リボン子を迎えに行くのに帽子っこを連れて行ってくれと言ったのは婆様だった。もしかしてリボン子が(婆様はとっても口を濁してものすごく遠回りで察するのに時間がかかったが)強姦されていたら帽子っこがいた方が救いになるから。だった。男の俺達には判らない何かがあるんだろう。そう思ってしまった。

だから爺様が帽子っこを俺が潰れくそ饅頭を抱いてリボン子を迎えに行った。訂正、くそ饅頭をぶら下げて、だ。もみあげどころか髪の毛の大部分を失い、次いでに何度も地面にたたき付けたせいで歯が抜け口の中に収まりきれずに口から出たままの舌を使ってくそ饅頭は間借り屋のリボン子のいる場所を示す。恐ろしくゆっくりに。こんなに手間がかかるんならここまで痛めつけなかった。俺に頬をつままれ、だらだらと涙と涎を流しながらのろのろと舌を動かす。持っているのも苦痛な程汚らしい饅頭。今すぐにでも放り捨てたいが間借り屋のリボン子を見つけるまでは。と我慢していた。ある意味苦行、でも半分は自業自得、誰も恨めない。自分の短気が恨めしい。

 置いていけば良かった。婆様に恨まれても、帽子っこに恨まれても帽子っこを置いていけば良かった。俺がもう少し思慮深ければ、間借り屋の爺様が婆様の意見を聞かない亭主関白……暴君だったら。



 今、帽子っこは家の庭にいる、俺の家の庭に。爺様に頼んで譲り受けた。



 働けない饅頭は処分する。というのが村の中の暗黙の規則。それを守ず情だけで飼い出したら町と変わらない。いつかは饅頭全てが重荷となりある日突然人間の我慢が限界に達し爆発する。全個殺処分。町流に言えば「一斉駆除」だ。そうならないように情では飼わない、使い物にならなくなったら破棄する。それが村中の饅頭を守るルールで絶対の規則だった。

 それを俺は頭を下げて貰い受けた。そして本家の爺様が許してくれた。

「新さんは村の人ではないから」

……確かに移住してきてからようやく半年。まだ心底村人カウントされていない。薄々感じていたが。新参者。村の人間とカウントされる日は来ないんだろうな。

 何にもない庭に動かない帽子っこ。帽子っこが見つめているのはみみずコンポスト。リボン子だけをゴミから外れた場所に納めた。そうすればあのリボン子だけのミミズの糞が出来る。ミミズに食われリボン子だけの堆肥となるのを帽子っこがうつろな視線で見つめている。生ゴミと同じ場所に入れたくそ饅頭共はとうの昔に肥やしになっているだろう。


 あの日、俺と爺様が見たのは両の目とまむまむ、あにゃるに何本もの木の枝を差し込まれ、口一杯に石を詰め込まれたリボン子だった。婆様に毎日梳かれた綺麗な髪は引き千切られている。毟られている。婆様に毎日撫でられていた、饅頭流に言えばすーりすーりされていた真っ白なすべすべの肌を切り裂かれている。多分「ひっさつのけん」とか「えくすかりばー」とか言う単なる木の枝に引き裂かれたとしか思えない。

 それでも一目でリボン子と判った。周りのはやし立てているくず饅頭達とは全く違う。それだからと言うべきか。婆様の手入れとリボン子本饅頭の努力で野良仕事をしているとは誰も思わない程の美饅頭。そう美饅頭。間借り屋のリボン子は美饅頭。誰がなんと言おうと美饅頭。


 そんなリボン子にどう見たってくずでしかない子汚いちび糞饅頭達は……心底汚らしい糞ちび饅頭達がうんうんやらしーしーをかけて笑っていた。笑っていたんだ。どう考えたって屑饅頭がどんなに努力をしようと到達出来ない上位饅頭に最大限の屈辱を与えていたんだ。「お飾りがない」ただそれだけに為に。


 たかがリボン、たかが個別識別、たかがそれだけの事。たかがそれだけのせいで美饅頭は糞饅頭達にここまで辱められ殺された。その「たかがリボン」を剥ぎ取ったのは自分の家族の糞以下のリボン饅頭なのを知っていながら。


