俺の名はとしあき。どこにでもあるような名前だ。 
仕事は農業を営んでいる。とはいっても体調の悪くなったオヤジの跡を継いだだけだ。 
引き継いだその畑の面積も半端なく大きく、野菜類を出荷することで生計を立てている。 
それまではダラダラとした毎日を過ごしていたが 
今では「これぞ我が宿命」と言わんばかりに畑を耕している。 
余談だが稲作もしている。 


今日も今日とて朝日が昇る前から畑仕事に精を出しているんだが・・・おや? 
ポイン、ポイン、ポイン・・・ 
「「・・・ゅ・・っ・り・・ゆ~、ゆゆっ」」 
「「ゆ~、ゆ~ちょ、ゆっちゅり!」」 
でたよ。ゆっくりだ。饅頭生物。 
こしあん、粒あん、クリームにチョコレート、人間でゆうところの甘味を中身に持ち、 
饅頭のような皮を持つ、まさに饅頭生物という意外に呼びようのない摩訶不思議ナマモノ。 
広島の某紅葉饅頭のバリエーションで中身がほぼ網羅できるやつらだ。 
「ゆっくりしていってね」を口癖とし、漠然と「ゆっくりする」ことを習性としている。 

勝手に野山でゆっくりしてもらう分にはまったく問題ない。 
ところが困ったことに、こいつらは山野から降りてきて、人間社会の営みに干渉してくる。 
さらに希なことだが、実害(ゆー害)を引き起こしてくれる。 

人家への侵入、あまあまを要求し人間の子どもを襲う、道路に飛び出しての交通事故etc. 
数えだしたらきりがない、ゆー害の数々。 
そのゆー害の中でもトップクラスの被害件数をたたき出しているのが 
今まさに俺の目の前で起ころうとしている、ゆっくりによる農作物の被害だ。 

「ゆゆ!ここにはおやさいさんがいっぱいあるよ!」 
「ゆ~ん、さすがれいむのまりさだよ!みんなでむ~しゃむ~しゃしようね!」 
「「ゆわーい、やっちゃぁ!おやしゃいしゃん!ゆっくち!ゆっくち!」」 

畑は山野に近いところ、というか、より自然に近い場所に作られる。 
空気の汚れた人間社会から離れた、土も水も空気もきれいなところにだ。 
野菜が植物である以上あたりまえのことだ。 
つまり、人間の生活圏の中で、もっともゆっくりの生活圏の近い場所に畑が作られる。 
理由は色々あるが、食料不足に陥ったゆっくりは食料調達のため狩りの場所を変え移動する。 
が、しょせんゆっくり。たいした距離も移動できず、またしても食料不足に陥る。 
それを繰り返しながら、決して登ることなく水のようにすそ野へ、すそ野へ・・・ 
やがてたどり着くのが畑というわけである。 

そしてゆっくりどもは盲信する。 
「もりをでれば、はたけさんというゆっくりぷれいすがある」 
「おやさいさんはおいしい」「おやさいさんはかってにはえてくる」 
「おやさいさんはとてもゆっくりできる」と。 
どこのゆっくりから伝わったのか?伝え始めたのか?それは解らない。 

食欲、ゆっくりできるという盲信、自分たちから最も近いゆっくりぷれいす。 
ゆっくりによる農作物の被害の件数が多いのも頷けるだろう。 
実は俺のオヤジもゆー害対策に苦労して体調を悪くしてしまった。 
しかし、その被害件数に反して、農作物の被害金額は意外に少ない。 
被害金額だけで言えば 
「道路に飛び出したゆっくりで餡スリップ事故を起こした」という 
道交法の理解できない、ゆっくりによる交通事故の方が遙かに凄い被害額になっている。 

それはなぜか? 
農作物へのゆー害のほとんどは 
「一口だけかじられて出荷できなくなった」 
「柵を壊された」 
「畑を荒らされた」ぐらいだからである。 

「さてさてこいつらは、っと」 
完全にアウトオブ眼中(笑)の俺をおいて畑に侵入をしようとしているゆっくりども。 
バスケットボール大の成体まりさ、サッカーボール大の成体れいむ。 
おそらくこの二匹が両親なんだろうな。 
あとはテニスボール大のとんがり帽子が一匹に同じ大きさのリボン付きが一匹。 
すこし大きさにばらつきがあるが、たぶんこいつらが子なのだろう。 

