一同、と言うのか使役饅頭達を俺の庭に全員集めてみた。広さだけはある庭だからな。そういう意味ではこの家にも利用価値があるとはいえる。詐欺で買っていなければ大好きな家だろう。自分で選んで自分で買ったんなら自慢出来る家なのに。

 饅頭達は全個初めて連れてこられた場所で落ち着かないようだ。もしかすると「加工所」という名の饅頭処理場の事や「一斉駆除」という行事をあんこの記憶から引っ張り出してしまったのかも知れないが別にそう言う訳ではない。でもあんこ記憶的には意味も判らず一カ所に集められるのはプレッシャーなんだろう。畑では見た事がないほどうろうろとうろたえている。
 が、饅頭達を連れてきてくれた爺様達は縁側の内側というのかサッシの向こうにいて貰っている。俺が爺様婆様の可愛がっている饅頭を不当に苛めたりしないようにの見張りだが俺の用意した酒の肴を摘まみながら酒を嗜むのを楽しんでいるようにしか見えない。別に良いけどな。……この饅頭集会が村の娯楽の一つになったりして。
「おかざりさんになにかついているよ」
 リボンが向かいの帽子っこに言う。
「ま が り や?」
おおおおお、平仮名が読める奴がやっぱりいた。走れない帽子っこだ。となるとこの聞いてきたリボンは走れない帽子っこの番だろう。
「まりさのはなんてかいてある?」
「ええと ま り」
「えええまりさ? まりさのはまりさってかいてあるの?」
 さすがにそれはない。
「お前のもまがりやだ」
 ちなみに曲屋ではなくて間借り屋。大東亜戦争の時に親子で親戚の離れに疎開している間に婆様を見初めアタックにアタックを重ねようやく捕まえたから。らしい。初めて出会った時婆様8歳爺様6歳。それから70年以上一緒にいるそうだ。純愛この上ない。爺様曰わく「今風に言うと婆様を見た瞬間全身に電気が落ちた」らしい。落ちるのは雷で電気は流れるものだろうが。という突っ込みコメントはかろうじて飲み込んだ。なんで爺様婆様は何処に出しても恥ずかしくない配偶者を捕まえているのに俺だけなんであんなのに引っかかったんだろう?
「まがりや?」
 それはそうなるだろう。
「まがりやの家の帽子っこ。って言う意味だ」
「まりさだよ。バッジさんみたいなの?」
「バッジは飼いゆっくりの物だろう?」
 俺の答えに何個かの饅頭が頷く。飼いゆっくりの記憶が残っているのは自身が飼いゆっくりだったが親が飼いゆっくりだったかのどちらかだろう。この村で暮らし初めたのは子供の頃だから親が飼いゆっくりだったんだろう。だからあれほど人間を怖がらず人間に近づいてきた。「飼いゆっくりっていうのはただゆっくりしているだけだろう。でもこの印は自分で働いてゆっくりを手に入れた特別なゆっくりにだけ与えられる物だ」
 詭弁だ、ただの詭弁だ。それも人間側の一方的な理由の。特徴のある饅頭しか区別が付かないんだよぉ。みんな一緒に見えるんだ、これが。
「とくべつなしるしさん……」
「れいむがじぶんでてにいれたしるしさん……」
 おおお、やはりあの間借りやというのか知恵者帽子と働き者リボンの反応は他の饅頭に影響がてきめん。あの二個が印はバッチの上を行く存在だ。と信じると
「まりさのしるしさんはなんてかいてあるんだぜ?」
「ええと、れいむのは?」
 あっちこっちで自分のお飾りについている印を知りたがっている。良い傾向だ。
 印はアイロンプリントで作っているが実は婆様達の手縫いでお飾りに縫いつけてある。お飾りを傷つけると体を傷つけるよりダメージを受ける。下手をすると精神崩壊を起こす可能性があると説明したら「アイロンで焦がしたら取り返しがつかないから」と婆様達が頑張ってくれた結果。
 しかしまぁ、裁縫のいろはも判らない俺ですらきれいな縫い方だと判る見事な出来だった。「入谷」の家以外は。
 入谷の爺様は今回帽子っこもリボンも連れてこなかった。婆様がもう縫い物が出来なくなったからと。
 入谷の婆様はいつも笑っている。誰にも迷惑をかけない。にこにこ笑って爺様と仕事をしている。ただちょっと新しい事が覚えられなくて、我慢が利かなくなっただけ。とりあえず俺はまだ新しい人らしく覚えて貰えない。いつでも初めて会う人、毎日弁当を配達しても俺は初めて会うお兄さん。
 「お兄さん、なんでみみずさんのにおいがするのにみみずさんがみえないの」
 印確認が済んでちょっと自慢げなリボンが聞いてくる。あっさり俺の嘘を信じてくれて良かった。
「周りに木の塀があるだろう?」
 正確に言うと箱なんだが饅頭からは塀にしか見えない。
「うん」
「その壁の中にシマミミズが山ほどいる」
 俺の説明に全饅頭がおおと感嘆の声を上げる。目がきらきらと輝いている。みみずは好物だからな、こいつらの。
