一匹のまりさが、巣の中にいた。 
視線はじっと巣の入り口を睨んでいる。 
巣の中に彼女以外のゆっくりはいない。 
彼女は今朝、家族のいる巣から巣立ったばかりである。 

真昼間を少し過ぎた頃。本来だったら、外に出て、ほかのゆっくりと遊ぶなり、 
エサを探すなりするはずである。 
しかし、彼女はその場から一切動かない。 
何故なら、彼女は今、一世一代の大勝負をしているからである。 

ゆっくりは独占欲が強い。 
自分が一番早く見つけた物は、よっぽど大切な相手以外には、それを一切譲ろうとしない。 
それは巣も同様である。 
巣の持ち主が外出している間に、他のゆっくりがその巣を発見した場合、 
巣を見つけたゆっくりの物になる。 
大切な巣を放っておいて外出する、家主が悪いのである。 
外出時に、巣の入り口にふたをして隠すという手もあるが、 
巣のふたはあくまでも、れみりゃや雨風をしのぐための物で、 
同じ被捕食者のゆっくりから見ればバレバレである。 

だから、この辺りのゆっくり達は、親から独立して一人暮らしをする際、 
この独特な行動をするのである。 
今、このまりさが待っているのは自分の伴侶。 
自分の巣を、他のゆっくりから守る最良の手段は、家族を一匹でも巣に残しておく事である。 
侵入したゆっくりが、巣の所有権を奪う際、必ず 
「ここは○○のゆっくりぷれいすだよ!」 
と叫ぶ。 
この言葉が誰にも遮られる事無く言えたら、その瞬間に、巣は自分の物である。 
しかし、言い終わる前に、巣にいる持ち主が 
「ゆっくりしていってね!」 
と言えば、奪取失敗となる。そして、彼女達は仲良しになって、二度と巣を奪う事は無くなる。 

「おなかすいたのぜ……」 
他のゆっくりが巣を発見しない限り、外に出る事は出来ない。 
よって、エサが無くなっても探しに行く事は出来ない。 
このまりさは既に、巣を作る前に取っておいたエサを全て食べてしまっていた。 
他のゆっくりが巣を見つけやすいように、巣の前から転々と、エサを置いておいてあるのだが、 
来る気配は一向に無い。 

更にしばらく時間が経ち、まりさが疲労と空腹で永遠にゆっくりしそうになった頃、 
「ゆ!そとで音がしたよ!」 
ようやく他のゆっくりの気配が現れた。 
ここで避けたいパターンが二つある。 
一つはれいぱーありす。これはまりさ種特有のパターンである。 
エサに付着した、微弱なまりさの匂いを正確に嗅ぎ取り、巣にやってくる場合がある。 
当然、こうなってしまったら、れいぱーにレイプされ、巣は丸ごと奪われる事になる。 
もう一つはハイエナゆっくり。これはどのゆっくりでも可能性がある危険である。 
独り立ちしたゆっくりは、巣の中で死ぬまで座して待つという習性を利用し、 
巣の入り口で待ち伏せし、他のゆっくりが近寄ったら追い払い、 
巣の主が死ぬまで待つという、ずる賢いゆっくりがたまにいる。 
主が死んだ頃に巣に入り、ただでゆっくり出来る巣と、甘味(主の死体)を手に入れるという寸法である。 

「れいぱーではありませんように、れいぱーではありませんように……」 
まりさが必死に念じていると、やがて、巣に一匹のゆっくりが入ってきた。 
「ゆっくりして……いってね」 
まりさは元気良く挨拶しようとしたが、最後はため息混じりになってしまった。 
何故なら、そこにいたのは不人気のれいむだったからである。 
特技なし、特徴なし、歌はうるさい。 
しかし、れいむを帰すと、また長い間ゆっくりを待つ羽目になってしまう。 
もしかしたら、今度は死ぬまで誰も来ないかもしれない。 
自分の命には代えられない。 
まりさは仕方なく、れいむと夫婦になった。 

「ゆゆーん、まりさおかえりなさい」 
「今日はいつもよりもたくさんごはんがとれたのぜ!」 
二週間程経った。 
先程の夫婦の仲は良好のようだ。 
まりさにとって、れいむの第一印象は最悪だった。 
れいむは痩せていた。 
この辺りのゆっくりにとって、美貌の象徴は下膨れである。 
下膨れは飽食の象徴であり、それだけゆっくりしてきたという証だからである。 
ただでさえ、れいむ種であるというだけで、印象は最悪なのに、 
更に器量も良くないときたら、まりさががっかりして、挨拶もままならなかった事もうなずける。 
しかし、れいむはそんなまりさの気持ちを露知らず、献身的に接してくれた。 
まりさが狩りに言っている間に、壁の凹凸を歯で均したり、 
まりさが帰ってきたときには、彼女の汚れを舐め取って綺麗にしたり、 
ちょっとした事で口喧嘩になった時は、れいむの方が先に謝ったり。 
とにかく性格が良かった。美人は三日で飽きるが、不細工は三日で慣れる。 
まりさはやがてれいむを本当に愛し、自分の命に代えても守ってみせようと思ったのだろう。 

だから、まりさの結婚生活に飽きた私が、れいむを潰そうとした時、 
彼女は必死に威嚇して、れいむを守ろうとした。 
更に、噛み付いて右手の薬指を食い千切った。 
夜、こっそりと巣穴に手を入れたはずなのに、まりさに気づかれたようだ。 
そんなに大事だったのか、そんなに愛していたのか。 
私は、まりさの愛情を甘く見ていた。 
彼女が母親から生まれる瞬間から、ずっと双眼鏡越しに観察していたのに。 
盗聴器を彼女が近づきそうな場所に設置し、会話を余すところ無く聞いていたのに。 
彼女が排泄した糞を食べて、最近何を食べたのか、体調はどうなのかも全て分かったのに。 
彼女の巣に近づく美ゆっくりを全て叩き潰していたのに。 
こんなにも他のゆっくりに愛情を注ぐゆっくりだとは思わなかった。 
甘く見ていた。食われた指はその代償だ。 
しょうがない、しょうがない。 

【おわり】