少々暑くなって来た今日この頃。 
俺と友人は道を歩いていた。 
微妙に汗ばんでくる陽気にも少しウンザリするが、それ以上にウンザリするのが…… 

「僕達の趣味の話は絶対にNGだからね?分かった?分かったよね?」 

数十分前からしつこく同じ事を繰り返す友人にウンザリしてくるのだ。 


「……そんなに怖い人なのか?」 

その言葉に身震いする友人。 
目は虚空を睨んだまま足を止めている、嫌な事を思い出しているようだ。 

「そんなに怖い人じゃないけど……ただ、僕達とは別ベクトルでゆっくりに狂ってる人だからな……僕の為にも愛想良くしてくれよ?」 

俺としてはお前の方が心配なんだがねぇ。と思ったが口には出さず。 
分かった分かったと、適当に頷き返しながら目的地に進む事にした。 

…………………… 

「私のまりさちゃんは本当に可愛くて……ホラ!この写真なんか良く撮れてるでしょ?」 

肥え太った体に、カメラを見下した弛んだ目付き。 
スイーツな金持ちが育て上げるテンプレートゆっくりの姿が写真にあった。 

「そうですねぇ、精悍な体と鋭い目付きがとっても凛々しいですねぇ」 
「まあ嬉しい!まりさちゃんの可愛さの中に含まれる凛々しさ!これが分かる人が来てくれるなんて初めてだわ!」 
「……そりゃそうでしょうね」 

微かに漂わせた皮肉にも気付かずに、テレビを操作する妙齢の婦人。 
テレビに映ったまりさも、写真から想像できる行動を続けている。 
やれ、飯が不味い。やれ、すっきりしたい。やれ、体を洗え。やれ、眠いからふかふかした布団を用意しろ。etc 
あまりにも想像通りの行動で、ここまで増長させる育て方をした婦人を感心する気持ちさえ出てくる。 

「あのお菓子は何ですか?美味そうですね」 
「ショコラですわよ。まりさちゃんが如何しても食べたいってお願いするから、有名なお菓子屋を探し回りましてね」 
「へぇ~」 

婦人の機嫌を損ねないように馬鹿話に華を咲かせていると。 
さっきから一言も発さない友人が気になってきた。 

「……」 

チラッと横目で友人を見てみると。 
何かに耐えるように、眉間に皺を寄せたまま腕を組んでいる。 
段々と体の震えが酷くなってきているので、怒りの限界点も近いのあろう。 
もうここが限界か。 

「えー、すいません。そろそろ件のまりさちゃんの部屋に連れて行ってもらっても宜しいでしょうか?」 

飼ってるゆっくりの自慢をもっとしたかったのだろう、婦人は不満そうな顔をして席を立った。 

「ここがまりさちゃんのお部屋ですわ」 

十畳はある部屋に通された。 
完璧な空調で夏涼しく冬暖かいだろう事は想像できて、ゆっくりの遊び道具がいっぱいある。 

「今日の朝起きて、この部屋に来たら…まりさちゃんの姿が無くて…」 
ある一点を指しながら。よよよ、と泣き崩れる婦人。 
その指差した方向には割れた窓ガラスが一枚あった。 


…………… 


「で、こっからどうすんだ?」 
「件の糞忌々しいまりさちゃんを捜すんだよ!」 

婦人が家の奥に引っ込んだので、ここぞとばかりに唾と一緒に愚痴を吐き捨てる友人。 
この友人の職業は探偵であり、一応の事務所も持ってはいる。 
と言っても探偵業は年中休業状態。 
実質的には、超が付く金持ちである両親の脛を齧って暮らしているに等しいのである。 

「良いねぇ…金持ちの三男坊は楽して生きていけて。とても妬ましいな」 
「ゆっくりを捜す羽目になるまでは、そう思ってたよ僕も」 
「しっかし、あの飼い主にも参ったな…誘拐とはねぇ」 
「叔母さんもアレが無きゃ良い人なんだけどなぁ……」 

