お産は生まれて初めての経験だった。生んだ事もなければ立ち会った事もない。その上初めの約束は「無痛分娩」だった。

 「くるしいよぉ~、いたいよぉ~」
 「だいじょうぶよ、ありすがいっしょにいるわ」

 なんか手を出せる状況ではなくなっていた。白まりさにありすがぴったり寄り添って頬すりを続け真っ赤な顔で苦しんでいる白まりさを応援している。ありすは初めての経験の筈なのに当たり前の顔をして頬すりをし、声を掛けている。

 返して黒まりさと俺は手持ちぶさたというのかどうして良いか判らずにうろうろと狼狽えていた。こういう場面では男は本当に役に立たない。

 といって湯を沸かす必要はないし(多分産湯に付けたら溶けるだろう)一応ラムネと柔らか羽根枕は用意して……

「黒まりさ、おちびが生まれた時受け止めるのは誰の役目だ?」

 俺の問いに黒まりさの目が大きく開かれる。

「まりささまがゆっくりうけとめるぜ。きまっているぜ!」

 黒まりさは白まりさの前に立つと帽子を脱いで口にくわえる。生まれる子供を帽子で受け止める。当たり前のお産の風景。ただ受け止めるのがつがいではない黒まりさだが。

 しかし黒まりさも俺も情けない事に初めてのお産。初めての立ち会い出産。どうして良いか判らない。狼狽えるしかない。

 というかこの状態で落ち着いているありすが変だ。いや、多分落ち着いているのではなくてお産をする白まりさの世話をする事が一番良いと考えた結果だろうが。

 大体、無痛分娩、俺の計画通り。になるはずがありすの「さいっこうのれいむのおちびちゃんをしっかりうむ」のが「さいっこうのれいむにたいするとかいはなたいど」と指導してしまったせいで、自然分娩にする。と白まりさが決めてしまったせいで。よもやありすが自然分娩最高!信者とは思ってもいなかった。

 あああああ、自然分娩での男の使えなさ半端ない(自虐)

 白まりさとありすは自然分娩を成功させる事しか考えていない。そして黒まりさと俺は狼狽える事しか出来ない。

とはいえ、黒まりさが受け止められなかった時用に羽根枕(ニトリの通販で購入700円×3個)を黒まりさの後ろの下と正面に設置する。これで万が一黒まりさが受け止め損なっても潰れる事はない。きっとない。多分ない。……自信がない……


 ああああああ、お産に対して男の役の立たなさって。自分でも情けない。これ位なら間借り屋の婆様か、それが無理なら中の家か本家のリボン子を借りてくれば良かった。あの二個は植物性妊娠しかした事がないが一度も妊娠をした事がない俺や黒まりさより役に立つだろう。俺は中の家や本家のリボン個以下に役に立たない。


 と、自己嫌悪に陥っている間に白まりさのお産は進んでいたらしい。

「ゆっくり、ちていっちぇね~」

という当たり前のちび饅頭の挨拶が聞こえた。黒まりさがくわえている帽子の中から。緊張でがちがちになっている黒まりさの帽子の中。枝になっているちびより大きいけれど言葉使いは全く同じ。でもどのちび饅頭よりも可愛い(勿論欲目100%増し)ちびリボン子がにこにこと俺を見上げていた。

「ゆっくりちていってねぇ」
「ゆっくりしていってね」
「ゆっくりしていってね」

 ちびリボン、黒饅頭、俺で挨拶をする。

可愛い、というのかあのリボン子そのものの小型版が俺を見上げている。

 小さいのに綺麗、小さいのに聡明、小さいのに……

「おにいさん、あまやかすとげすになるわ。とかいはじゃあないわ」

 はい、饅頭に釘を刺されてしまった。

 俺はちび饅頭を帽子から取り上げると羽根枕(ニトリで購入)の上に置く。

「おにぃちゃん、ゆっくりちていっちぇねぇ」

 あああ、これに心奪われないものがいるだろうか。

「おにいさん!!」

 再度ありすに怒られる。


 そうだ。ここで甘やかしたらしっかりリボン子ではなくて、リボンを奪った糞饅頭に育ってしまう。俺はこの子をしっかりリボン子になるように育てなければいけないのに。

「ゆっくりちていってねぇ!!」

もう一度声が聞こえる。緊張した黒まりさががちがちのまま受け止めている。リボン子と変わらない大きさの帽子っこ。俺はそれを持ち上げると先に生まれたリボン子の横に並べる。