「おにいさん、れいむはどこ?」

 爺様の腕の中で帽子っこが本気で自分を抱いている爺様に尋ねた。

「……帽子っこ、あの枝まみれの饅頭は誰だと思う?」

 今思い出す。後悔する。なんであんな質問をしちまったんだろう。

「あれはおかざりさんがないせいでせいっさいされたゆっくりできないゆっくりだよ」

 帽子っこはそう言い切った。

「とってもくさいね。えんえんにゆっくりしているんだね」

 本当に本当に他人事だった。10まで数えられるのに、爺様や婆様に盲目的に可愛がられる程賢い筈なのに。婆様に可愛がられて手入れされたリボン子は俺達男が見ても一目で判るのに帽子っこは全く判っていない。いつでも2個セットでカウントされているのに。カウントされているのを当たり前の様に容認しているのに。

「おかざり」のないリボン子を「さいあいのべたーはーふさん」と認識出来なかった。知恵があっても。子を成していても。


お飾りがない、たかがそれだけの事で。


 どうしよう、俺は爺様を見た。このまま騙すか、真実を教えるか。爺様の困惑、けれどその後の強い肯定。それが一番良い回答だろう。いつまでも帽子っこを騙す事は出来ない。だから真実を教えた方が良い。あの子は賢い子だから。その場にいた人間2人、俺と爺様はそう考えてしまった。そう考えちまった。ちょっと調べれば「べたーはーふさん」が先に逝って死体が見つからなくっても2日も経てば「おちびちゃんの為」と番いの死を諦め一ヶ月もすればその死すら忘れていてしまうのが饅頭だ。わざわざ教える必要はなかった。わざわざ教える必要なんてこれっぽちもなかったんだ。


 俺は黙って手に持っていたくそ饅頭がリボン子から力尽くで奪ったリボンを本来の持ち主のリボン子の上に置いた。

「れいむ、れいむ、れいむ」

 リボンを置いた途端、帽子っこはそれが「さいっあいのつがい」の「べたーはーふ」のリボン子と認識した。間借り屋の爺様の腕の中でもがき、爺様が帽子っこを下ろす。

 言うまでもなく帽子っこはリボン子に寄り添った。必死に頬すり、饅頭流に言えば「すーりすーり」と「ぺーろぺーろ」を繰り返す。

 「うんうん」やら「しーしー」やらにまみれている、それ以前に死臭を放っているリボン子に「すーりすーり」「ぺーろぺーろ」。ゆっくり出来ない状況だというのに帽子っこはリボン子にすーりすーりしぺーろぺーろを繰り返す。自分が「うんうん」や「しーしー」のまみれても「すーりすーり」と「ぺーろぺーろ」を繰り返す。すーりすーりとぺーろぺーろを繰り返せばリボン子が目覚めて

「まりさ、むかえにくるのおそいよ。れいむ、ずっとまってたんだよ。ぷんぷん」

と、言うに違いない。

「むかえがおそかったんだかられいむにあまあまをちょうだいね、まりさのぶんでいいよ」

いつもの痴話喧嘩、呆れ果てるバカップル会話を出来る。出来ないはずはない。そう信じているに違いない。他の事を考えていない。それ以外の結果なんか考えていない。

 どれほど知恵があろうが自分にとって一番嬉しい未来しか考えていない。自分にとって都合の良い事しか考えていない。自分にとって辛い事に目を背け続ける。

あまりにも饅頭らしい考え方だった。

 「とっても臭い」=死臭を振り撒いている。排泄物にまみれている。判っているはずなのにずっとずっと繰り返す。帽子っこは繰り返す。リボン子を直す為に。虚しいほど、哀しい程。帽子っこはリボン子にすーりすーりとぺーろぺーろを繰り返す。


 それを周りで観ていた子糞饅頭達が嘲り笑う。

 嘲り、笑う。


「くさい」「きたない」「おかしい」「たりない」


 もう俺も爺様も怒りの目盛りが振り切れていたんだろう。その辺にいた饅頭。リボンだろうが帽子だろうが大きかろうが小さかろうが生まれたてだろうが、挨拶しようが罵ってこようが一切合切関係なく米を入れる紙袋の中に放り込んでいった。

 何故気がつかなかったんだ。初秋だから山には捨てられ饅頭達でも容易に餌になる木の実や草の実を集める事が出来る。だからゆっくりと(この単語を使うのも悔しい)村の饅頭達を観察出来る。そして観察した結果、バッチではなくてネームシールで識別されていると。バッチを奪う事は犯罪だがお飾りを奪う事は犯罪ではないと考える程度の知恵を持った饅頭しか生き残れない。少し考えれば判る事なのに。俺はそれを怠った。その結果がこれだ。

