夜。 
 外の雨は土砂降りになり、家の中の音は一切外に聞こえない。 
 まりさは、老夫婦が寝静まったところを見計らって行動に移すことにした。 
 「にげたらめんどうだよ…まずはばばあをあるけなくしてひとじちにとるんだぜ…」 
 まりさが家を散策した際、布団のある部屋を把握していた。 
 そこが寝室に違いないことは、いくら餡子の脳味噌でもわかる。 

 「あんがいああいうのもやくにたつものだぜ…」 
 ボソボソと呟きながら、寝室へ近づく。 
 「そろーり…そろーり…」 
 一歩、また一歩 ―と言っていいのかわからないが― 老夫婦の部屋へ。 
 「そろーり…そろー……ゆゆ?」 
 ふと、まりさの帽子が何かにひっかかった。 
 そのまま前に進もうとしてみるが、それは硬く、進むことは出来ない。 
 帽子が脱げるとゆっくりできないよ、と呟き、 
 「まったくこんなときに…まりささまのじゃまをするばかはどこのどいつなんだぜ…?」 
 まりさは面倒くさそうに振り向いた。 
 瞬間。 
 「ゆべぇっ!?」 
 顔面に硬い何かがぶつかり後ろに吹き飛ばされた。 
 壁にぶつかり、板張りの廊下をバウンドする。 
 「なにをするんだぜ…ゆぎぃっ!!?」 
 顔を上げようとするとまた何かに殴り飛ばされ、バウンドし、また殴り飛ばされる。 
 続けざまに与えられる、顔が弾けて餡子が飛び出るかと思えるくらいの衝撃に、まりさは意識を手放したのだった。 

 「ゆーん…?」 
 まりさが目を覚ましたとき、そこは籠の中だった。 
 籠、というよりは、大人ゆっくりの体がギリギリ収まるサイズである。 
 拘束具に近い。 
 「おじいさん!おじいさん!ゆっくりちゃんが目を覚ましましたよ!」 
 「おおー…そうかそうか、よかったねぇ。大丈夫かい?」 
 「ゆ…?」 
 まりさの記憶は混乱していた。 
 「あなたはね、うちの前で倒れていたのよ。どこからか迷い込んだのねぇ…」 
 「もう君は大人だね。野良ゆっくりでも飼いゆっくりでも、しらない人間の側は危ないと教えられなかったのかい?」 
 「ゆ…まりさはおやにすてられていままでひとりでいきてきたのぜ… 
  そんなことおしえてくれるひとなんていなかったのぜ…」 
 以前目にした飼いゆっくりの生活。 
 三食を与えられ、適度に遊んでもらい、我侭を人間に聞かせる。 
 それに憧れを抱いていたまりさは、老夫婦を奴隷にしようとしたことも綺麗さっぱり忘れ、優しげな物腰の老夫婦に媚を売りはじめた。 
 「ゆゆーん…。まりさはかわいそうなゆっくりなのぜ…」 
 「そうねぇ…おじいさん、この子少し置いてあげてはどうかしら」 
 「またかい?お世話はばあさんがするんだろうね」 
 「もちろんですとも」 
 「ゆ!まりさはとってもゆっくりしてるんだぜ!めいわくはぜったいにかけないのぜ!」 
 「ほら、こう言っていますし」 
 「仕方がないなぁ。いつもばあさんには適わんよ。好きにするがいい」 
 「ゆゆー!ありがとう!おじいちゃんおばあちゃん!」 
 「あらあら」 
 まりさは棚ボタ的に夢の生活を手に入れた。 
 老夫婦は優しげに微笑んでいる。 
 幸福の絶頂にいるまりさは、大切なことをすべて忘れていた。 

【続く…と思うんです。感想ありがとうございます。一気に書き上げる根気がなくてすみません】