 しっかり者のリボン子と賢い帽子っこにそっくりなちび饅頭。

「おにゃかがぺ~こぺ~こさんだよぉ~」
「にゃにかむーいぇあむーちゃちたい~、あみゃあみゃでいいぉ~」

 訂正、躾を入れないと屑そのものだ。

「おにいさん、ゆっくりふーどをくださいな」

 ありすが俺に頼む。ゆっくりフードが欲しいなんてねだる饅頭じゃあないはずだが。その横で疲れ果てて、でも満足げな白まりさが微笑んでる。

 まぁ、必要なんだろう。ゆっくりフードをありすの前に置くとありすは促し白まりさが口に入れる。成る程、白まりさの為に頼んだのか。さすがはありす。


 でも白まりさはゆっくりフード普通味を口の中で何度も噛みながらのそのそとちび饅頭に近づく。そしてちび饅頭に舌を使って差し出す。

 多分、かみ砕いたゆっくりフードを唾液でまとめて団子にした物。
「あみゃあみゃ~ きゃーきゃ、あみゃあみゃ」

「きゃーきゃ、ちあわちぇ」

  きゃーきゃ? もしかしてかーか? 団子を食べたちび饅頭が全身全霊で「しあわせー」と身体を震わせ失禁している。これは「うれしーしー」というやつだろう。

「いーい? おちびちゃんたち。あまあまはおにいさんからいただいたの。だからおにいさんにおれいをいってね。それがとかいはよ」


 真顔でありすがちび饅頭に指導する。いや生まれたてだから判らないだろう……

「おにーちゃ、ありあおぉ-」
「おにーちゃ、ありあおー」

 ……声をそろえて礼を言われてしまった。

 まぁ、考えてみれば今まで見てきた植物性妊娠の実饅頭に比べれば妊娠期間も長ければ身体も大きいんだから知恵もそれなりに育っているんだろうが。

 駄目だ、親の欲目。いや飼い主の欲目で他のちび饅頭より数万倍賢くて可愛く見える。

「まりさ、ゆっくりプレイスかられいむがためてくれたえさをもってきてくれる?」

「もちっろんだぜ」

 ありすに頼まれた黒ありさが飛び跳ねてゆっくりプレイスに飛び込んでいく。その間白まりさはちび饅頭達に思う存分頬すりをし、舐め回す。

 白まりさは…… 母親になったんだろう。目つきが表情がちびの面倒を見ているリボン子と全く同じになっていた。ちび饅頭の世話を焼く事が最大の喜びでそれだけしか考えていないリボン子達と全く同じ。ちび饅頭に害する物は全てが敵。己が朽ちようとちび饅頭の事を優先する…… 


 言い過ぎだ。リボン子達はそこまでちび饅頭に入れ込まない。正確に言うと盲目的に入れ込まない。はっきりと打算が見て取れる。

 すなわち、問題なく育つと思われるちび饅頭は可愛がるが少しでも問題がある、育てるのが面倒なちび饅頭は容赦なく切り捨てる。それがリボン子の我が儘と思われるようだが、そうではなくて母となった時の野生に戻る現象だろう。自分が育てやすい子だけを育てる。それが野生という過酷な状況下で子孫を残す最大限の方式だったに違いない。

「ちょーちょ、ありあとー」
「ちょーちょ、ありあとー」

 黒ありさが持ってきた草団子を白ありさが口に含んで食べやすい形に変えた物を食べた二個が声を揃えて礼を言う。食事を貰えたら礼を言う。この短時間で覚えたのか。賢いじゃあないか。

