「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!」 

畑の一角、ゆっくりれいむとゆっくりまりさは大根をおいしそうに食べていた。 
それだけならありふれた光景、よくあるゆっくりの畑荒らしだが、ひとつ違うことがあっ 
た。 
※「ゆっくりが野菜を食べられるはずがない・いや、食べられるはずだ」という話題を何 
度か見かけ、触発されて書きました 
※独自設定垂れ流し……と言うか、メタな与太話です 


ゆっくり達のすぐそばには、畑の持ち主である男が立っているのだ。ゆっくりは男の許可 
のもと、大根を畑から掘り起こし、こうして食べているのだった。 
畑を荒らすゆっくりは潰す。これは畑作をするものにとって常識だ。だが、男にはかねて 
からの疑問があったのだ。 

「なあ、ゆっくり。それ、おいしいか?」 
「ゆゆ? おにいさん、おいしいよ!」 
「ありがとうなんだぜ! まりさたちはとってもゆっくりできるんだぜ!」 

ゆっくりの実にゆっくりとした回答に、男は首を捻る。 

「お前ら、辛いものが苦手なんだろ? 生の大根なんて辛いはずだし、そもそもお前らじ 
ゃ大根に歯が立たないはずだ」 
「ゆゆ?」 

ゆっくりは不思議そうに男を見つめる。 
男とゆっくりというナマモノのつきあいは長い。畑作をする者と、それを邪魔する害獣と 
いう関係だが。 
そのつき合いの中で、辛いものを食べて餡子を吐きだし死んだのも見たことがあった。か 
みつかれたとき、まるでアゴの力が足りず全然痛くなかったなんてこともあった。 

「お前ら、よくこんなの抜けたよな? 俺だって慣れるまで大変だったんだぞ」 

男はまだ抜かれていない大根の葉を持ち、力を込めて引き抜いた。これにはちからもコツ 
も必要だ。人間でも慣れなければ簡単に抜けるものではない。 
ゆっくりは弱い。男の知る限り、どう考えても大根を掘り出す力なんてないはずなのだ。 
食べることができず、そもそも掘り出すこともできない。そのはずなに、ゆっくりによる 
畑の被害は出る。 
男にはそれが不可解で、今回畑荒らしに来たこの二匹のゆっくりにあえて見逃した。試し 
に大根を取らせてみたのだ。 
ゆっくり達はあっさりと大根を抜き、こうしておいしそうに食べている。 
だが、まだ男には納得いかない。 

「なあ、ゆっくり。もう一回大根を抜いてみてくれないか? うまく抜けたらやるよ」 
「ゆゆ! しょうがないじじいなのぜ! まりさがだいこんの『かり』のみほんをみせて 
やるのぜ!」 
「むーしゃむーしゃ! まりさ、ゆっくりがんばってね!」 

得意になるまりさに、食べるのを止めず応援するれいむ。 
男はすぐさま叩きつぶしたいという衝動に駆られたが、辛うじて耐えた。あと一本。抜く 
ことを確認したらもういい。そういうものだと納得して、潰そうと心に決めた。 

「ゆんしょ! ゆんしょ!」 

まりさは大根の葉をくわえ、引っ張り始める。 
男はため息を吐いた。 

「そんなやり方じゃ絶対抜けないはずだし、生の大根なんてゆっくりには絶対辛すぎるは 
ずなんだけどなあ……」 

そう、男が呟いたときだ。 

「ゆぎゃぁぁぁぁぁ!?」 

悲鳴を上げ、まりさは後ろに転がっていった。それが止まると、再び騒ぎ出した。 

「ば、ばりざのはがぁぁぁぁぁぁ!」 

見れば、まりさの前歯はごっそりと抜けている。大根の方を見れば、そこには抜け落ちた 
歯がそっくり残っていた。 
それは、男が「ゆっくりが大根を抜こうとしたらこうなるに違いない」という光景そのま 
まだった。 

「ゆげぇぇぇぇぇ!」 

今度はれいむだ。さっきまで大根をおいしそうに食べていたのに、今は苦しそうに餡子を 
吐きだしている。餡子の中には白いものが混じっている。初めは大根の欠片かとおもった 
が、それはゆっくりの歯だった。 

