は、悲惨極まりない。 
だが、これでいい。これでこの赤ゆっくり達は、子育てしない親がいかに間違っていて、 
愚かで無様か学んだはずだ。 
そして、「ゆ~性遺伝」の法則により、この経験は後の世代に生かされる。次の世代はよ 
り母性が強いゆっくり生まれる。

手順を繰り返す――即ち、この赤ゆっくり達のうち、れいむ種は望まぬれいぷでにんっし 
んさせられるのだ。

この過酷な手順を繰り返すことにより、母性はどんどん強くなっていく。 
そういう実験だった。

× 
× 
×

「そのはずだったのに、な……」

男は憂鬱そうに水槽の中を見る。 
先ほどの喧噪はもう収まっていた。赤れいむと赤まりさは、一箇所に固まりのんきに眠っ 
ている。 
もう、親れいむを苛めるのに飽きたのだ。つまらなくなったのだ。 
なぜなら、親れいむはもう動かない。「永遠にゆっくりした」からだ。 
男はいつも通り、動かなくなった親れいむを水槽から取り出す。 
その音に赤ゆっくり達が目を覚ました。

「おにーしゃん、ゆっくちしちぇっちぇね!」 
「ああ、ゆっくりしてるよ」

赤ゆっくり達は無邪気に男を迎える。餌を与えてくれると言う理由で、男にはなついてい 
た。そもそもこの状況の原因が男であることなど、幼い餡子脳には想像もつかないことな 
のだ。

「お前達、この親をどう思う?」 
「ばきゃなおやだったよ!」 
「まりしゃたちをじぇんじぇんゆっくちさせちぇくれないくじゅだよ!」

赤ゆっくりは死んだ親を罵倒し、せせら笑う。醜悪な光景だが、この赤ゆっくりのされた 
ことを思えば無理もない。飢えは人だって狂わす。食欲の塊みたいなゆっくりならなおさ 
らだ。

「お前らは、このれいむみたいに、子供を見捨てたりしないか?」 
「れーみゅ、おとなににゃったらこどもをかわいがりゅよ!」 
「まりしゃも! まりしゃも! そんなばきゃみたいにひどいおやにはにゃらにゃいよ!」

男の問いに元気よく答える赤ゆっくり達。 
期待していたとおり、子育てを大切だと考えている。だが、男はどこか諦めを感じつつあ 
った。 
今しがた「永遠にゆっくり」したれいむも、赤ゆっくりの頃にまったく同じ事を言ってい 
たのだ。

このれいむは、実験を始めてから十世代目の個体だったというのに、育児放棄したのだ。

× 
× 
×

「何が間違ってるんだろうな……」

男は親れいむを透明な箱に収めて持ち、廊下をボンヤリと歩いていた。 
「ゆ~性遺伝」の法則が正しいなら、とっくの昔にれいぷで産まれた赤ゆっくりを育てる 
親れいむができてもいいはずだった。理論は正しいはずだ。

「やっぱり、どれだけ代を重ねてもゆっくりはゆっくりなのか……?」

口から漏れだした問いに答えるものがあった。

「ゆっ……ゆっ……」

親れいむだ。まだ生きていたらしい。 
だが、もう先が長くないだろう事は明らかだ。例えゆっくりの万能の妙薬、オレンジジュ 
ースを使ったとして無駄だ。栄養不足にくわえ、赤ゆっくりにじわじわとやられた身体は 
もう回復しないだろう。 
だが、生きている限りは立派な実験材料だ。せいぜい役に立って貰おう――そう思い、男 
は気まぐれに、男は兼ねてからの疑問を問いかけることしにた。

「お前はなんで赤ゆっくり達を育ててやらなかった?」 
「あんなの……れいむのあかちゃんじゃないよ……!」 
「いいや。お前の赤ゆっくりだ。お前から生えた茎から生まれ落ちた、お前の赤ゆっくり 
だ」 
「れいぷされてうまれたあかちゃんなんて……れいむのあかちゃんじゃないよ……! れ 
いむは、まりさおねーさんといっしょにゆっくりしたかったのに……あのれいぱーに、れ 
いぱーありすに……!」