「れいむ、れいむ」

 万に一つ生きている方が辛いだろう、それ以上のダメージをリボン子は受けていた。「死」が救いである程の制裁をリボン子は受けていた。そんなリボン子に帽子っこはひたすらすり寄り頬をこすりつけ名前を呼んでいた。多分。俺と爺様は村の饅頭以外は全部袋に入れようと躍起になっていた。

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 こいつらのせいで。リボン子は殺された。素直に村に入ってきて一言「飼って下さい」と頭を下げればすむだけなのに。それなりに知恵があるのだからそれなりに使役饅頭になれたはずなのに。それなのにリボン子は殺された。俺達がどんな饅頭でも駆除さえすれば良かったのに。もしかしたら使役饅頭になる饅頭が来るかも知れない、そんな甘っちょろい考えのせいで。

「れいむ、れいむ、れいむが、えいえんにゆっくりしちゃったよぉ」

 肩で息をしていた俺達がそんな泣き声に気がついたのはお互い米袋2袋分の饅頭を捕まえた頃だった。こんなに勝手に増えていた。探せば良かった。問い詰めれば良かった。俺がそれを怠ったばっかりに。

帽子っこは声を上げて泣いていた。リボン子がいない。帽子っこにとっての最大の悲劇。リボン子と帽子っこが子供らしく遊んでいてたまたまリボン子を守る為に足に怪我を負った帽子っこ。その時からりぼん子と帽子っこは2個で1セットと数えられるようになった。リボン子も帽子っこも当たり前にそれを受け入れた。

 だからリボン子がいなくなる事など帽子っこは考えた事はなかったしリボン子も帽子っこを残して自分がえんえんにゆっくりしてしまうなどとも考えた事はなかっただろう。

 仕事さえすれば婆様や爺様の愛を一身に浴びゆっくりプライスやおくるみやら。考えうる限りの「さいっこうのしあっわせ」が目の前にあったのに。



 そして帽子っこを連れ帰った。饅頭入り米袋を持って。




 リボン子をコンポストの外れに入れた。こうすれば他のゴミと混じる事はない。リボン子がメインの堆肥が出来る。帽子っこはそこにいると言った。ずっといると。実際、リボン子がいないと一日ノルマの虫取りが出来なし草取りも出来ない。帽子っこ一個では草取りしか出来ない。それで間借り屋の帽子っこは使役饅頭ではなくなってしまった。
 
 だから俺が帽子っこを譲り受けた。爺様がすーぱーすぺしゃるでりーしゃすゆっくりプレイスを、婆様がおくるみとゆっくりフード普通味を持ってきてくれた。ゆっくりおやつ試供品も何種類か持ってきてくれた。ありがたく頂いた。断る権利は俺にはなかった。

 爺様も婆様も「えっとー」と「こそだて」を楽しみにしていた。いつの間にかおやつの試供品も集めていた。考えてみれば週二回の巡回バスに必ず乗っていた。お金はないから時間を掛けておやつを集めたに違いない。数年に一度、日帰りでしかやってこない子供や孫より帽子っこの出産やリボン子の育児が楽しみだったんだろう。でもその夢は破れてしまった。俺の見通しが甘過ぎたせいで。帽子っこどころか間借り屋の爺様、婆様を傷つけてしまった。自分の甘さが憎い。


 帽子っこの代わりにすぐに子沢山の中の家から間借り屋に帽子っこが派遣されたらしい。その帽子っこを憎からず思っていた本家のリボン子がまるで駆け落ちのように間借り屋に住み着いたというのも聞いている。間借り屋の爺様も婆様も「わっかいふたゆのこうっどうりょく」に唖然呆然している暇もなく新しいすーぱーすぺしゃるでりーしゃすゆっくりプレイス2号館作成に追われたらしい。収まるところに収まったという訳だ。この采配を振るったのは本家の帽子っこらしい。さすが本家、そして中の家だろう。(勿論饅頭にそれとなくアドバイスをしたのは本家の爺様に違いない)



 その後


 饅頭入り米袋4袋は俺の誇るミミズコンポストといえど一度に処理出来る量ではなく、半袋づつコンポストに入れた。勿論入れるまでコンポストの上に袋ごとおいて餌も水もやらずに放っておいた。

初めは

「だして、だしてれいむにあやまってね」とか
「くさっ、ものすごくくさいんだぜ」とか言っていたがコンポストから聞こえてきていた。袋の中からも聞こえてきた。

「みみずさんいっぱいだぜ」
「まりちゃがむーしゃむーしゃするぜ」
「みみずさん、れいむをむしゃむしゃしないでね、れいむがむしゃむしゃするの」
「なんでみみずさんがゆっくりをくうんだぜ」
「きゃわいいれいみゅはむーちゃむーちゃしないでね」
「まりちゃはまじゅいんだじぇ」


