「おにいさん、ちょっとだけまりさとおはなししてほしいんだけど」

  お話ってさっき間借り屋の爺様が押す猫車に乗って帰ったばかりだろうが。これはどう考えても間借り屋の家からだと距離がある。きっと間借り屋の爺に頼んで道中におろして貰って、こっちに戻ってきたな。

  それだけこいつにとって重大な話のようだが、俺がどうにか出来る問題なのか? 話くらいなら聞くけど。まぁ出来るだけ視線を合わせよう。
  俺は地面に座り込み帽子っこが目の前に来る。

 「まりさ、にんっしんさんがこわいんだ」

  ……いきなりヘビーな相談だった。

 「れいむはれいむがにんっしんしてもいいよ。かりにいけないけどそのあいだのしょくりょうはためておけるよって」

  なる程、あのリボン子ならいうだろう。それくらいの実力はある。妊娠期間中どころか育児期間分の食料も集められるだろう。帽子っこも走れないだけで芋虫、アブラムシなど動きが遅い虫を捕まえられるし、幾らでも食べられる草を集める事が出来る。リボン子が妊娠しても何の問題もない。

 「でもれいむはまりさのべたーはーふさんだから、まりさはれいむのちびちゃんがほしい。まりさがにんっしんしてれいむにおちびちゃんをぷれぜんとさんにしたいんだ」

  そうなのか。リボン子にプレゼントしたい。おちびちゃんを。
 おちびちゃん、子供はこいつら饅頭にとって一番の宝物で一番ゆっくり出来る存在らしい。だから帽子っこはリボン子におちびちゃんを贈りたい。リボン子はベターハーフ、「最愛の半身」だから。

 「でもにんっしんさんがこわいんだ」

  これもある意味マタニティーブルーなんだろうか?

 「さいっこーのれいむのちびちゃんなのにでいぶになったらどうしよう」

 「それは……大丈夫だと思うぞ」

  この村ではデイブは生き残れない。あの性格なら猪、狸の手を借りるまでもなく、爺様か婆様が潰してくれるだろう。 

「ゲスになるかも」

 「それも平気」

  多分ゲスは難なく村に溶け込める。証拠は中の家だ。父親の帽子っこが多分ゲスだがきっちり仕事を片付け、我が子を煽りながら餌の取り方、怪我をした時の応急処置の仕方(爺様より先に婆様を呼ぶ。もしくは俺を呼ぶ)巣の作り方。餌の選び方。誰よりも早く徹底的に子供達に教え込み一人前になったと判断したしたところですっきりして4個から6個の新しい饅頭を増やしている。そしてその増えた子供達が(生まれた数よりは減って入るが)全部出来が良い。
 一度中の家の帽子っこに言われた事がある。

 「まりさもれいむもえっとうさんをしたら、はるになったらだいがえをするぜ。さいごのこそだてははるのこだぜ」

 多分、自分の寿命を1年と考えているのだろう。実際町などの野良ゆっくりは越冬が出来ずに極端に個体数が減るらしい。越冬が出来ないのもあるが寿命もあるのだろう。
 この村の饅頭は全個愛玩用として売られていた物が購入者が飼育出来なくなったという理由で捨てられた物だ。そう考えなければこれだけの知能の高い物が揃う訳はない。だからゲスは大丈夫。知恵のある個体は喜ばれる、働く限り。働かなくなったら…… ゲスは爺様達に可愛がられるかも知れない。「生意気だから」という理由で。爺様達、生意気な若いもん好きだから、俺を含めて。俺って爺様達からすると饅頭と同じだからな。

「ドスになったらどうしよう!」

  それだけは絶対ないな。どう考えても愛玩用饅頭、それも訓練がかなり入っている。多分金バッジ、銀バッジが着いていたのがこいつらの親だろう。そんな餡系統からゲスとデイブは生まれてもドスになるのは無理がある。ドスになる餡系統が金バッチや銀バッジに紛れ込むとは考えられない。
 俺は黙り込む。帽子っこも黙り込む。重苦しい空気だけが流れる。