「まりっさはとーとじゃあないぜ。おとうっさんだぜ」

 黒まりさの返事に団子を食べ終えたちび饅頭が不思議そうな顔をする。

「おまえったちのとーとはとってもりっぱなゆっくりだったがゲスゆっくりにえんっえんにゆっくりされてしまったぜ。だからありっすとまりっさでおまえたちのかーかまりさといっしょにいることにしったっんだぜ」

 不思議そうに自分を見上げるちび饅頭に黒まりさが説明する。ちび饅頭同士で顔を見合わせる。黒まりさが言っている事は正しい。しかしちび饅頭に理解させる事は難しいだろう。

「おちびちゃんたちにはかーかとおとうさんとおかあさんがいるんだよ。ゆっくりりかいしてね」

 不思議そうな顔をしているちび饅頭達を舐め回しながら白まりさが言う。かーか(白まりさ)とお父さん(黒まりさ)とお母さん(ありす)。このちび饅頭を育てるのはこの三個。


 実の母親1個、義理の両親1組。という超変則家族でありながらちび饅頭達はさほど混乱する事なく育っていった。饅頭達がいい加減と言うより俺の家の庭、という閉鎖空間が良かったらしい。他の家族を知らなければ父一個、母二個という状況はちび達には快適この上ない状況だからだ。それに、これはありすから聞いたのだが生まれたばかりの時からきちんと説明しておかないとちびリボン子がいらない悩みを抱えてしまうらしい。

 すなわち自分は「れいぽー」の結果生まれたのではないかと。

 両親と種族違いで生まれた子はみんなそんな悩みを抱いてしまうらしい。故に初めから「れいむ(リボン子)」と「まりさ(帽子っこ)」の間に出来たが、生まれる前に「ほんとうのおとうさん(リボン子)が死んでしまっておかあさん(しろまりさ)の友達の「ありす」と「まりさ」の夫婦が一緒に育てる事にした。と説明するのが良いんだそうだ。

 白まりさは普通の饅頭の半分の速度でしか移動出来ない。故にちび饅頭達につきっきりで面倒を見る事しか出来ない。だからちび饅頭にたいするケアは最高。いたせりつくせり。とはいっても甘やかす事はなく(甘やかされたちび饅頭の行く末は周りにいた仲間達で心に刻み込まれている)きちんと躾けている。

 ありすは「かならずかいぬしさん(俺の事だ)にあいさつをする」「おれいのことばをわすれない」「ごっくんをしてから『しあわせ』という」他色々な人間と暮らしていく上で好ましい事を「とかいは」という呪文で教えていく。「とかいはのれぃでぃ」に育て上げる事が「さいっこうのれいむ」に対しての贖罪であり(ちび饅頭を育てる事に対して、だそうだ。良く判らない)俺の対する義務だそうだ。俺としてはありすレベル、それが無理でも白まりさレベルの帽子っことリボン子が手に入れば何の不服もない。

 そして黒ありさ。「だぜ」語尾を使いながら推定銀バッチの礼儀正しさ。それを踏まえた上の運動能力の高さ。

 「おにわさん」に散らばっている「ゆっくりできないきけんぶつ」を集める。という仕事をして自分達とかーか、その上おかーちゃまで養ってしまう「さいっこうのおとーちゃ」の黒まりさ。

 自分達を「ゆっくり」出来るように育ててくれる「あみゃあみゃのかーか」の白まりさ。

 優れた「とかいはのれぃでぃ」に育てる為に優しく厳しく導いてくれる「すってきなおかーちゃ」のありす。

 そんな3個の饅頭に育てられた子饅頭がきちんと育たないはずはない。言葉使いは幼いままだが他の子饅頭よりしっかりと育っていく(欲目)。

 大体子饅頭の言葉使いや甲高い声は保護饅頭の関心を呼ぶ為の物だ。これは子育てをする生物の共通する。成体が不快と思う周波数の音で幼体は成体の関心を呼ぶ。(このせいで人間の女の何割かは子供の事を「自分を不快にさせる物体」と認識してしまう)そして顔貌、表情、言葉使いで保護欲をかき立てる。(が、人間の場合は初めの声で不快だと思ってしまった個体は「媚びを売っている」「うざい」と思ってしまい更に嫌悪感を増してしまう)