「どぼじでだいこんさん、こんなにからいのおおおお!? かたいのおおおおお!? ゆ 
げぇ、ゆげぇ、ゆげぇぇぇぇぇぇぇ!」 

それもまた、男が「ゆっくりが大根を食べたらこうなるに違いない」という光景そのまま 
だった。 
ゆっくりの豹変振りに、男も驚き目を白黒させるばかりだった。 


    * 
    * 



「あのー、ごめんください」 

あの一件の後。男はある家を訊ねていた。 
村はずれにあるその家に住むおにいさんは、ゆっくりに詳しいという評判だった。 
男はそのおにいさんのことをあまりよくは思っていない。おにいさんは趣味でゆっくりを 
虐待していると噂があるのだ。 
男にとってゆっくりは忌むべき害獣だが、だからと言って無闇に苦しめようとは思わなか 
った。一応、人の顔をし、人の言葉を使うために抵抗があるのだ。 
だが、おにいさんならあの奇妙な事件について何か答を持っているかも知れない。そう思 
うとちょっとした悪印象など些細なことだった。 
思い立ったが吉日。先ほどのゆっくり達を捕獲して籠に詰め、男はこうして訊ねてきたの 
だ。 

「はいはい、おまたせしました」 

出てきたのは、虐待の噂など間違いだと思わせるような爽やかな青年だった。 
男がゆっくりについて相談したいことがあると言うと、 

「どうぞどうぞ! 立ち話も何ですから、ぜひ家に上がってください!」 

とても熱心に歓迎された。それも、異様に目を光らせて、心底うれしそうな笑みを浮かべ 
て。 
やはり、噂は本当なのかも知れない。そう思いつつも、男の中で先ほどの不可解な事件へ 
の疑問が勝り、結局その歓迎を丁重に受けることにした。 

「なるほど、そんなことがありましたか!」 

招かれた居間で男が一通り事情を話すと、おにいさんは明るくそう答えてくれた。 
自分でも納得のいかない出来事だった。信じてもらえないんじゃないかという不安があっ 
たが、それは杞憂に終わったようだ。 
男はひと安心し、振る舞われたお茶と饅頭に手をつけようとし……だが、手を止めた。饅 
頭は苦悶を浮かべて絶命したゆっくりなのだ。ゆっくりが苦しめるほど甘くなるというの 
は聞いてはいたが、微妙に抵抗があった。 

「その現象を説明するのに、良い本がありますよ」 

そう言っておにいさんは一冊の本を持ってきて、男に差し出した。ハードカバーで辞書の 
ように分厚いその本は、いかにも学術書といった趣だった。だが、一つだけ違和感がある。 
それは、タイトルだ。 

『ゆっくり存在概論』 

男からすれば、ゆっくりについて記した本などまっとうなものになど思えなかったのだ。 
試しにページをめくってみると……予想に反して、びっしりと細かい字に複雑な図表類が 
時折見られる、実に真面目な本のようだった。 

「これはどういう本なんですか?」 
「ゆっくりが異世界から来た存在だ、という前提に基づいた研究成果をまとめたもの―― 
要は与太話の書かれた本です」 
「はあ……」 

本のまともな作り、内容の密度に、男はずいぶんと手の込んだ与太話だな、とぼんやり思 
った。 
男のそんな様子をニコニコと眺めながら、おにいさんは得意そうに話し始めた。 

「なんでも、ゆっくりは本来別の世界にいる存在だそうです。そこではゆっくりの言って 
る馬鹿げた戯れ言が全て通用する世界らしいです」 
「戯れ言って……『おやさいさんはかってにはえてくるもの』とか、『まりささまはつよ 
いんだぜ』とかの、ああいうのか?」 
「そうです。あのバカバカしいまでの根拠のない戯れ言。実は根拠はあったのです。彼ら 
が本来居る世界では、それが常識として通用するのです」 

男は想像してみる。。 
野菜が勝手に生えてきて食べ放題。ゆっくりは強くて、我が物顔で過ごしてなんの問題も 
ない世界。 
なんと、バカバカしい世界があったものか。 