「たいせいにんっしんさんをしちゃったらどうしよう」

  これが本音か。

  饅頭にはいくつかの繁殖方法がある。基本的には卵生、胎生、植物性だ。卵生は滅多に出ないのでこの場合は無視してもいいだろう。植物性というのは饅頭の額に何故か枝が生えて子供が実るという形で大体4個から6個なる。子供自体が小さく死亡率は高いが一回出産数が多いのでそれなりに数を保てる。そしてこの帽子っこが恐れている胎生は文字通り母胎の胎内で子供を育て出産する。俺達が妊娠出産と言われて想像するあれだ。出産個体数は1個か2個だが両親の良いところやあんこ記憶をきちんと受け継ぎ、植物性よりも大きく生まれるお陰で生命力もあふれている。生き残る確率も優れた饅頭になる確率も格段に高い。
  正直、俺としては間借り屋と本家の饅頭達には胎生妊娠をして貰いたい。それ位番のリボン子と帽子っこがしっかりしている。ただ本家はリボン子が妊娠したが。確か本家のところはリボン子と帽子っこが2個づつ枝になって4個とも「でっびゅーの日」を迎えていたよな…… その前に生まれたのが素直すぎる帽子っこだったっけ?

  閑話休題 
 饅頭達の話を聞いたりネットで調べた結果、帽子っこは妊娠を忌避し出来うる限り妊娠をせず子孫を残す為に饅頭が言うところの「狩り」をしたり「家族を守る」という♂的な行動をとる。リボン子は反対に機敏に動けないないので「狩り」は好きではないが代わりに「子供を育てる」のが好きなので♀的な行動をとるらしい。故に帽子っこが饅頭の言うところの「おとうさん」になりリボン子が「おかあさん」になるのが自然の流れらしい。因みに普通の雌雄同体の生物の場合妊娠出産個体するの方が体力を消耗するし、妊娠育児期間に制限がかかるので「強い」個体が父親になり「弱い」個体が母親になるらしい。饅頭は…… どうなんだろう?
  ついでに言えばアリスとかいう饅頭は性的欲求が押さえきれずに他の饅頭を「強姦」して「すっきり死」までさせてしまうのに「子育てが好き」らしい。そのせいで性的欲求が押さえられている場合「母体」になる事が多いらしい。良く判らないぞ、このアリスとか言う饅頭。

 「まりさ、すごくれいむとすっきりしたいのに。すっきりしておちびちゃんがほしいのに」

  泣きが入った。

  すっきりというのは饅頭達の交尾の事で「正常な大人の饅頭」がすっきりすればほぼ確実に妊娠する。どうしてだか判らないがまず100%妊娠する。この命中率の良さを研究して人間に応用できれば不妊症で悩む夫婦はいなくなるだろうレベルで確実に妊娠する。だから敢えて帽子っことリボン子は「すっきり」しないんだろうが「正常な」「相思相愛」の「妙齢」の男女二人が同じ空間にいながら間違いを起こさないのははっきり言って「変」だ。そっちの方が間違っている。

「すっきりしたいのに~」

  なんか高校生男子の愚痴を聞いている気分になってきたな。マタニティーブルーなんだか、青春のしょっぱい相談なんだか。

「でもまりさ、にんっしんさんがこわいんだ」

  ある意味雌雄同体というのは面倒だな。妊娠する事も出来ればさせる事も出来る。だから悩む。

「なんでもないことかもしれないけど、まりさこわいんだ」

「一応聞くけどリボン子が受け止められないかも知れないのが怖いのか? それとも産む時痛いのが怖いのか?」

  あああああ、俺を見上げる情けない表情。痛いのが怖いと。そりゃあ、そうだろうよ。
 まぁ、人間も産みの苦しみは並じゃあないらしいけどな。立ち会い分娩で握っていた旦那の手の骨を砕く猛者も年に何人かはいるらしいし。大体、難産になれば子供どころか母体の生死にも関わる。人間でも、動物でも。
 だから帝王切開や無痛分娩がある……
 無痛分娩?
 胎生妊娠、赤ゆ砲、ラムネ…… 無痛分娩出来ないか?
  俺が半泣きの帽子っこを眺める。受け止める方がそれなりに柔らかければつぶれないよな。赤ん坊はピンポン球程度の大きさで重さはさほどない。羽毛枕で受け止められるか。羽毛枕を組み合わせてキャッチ台を作れば結構いけそうな気がする。