 わざわざ親の関心を呼ぶ必要はない子饅頭達は出来るだけ早く子供言葉を卒業し、都会派のれぃでぃの口調になろうと思って努力はしているがこればっかりは本能だからどうしようもない。

 「おにいちゃ、ゆっくりちていっちぇえ」

 うん、努力は判るぞ。ちびまりさ。

「おにょーさん、うっくりちていってえ」

 努力の方向が微妙に間違っているぞ、ちびれいむ。言いたい事は伝わってくるが。

 しかし、都会派のありすのお陰で食事中は「しあわせー」をせず、全員が口の中の食べ物をきちんと飲み込んでから声を合わせて「しあわせー!」というルールがあるお陰で5個全個での「しあわせー」(もしくは「ちぁあちぇー」)はゆっくりフード普通味しか与えていない俺の心にちょっと影を射す事はあるが俺的には嬉しいし、何故か黒まりさとありすが「あなろぐとけいさん」を読めるので(白まりさはただいま読み方を教えられている)俺の仕事に行く時間を心得ている。

 その上、コンポストの中にいるみみずはゆっくりを喜んで食べる。それを操るおにいさん(俺)は村で死んだゆっくりを集めてコンポストにいれ「たいひさん」を作ってゆっくりにとって最高の「とかいはのはたけさん」を作るつもりでいる。それにはゆっくりの手が必要で自分達5個はそのメンバーに選ばれた「さいっこうのゆっくり」である。と言葉巧みに言いくるめたら本気で使命に燃えてしまった。こういうところは簡単で良いな。

 まぁ、多分黒まりさとありすは言いくるめられた振りをしているだけなんだろうがそれでもちび達の希望と労働意欲をかき立てる事は出来るだろう。そうなると、だな。




 「答えたくないなら答えなくても良いがな」

 コンポストの上に座った俺の横にはビール缶。ビール缶と言ってもホームセンターのプライベートブランドの偽ビール缶なのはお約束。そして足下にいて俺を見上げているのは黒まりさだった。

 白まりさとありすは俺が玄関に入れた自分達の「すーぱー(中略)ゆっくりプライス」の設置具合と「おといれ」の場所とちび饅頭達に「おといれさん」の場所を教える為に玄関の中にいる。

 「お前の帽子にリボンがないのは人間のせいだろう? どんな虐待を受けたんだ?」

 出来るだけ感情的にならないように、出来るだけ他人事に。饅頭達は辛い思い出を「うんうん」すなわち排泄物として体外に排出する。そうしなければ「ゆっくり」出来ないからだ。

 そして「人間」、訂正「ゲスにんげん」に虐待された事など「うんうん」として排泄して捨て去りたい記憶以外の何物でもない。それでも俺は聞いた。判っているけれど聞いた。

「まりさはきんバッジのおとうさんまりさとおかあさんれいむのあいだのうまれたんだぜ」

 そこから始まるのか。さすが饅頭。まぁ、ペットショップで売られるまではテンプレというのか。姉妹は4人。しっかりしたプリーターで4匹全員平等に「躾」と「お勉強」をしてくれて4匹全員平等にバッジテストを受けさせてくれた。4匹の中、金バッジ試験に落ちたのは黒まりさだけでペットショップに売られたのも黒まりさだけだった。金バッジ試験に落ちたと聞いた両親、姉妹供に見た事がない程冷たい視線で黒まりさを見た(黒まりさ視点)らしいので売られた方が黒まりさ的に良かったのかも知れない。

 といってもペットショップにいたのも3日程度で普通の人間に買われたらしい。訂正、普通の人間に見える人に。それから人間用のすぃーに乗せられて、乗せられた途端眠くなって寝てしまった。らしい。