「畑にいるのはフトミミズでお前等を喰わないが、俺のシマミミズはゆっくりの味を知っているから塀の向こうに落ちると喰われるぞ」
「ミミズさんはゆっくりをくわないぜ」
 言い返してくる帽子っこの声が震えている。
 ミミズは自分達を食わない。と信じているが俺が自信満々に答えるので心配になったらしい。
「種類が違う…… お前達ゆっくりでも捕食種がいるだろう。フランとか言う奴」
 ……すごい…… あんこ記憶しかないはず、本物を見た事を無いはずなのにここにいる饅頭達が全個恐怖の余り言葉を失い顔色を失いガタガタ震えだした。まぁ、捕食種というのはこいつ等にとっては天敵だからな。
「お前達と同じゆっくりでもフランはお前達を喰う。俺のミミズもお前らを喰う」
「ゆっくりりかいしたよ」
 理解したのか。強引な説明だと思ったけどな。でも全個が口をそろえて答えたくらいだからそれなりに判ったんだろう。
「じゃあ次はゲームだ」
「ゲームさん?」
「どっちが多いかだ」
「?」
 俺の言葉に全個が首を傾げるがそれは無視してダンボールを置き一個のボールを置く。
「これはいくつだ?」
「ひとつさん」
「いっこさん」
「いっこ」
「ひとつ」
 口々に答えが聞こえる。
 もう一つ置く。
「にこさん」以下省略。
 なる程二個までは全個区別がつく訳だ。ではもう一つ。
「さんこさん」
「たくさん」
 なる程やはりここで分かれる訳だ。でも……
「今、沢山と言ったのはそっちに移動して、3といったのはこっちで」
 俺が指差し饅頭達が移動する。ほぼ半分。
 間借り屋の帽子っこが3と答えた組に入るのは予想がついていたが、リボン子が沢山のグループに入るとは思っていなかった。
 でもまぁ沢山グループから始めよう。
「こっちの沢山とこっちの沢山はどっちが沢山だ?」
3個と4個の山を作る。ほぼ半分が4個の方を指す。やっぱり。
 一回両方を混ぜて追加に2個。4個と5個の山を作る。
「どっちが沢山?」
 一番始めに5個の山を指したのは間借り屋のリボン子だった。
」どうしてこっちの方が沢山なんだ?」
「そっちのたくさんさんはにこさんがにこさんだよ。こっちのたくさんはにこさんとにこさんといっこさんだから」
 間借り屋のリボン子が答える。と言う事はこの饅頭は7まで理解が出来る訳だ。何個かの饅頭が頷いているところを見ると同じように解釈しているらしい。
 ネットでみる町ゆっくりや野良ゆっくりと違ってこの村の饅頭達が統制がとれ素直で、俗に言う「良い子揃い」なのは基本的に頭が良い親から産まれた子供達だからだ。そしてこれからは頭が良い親同士からしか子供は産まれない。馬鹿な饅頭は育つ前に勝手に死ぬし、生意気で働かない饅頭は家に入れて貰えずに猪か狸の餌になる。この村では賢い饅頭しか生き残れない。
「じゃあ先にこっちの組からゲームの参加景品を渡すから」
 そして取り出したのは町で買ってきたゆっくりフード普通味。普通で景品になるかという問題もあるがこいつらは一度もゆっくりフードを食べた事がないのだからそれなりに需要があるだろう。それにこれに慣れて貰わないと越冬が出来ない。
 村の爺様、婆様にとってこいつらは可愛い家畜だが甘やかす対象ではない。だから雪が降ったら玄関先に入れてくれるが餌は残飯かゆっくりフード普通味だろう。
「ゆゆ、おにいさん、これ、ゆっくりふーどさん?」
 本家(顔役の屋号は本家だった。納得)のリボン子が目の前に置かれたゆっくりフードに目を輝かす。あんこの記憶でしか知らないゆっくりフードに感動しているようだ。
「そうだ。ええと、こっちの組は全部持っているか」
「もらったよ」
 元気の良い声。
「じゃあ頂きます」
「ゆっくり頂きます」
 が、全個、5個づつ渡したのに食べたのは一粒。
「……しあわせ?」
 疑問系だ、食べた後の感想が疑問系だ。その上、周りにいる他の饅頭と顔を見合わせている。
「……ゆっくりフードってしあわせ~かゲロまずだよね?」
「しあわせじゃあないけどゲロまずじゃあない……」
「もしかしてそれなり?」
「それなり?」
「それなり?」
 どういう知識なんだ、あんこ記憶。
「ふつーだよね」
「ふつーだよね」
 お前達、一体ゆっくりフードにどんな期待を持っていたんだ。今一つ納得出来ない表情のまま饅頭達は残ったフードを頭の上に載せる。なる程ちび共のおみやげという奴か。
 しかし、何故ゆっくりフードの種類が「幸せ味」とか「それなり味」とか「ふつう味」「ゲロまず味」という名称なのかが今判った。判ったがそうなるとあの「無味無臭味」というのは何に使うんだろう?