 コンポストからのそんな悲鳴を聞いて袋の方の悲鳴が一時消えた程だ。


 下から聞こえる断末魔の「悲鳴」、中秋特有の日内変動の激しい「暑さ」、「寒さ」。そして最大の苦痛「飢え」に袋の中の口数が減っていき、最後の8日目はほとんどの饅頭が死んでいた。死んでいなかったかも知れないがそれを確認しようとも思わなかった。生きていようが死んでいようが結果は同じ。「ミミズの餌」だ。

 ついでに言えば良かったのか、悪かったのか。俺は饅頭達から恐怖のお兄さんというのか地獄のお兄さん認定を受けてしまった。
 
 そりゃあ怒りにまかせて根性悪ダダ漏れ饅頭を「せいっさい」したからなぁ。姿は見えなくても根性悪だだ漏れ饅頭の悲鳴はあの時畑にいた饅頭全個に聞こえたからなぁ。ちっこい饅頭が俺に近づこうとすると慌てて親が止めているのがちょっと悲しい。が、俺が親だったら止めるな。だって俺は冷酷卑劣な殺饅頭鬼。反論は出来ない。



「れいむ」

 しかし、コンポストに向かって話しかける饅頭というのもシュールかも知れない。

 帽子っこはうちに来てからはゆっくりフード普通味オンリーだった。何せ畑どころか庭すらない。訂正、畑になるだけの土地もあれば庭もあるが全く何も植えていない。更に言えばススキが生えるほど土地が枯れているので雑草すらまばらにしか生えていない。村の中で唯一の荒野、それがうちの庭、うちの畑だった。初めはなんとかしようと思ったんだけどな。今の生活が余りに心地よかったから全く忘れていたわ。


 閑話休題


 初めは食事すら全うにとろうとしていなかった帽子っこだが「胎にいるリボン子の子供が死ぬ」という説得で食事だけはするようになっている。でもこれで子供を産んで死産だったりするとこいつも死んでしまうかも知れない。


 我が儘かも知れないが俺は元間借り屋の、現俺の帽子っこが気に入っている。程度が見えているとはいえその程度最大限に賢いせいで思い悩む帽子っこが。俺にはかなえられなかった「つがい」を「べたーはーふ」と心から信じて、同じように信じられて。疑いようもなく「そうしそうあい」と誰憚る事もなく公言するお馬鹿カップルだった帽子っこと今は亡きリボン子がお気に入りだった。俺が望んだのに手に入れられなかった「さいっこうのかぞく」を持って「さいっこうにゆっくり」するはずだった帽子っことリボン子は俺の理想だった。俺が騙されても手に入れたいものだった。

 いつも通り昼食配達が終わって戻ってきても帽子っこはコンポストを眺めていた。リボン子がなった肥料を使って何かを植えてやればもう少し元気になるんだろうか。ユスラウメはどうだろう。実は甘いし、ちび饅頭なら直撃を受けたら潰れるだろうが親饅頭なら潰れないだろう。

「おにいさん、こんにちは」

 ? 振り返っても誰もいない。でも玄関から声がしたな。

「おにいさん、こんにちは」

 門に近づいてようやく声の主に気がつく。見た事がない饅頭だ。リボンでもなく帽子でもなく、カチューシャをしている。

「こんにちは、おにいさん。ありすはゆっくりありすよ」

 ええと、自己紹介なのかな。アリスね、初めて見たぞ、アリス。ああ、あのレイパー……!!

「おにいさん、ありすはきょせいされているからだいじょうぶなの」

 俺の反応になれているのかカチューシャが言う。きょせい? 虚勢? 去勢か。

「あ、ああ、そうなのか」

「それでぶしつけでとかいはではないのですけれど、ありすたちにゆっくりフードをわけていただけないかしら」

 都会派というのは全く判らないがえらく丁寧な饅頭だな、それにしても「達」って?