 すぃー(車)に乗った途端眠くなって寝たねぇ……
 
 多分ラムネだな。用意周到。となるとかなり離れた町、もしかすると隣の県の市とか県庁所在地とか。それ位離れている場所が黒まりさの売られていた場所か。この村は一番近い町まで車で1時間以上離れているから黒まりさが売られていた処を探すのは至難の業だろう。故に黒まりさの販売記録から黒まりさの買い主を探る事は不可能という事だ。

 話戻って。そうやって買われて来た黒まりさ、銀バッジまりさはそこでも一週間ゲージに入れられ、ただ餌だけを買い主に与えられていた。幾ら挨拶をしても何の反応もなくただ餌を置いていくだけ。排泄物はゲージの下に落ちる。ほとんど身動きがとれないゲージの中に一匹だけ。仲間がいなければ淋しくて死んでしまう事もある饅頭を。ゲージの中に閉じ込めたまま。買い主は銀バッジ持ちの黒まりさをそんな目に遭わせて平気だった。

 変わったのは一週間後。ありすがやってきた。金バッチのついたありす。輝いていたありす。訂正、今もいぶし銀の輝きを持っている。

「ゆっくりしていってね」

「ゆっくりしていってね」

 挨拶だけで恋に落ちた。「これがお前のつがいだぞ」人間に言われた時、夢かと思った。それ位ありすはゆっくりしていて輝いていた。銀バッジまりさが今まで見た事があるゆっくりの中で一番美ゆっくりだった。美しく過ぎて手なんか出せないと思った。(手はないが)

「さぁ、ありす。まりさをれいぷするんだ」

 買い主が言うまで。


 金バッジの饅頭は飼い主の許可がなければすっきりはしない。まして相手の意思を尊重して絶対にレイプなどしない。

 ありすは絶対に出来ないと答えた。途端に買い主はありすを揺すりだした。

 饅頭は揺すられると自分の意思には関係なく発情してしまう。それだというのにありすは必死に耐えた。発情しないように。涙を流し歯を食いしばり。黒まりさが見ても判る程耐えていた。それ以上揺すられて耐え続けていた「れいぱー」になってしまう、それ程までにありすは耐えた。

 唐突に買い主はありすを置いた。ありすは身体全体で息をしていた。発情しないで済んだ。そんな安堵に包まれたありすに買い主が聞いた。

「お前はあのまりさが好きか? 番いにしたいか?」

 ありすが頬を染めた。それが答えだった。黒まりさは天にも浮かぶ気持ちだった。地面から離れていなくても「つばさをてにいれたぜ~」と叫びたい気持ちだった。

 お飾りのリボンをとられるまで。

 黒まりさは泣いた。返してくれと泣き叫んだ。

「ありすに『すっきりして下さい、すっきりして欲しいんです』と言え」

 そう言われた。


 俺は黙って黒まりさを見る。偽ビールを飲んでいるから出来た質問だった。ここまで聞けば充分だった。銀バッジなのに語尾は「だぜ」の意味。ありすが去勢された意味。それ以上聞きたくなかった。
「もうい……」