野菜畑を前にして目を輝かせてるゆっくり家族。 
「ゆ!まりさがさきにはたけさんにはいってむ~しゃむ~しゃするよ!」 
そして意を決したように、いそいそと柵の隙間に帽子を突っ込む親まりさ。 
しかし柵の隙間は10センチ程度しかなく・・・ 

「ゆゆ!?ゆっくりまえにすすめないよ?!」 
当たり前である。柵の細い棒(実は鉄の棒)くらいなら、 
草のように押し曲げて通れるとでも思ったのだろうか?愚か過ぎる。 
このように、成体サイズのゆっくりが入れない柵を作ればある程度の侵入は防げる。 
子ゆっくりサイズなら入ってこれるだろうが、子ゆっくり単独で畑に来る事は考え難い。 
親とセットのはずであるから成体の侵入が防げれば大丈夫なのだ。 

「ゆゆ!まりさがんばってね!おやさいさんをとってきてね!」 
「「おとーしゃんがんばっちぇー!」」 
家族の無責任な応援に応えるように、柵に頭をめり込ませていく親まりさだが・・・ 

「ゆ?どぼぢでま゛え゛に゛も゛う゛じろ゛に゛も゛う゛ごげな゛い゛の゛お゛ぉぉぉ?!」 
どうやら帽子だけでなくその中の頭部までしっかりはまってしまったらしく 
親まりさはおしり(底部)をぷりんぷりんと振り回しながら抜け出そうともがいている。 

「ま、まりさ?!しっかりして!ゆっくりひっぱるからね!ひっぱるからね!」 
親れいむがまりさの底部に噛みつき引っ張り始めたが・・・まあ無理だろうな。 
「ゆ゛ぎぎぎい゛ぃぃぃ!い゛ぢゃい゛ぃぃぃ!や゛べでえ゛ぇぇぇ」 

そこで、さっそうと俺登場(最初からずっといたけど) 
「おい、おまえら。俺の畑になんかようか?」 
「「「ゆ?」」」 
必死に尻をふるまりさを除く3匹のゆっくりどもが俺を見上げた。 
「ゆ?じゃねーよ。お れ の は た け に な ん の よ う で す か ?」 

「ゆわぁぁ?!ににににににんげんさんだよ?!」 
「「ゆんやぁ?!きょわいぉぉぉ!!みゃみゃたしゅけちぇぇぇ」」 
「ゆぐぐぐ?!にんげんさん?!み、みんなにげてね!にげてね!(ぷりんぷりん)」 
俺を見てすくみ上がるゆっくり家族、そして自分をおいて逃げるように勧める尻振りまりさ。 
他のゆっくりから聞いたのか、親の教育が良かったのか。 
人間の恐ろしさというものは理解できているらしい。 

太陽を背に見下ろす俺と尻振りまりさを交互に見やる親れいむ。 
「だめだよおぉぉぉ!ばりざをお゛いでにげれるわけないでじょおぉぉぉ?!」 
「「おちょーしゃん!しっかりちてぇぇぇ」」 
家族想いでゲス素質ではないようだ。・・・よし。 

「おいまりさ、お前を助けてやる」 
「ゆ゛~?!ごろ゛ざれ゛る゛ぅ゛ぅぅ~・・・ゆ?」 
「ゆゆ?はやくまりさをたすけてあげてね!にんげんさん!」 
俺は心配そうに見守る家族の前でまりさの尻(底部)を掴み引っぱった。 

「ぐぎぎぎぎぃぃ~」すっぽん!とマンガのような擬音をたて、 
黒いとんがり帽子を柵に残したまま、まりさは引っこ抜かれた。 
「ま、まりさ?!だいじょうぶ?!」 
「「ゆーんゆーん!おちょーしゃーん」」 
残った帽子を取っていると、茄子型にくびれた親まりさに家族がすり寄っていた。 

「さて、さっきの質問に答えてもらおうか」 
「ゆーん!ゆーん・・・ゆ?」 
茄子型に変形した親まりさにすり寄っていたやつらが、ふたたび俺を見上げた。 
親まりさも苦痛に閉じていた目をあけ、俺の手元の帽子が目に入ったようだ。 
「ま、ま、りさの、おぼうしさん・・・」 
「まりさのゆっくりしたおぼうしをかえしてね!」 
子ゆっくりたちも泣きそうな目で俺に訴えている。 
「「かえちぇー!じじぃ!」」 
訂正。子はゲス要素があるようだ。 