「おにいさん、どうしたの」

「頭の中だけで考えているんだけど、ちっこいのが生まれる時に、その帽子の名札をつけた時みたいに寝てたらどうかなと」

 俺の説明に帽子っこが考える。

 「そんなことできるの?」

 「出来るかも知れない」

 「すごいよ、おにいさん。それができたらおちびっをうむときいたくないね。まりさ、れいむとすっきりしてだいじょうぶなんだ」

  何故かとっても晴れ晴れした爽やかな笑顔。
  ……巧く行くかどうか判らないんだが。と言っても聞こえないな、この調子だと。

 「じゃあおにいさん。まりさ、れいむとすっきりしてくるね」

  どうしよう、ものすごく爽やかに宣言されてしまった。そして爽やかに去って……
 訂正、のそのそと動き出す。のそのそと、のそのそと。普通の饅頭ものそのそ動くがこいつは普通の饅頭の1/2のスピードが出ないのに顔だけが必死になっている。汗をかきながらもそもそと進んでいく。

 「おにいさ~ん」

  うちの庭から一歩も出る事なく間借り屋の帽子っこが泣き言を言う。
 ああああ、もう連れて行ってやるから泣くな。全く、この青春りっしんべんは……





  入谷の爺様が黙って指す場所のゴミを紙袋に詰めて口をしっかりと捻る。饅頭達は変な物を嗅ぎ分ける。自分の排泄物、饅頭の死体。前者はどう見ても単なる餡以外の何物でもないし、死体はつぶれた饅頭にしか見えないが饅頭達は匂いが違うという。だから片付けなければいけない。村で飼われている饅頭の為に。
 饅頭の残骸を紙袋に入れてそのままビニール袋に入れる。ビニールの口を堅く結んでしまえば饅頭達は臭いに気がつかない。これを家に持って帰ってビニール袋の中身を紙袋のままコンポストに放り込む。翌日には全てが終わっている。ミミズが一日に処理出来る量は自分の体重と同じ量。そして充分な餌があればミミズは一ヶ月で1.5倍に増える。
 出来るだけ早いところ饅頭が捨てられる場所を見つけようとは思っている。いつまでも入谷の婆様に将来ゲスやらデイブに育つに違いない小饅頭の処理をさせて置く訳に行かない。村に乗り込もうとした捨て饅頭の処分を任せてはおけない。
 入谷、谷の終わり、谷の始まり。だから同じ場所の事を山尻や森尻という。何せこの村の入り口、一番の外れに入谷の家、俺の家はその隣というか村よりというのか内側。間借り屋はそういえば家の向かいになるのかも知れない。何枚もの畑の向こうだが。村の真ん中が本家だから大体の家の位置で立場が判ると思う。俺と間借り屋は新参者(間借り屋は50年以上ここで暮らしているんだが)
 村の外に近いのは入谷の家、俺の家、間借り屋。その3軒に新しい饅頭がやってくる。もしくは姿を現す。考えるまでもなく村の外に捨てられているという訳だ。それも饅頭が歩いてやって来られる距離に。
 入谷の婆様は新しい事を覚えるのが難しい。だから噛みついてきた小饅頭を地面に叩きつけた事やお手玉回しで落としたり握りつぶした事も、その時はさめざめと泣いているのに30分もすれば忘れてしまう。別に潰そうとしている訳ではない。単に手加減を忘れるのと手加減が出来ないだけの話だ。
 抓れば痛い。叩けば痛い。のは覚えていてもどれだけの力で抓ったり叩いたりすれば自分の望みを叶えられるのか。と言うのを忘れている…… 持てる力を全て抓るや握る、叩く、踏む。リミッターが外れているとも言う。
  大きな饅頭に「おちびちゃんをなくしたれいむにいしゃりょうをちょうだい」とか「おちびのほしょうきんをよこせだぜ」と喚く饅頭に話を聞こうとして、聞いていて何を行っているのか判らなくなって思いっきり殴ったり踏んだりしても婆様の体重と体力ではトドメは刺しきれない。
  だからそのまま溜められている。それを俺は黙って受け取る。ミミズに饅頭の味を教えても問題はないだろう。動いていても大丈夫。コンポストの蓋は饅頭の力では内側からは開けられない。
 これが俺の早朝の仕事だ。他の饅頭に見つからないように。それは良い。そんなに面倒じゃあない。面倒なのは饅頭が捨てられる場所が判らない事だ。
 連日、俺が回収しなければならない程入谷の家の饅頭置き場には饅頭が捨てられている。親2個子供数個の平均的一家族の時が多いが2家族の時もある。捨てられた饅頭が野良化して繁殖しているのならまだ良いが毎回数家族づつ捨てられているとなると一体町で何が起こっているのか。
 いや、何が起こっているのかは大体想像がつく。饅頭ペットブームが起き餡血統が良い饅頭が高価で取引された。だからにわかブリーダーが現れ餡血統が良いものを勝手に繁殖させたのだろう。そしてそれを安価に売りさばいたんだろう。
 問題は犬猫でも同じだが勝手に繁殖された物は遺伝的な疾患を持って生まれやすい。饅頭で言えば「足りない」「ゲス」「デイブ」など。それに躾を入れなければどんなに血統が良くても駄目な個体になる。どんな生物でも。
 血統だけは良い(と信じている)自家繁殖された饅頭達。血統を(盲目的に)信じた飼い主は出来の悪さに落胆する。それでも普通の飼い主は仕方がないので飼い続ける。饅頭の寿命は長くて3年、通常1年半。飼い続けても惜しくはない時間だ。まぁ、うるさいが餌さえ与えておけばどうにでもなる。繁殖さえしなければ饅頭はうるさいだけの存在。
 これが間違った愛護やら、無責任な放置やらで繁殖してしまえば。山に捨てに行ってくれる人がいれば頼んでしまうだろう結果になる。町の奴らは「自然に帰して上げる」が大好きだな。
 が、まぁ、淘汰されているな、うん。山に住み着いているのかも知れないが村に来たのは淘汰されている。だから村的には問題はないんだけどな。
 でも…… このまま冬になると大変な事が起きる。だから早いうちに饅頭捨て場を見つけないといけない。饅頭捨て場が決まっていなければ良いんだけどな……