「ありすがまりさをれいぽーしようとしたのよー!!」

 俺と黒まりさの間に飛び込んできたのはありすだった。

「ありすがかってにれいぽーしようとしたの! だからにんげんさんにせいっさいされたの! ありすがれいぽーさんだったの!」

 ありすの叫び。真実ではないのは俺でも判る。でもそれがありすにとっての真実だった。

「ありす、ありすのれつじょうさんにかてなかったの。ありすはとかいはじゃあなかったの。ありすがれいぽーさんだったの!!」

「ちがうんだぜ! まりさがいったんだぜ! ありすにすっきりしてくださいっていったんだぜ!」

 ……聞きたくなかった。言わせたくなかった。

「ちがうの、おにいさんちがうの。ありすがれいぽーしようとしたからぺにぺにをきられたのよ。まりさはそんなこといわなかったの! だからありすにぺにぺにがないの!」

 ……確かにありすにはペにペにはない。黒まりさの顔には傷がある。黒まりさの帽子にはリボンがない。

「ありすがおそすぎたからってぺにぺにを。あのゲスにんげんはありすのぺにぺにをきったんだぜ」

「ありすがれいぽーさんだったからまりさがおかおをたたかれたの。むちさんだって。ゆっくりようのむちさんだって。ありすのせいで。ありすがおそかったから」

 一目会った時にありすを番だと認識した黒まりさ、黒まりさを番だと決めたありす。二人の話から大体の事は想像出来る。

 勝手にすっきりをしない。これは銀バッジ、金バッジ共通の条件だ。禁忌といってもいいかもしれない。すっきりしておちびちゃんを作る事が何よりゆっくり出来る事=しあわせと餡子の記憶で受け継がれている本能以上に餡子に強く刻まれている。

 勝手に。飼い主の許可も取らず。相手の許可も取らず。

 素直に番にすれば何の問題もない話なのに。買い主、饅頭流に言えばゲス人間は金バッジ饅頭に銀バッジ饅頭を強姦させようとした。だから二個は全身全霊で拒否した。

 たった一言

「ありすがお父さんでまりさがお母さんになるのなら番になってもいい。子供は作り放題だ」

 そう言えば結果は同じ……

 綺麗事は止そう。二個の買い主は虐待者だった。二個がジレンマに襲われ自尊心をずたぼろにされ身体に傷を、お飾りにも傷を付けられた。

 これだけ判れば…… というのか俺が聞きたいのはその後の事で。
 ありすを誘惑出来なかったのは(黒)まりさの魅力がなかったせいだ。そんな魅力がないまりさにはお仕置きが必要だと言いながら黒まりさの顔に買い主が鞭を振り下ろした。とても「はんさむさん」(ありすの主観)の黒まりさの顔に「ありすのプライドさんをまもるためにうけてしまった」「えんえんのきず」を受けてしまった。と、アリスが泣きながら訴え

 「ぺにぺに」を切り落とされて精子餡を吹き出したありすの傷口に買い主は「なにかわらないものをおしあて」部屋中に「あまあまさんをこがしたにおい」で包まれた。痛みにのたうち回っているありすを買い主が黒まりさの前に放り出した。放り出したんだぞ、ひどいと思わないか、と黒まりさが叫ぶ。

 確かに黒まりさの言う通りとてもひどいと思う。が、俺が聞きたいのはその辺じゃあなくてその後だ。

「それで去勢されたありすと黒まりさはどうやってこの村まで来たんだ?」

 もしかしたら質問はこれからすれば良かったのかも知れない。

「けがをしたありすとまりささまはおなじビニールぶくろさんにいれられたんだぜ」

「それでふくろさんごとすぃーにつれていかれたの」

 やっぱり車で来たか。車以外は考えられないんだが。

「そうしたらいろんなにんげんさんがふくろさんにはいったゆっくりをもってきたんだぜ」

「いっぴきワンコイン、おちびちゃんはいちりつ100えんさんだって」

 有料か。ワンコインというのは500円、ちび饅頭は1個100円という意味だろう。結構良い稼ぎになっているな。

「それからたくさんあつまったらすぃーにのせられたの」

「すぃーの中は暗かったか? あかるかったか?」

「おひさまさんがでていたからあかるかったぜ」

「饅頭は全部明るいところにいたのか?」

「ばしょはみんなちがっていたけれどあかるいところにいたわ」

 ……ありすが、金バッジのついていたありすが「たくさん」と言う事は目視出来ない量なんだろう。仮に3家族で子供4人づつとしても一家族づつ袋にまとめられていたら子供の数は正確にカウント出来ない。捨てるつもりで持ってきたんならいい加減に袋詰めにしているだろうし。だから沢山。そして沢山の家族が入った幾つもの袋を明るいところに置ける。多分口コミで客が集まる程ここに定期的に通っている大きいすぃー、すなわち車は一台しか俺は知らない。俺は知らないというのか村の爺様婆様も一台しか知らないので証拠を掴みたいんだが、これがまた難しい。
「お前達の買い主はその人間にワンコインさんを渡してお前達を預けたんだな?」

「ちがうわ」

あ?