手渡されたまりさの写真をポケットに仕舞うと。 
友人と一緒に溜息を突きながら、さっきの会話を思い出していた。 

お金持ち御用達の飼いゆっくりに付けるバッジは?あれには発信機が付いてるはずですが? 
「まりさちゃんは帽子に傷が付く事を嫌がりまして……そもそもあのバッジはデザインが悪いじゃありませんか?」 
言っちゃ何ですが警察に電話は?俺達に任せるよりは良いじゃないですか? 
「誘拐されたまりさちゃんが危ない目に会うかもしれませんのに、警察に電話するなんて出来る訳がありませんわ!」 

ガラスが疎らに散らばった庭から、まりさの部屋を覗いて見る。 

「これ…誘拐とは違わないか?」 
「うん、僕もそう思う」 

庭に散らばるガラス。対して部屋の中にはガラスは落ちていない 

「まりさ自身の手で、中からガラスを割ったとしか思えないね……これ見てよ」 

ガラス片に混じって落ちていた物を指差す友人。 
覗き込んでみると、ゆっくりの玩具である積み木の一部だった。これを使ってガラスを割ったのだろう。 
他にも微かなカスタードの跡が、何かの道しるべのように明後日の方向に続いている。 
似たようなケースを知っている俺と友人は、カスタードの跡をつけて行く事にした。 

十分も経たない内に、一つの公園に到着。 
それ程大きくない公園で、ゆっくりの数もそんなに多くはない。 

「ゆっくりが多すぎだよ糞ウザいなぁ…」 

……友人の主観は違うらしいが。 
物乞いするゆっくりを蹴散らしながらも、微かなカスタードの跡を辿って着いた便所の裏。 

「ふむん。アレがそうかな?」 

そこには一つのダンボールがあった。 
隠れて覗くと、その中にはありすとまりさが居た。 

「だいじょうぶかだぜありす?」 
「だいじょ、うぶよ、まりさ。ありすは、とかいはだから、へいきよ」 

頬に葉っぱを貼り付けているありす。カスタードの跡はあいつが作ったのだろう。 

「まりさが窓ガラス割る時に怪我したのか……ク、クフフフ」 

腹を抱えて必死に笑い声を抑える友人。俺もこれには苦笑い。 

「あのありすに唆されてかね?」 
「もっと前から不満が溜まってたようだから、あの糞は勢いでやっちゃたんだろうね」 

生暖かく見ていると、ダンボールの中のまりさはよく聞こえる声で叫んだ。 

「ゆゆっ!あのいじわるばばぁのせいでけがしちゃったんだぜ!ゆるせないのぜ!」 
「いや、窓ガラス割ったあいつの責任だよな?」 
「糞がその事に気付くわけないって」 
「まずいごはんしかたべさせてくれないし!そとにいっかいもだしてくれないし!もうまりさはもどらないんだぜ!」 
「超高級ゆっくりフードが不味い、とは豪勢なこったな」 
「…………」 
「でも、これでまりさはありすをゆっくりさせられるんだぜ!ゆっくりしようね!」 
「ゆぅ~んまりさぁ」 

一段落したのだろう。 
発情したような表情のまりさとありすは、そのままくっ付くと、何ともムーディーな雰囲気を作り出した。 

「かっこいいわまりさぁ」 
「ゆゆ~ん、てれるよありすぅ」 

緩んだ顔のまますっきりをおっ始めた二匹を見た瞬間、物陰から飛び出そうとする友人。 
俺は必死に羽交い絞めにしながら説得しなければならなかった。 

(よし殺そう、あの糞二匹ぶっ殺そう) 
(待て待て落ち着け!) 

まりさの発見には成功した。さて、これからどうするか? 