 「おにいさん、ゆっくりしていってね。ゆっくりできないにおいさんがするよ」

 元気よく挨拶された後蔑まれると結構来る物がある。

「ゆっくりしていってね。中の家のちっこいリボン子がカラスに襲われて間に合わなかったんだ」

 俺が自転車にかけてある紙袋を指さした途端帽子っこがこれ以上曲げられないと言うほど身体を折る。

「ゆゆ、ごめんなさい。まりさひどいこといったよ」

「まぁいいよ、知らなかったんだから。それよりそんなに身体を折るな。腹の子に悪い」

「わかったよ。おにいさん、なかのいえにまりさがごめんなさいしたいっていっておいてね」

 帽子っこが元に戻る。

 饅頭は思い込んだらその通りとは言うが胎生出産は痛くない、と思わせた途端見事に胎生妊娠をした。間借り屋の婆様はとても喜んで「おくるみ」というのを作り始めている。冬に生まれて寒いからだそうだ。洗い替えやらお祝い用やら。使い古したガーゼや手ぬぐいで作ってくれているのでリボン子いわく「さいこうのおくっるみさん」だそうだ。確かに手触りは良さそうだ。勿論、おくるみ作成で出た端布や糸くずは帽子子に渡され「おちびちゃんようべっどさん」の一部になっている。そしてそのベッドさんは間借り屋玄関土間部分隅に設置された「すーぱーすぺしゃるでりーしゃすゆっくりプライス」(ホームセンターで購入した一番大きい発砲スチロール製の保冷箱の底を切り落としてもう一つの箱にガムテープでがっちり付けた物を横にして、蓋を饅頭が通れる程度にくりぬいたのを付けた物)の中にある。それはそれは柔らかくて暖かそうな代物らしい。そして腹に子供が出来たら燃えるのは帽子っこだけではなくリボン子も同じで婆様に作って貰った紙の箱に「えっとー」と「こそだて」に必要な食料を集めていて。その量がそこそこ多いのでこれは食料用の物置を作って上げないといけないかも知れない。と爺様が悩んでいるらしい。こう言うのは嬉しい悲鳴というのだろう。
 饅頭を入れるのは土間まで。それ以上は座敷には上げない。このルールを破った饅頭は力一杯座敷から蹴落とされ身体の不自由な饅頭になる。身体が不自由なだけなら良いが、足りなくなったりするので大人の饅頭は子供達に絶対に土間より上に上がらない事を教え込む。
 ある意味、淘汰され残れた饅頭は頭が良いものばかりだ。新しいルールはすぐに覚える。そしてそれを覚えた饅頭には今以上の恩恵が待っている。この基本さえ覚えれば饅頭達は平和に暮らしていく事が出来る。この村では勝手な理屈は通らない。というより年寄りは高い声が聞き辛い。高くて早口の饅頭の屁理屈など一切聞こえない。それに年寄りには小さいものは見えない。泣き叫んで注意を引いて我が儘を通そうとしたちび饅頭達は踏みつぶされ、蹴り飛ばされ、放り投げられる。
 生き残りたかったら爺様、婆様に注意を促すより自分達で危険に近づかない方が良い。というのを理解出来ない饅頭はいなくなる。我が儘を言ったら殺される。邪魔をしたら放り出されて猪や狸の餌になる。そんじょそこらの民間の訓練所より厳しい訓練だよな。それに勝ち残った……生き残った饅頭だけが生きていける村。