「だめだ。さっきの質問に答えろ。俺の畑に何しに来たんだ?」 
親まりさがオロオロと視線を泳がせた先、親れいむがゲジ眉を逆八の字につり上げて答えた。 
「ゆゆ!みんなでおやさんさんを、たべにきたんだよ!」 
「野菜を?俺の作った野菜をか?」 
「そうだよ!にんげんさんがつくったおやさいさんをゆっくりいただくんだよ!」 
なんてことだ。 
こいつらは数多のゆっくりが妄信する「野菜は勝手にはえてくる」ではなく 
野菜は人間が苦労をして栽培しているもの、と、ちゃんと理解ができている。 

「俺の畑の野菜は俺が作ったもの。俺の野菜だ。 
 解っているのになぜ食べに来た?殺されても文句は言えないだろ?」 
「ゆ、そんなのわかってるよ! 
 でもかりにでてもごはんさんがみつからなくなったんだよ!」 
「おやさいさんはゆっくりできるごはんさんなんだよ!だからたべさせてね!」 
「おやしゃいしゃんをつくっちゃら、まりしゃによこすんだじぇ!」 
「ひとりじめしゅるじじぃはちねぇ!」 
親まりさが力強く言い放った。野菜はゆっくりできる食べ物だ、と。 
人間に、永遠にゆっくりさせられる危険性があったとしても食べたい、と。 

こいつらは解っていない。 
解っていないが、理解する素質のあるゆっくりだ。 
栽培の苦労も理解出来ないゲスオブゲスなら 
「絶対に許さないよ」と間違いなく叩き潰し発酵させ畑の肥やしにところだった。 
こいつらに理解させ、再び野に放てば、ゆっくりどもの間に真実が伝わるかも知れない。 

野菜がゆっくりできないということを。 

「・・・よし。ならば好きなだけ食うがいい」 
「「「「ゆ?」」」」 
俺はクイと顎をしゃくった。 
ゆっくりの親子4匹は頭に?マークを浮かべ傾いている。 
お野菜を殺してでも奪い取るつもりだったんだろう。 
予想(こいつらの予想なんてたかが知れているが)の斜め上の返答に困惑気味だ。 
「だからよ。食べていいって。お野菜さんを食べたいんだろ?」 
俺は柵を2~3本引き抜いて1番大きな親まりさでも通れるようにしてやる。 

「ゆ!そ、そーだよ!やっとじぶんのたちばが、りかいできたんだね!」 
「おやさいさんはゆっくりいただくよ!でもそのまえにおぼうしさんをかえしてね!」 
要求が通ったことに気を良くしたのか、親まりさが口元をつり上げて帽子を要求してくる。 
「だめだ。お前の帽子はお野菜さんを食べられたら返してやるよ」 
「ゆふん!おやさいさんはたべれるにきまってるじゃない!ばかなの?しぬの?」 

いかん、増長し始めた。 
「おら、とっとと食えよ」 
俺は先頭の親まりさをコツンと軽く蹴って畑に叩き込んだ。 
「ゆべぇ!」 
「ばりざぁ!」 
「「おちょーしゃーん!」」 
ゆっくり親子は痛がる親まりさにする寄るように、いそいそと畑の中に入っていった。 
こっそりとこいつらが引き返せないように柵を元に戻しておいた。 

さて、大半の専業農家がそうであるように、うちの畑もほとんどがビニールハウスである。 
その周囲にひとむね、ふたむね、寒冷紗を付けたりした露地物を栽培している。 
自分で食べるだけの量を栽培するならいざ知らず、 
農業で生計を立てる農家であればビニールハウスは必須だ。 
気温や湿度を調節でき病害虫(ゆー害を含む)から野菜を守り、季節をずらして出荷できる。 
おかげで年がら年中すべての季節の野菜や果物が店頭に並べることができる。 
つまり、季節に関係なく、安定した収入を得ることができるのだ。 
クリスマスケーキの時期にいちごのショートケーキがあるなど本来ならありえない話だ。 

