「さすがに帽子っこと呼ぶのは面倒なのでこれから俺はお前を白まりさ、お前を黒まりさ、お前をありすと呼ぶ。良いか?」

「ゆっくりりかいしたよ」
「ゆっくりりかいしたぜ」
「ゆっくりりかいしたわ」

 
3個が声を合わせて答える。元間借り屋の帽子っこが白まりさ、新しく来たリボンがない帽子っこが黒まりさ。ありすはありすのまま。白黒の理由は至って簡単。帽子にリボンがついているかどうかだ。ついているのが白でついていないのが黒。俺以外にも判りやすい。(自賛)

 とりあえず白まりさは村では戦力外通達を受けているし、黒まりさは「ゆっくりできないおかざり」持ちなので他の饅頭とうまくやっていけるとは思えないし。ありすは村中「れいぱー」のイメージしかないので外に出たらどんな目に遭うか判らない。という事で3個とも庭の中にいる。門さえ閉めてしまえばちび饅頭はともかく大きいの饅頭は入ってこれない作りだからな。ここにいる限りは苛めやら制裁には合わないだろう。何せ俺は凶悪殺饅頭鬼だ。

「おにいさん、このおにわはどうするつもりなの?」

 ありす的には何も生えていない庭。というのは対応に困るらしい。ここに来て3日ばかり経つが落ち着かないらしくおどおどと回りを見回す時がある。

 もしかしたら毎日饅頭の死骸や半死骸を持ってきてはコンポストに放り込む俺は連続殺饅頭鬼だと思われているかも知れない。もしそうなら俺から隠れる場所も欲しかろう。

「コンポストの中の堆肥を撒いて土を作って何かを植えようと思っているんだけどな」

 コンポストの上に座った俺の前に3個が並ぶ。何だろう、この行儀の良さは。

「俺としてはお前ら饅頭が食べたら死んでしまう毒のある草や花や木を植えたいんだが」

 俺の答えに3個の顔色が蒼白になる。白まりさががたがたと震えて失禁する。「おそろしーしー」という現象だ。腹を子供に押されているので失禁しやすいからな。勿論、黒まりさとありすが両側から「すーりすーり」して落ち着かせている。

「ほら、ここに植えてあるのは絶対に食べてはいけない。って子供達に教えれば間違って食って死ぬのが減るんじゃあないかなぁ、と思って」

 ありすが露骨に溜息をついた。その後について黒まりさが。どれだけ俺は極悪非道だと思われているのか、ちょっと知りたくなってきたぞ。

「でもおにいさん、まりさのおちっびがまちがってむーしゃむーしゃしちゃったら?」

「いや、しないように見張るのが親の仕事だろう?」

 心配そのものの白まりさに俺が当たり前に答える。それ位出来なければ親とはいえないだろう。白まりさが真剣に考え出している。

「その代わり、その前の畑には蓮華や白詰草を植えていつでも遊べる場所にしようと思っている」

「それはとってもとかいはだわ」

「後、リボン子の堆肥を使ってユスラウメを植えようと思っている。リボン子だけじゃあなくて、いつかはお前達三個も同じ様に」

「ユスラウメってどんなやつだぜ」

「甘い…… お前達流に言うと「あまあまなきのみさん」が生る木だ」

 さすがに自分達が死んだ後の話をされると3個も黙る。3個とも震えている。やっぱり……

「とってもとかいはだわ」

 訂正、感動されていた。

「れいむもおちびちゃんにあまあまをのこせるのね」

 確かにそうなるな。

「ありすもまりさもおちびちゃんやそのおちびちゃんにあまあまをぷれぜんとできるのね」

 そういう言い方も出来るな。

「まりさがおちっびたちをよろこばせるんだぜ」

 確かに胸を張れる事かも知れないがそれは死んでからだから、なんていうのか。黒まりさとありすは「自分達のおちび」を作る事が出来ない事を知っている。でも他のパートナーを見つけるつもりはないらしい。でもおちびを作りたい。無理ならば育てたい。その思いが次の代、その次の代へと思いを託すのだろう。