「その世界から、ゆっくり達はなんらかの理由でやってきた。これはいわば、別世界から 
の浸食です。そして、元の世界のルールを我々の世界に押しつけようとしている――それ 
が、ゆっくりのあの戯れ言の正体です」 
「元の世界のルールって……そんなもの、通用するわけないじゃないか」 
「普通はそうですけど……それがゆっくりの恐いところでしてね。通用することがあるん 
ですよ」 
「バカバカしい」 
「そのバカバカしいことが、先ほどあなたの目の前で起こったのでしょう?」 

そうだ。 
確かにゆっくりは、男の目の前で本来抜けないはずの大根を抜き、食べられないはずの大 
根を食べたのだ。 

「でも……じゃあ、どうしてあいつらは急にそれができなくなったんだ!?」 
「あなたが『できない』と認識したからです」 
「認識って……つまり、俺が『できない』と思ったからだって言うのか?」 
「その通りです。ゆっくりは『ゆっくりに大根は簡単に採れて食べられる』と認識する。 
あなたは『ゆっくりに大根なんて採れもしないし食べれもしない』と認識する。両立しま 
せんよね? そうなると、どちらが正しいか決めなくてはならない。どちらが勝つと思い 
ます?」 
「……」 
「当然、あなたが勝つんですよ。なにしろここは我々の世界で、人間はゆっくりよりずっ 
と知能が高くて物を認識する能力もまた高い。こちらの認識の方が『強い』。ゆっくりが 
大根を抜くことも食べることも急にできなくなったのは、つまりそういう理屈なのです」 

おにいさんの言葉に、男は迷う。 
確かに説明はつく。だが、納得はいかない。 
強い認識が勝つ……つまり、大声で言った方が勝ちということだ。そんなことがあるのだ 
ろうか。 

「そうですね。もう一つ実例を見せましょうか」 

男はおにいさんに導かれ、居間から別の部屋に連れた来られた。 
その部屋には机があり、上には一匹のゆっくりが乗っかっている。ゆっくりというだけで、 
種類はわからない。 
なにしろそのゆっくりは酷い有様なのだ。飾りも髪もすっかり取り払われ、身体中びっし 
り針を刺されている。舌も口の外に出された上に針で固定され、喋ることもできない。 
時折「ゆっ、ゆっ」とうめくのが、それがゆっくりであり、まだ生きている唯一の証明だ 
った。 

「こいつを見て、どう思います?」 
「……よく、生きてるものだな……」 

男は背筋に冷たいものを感じながら、声を絞り出すようにどうにか答えた。 
噂は本当だった。だが、目の前の光景は噂を越えた、覚悟していた以上のものだったのだ。 

「こいつが生きている理由は、僕がうまくゆっくりの命の核、『中枢餡』を避けて刺して 
いるからです。僕がそう『認識』しているから、こいつは死にません。そこで、実験です。 
ちょっと一本、針を刺してみてくれませんか?」 

言葉と共に男は本当に針を手渡された。 

「そ、そんなっ……!」 
「別に躊躇うことはありませんよ。こいつは畑荒らしを繰り返した極悪ゆっくりです」 

そう言われても、男はためらう。ゆっくりにかける情けはないが、かといって虐待をした 
いとも思わない。 

「あなたは疑問は解消したいのでしょう? なら、やってください。それに、今さら針一 
本刺したところで別になにも変わりませんよ」 

おにいさんの言葉に促され、男は結局、頬の隅っこにちょこんと針を刺した。 
こんな場所なら影響ないはずだ。そもそも、こんなに針が刺さっていたら本来ならとっく 
に死んでいるはずなのだ。 
そう、男が思ったときだ。 

「ゆぎゃあああああああ!!」 

針まみれのゆっくりは大きく叫び、そしてぐったりと動かなくなった。 

「こ、これは……!?」 
「死にましたね」 
「で、でも変わらないって……」 
「僕が刺せばそうだったでしょう。でも、あなたはこう思ったのではないですか? 『こ 
んな状態で、死なないのはおかしい』って。その『認識』が、ゆっくりに死をもたらした 
のです。僕が与えた『死なない』という『認識』を、あなたが与えた『死ぬはずだ』とい 
う『認識』が上書きしたのです。それで、ゆっくりは死んだんですよ。それが現実化した 
だけのことです」「そんな……!」 
「ゆっくりは異世界からの来訪者ですから、存在が不確定です。こちらの認識によって結 
構変わります。ゆっくりは大きく性質が異なる個体が当たり前のようにいますが、それも 
人間がそう『認識』したからなんです。さっき言った『中枢餡』が無いゆっくりだってい 
るらしいですよ」 