おっと話がそれた。 

ゆっくりどもには、透明度の低いビニールに覆われたハウスの中身が見えるはずもなく、 
やつらのいう「はたけさん」とは周囲に張り巡らした、わずかばかりの畑のことのようだ。 
とは言っても、ゆっくりからすれば広大な面積になるんだろう。 

さて、やつらが最初に向かったのは・・・大根か。 
「ゆゆっ!だいこんさんがあるよ!」 
「しろくてもちもちだね!」 
「「まっちろくておいちしょーだにぇ!」」 
家族揃って大根の回りに集まり歓声をあげている。しかし「真っ白くておいしそう」とは? 
上の葉の部分は大根として認識してないんだろうな。ただの葉っぱには変わりないもんな。 

「おちびちゃんたち!だいこんさんはあたまだけだしてじめんさんにうまってるんだよ」 
「ゆっくりほーりほーりしてあげようね!ほーりほーり!」 
「「ほーりほーり」」 
喜々として掘り進んでいくゆっくりども。 
しかし、一般的な大根は直径10センチ弱の太さ、深さも60~70センチとそれなりに深い。 
ゆっくりの構造からして、口で掘るしかない。大根の回りのみを掘り進むのは到底不可能だ。 

「どぼぢでだい゛ごん゛ざん゛ぼれ゛な゛い゛の゛お゛ぉぉぉ?!」 
当たり前である。1本の大根を家族が取り囲んで掘れば、 
お互いが邪魔になって大根から離れた位置を掘るようになる。 
30分間掘り続けた結果、ムダに周囲1メートル、深さにして5センチしか掘り進めていない。 

「ゆ!まりさ!だいこんさんをぬけばいいんだよ!」 
「そうだね!さすがまりさのれいむはあたまがいいね!」 
掘り出せないとわかると、親まりさは必死に口でくわえて引き抜こうとしている。 
しかし大根掘りというものは大人の人間でもそれなりに力とコツが必要になってくる。 
しっかりと根を張っていて、無理に引き抜けば途中から折れてしまうことだってある。 

「ゆーしょ!ゆーしょ!ゆぎぎぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・ぶべらばっ?!」 
ほれみたことか。 
親まりさの歯茎が耐えきれずに歯茎から歯をむしり取られたようだ。 
大根の皮にかろうじて刺さっていた歯を残したまま歯茎から餡子をまき散らして倒れた。 
「ばばばばりざぁぁぁぁぁぁ?!ばりざのはがぁぁぁぁぁ?!」 
「ひゅひゃいひぃひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 
「「ゆんやぁぁぁ!おちょーしゃーん!」」 
せっかくなんの障害もなくお野菜にありつけたのに、いきなりこの惨劇である。 

「おちょーしゃんをいじめりゅ、ゆっくちできないだいこんしゃんはちね!」 
おお、子まりさが親のかたきとばかりに大根に齧り付いた。 
「かーじかーじ!かーじかーじ!・・・ゆ?きゃ、きゃらいよぉぉぉ?!ゆぶぅげぇ!」 
「おぢびぢゃぁぁぁん?!どぼぢだのぉぉぉぉぉ?!」 
大根に齧り付いていた子まりさが大根の辛味で盛大に餡子を吐き出している。 
ゆっくりにとって辛味は毒に相当するそうだが、生の大根には多かれ少なかれ辛味がある。 
成体ゆっくりならまだしも子ゆっくりには致死量の辛味だったようだ。 

「おぢびぢゃぁん?!じっがりじでぇぇぇ!」「おひぃひぃひゃぁぁぁん?!」 
親れいむと親まりさが目を見開いて子まりさに呼びかけている。 
「もっ、ぢょ、ゅ・・・っり、しちゃ」 
と、臨終のご挨拶を始めた死にかけ子まりさを拾い上げる。 
「じじぃ!おぢびぢゃぁんを、おぢびぢゃぁんをがえぜぇぇぇ!」 
親れいむが俺に突進してきたが、サッと足で押さえつける。 