「ゆっくりしていってね。れいむ、おそかったね。どこまでいっていたの」

「なんでまりっさがにんっしんしているの」

 村を眺め安い感傷に浸っていた俺にそんな声が聞こえる。慌てて下を向く。誰? いやなんだ、この饅頭は?

「れいむ、なにをいっているの。まりさとれいむのあいのけっしょうさんでしょう」

「だからにんっしんするのはれいむでしょう!」

 なんだ、これ。間借り屋の帽子っこと口論しているこの子汚い根性の悪さが表情に出ているリボン子は。訂正リボン饅頭は何だ?

「どうしたの、れいむ。まりさとすっきりしてにんっしんしたでしょう」

 あああああ、と。なんで帽子っこはまるで自分の相方のリボン子のようにこの根性悪ダダ漏れリボン饅頭に話しているんだ?

「ちがうでしょう、れいむがにんっしんしてたくさんおちびちゃんをつくってあげるよ」

 根性悪ダダ漏れリボン饅頭が言い切る。

「だからまりさがたくさんかりをしてれいむをやしなってね」

「どうっしたの、れいむ。まりさははしれないからかりさんはへただよ。それでもいいってけっこんしてくれたんでしょう?」

 思い切り、思い切り話が食い違って二つの饅頭が言い合っている。その上で俺が頭を抱える。なんでこんなに人間でさえリボン子じゃあないというのが判るのに帽子っこは気がつかないんだ。村にいる饅頭は全て顔見知りで区別がつくのに。つかない俺達人間がわざわざ区別を付ける為にお飾りに屋号を入れるほど良く似ている饅頭達を区別しているお前達が何で……
 根性悪ダダ漏れ饅頭は帽子っこを罵っている。帽子っこは何が起きたか判らずに混乱している。リボンには屋号がついている。

「ぎゃあああああああ」

 悲鳴を上げて飛んでいった根性悪ダダ漏れ饅頭は俺の顔を俺の足の形にへこましたまま道の横に立っている道祖神にぶつかる。

「おにーさん、なにするの!!」

「何するんだぜ!」

「れいむがぁぁぁ」

 悲鳴が聞こえたのか見えていたのかあっちこっちの畑から帽子っこが集まってくる。リボン子達は凶悪な人間からおちびちゃん達を守る為に避難しているんだろう。俺は口々に詰問する帽子っこを踏まないように無視し、腰を伸ばして成り行きを見守っている爺様、婆様に黙って見つめられながら道祖神に近づく。

「なにするの…… おにいさん……ひどい……」

 息も絶え絶えに俺に言うのはひしゃげたリボン饅頭。歯も折れたのか口から目から砂糖水をまき散らしている。黙ったままそれに近づくと俺はそれからリボンを取り上げる。

「おかざりさん、れいむのおかざりさん、かえひて」

「このお飾りの本当の持ち主は何処だ?」

 リボン饅頭が伸びても飛んでも届かない位置でリボンをひらひらさせて俺が尋ねる。

「だれだ、こいつ」

 一番初めに追いついたのが中の家の帽子っこ、その次が本家。間借り屋が一番近かったが三番手になった。

「まりさのれいむじゃあない。でも、れいむのおかざりさん……」

 3匹ともリボンを外したのを見てこの饅頭が間借り屋のリボン子ではない事に気がついたらしい。どんなに頭が良くてもお飾りで個体を識別するのは変わらないか。

「中の家、本家。間借り屋の帽子っこを連れて行ってくれ」

「え?」

「この腐れ饅頭から間借り屋のリボン子の居場所を聞き出す。制裁してな」

「ゆっくりりかいしたぜ」

「え? え?」

 理解出来ないと言うより理解したくないんだろう。話が見えない間借り屋の帽子っこの両側に中の家と本家の帽子っこが立つとそのお下げを使って間借り屋の帽子っこを引きずっていく。
 見送ってから俺は黒く変色した饅頭を見下げる。制裁と言ってもねちっこくするつもりはない。ねちっこくやっても時間が経てば何故こんな目に遭っていたかの原因を忘れるのが饅頭だ。逃げようと考えたのかもそもそと動いて俺に後頭部を向けてうごうごとうごめいている饅頭の後頭部を軽く蹴る。前にのめる。