男は混乱のあまり考えがまとまらない。 
ゆっくりの『認識』。人間の『認識』。より強い方が現実になる。 
それで今まで男が抱いていた疑問はすべて説明がつく。解消される。 
だが、それは何かおそろしいことを孕んでいるように思えるのだ。 
おにいさんは、その嫌な予感を容赦なく言葉に代えていく。 

「あ、別にゆっくりを殺して罪悪感を抱く必要はありません。こいつらは、さっきも言っ 
たように僕達の世界を浸食しているんですから。ゆっくりを殺すことは世界を守ることな 
んですよ」 
「な、なにを言って……!」 
「ゆっくりは突然世界に降って湧いたように現れました。動く、生首だけの饅頭生物。そ 
んなもの物理的にも生物学的にもありえない。進化の系統樹のどこをどうひねくったって 
存在しえない。。それが今、実在するのは、誰かがゆっくりに出逢い、『こんな不思議な 
存在がいる』と『認識』してしまったからなんです。誰からが異世界からの浸食を許して 
しまったのです」 
「………」 
「例えばゆっくりは食べたものをなんでも餡子に変えてしまうでしょう? あれなんて最 
たるものです。僕達の世界のものを、浸食して自分のものにしてしまっている。『口の中 
に入れたものに、自分たちの世界のルールを押し通した』結果なんですよ。あいつらは放 
っておけば自分たちのルールをどんどん押しつけて、僕達の世界を終わらせてしまうかも 
知れない」 
「そんなことあるはずがっ……!」 
「あるんですよ。だってあいつらはいつもおかしなことを言ってるじゃないですか。誰も 
がなんでもないと思っている一言。でも、あれはゆっくりの世界のルールの押しつけに他 
ならないんです。きっと本来はもっと別な意味があるんでしょう。それを本当に理解して 
認めてしまえば、世界はゆっくりのものになってしまうのかもしれません」 

おにいさんの言葉に、男の脳裏に閃くものがあった。 
うんざいるすほど聞いた、ゆっくり達の常に口にする定型句。あの、意味の分からない言 
葉。 
「ゆっくり……していってね……?」 

そうだ。なぜやつらはゆっくり「していってね」と、こちらを「ゆっくりさせよう」とす 
るのか。自己中心で身勝手この上ないあの饅頭が、どうして相手のことをゆっくりさせる 
なんて、気遣うような言葉を口にするのか。 
もし、「ゆっくり」という言葉が人間の思うそれと別の意味を持つのなら。 

人間がゆっくりの言うとおりの「ゆっくり」を正確に『認識』してしまったら、どうなる 
のだろうか。 
世界は、「ゆっくり」するのか。いったい、どんな世界になってしまうのか。 

背筋が凍り付く。 
なにげなく叩きつぶしてきたゆっくり。自分が何気なく接してきたそれは、実はとてつも 
ない脅威なのではないだろうか……? 

「――という、与太話があの本には書かれているわけですよ」 

突然、おにいさんの気楽な声が男を襲った。男はわけがわからず目をぱちくりさせる。 

「まあ、ゆっくりごときがそんな大層なものなわけないですよね。一般に言われる通り、 
ゆっくりは思いこみのナマモノです。大根については、あなたにそう言われたから思いこ 
みが修正されただけのことですよ」 

爽やかに微笑むおにいさんを見て、男はようやく理解した。 
からかわれたのだ。 
男はおにいさんがゆっくりを虐待する理由を痛感した。おにいさんは、真性のSなのだ。 


結局、男は持ってきたゆっくりをおにいさんに好きにしてくれと預け、家に帰った。 
それから、あの与太話は忘れて日常に戻ることにした。 
ただ、ひとつだけ変わったことがある。 
男が畑荒らしのゆっくりを見つけたとき。必ず「ゆっくりしていってね」を言い終える前 
に潰すようになったのだ。 

【おわり】