「落ち付けって。こいつは治療してやるから、もっと他のお野菜さんを食べたらどうだ?」 
「ゆう?ほんちょう?」 
家族を襲った突然の惨劇に、すでに涙目&ちーちー状態の子れいむが聞いてきた。 
「ああ、本当だ。もっと他のお野菜さんを見てごらんよ」 
そう言って周囲を見渡す親子を尻目に、俺は子まりさを近くの農具小屋に持って行った。 
親れいむと親まりさも顔を見合わせ 
「つぎのおやさいさんならきっとむーしゃむーしゃできるよ・・・」と周囲を見回し始めた。 

「おきゃぁしゃん!あのきいろいおやさいいさんはなぁに?!」 
畑の最奥のむねにあった黄色い穂のような実を見て子れいむが親れいむに訪ねた。 
「ゆ!あれはとうもろこしさんといって、とってもあまあまなんだよ!」 
「あまあましゃん?!たべちゃいよぉ!」 
あまあまと聞いて子れいむがぴょんぴょん跳ねはじめた。 
「おちびちゃん、わかったよ!さぁまりさ、あそこまでたべにいこうね!」 
「ひゅっひゅひひゅいてひゅくひょ・・・」 
全ての歯が抜け落ち、歯茎から餡子を滴らせた親まりさはすでに青息吐息だ。 
親れいむと子たちの後ろをずーりずーりとついていく。 

「ゆ?」 
「ゆゆゆ?」 
トウモロコシまでたどり着いたゆっくりどもが見上げている。 
そう、種類にもよるが、うちのトウモロコシの背丈は2メートルほどある。 
とてもではないがゆっくりどもの跳躍力でどうにかなる高さに実はついていないのだ。 
遠目に見ればそんなに高く見えなかったが近づくほどにその高さを思い知ったようだ。 
「ゆー、これじゃとうもろこしさんはたべられないよ・・・」 
「ゆんやぁ!あまあましゃんたべちゃいぃぃぃ」 
親れいむは俺の身長よりをはるかに越えたあまりの高さにすでにあきらめモードだが、 
逆に、子れいむは「あまあま」というワードのおかげでトウモロコシにご執心の様子。 

「ゆ~、どうしようまりさ・・・」 
トウモロコシを食べるための良いアイデアが浮かばず親まりさの方を向いて訪ねる。 
「ひゅ!ひょっひょまっへへひぇ!」 
何か思いついたか、親まりさがはっと起きあがりトウモロコシに対して後ずさりを始めた。 
なるほど、トウモロコシの茎に体当たりしようとしているのか。 
その振動でトウモロコシの実を落とそう、もしくは茎を折ろうという魂胆か。 
先の大根の失敗で、地に落ちた父親の威厳を取り戻そうとする親まりさ。 
そして意を決したように突進をはじめる・・・あーあ。 

「ひゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!(ぴょんぴょんぴょん!)・・・ひゅぶべらぁ?!」 
「ばばばばりざぁぁぁぁぁぁ?!」 
「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ」 
まりさは全力かつ最大の跳躍でトウモロコシの茎にぶち当たった。 
だが本当にぶち当たっただけで終わった。 
帽子のないその頭部は茎の形にキレイに凹み、天を仰ぐまりさは痙攣している。 
トウモロコシの茎についた実はとても硬く、切り落として収穫する。 
熟した木の実のように震動で落ちるなどありえないのだ。 
また2メートルの身の丈を保持するだけあってその茎も硬く、 
収穫後はそのまま耕耘機で鋤き込んでしまわなければ片づけることも面倒な代物だ。 

「ゆんやぁぁぁ!おちょーしゃーん!」 
「ばりざぁぁぁぁぁぁ!じっがりじでぇぇぇ!」 
「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ」 
ゆん生最期のカウントダウンをはじめた親まりさを抱え上げる。 
「・・・トウモロコシも無理みたいだな」 
「ばりざをっばりざをがえぜぇぇぇ!」 
親れいむが俺に突進してきたが、サッと足で押さえつける。 
「落ち付けって。こいつは治療してやるから、もっと他のお野菜さんを食べたらどうだ?」 
「ゆ?ほんとにまりさをなおしてくれるの?」 
すでに涙か何か解らない汁だらけの親れいむが右に傾きながら問いかけてくる。 
「ああ、本当だとも。次のお野菜さんは食べられるといいな」 

おれはさっと周囲の畑を見回し、ちょっと向こうのむねを指さした。 
「なあ、れいむ。お芋なんかどうだ?」 
「ゆゆ!おいもさんはほくほくであまあまでとってもゆっくりできるよ!」 
「あまあましゃんたべちゃいぃぃぃ」 