「なんで…… いたい、いたいさん? れいむ、にげたのに」

 いや、全く位置は変わっていないって。向きは変わっているが。
 そして俺は饅頭の後頭部を踏んでいく。

「いたい、いたい」

 両方のもみあげを降っているところを見ると本当に痛いんだろう。踵を地面に付けながらゆっくりと踏んでいくのでも饅頭だからな。

「このリボンの持ち主は何処だ?」

 もみあげも舌も届かないその位置でひらひらと間借り屋のリボン子のリボンを振る。

「れいむのりぼんさんだよ」

 どの口が言うか。俺は足に力を入れる。

「れいむのリボンざん……」

 で、すぼっと餡を口から吐き、俺は慌てて足を引っ込める。ここで殺してしまったらリボン子の行方が判らない。

「くそじじい! じねぇ」

 ……足を離したせいで許されたと思ったのか振り返ってそういった饅頭を軽く蹴って倒すと下になったもみあげを踏みつけ残ったもみあげを力一杯引きちぎる。饅頭の皮がついてきたが余り気にしない。俺が知りたいのは間借り屋のリボン子の居場所だ。だから最悪、案内する足さえ残っていれば問題はない。

「いだい、いだい、れいぬのもみあげさん、かえして」

 まぁ、返そう。残ったもみあげを踏んだまま俺が饅頭の前にもみあげを落とす。

「ねいむのもみあげさん…… 直って……」

 目から砂糖水を流しながら饅頭がもみあげを舐める。

「ぺろ、ぺろ、なおってね、もみあげさん、なおってね」

「このリボンの持ち主は何処にいる?」

「なおってね、ぺろぺろするからなおってね」

 なるほど。俺はしゃがみ込むともみあげを取り上げ饅頭の口の中に放り込む。あると直そうとするんならこいつにはっきり判るように消滅させてしまえば良い。もみあげを含んで閉じた口に小さなカップゼリーを二つばかり流し込む。ついでにチョコレートのかけらも入れてやろう。

「うめぇ、これうめぇ。あまあまさん、うんめぇ」

 それは良かったな。全部綺麗に飲み込んだみたいだし。

「このリボンの持ち主は何処だ?」

「れいむのもみあげさん、れいむのもみあげさん、ゆっくりでてきてね」

 無理だと思うぞ。というか、有ってもなくても変わらないのか。それともこいつが極端に頭が悪いのか。

「このリボンの持ち主は何処だ?」

「もみあげさん……」

 俺は立ち上がると残ったもみあげを持って饅頭を持ち上げる。

「いだい、いだい、くそじじい、いだい」

「このリボンの持ち主は何処だ?」

「くぞじじい」

 もみあげを握った腕を振り上げてそのまま下に振り下ろす。やっぱりもみあげが千切れて本体は地面に落ちたか。

「いだい、いだい、ゆどぅじでぐだあい」

 顔が痛いのか、身体が痛いのか、心が痛いのか。

「リボンの持ち主は何処だ?」

「もうじまぜん」

 話を聞け、質問に答えろ。身体をかがめて今度は饅頭の髪をつかんで立ち上がる。


「リボンの持ち主は何処だ?」
「ゆずじでぐざざい」

 俺は振り上げて振り下ろす。地べたにへばりつく饅頭。俺の手に残る髪の毛。口周りが餡子まみれなのは吐いたのか。歯もだいぶ抜けている。目も残っているかどうかが判らない。たたき付けられたせいで皮が薄くなったのか、顔色は餡子の色が浮き上がって黒くなり出している。どこからもかしこからも出せるものは全て出しているらしく餡子と砂糖水まみれ。

「このリボンの持ち主は何処だ」

 逃げる気力もなくなったのかうぐうぐと呻くだけの饅頭にしゃがみこんでもう一度俺が尋ねた。