どこにそんな力が残っていたのか。れいむはギリギリと歯を食いしばり怨嗟の声を絞り出 
した。 
この実験では、ゆっくりは姉妹達ととても仲良くなる。親に世話してもらえず、飢えとい 
う苦しい時を共に過ごした 
男はそんな親れいむを冷ややかな目で見た。

「れいぱーありすじゃなかったら……例えば、お前が仲良くしていたまりさとの子だった 
らちゃんと育てたっていうのか?」 
「そだてたよ……! ぺーろぺろしてあげて……! すーりすりしてあげて……! おう 
たもいっしょにうたって……! いっぱい、いっぱい! かわいがってあげたよ……!」

れいむは目を閉じ、涙を流した。瞳を閉じた闇の中にその決して得られぬしあわせな光景 
を夢みているかのようだ。 
そんなれいむに男は冷ややかに告げた。

「それならちゃんと育ててやれば良かったのに。あれ、あのまりさの子だぞ?」 
「ゆ? お、おにーさんなにをいって……」 
「お前、おかしいと思わなかったのか? れいぱーありすに襲われたなら産まれるのはれ 
いむかありすだろ? でも、赤ゆっくりはまりさとれいむだったじゃないか」 
「ゆ? ゆ? ゆうぅぅぅぅ?」

れいむが混乱するのも無理はない。 
全ては実験のためだった。 
れいぷされて産まれた子でも育てるほどに、母性を強める実験。とは言え、本当にれいぱ 
ーありすを使うわけにはいかなかった。れいぱーありすは産まれた赤ゆっくりを育てない 
ことが多い。この実験では必要ない、排除せねばならない因子だ。 
だから、まりさ種を使った。 
れいむの大好きだったまりさ。その髪を切りカチューシャをつけ、外見をありすに仕立て 
上げた。そして強力な催淫剤を使い、正気を失わせてれいむを襲わせたのである。 
れいむは知らない間に、望まぬ形で理想の相手との子を産んでいたのだ。

「ゆ、ゆ、ゆぐぅぅぅぅ!」

激しく吐餡して、今度こそれいむは永遠にゆっくりした。 
れいむには、男の策略など理解できなかった。 
ただ、わかってしまったのだ。 
ろくに省みもしなかった赤まりさ達の帽子。その形に、大好きだったまりさの面影があっ 
たこと。 
そして、自分のしたことを知った。 
赤ゆっくり達を罵倒し、餌を与えることすらしなかったことを。 
そして、自分がされたこと知った。 
赤ゆっくり達に罵倒され、餌をもらえもせず、あまつさえ暴力を振るわれたことを。 
大好きなまりさとの、赤ゆっくり達だったのに。 
大切に育てたかった、赤ゆっくり達だったのに。 
その絶望が、れいむの生命を一気に燃え尽きさせたのだ。

「やれやれ……」

そんなれいむの心のなかの動きをしらず、男はただ落胆した。男は実験に感情というもの 
を持ち込まない。 
なぜ実験がうまくいかないのか。 
男の中にあるのは冷めた疑問だけだった。


男は気づかなかった。 
この実験で、男の理論は正しく機能していたのだ。 
ただし、男の望む結果とは全く逆の方向に、だ。 
通常、「ゆ~性遺伝」によって子育ての方法は継承される。 
ところが、この実験において親れいむは、初期段階から子育てを放棄している。そして、 
次の代も、その次の代も……これまで一世代たりともまともに子育てしていないのである。 
もはや実験中のゆっくりの一匹たりとも、ちゃんとした子育ての方法は知らない。 
あるのは子育てに対する「憧れ」だけだ。 
子供の頃にどんなに求めても得られず、夢みるだけだった暖かな親子の関係。その幻想だ 
けしかないのだ。

男は間違えた。 
理想を高く設定しすぎたために間違えたのだ。 
この実験は、十分に母性を強めた個体に対して最終試験としてやるべきもので、育成でや 
ることではなかったのだ。 
母性を高めるために必要なのは、子に対する親の愛。 
しかし、男が育てしまってたものは愛情ではなかった。

男の実験は、ただ、憎悪を育てるだけのものだった。


【おわり】

anko0133

元ネタ:2.5次元あき