「まぁ、そうだから出来るだけ運動して良く食べて元気なちびを生むように」

「ゆっくりりかいしたよ!」

 なんだろう、これだけ素直だと言葉巧みに言いくるめた事にちょっと罪悪感なんか感じてしまう。

「おにいさん、そのこわいおにわととかいはなはたけさんをつくるのをありすはおてつだいしたいのだけど、どうしたらいいのかしら?」

 なんだろう、偽嫁に騙された時でさえ掛けられなかった優しい言葉、嬉しい台詞。こんな饅頭に掛けられるとは。あの偽嫁って饅頭以下だったんだな。饅頭の言葉、微笑みが心に染みる。ただ、蓮華と白詰草で埋め尽くされ所々にユスラウメやら桜桃やら木イチゴの木が生えている畑は絶対に都会派ではない(断言)。

「そうだな、まずはこの庭に落ちているちびを傷つける石やら何やらを集めてくれるか。お前達が見てゆっくり出来ない物は全部あつめてくれるとどういう庭にするか考えやすい」

「ゆっくりりかいしたぜ」

 返事は「ゆっくり」だがやる気一杯に答えた黒まりさが弾かれたように飛び出す。ありすはゆっくりしか動けない白まりさに付き添いながらゆっくりと移動して木の棘やら(あの長さに太さから見るとコンポストを作った時に出た屑のようだ)、貝殻の欠片やら(浅蜊か蜆だろう)小石(多分塀を作った時の以下略)やら。俺が見逃していた危険物がどんどん集められていく。この調子だときっと釘やらガラスの欠片やらの本当に危険物が集められるのも時間の問題だろう。自分のずぼらにびっくりだ。

 何というかうちに来た饅頭共が頭が良い奴らで良かったと思う。これがお馬鹿な奴らだったら毒になる植物を育てると言った処で大反対かそれでなければ家出をしていただろう。

 でも3個は違う。俺の意図を理解しそれに答えようとしている…… 
 
 もしかして、違うのか。もしかしてありすは俺をゆっくりさせようとしているのか。そして黒まりさはありすをゆっくりさせようとしているのか?
 だとしたらありすは「金バッチ」(2桁万円もしくはそれ以上)だし、黒まりさは「銀バッジ」(一桁万円後半から2桁万円中間)だ。白まりさのように金バッジ同士を勝手に交配させてバッジを習得せずに(習得の為の教育を受けさせずに)「我が儘で飼えない(躾をしろ)」もしくは「思っていたのと違う(当たり前だ)」のせいで捨てられた安価両親から生まれたのとは格が違えば餡系統も違う。飛びっ切りのエリートだ。饅頭だけれど。

 俺はゆっくり考える。確かにありすは物分かりが良いし気立ても良い。黒まりさは…… 白まりさにないやさぐれ感が有って可愛い。でも一番可愛いのは白まりさだ。どんなに頑張っても自分が馬鹿だって思い知らされて、それでも泣き言を盛大に言いながら馬鹿みたいに一生懸命生きている白まりさが一番好きだ。一番可愛い。馬鹿で馬鹿なのにひたすらで。馬鹿なのを自覚して、後悔して。それでもひたむきで……

 俺は出来なかった。嫁が死んだ時何も感じなかった。騙されたのが悔しかったとか。計画殺人まで立てられていたのに怒ったりとか。そんな当たり前の感情が俺の中にはなかった。ただ空っぽだった。この村に来てこの家を見て、この庭と俺の畑がススキだらけだったのを見て初めて偽嫁に呆れて、そんなのに騙された自分に呆れて、どうしようもなくて。笑うしかなかった俺を迎え入れてくれたのはこの村だった。

「おにいさん、どうしたの? おにいさんがなくとまりさ、きゅうってなるよ。れいむがえんっえんにゆっくりしたときとおなじで」

 白まりさが俺の足に頬すりする。

「おにいさんはしっかりしないといけないんだぜ」

 荒い口調で俺を責めながら黒まりさが俺の足に頬すりする。全身が顔だから身体全体を押しつけるように、俺の足に頬すりする。

 ありすは黙って俺の足に全身をぶつけてくる。全身をぶつけて頬すりしてくる。全てを許すように。全てを受け入れるように。

 だから俺は誰に憚る事もなく、思う存分泣いた。自分の為に。