土砂降りが降る夏、まりさは一軒の家に逃げ込んだ。 
 窓は閉まっていたが、このまりさは侵入の常習犯。 
 なんら慌てることもなく、近くにあった石を器用に放り投げ、ガラスを割って侵入した。 

 家に入ると、まずは冷房の涼やかな風が顔に当たった。 
 その上、フローリングで中々綺麗な家である。掃除もしっかりとされ、埃一つない。 
 今まで忍び込んだどの家よりも快適で、野良ゆっくりであるまりさには夢のような環境と言っても良かった。 
 「ゆーん。ここはすごくゆっくりできそうだぜ!きょうからここはまりさのゆっくりぷれいすにきまりだぜ」 

 快適だが、一つ問題があることにまりさは気がついた。 
 食料をどうするか、である。 
 この家は隠れ家というにはあまりにも大きすぎ、狩りに出かけている間に他のゆっくりに取られてしまうかもしれない。 
 とりあえず、まりさは家の中を散策することにした。 
 「ゆゆっ!?」 
 家の中を歩き回ると、台所らしいところに行き当たった。 
 そこにある大きな”箱”の中には食料が納められていることを、まりさは経験で知っている。 
 早速”箱”を見つけ、その取っ手に噛み付き、反動をつけて後ろへ飛んだ。 
 音を立てて扉が開く。 
 「まりささまにかかればこんなものちょろいのぜ。さて…あまあまはどこにあるんだぜ?」 
 そう呟きながら、”箱”の中を覗いた。 
 沢山のあまあまに溢れた、都合の良い未来を浮かべていた餡子脳は、中に溢れているものを見て、機能を停止させた。 
 言葉も出ない。 
 顔から血の気が引いていく。 
 まりさは瞬時に理解できなかったが、難しいことは何も無い。 
 ”箱”の中には、様々な種類のゆっくりの死体が詰め込まれていたのだ。 
 食われるでもなく、ただ、腐るに任せた状態で。 
 状況を理解し始め、箱の中を見回していたまりさは、恐怖に顔をゆがめたれいむの死体と目を合わせた。 
 「ゆ…ゆ…ゆげぇぇぇぇっ!ゆげっゆげぇぇぇぇぇぇぇ!!」 
 耐えかねてまりさは餡子を吐き出す。 
 「ど、どおじで…どおじでこんなことになってるのぉ…」 
 嘔吐しながら涙を流した。 
 死体になった連中への同情ではなく、”こんなもの”を見せられたことに涙しているのである。 
 一頻り餡子と涙を出し終え、放心していたまりさに、絶望の音が聞こえた。 
 扉が開く音、閉まる音。玄関で靴を脱ぎ、廊下を歩く音。 
 まりさは恐怖した。 
 逃げなければ殺される。自分もこんな目にあってしまう。 
 「そ、それだけはごめんだぜ…!」 
 気を取り直して逃げる手段を講じたが、餡子脳で良い考えが浮かぶはずもない。 
 ひとまず、戸棚に隠れて様子を見ることにした。 

 「あんれぇ…おじいさん、窓が割れてますよぉ」 
 「本当じゃぁ…。また野良ゆっくりの仕業かのう…」 
 (…ゆゆ?) 
 聞こえてきたのは、老人の声だった。 
 (じじいとばばあなら、まりさでもかてるぜ…?) 
 老いた人間は、弱い割りに結構食料を持っているものだ。 
 まりさは”狩り”と称して何度も老人から食料を強奪していた。 
 「困ったのう…」 
 そう良いながら台所へ入ってきた二人は、思ったとおりの弱そうな老人夫婦であった。 
 (ゆ!いいことをおもいついたのぜ。このじじいとばばあをまりさのどれいにすれば、すごくゆっくりできるにちがいないよ! 
  そしたらどこかのれいむをつれこんで、しあわせなかていをつくるのぜ!) 
 都合の良い餡子脳は、冷蔵庫の中身のことも忘れ、これからの生活を妄想し始めたのだった。 

【つづく】