 そんな疑問はこっちおいておいて、数の理解が出来ている奴に何処まで知っているかの確認。
 やはり間借り屋と本家の帽子っこは10まで理解出来ていた。その外は8ことか7ことか。何故か9こまで数えられるのもいて、もう一息なのに「たくさん」になってしまう。正確に言うと「たくさんさん」だから果てしなく残念さを感じる。勿論こっちも景品としてゆっくりフードふつう味を渡すが前の連中の反応を見ていたせいか目を輝かして
「ほんとうにふつうさんだね」
「ふつーあじだね」
と感動を分かち合っている。
 ……500円くらいしか変わらないから「幸せ味」にすれば良かった。感動している饅頭達を見ているとそんな気がしてくる。まぁ、まだ続くからな。
 今度俺が取り出したのは発泡スチロールのクーラーボックスホームセンターで売っていた最大サイズ。みかん箱程度ある。
 饅頭達が会話や目配せを止めて青いクーラーボックスを見つめる。
「お、おにいさん、それって……」
 口を開いたのは間借り屋の帽子っこ。俺はそれには答えず蓋を開け中を饅頭達に見せる。息をのむというのか唾を飲む音が聞こえる。羨望を通り越した狂気に近い熱い視線。
「それをマリサのゆっくり……」
「おうち宣言なし」
やばい、やばい。ここでおうち宣言をされると面倒くさい。
 とは言え中の家の家長としては宣言の一つもしたいだろう。
 もうすぐ大人の帽子っこ2個にリボン子2個、生まれたての帽子っこ1個にリボン子3個。中の家の庭に作った巣よりもこっちの方が断熱効果が高い。理屈は判らなくても本能でそれを見分けたんだろう。勿論俺がこの帽子っこが中の家の帽子っこだと判るのは、帽子に「なかのいえ」と書いてあるお陰で絶対に表情や態度で区別が付いている訳ではない。絶対に、だ。
「この箱はお前達のじいじに渡してある。じいじから受け取るように」
 おうち宣言を途中で切られて頬を膨らませて不機嫌アピールしていた中の家の帽子っこは俺の言葉を聞いて飛び上がる。
「じいじがくれるのか。じいじがまりさたちに」
「まぁ、一生懸命仕事をしたのが優先だが」
宣言した後、ちょっとだけ良心が痛む。こいつら、そう言われると今以上に働くんだろうなぁ。でもまぁ、今働かないと越冬が出来ないし。嘘はついていないからな。
「し、しごとをしたらそんなりっぱなゆっくりプレイスさんがもらえるのか」
 もう中の家の帽子っこの家を手に入れる夢は止まらない。これで中の家の爺様は器用だから二つの箱を連結し、その上小さいボックスをトイレ用にと連結したものをこの子沢山饅頭の為に玄関の三和土に設置していると聞いたら喜びの余り思い上がってしまう。ので内緒だ。
「じゃあ今日の集会はこれで終わりだから解散だ」
 これだけの事で2時間近くかかったが2時間で済んだので爺様達は完全に出来上がっておらずてんでてんでに帰路に就いていった。


========あとがき============
明るい農村2-2です 夕べは酔っぱらっていてご免なさい。
派遣会社の面接落ちで荒れていました