 俺が周りを見回すとひょいっと帽子っこが現れる。これは判りやすい子だな、顔に傷がついていて帽子の白いリボンがない。これなら屋号を付けなくても一目で誰のうちの饅頭かが判る。誰のうちの饅頭になるかは全く判らないが。

「うちの帽子っこを虐めなければ良いぞ」

 俺は門を開ける。饅頭は寂しがり屋らしい。だから群れたり家族を作ったりするらしい。でも帽子っこがうちに来てから誰も遊びに来ない。大体飼い主の俺が地獄から来た虐待お兄さん認定を受けているし。怖くて我が家には近づけないだろう。


 もしかしたらどう声をかけて良いのか判らないのかも知れない。

 俺だって判らないんだから饅頭ならしょうがない。

 カチューシャと帽子っこが庭に入る。コンポストを見つめている帽子っこに気がついたのはカチューシャだった。ものすごい勢いで跳ね寄る。それを帽子っこが追い、俺も追う。

 帽子っこに近づいたカチューシャは何も言わなかった。ただ帽子っこに顔をすりつけた。初めはされるままだった、それでもカチューシャは頬すりを続けた。帽子っこがしゃくりを上げたのはしばらくしてからだった。

「まりさ、きがつかなかった」

「まりさ、れいむとべたーはーふさんだったのに」

「れいむをゆっくりさせたゆっくりなのに」

「れいむといれかわっていたのに」

「れいむ、くさいって。ゆっくりできないゆっくりだって」

 それだけを繰り返す。泣きながら繰り返す。カチューシャはうんうんと頷きながら帽子っこの涙を舐め頬すりしたり身体全体を押しつけたりしている。大丈夫だ。カチューシャは帽子っこを虐めない、苦しめない。なんとなく俺はそう思った。




 何だろう、このお行儀の良さは。ゆっくりフード普通味だというのに全くこぼさず文句も言わず、綺麗に食べきって

「ごちそうさまでした、ありがとうございます、おにいさん」

 ときた。なんなんだ、このカチューシャは。リボンなし帽子っこも食べ終わって「ごちそうさまでした」だからこういう躾をされているんだろうが。

 まぁ、隣というのか一緒に食べてくれる饅頭が出来たお陰で帽子っこの食欲も出たらしい、久しぶりに普通の量を食べてくれた。

 勿論その後は「にんっしんさんをしているおかあさんのこころえ」というありがたいお勉強をカチューシャが行っていた。辛い気持ちはわかるけれどシングルマザーとしておちびちゃんを育てていく心構えをしなければいけない。というのがメインだが、「大切なゆっくりの残してくれたおちびちゃん」というフレーズが帽子っこの心を打ったらしい。久しぶりに前向きになった帽子っこを見た。

 が、こうなると俺には手が出せないので同じように手持ちぶさたになった新帽子っこにどういう関係かを聞いてみる。

「みてわからないのか、そのめはふしあななのか。まりさとありすはべたーはーふさんのなにものにもみえないだろうぜ」

 またベターハーフさんだ、何故女に裏切られた俺のところにベターハーフばっかりやってくるんだ。

 しかし、去勢されているという事は子供は作れない。子供と作るのが大好きな饅頭なのにそういう相手がベターハーフ?

 と思ったが何故かリボンなし帽子っこがふて腐れて余所を見る。この露骨なふて腐れ方は去勢の理由にこのリボンなし帽子っこが関わっていると見た。見たがまだ話さないだろう。

「おにいさん、まりさのわがままだけどありすとまりさといっしょにいたい」

  なるほどそうなるか。帽子っこはカチューシャとゆっくり話したせいで大分元気になっている。カチューシャは去勢されている。帽子っこ同士は、というか同じ種類同士は滅多に「すっきり」しない。数は増えないし新しい2個は礼儀正しくて賢い。カチューシャの端が千切れているのと帽子っこの白いリボンがないのは「バッジ」がついていてそれを破棄したのだろう。このご丁寧な礼儀正しいカチューシャはもしかしたら「金バッチ」という奴かも知れない。

「お前さんのすーぱーすぺしゃるでりーしゃすゆっくりプレイスに招待するんなら俺は口を挟まない」

 多分出産まで帽子っこは一個で暮らす事は出来ないだろう。「さいっあいのれいむ」を失ってから初めてのふれ合い。それを禁止したら帽子っこは永遠にゆっくりしてしまうだろう。淋しすぎて、辛すぎて。

「ありす、まりさ。まりさのゆっくりプライスにきてね」

「とってもとかいはなおさそいだわ。よろこんでおじゃまさせていただくわ」

 ……もしかしたら「とかいは」って言うのは都会派ではなくて「素敵」という意味なのか? でもなんで都会派なんだ?

「まりっさもしょうったいされるぜ、まりっさとありすはべたーはーふさんだからな」

リボンなし帽子っこもうちの帽子っこも当たり前に納得しているがカチューシャ饅頭は良く判らないぞ。