「どうすんの?あの糞を連れて帰るなんて僕は嫌だよ?ぶち切れるよ?」 
「あのまりさは絶対に飼い主にある事ない事を言うだろうしな……やってもいない事の濡れ衣を着せられるのは俺も嫌だわ」 

ありすとの憩いの場から引き剥がされたまりさは、確実に身勝手な怒りを俺達に向けるだろう。 
そして、報復する手段として飼い主に……連れてくる最中に苛められた、等と吹き込む。 
その程度の誹謗中傷ならまだマシ。最悪、俺達を誘拐犯扱いしてくる事もありうるのだ。 
まりさに甘々な飼い主は、ほぼ無条件で信じるだろう、悪けりゃ警察が呼ばれるかもしれない。 
たとえ警察が呼ばれなくても、気分をかなり害されて帰る羽目になるのだけは避けられないだろう。 


その事の解決策はちゃんとあるが。 


「…最低でも一日経てば、あのまりさは自分から家に帰るだろう」 
「依頼の方はそれでいいけど。だけどさ」 
「だけど?何だ?」 

答えは聞かされるまでも無く分かっている。 
『あのゆっくりを破滅させたい』だろう。俺も友人も何とも野蛮な事だ。 
とすると……ああするか 

「事務所の冷蔵庫に『まりさ』は残ってるよな?」 
「?冷蔵庫にはれいむもありすもぱちゅりーも沢山あるはずだよ?」 
「よし!行くぞ!」 

………… 

「このまりさは写真にソックリだな」 
「ちょっと小さくない?」 
「それは、こう、餡子と小麦粉でこうしてこうすれば……」 

「写真とソックリだろ?」 
「目元の弛んだ皮がないね」 

「目元はこれで良いか?」 
「体が硬いよ。写真のは、おばけのバーバパパみたいに伸び縮みできるから」 
「おばけのバーバパパって何だ?」 
「え?知らないの?」 

「どうだこの会心の出来!」 
「薬は?何倍薄めたの使うの?」 
「原液のままで、俺達の事も何もかも忘れてもらわないと困るしな」 

…………… 

「ゆっ?おねぇさんだぁれ?」 
「ああっ!まりさちゃん何て事なの!?」 
「ゆゆっ?まりさはまりさだよ?なんてことじゃないよ!」 
「すみません…見つけた時にはもうこのような状態で」 
「まりさちゃんを返して!鬼!悪魔!」 
「しかし、我々も八方手を尽くし「言い訳は聞きたくないわ!出てって!早くここから出てって!」 

ガシャーン!と言う音と共にドアから叩き出されるように逃げ出す俺と友人。 
その足で再び公園の便所裏に舞い戻った。 

「やれやれ……叔母さんはあのヒステリーも無ければなぁ……」 
「まあ、気付かなかった分だけ良しとしよう、俺達の工作の腕も落ちちゃあいないって事さ」 
「明日も電話で文句言われるんだろうなぁ……」 
「まあ、その話は止せよ、仕上げをするぞ」 

見ている先では何やら喚いているまりさとありすの姿が。 
ありすの頭には茎が伸びている、どうやらにんっしんしたようだ。 

「なかなかたべられない、とかいはなおじょくじなのになんではきだすのぉぉぉぉ!?」 
「こんなむしがたべられるわけないんだぜ!ばかなの!?しぬの!?はやくゆっくりできるふーどさんをさがしてくるのぜ!」 
「ゆぅぅ…もうくらいからあしたさがすことにして、きょうはねましょ?」 
「どこでねるの?こんなかたいところでねるのはまりさいやだぜ!」 
「ゆ゛う゛ぅぅぅ゛なにいっでるのぉぉぉ?」 