「ぜんぜんちがうぜ、あのくそにんげんがわんこいんさんをうけとってゆっくりをすぃーにのせたんだぜ」

 ……どうしよう、糞人間の正体まで判ってしまった。

 いや、「週2回」「定期的にやってくる」「誰も不審に思わない」「大きな車に乗っている」人物は一人しかいないのでそれが小遣い稼ぎに饅頭を集めて捨てている、のは想像がついていたが思ったより奥が深いというのか面倒臭い事になりそうだ。

 饅頭一家族破棄料金1500円(ワンコイン2枚+100円5枚)として平均一週間に3家族×2回破棄で9千円。これが月で4万円。半年も働けば饅頭捨て代と給料で金バッジありすも買えれば銀バッジまりさも買えると。そう言う金で買ったんなら二桁万円の金バッジも銀バッジも簡単に捨てられるな。

……もしかして餡系統は良いけれど躾が入っていないのでどうしようもない屑饅頭の多量発生の原因の一端まで担っているんじゃあないのか?

 決めつけるのはいけないだろうがなんとなくそんな気がする。

「おにいさん?」

 俺が考え込んだので心配になったらしい。ありすが俺を見上げる。
「悪い、俺が知りたいのは饅頭達が何処に捨てられているか、場所が知りたいだけなんだ」

 そう、捨てられる場所を知りたい。

「それはありすたちにはわからないわ」

 そうか、わからないのか……

「判らない?」

「ありすたちをすてた……いなかもののいいかたをしれば、くそにんげんさんはありすたちよりさきにほかのゆっくりたちをおろしてしまったから」

 糞人間にすら「さん」を付けるのは饅頭だからだろう。饅頭は"おかん"よりも名詞の後ろに「さん」をつける癖がある。

「先に下ろした? お前達はもっと村寄りに捨てられたのか?」

 俺の問いに黒まりさとありすが顔を見合わせる。

「むらよりというのか……」

「このおうちさんをさして あそこにいけばかってもらえるから。って」

 顔を見合わせた後、黒まりさとありすが交互に答える。

 飼って貰える、ねぇ。そういう言い方をしたという事は選ばれた饅頭が村で使役饅頭として飼われている。他に俺が饅頭の死体処理を行っているのを知っているという事か。いつ見られたんだか。って週2回見ていればいやでも判るな。それでなくてもほぼ週に一回は必ず「県営循環バス」を使って町に降りてホームセンターの軽トラックを借りて自分の買い物や爺様婆様の買い物荷物を運んだ後にトラックを返してバスで村に戻っているからな。

 都会のホームセンターはどうだか知らないがこっちのホームセンターは食料品や日用雑貨を扱うスーパーマーケットと提携を組んでいる。どちらの買い物もホームセンターの軽トラックを貸して貰える。こういうアバウトさが「ざ田舎」というものだろう。その買い物の中に「発泡スチロール製保冷ケース(多数)」やら「ゆっくりフード普通味(定期的)」とかを買っているとそれなりの噂になるだろうし。そしてその割には饅頭達の個数は爆発的に増えていない。週に二回、20個前後を破棄しても個数が増えていない。となれば処分している人間がいると思うのはことわりというものだろう。

 だから俺がこのありすと黒まりさを殺す、もしくは虐待すると思ってうちを指定したんだろうが……

 実際捨てられた饅頭が山の中で暮らした最長記録はあの思い出したくもない糞饅頭達の多分一週間だ。もう少し長く暮らしていたのなら巣穴位は作っていただろう。巣穴を作る事も出来ないぼけ共だった可能性もあるが、多分そんなものだろう。

 初めからあの場所に捨てたのか、それとも移動してきたのか。ありすも黒まりさも見ていないんじゃあ確証は取れない。とりたいんだが。冬が来る前に。