    * 
          o 
                + いや、それは火を通した芋のことだろう。どこかで食ったことあるのだろうか。 

「ゆっくりたべるよ!おちびちゃん、ついてきてね!」 
「ゆゆーん!」 

さっそく俺が指さした芋畑の向かって跳ねていくゆっくりども。 
「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ!ゆっくりついたよ!・・・ゆ?」 
「ゆー?おいもしゃんはどきょなの?」 
見渡す限りの葉っぱだらけの畑。その葉もトゲトゲしてとてもゆっくりできそうにない。 
「おいもさん!どこなの?!かくれてないででてきてね!」 
「いじわりゅしにゃいででちぇきちぇね!」 
ああ、こいつらには根菜なんて理解できんだろうな。先の大根も根菜だけどな。 
「言い忘れてたけど、お芋さんは地面の下だよ。ゆっくり掘ってね」 
俺の言葉を聞いた親れいむは地面を見つめた。 
「ゆ?ちがうよ!おいもさんはあかくてなかはきいろでほくほくなんだよ!」 
「しょうだよ!うしょちゅきのじじぃはちね!こんにゃはっぴゃしゃんなんかこーだよ!」 
子れいむが見当違いな怒りにまかせて芋の葉を咬み千切ろうとした・・・ 
「かーみ!かーみ、・・・ゆびげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」 
「おぢびぢゃぁぁぁん?!どぼぢだのぉぉぉぉぉ?!」 
根菜類、特に芋類の葉は苦くて渋みが凄い(良い子は食べちゃだめだぞ) 
子れいむは白目を剥き、すでに痙攣している。 
「おぢびぢゃぁぁぁん?!おぢびぢゃぁぁぁん?!」 
「もっ、ぢょ、ゅ・・・っり、しちゃ」 
と、臨終のご挨拶を始めた死にかけ子れいむを拾い上げる。 
「じじぃ!おぢびぢゃぁんを、おぢびぢゃぁんをがえぜぇぇぇ!」 
親れいむが俺に突進してきたが、サッと足で押さえつける。 

「落ち付けって。こいつも治療してやるから、もっと他のお野菜さんを食べたらどうだ?」 

「もう、ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛お゛や゛ざい゛ざんな゛んがい゛ら゛な゛い゛よ゛!!」 

「そうかそうか、それは残念だな・・・」 
「お゛や゛ざい゛ざん゛い゛ら゛な゛い゛!お゛ぢびぢゃんどばり゛ざを゛がえ゛じで!!」 
涙か何か解らない汁をまき散らしながら、親れいむが懇願してきた。 
おれはにんまりと頷くと、うしろの箱から親まりさ、子まりさ、子れいむを取り出した。 
「まりさ!おちびちゃん!」 
「れいむぅ!」「「おきゃぁしゃーん!!」」 
感動の再会である。 
親まりさと子ゆっくりどもには休憩で食べるつもりだったミカンを握りつぶして 
果汁100%ジュースにしてぶっかけてやった。親まりさの歯は適当に埋めたらくっついた。 

すーりすーりを繰り返す家族をまとめて抱え、畑の外に運び出してやる。 
「どーだ、お前ら。お野菜さんとやらはゆっくりできたか?」 
「「「「おやさいさんはゆっくりできないよ!!!!」」」」 
まあそーなるだろうな。 

野菜を掘り起こし、食すためには人間でさえ大変な苦労をする。 
獣は掘り起こしたり、苦みがあるものを食べたりしない。硬いものも食べない。 
そうされない為に野菜だって進化してきたのだ。獣にできないことがゆっくりにできる訳がない。 
とは言え、スイカやメロンのような果実類はそれなりに被害がでるが、ハウス内なら別だ。 
うちのオヤジが苦労していたのが白菜やキャベツの葉物類の被害。 
これはゆっくりでも食べることができる(しかし味はほとんど無いので獣は食べない) 
だから俺は葉物類を露地で栽培するのをやめたのだ。 

親子で寄り添い合いながら、ゆっくりと野山に帰っていく家族を眺めながら思った。 
「お野菜はゆっくりできない」 
このあたりに住むゆっくりにそれを広めてくれれば御の字というものだ。 


【おわり】