「……あのまりさは、外の世界に過剰な憧れを抱いてたんだろうな」 
「このまま餓えて死ねば、来世では良い糞に生まれ変わるだろうね」 

天国から地獄に落ちたゆっくりを見るのは堪らなく楽しい、が。 
「ここ」では困る 

「まりさおうちにかえるよ!」 
「ゆ゛え゛ぇぇぇ!?なにいっでるのばりざ!?あかぢゃんだぢをおいでがないでぇぇぇ!!!」 

ぽよんぽよんと跳ねて公園から出ようとするまりさ。 
もう戻らない気じゃなかったのか?まあゆっくりの言う事は基本的に話半分で聞くものだ。 

「鞄の用意完了」 
「ガムテープの用意完了」 
「「GO GO GO!!!」」 

ガムテープで口を塞ぎ、鞄に放り込み、ジッパーを閉じる。 
ここまで数秒、良いコンビネーションだと自画自賛してしまう。 
鞄のまりさは何が起こったのかまだ気付いてないのか―――お、暴れだした。 
心ここにあらずと呆然としているありすも、もう一つの鞄にご招待。 

「さてさて、まりさとありすには都会の冷たい風を味わってもらうとしようか」 

……………… 

あの街から20駅分は離れた街の大きい公園。 

「わかるよーぐずはりんちなんだねー」 
「たべものもみつけられないぐずなしんいりはしんでね!」 
「んほぉぉぉぉ!とかいはなはだねぇぇぇ!」 
「やべでぇぇぇ!!!やべるんだぜぇぇぇ!!!」 

他のゆっくりから苛められて、泣き叫ぶまりさ。 
ボロボロでカピカピなその姿を誰が飼いゆっくりだと気付くだろうか? 
悲惨なまりさの様子をベンチから眺める俺と友人 

「これで三日か、結構持つもんだね」 
「ありすは初日で死んだのにな」 

この公園に置き去りにされてから目を覚ましたまりさとありす。 
右も左も訳の分からない所でパニックを引き起こした二匹の前に、公園に住んでいる古参のゆっくり達が現れたのだ 

「ゆゆっ!しんいりだね!」 
「ここはどこな ボゴッ ゆべぇ!?」 
「うるさいよ!だまってきいてね!」 
「ここにはいったしんいりは、みつけたえさのはんぶんをけんじょうするのがるーるだよ!」 
「そ、そんなことき ボゴッ ゆばぁ!?」 
「えさをもってないこのしんいりはおしおきだよ!しなないていどにみんなでなぐってね!」 
「ゆぎゃぁぁぁぁ!!!!」 


「れいむ!このありすにんっしんしてるわよ!?」 
「きょかなくかってに、にんっしんしたらしけいなんだねーわかってねー」 
「ば、ばりざぁぁぁ!!!だずげでぇぇぇ!!!ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」 

と、まあ。そんなこんなで。 
ありすは死刑されたが、まりさは辛くも生き残った。 
それでも、生き残ったまりさが餌を集められるわけも無く。 
うんうんやしーしーを食わされながら、地獄のサンドバック生活を強制されているってわけなのだ。 

「きょうはこれぐらいでやめておくよ!」 
「あすもえさをもってこなかったらひどいことするよーわかってねー」 
「んほぉぉぉぉ」 
「ゆ゛べぇぇ…………」 

「今日も生き残ったが、そろそろ限界か。あのまりさ?」 
「この公園の群れの鬱憤の捌け口だし、そう簡単には殺されないと思うよ」 
「いやいや明日には死ぬと思うぜ?」 
「僕は一週間以上は持つと思うな」 

「おでぇざぁぁぁん…ばりざをだずげでよおぉぉぉぉ…」 

「そういやお前の叔母さんどうした?」 
「あのまりさと結構仲良くやってるよ。まりさちゃんは中身が変わったように素直になったってさ」 
「そりゃ別ゆっくりだもんな…変わったように感じるのも当たり前だわ」 

「おでがいだよぉぉぉ……い゛い゛ごになるがらぁぁぁぁ……だれがばりざをだずげでよぉぉ……」 

「明日も見物に来るとして、今日は飲みに行こうぜ」 
「又、僕の奢りで?」 
「お前の叔母さんから調査費用として20万貰っただろうが、部下は可愛がるもんだぜ所長さんよ」 
「上司にタメ口をきく部下は居ないと思うけどな……ま、いっか」 


そして鬼意山二人は仲良く週末を過ごしましたとさ。 
めでたしめでたし。 

【おわり】