そのプライスは関門がありました。

 おちびちゃんしか通れない出入り口。大人のゆっくりには通れない隙間。でもその奥にはゆっくりの誰でもが夢見るプレイスが広がっているのです。

 咲き乱れている季節ごとに移ろいゆく蓮華、白詰草、犬鬼灯、烏麦、蛇苺、エノコロ草に盗人萩。とてもゆっくりしたプレイスが広がっているのです。そしてそのゆっくりプレイスには怖い怖い犬さんや猫さん、何よりも恐ろしい人間さんはいないのです。


 そのゆっくりプレイスを見る事が出来るのはおちびちゃんだけでした。別に幻のゆっくりプレイスなのでは有りません。そのゆっくりプレイスは堅い堅い石さんの壁に囲まれていてお父さんかお母さんの頭の上に乗っているおちびちゃんにしか覗く事が出来ないのです。

 それが大人にはくぐる事は出来ない、おちびちゃんならくぐる事が出来るゆっくり出来ない塀の向こうに広がっているのですからおちびちゃんの幸せを願ってこの塀の向こう側、手の届かないゆっくりプレイスにおちびちゃんを送り込むゆっくりは沢山沢山いたのでした。

 送り込まれたおちびちゃんは最初のうちは関門のそばにいてお母さんやお父さんとの別れを泣いて嫌がります。でもお父さんとお母さんの応援で涙を振り払ってゆっくりプレイスで生活する事を誓うのです。それっきりおちびちゃんは姿を現しませんでした。どのお父さんもお母さんも1ゆで狩りが出来る程大きく育ったおちびちゃんの成長を噛みしめ、自分達の選択は間違っていなかったとうれしーしーを流す程喜ぶのでした。

 その庭の奥にはゆっくり達から見えない位置に人間の家がありました。ゆっくりから見えない理由はゆっくり達が関門と呼んでいる門の前に背の高い雑草、セイタカアワダチソウやブタクサなどが植えられていたからです。

 勿論それはゆっくりを騙す為に植えられた訳ではありません。この家には誰も住んでいないように偽装する理由が家の住人には有った為でした。家に住んでいるお姉さんは表札も出さない、郵便は郵便局留め、滅多に来ない宅配はコンビニ受け取り。ゴミは出来るだけ少なく、家を出る時も裏口から出る位気を遣っていたのです。ですからゆっくりが無人のゆっくりプレイスだと思い込むのは当たり前の事でした。ただ、息を潜めて暮らしているお姉さんはほんの少し暇つぶしの為に、そしてゆっくりが増えるののが困るせいでちょっとだけ庭に仕掛けを作っていたのでした。


れいみゅの場合

 ゆっくりプレイスに入ったれいみゅはここまで連れてきてくれたお母さんを見つめます。れいみゅを手放した事を泣いて詫びている……様に見えますが、番のお父さんまりさが帰って来なくなってからお姉さんまりちゃや妹まーちゃにご飯さんを渡さなかったり(「ごはんさんはたりないんだよ」)れいみゅとれーみゅにはご飯さんをくれますがどうしてもお腹一杯にならなかったり。(「だからごはんさんがたりないんだよ」)
 見かねて狩りに出かけたお姉さんまりちゃが帰ってこなかった日はご飯さんを少しだけ多く貰えました。お腹が空きすぎた妹まーちゃが「ゆっくち、ゆっくち」と言いながら永遠にゆっくりした日も、妹まーちゃを外に捨てた後ご飯さんがほんの少し多く貰えました。 だかられいみゅは妹れーみゅをほんの少しだけおうちから外に出したのです。ほんのちょっと思い切り体当たりしただけ。
 それっきり妹れーみゅはおうちに帰ってきませんでしたし、お母さんも何も言いませんでした。ただ、ご飯さんをほんの少し多く貰えただけでした。

 だからこのゆっくりプレイスにれいみゅを連れてきたのもれいみゅの為ではなくてお母さんがご飯さんを沢山食べたいだけだ。というのは判っていました。だから一回振り返って嘘泣きをしているお母さんに「ゆっくりちぃていってね!(意訳:死に腐れ)」とだけ言ってゆっくりプレイスの奥へと進んでいったのでした。

 お母さんは「れいみゅでもかりさんができたらおかあさんにもってきてね。いっぱいでいいよ」と言っていました。それを聞くつもりなどれいみゅには爪の先程もありませんでした。ゆっくりには爪がありませんから当たり前かも知れません。

 セイタカアワダチソウ、 ヒメジオン、ブタクサ等の立ちふさがる困難を乗り越えて(正確には下をくぐり抜けて)れいみゅが目にしたのは緑の緑のゆっくりプレイスでした。こんなに素敵なゆっくりプレイスなどれいみゅは見た事がなかったのです。だから飛び出しました。青々した緑の草さん、それを踏み越えて……

「いじゃーい!」

 れいみゅは泣き叫んで転がりました。転がれば転がる程痛みが増していくので転がる事を止める事が出来ないのです。

 れいみゅが踏み越えた緑の壁さんは八重葎。茎には沢山の棘が生えていました。あんよは普通に歩ける位鍛えられていてもすーりすりしかした事がないれいみゅのゆで卵の様な柔肌は簡単に傷ついてしまったのでした。そして転がる事によって八重葎の棘はれいみゅのすべすべした大理石のような肌をちくちくと突き刺したのです。

 結局れいみゅは所狭しと八重葎の棘に刺された痛みで息も絶え絶えになってようやく止まりました。もう転がりすぎたせいで動く事も出来ません。痛い痛い八重葎の布団の上で「いちゃい、いちゃい」と涙を流す事しか出来ないのです。涙の向こうには綺麗なお花さんが見えます。このとても痛い八重葎の壁さえ抜けられればゆっくりする事が出来たのに。そんな事を思いながられいみゅは周りを見回します。れいみゅの尊い犠牲のお陰で八重葎は倒れています。れいみゅの後に続く子ゆっくり達はれいみゅの自己犠牲を称える事でしょう。

「にゃんでくちゃしゃん、たちあがりゅの!」

 八重葎は人間に踏まれても翌日には何もなかったように戻ってしまう程頑丈な草です。子ゆっくりが転げ回っただけのダメージなど物の数ではないのでしょう。

 尊い自己犠牲をあっさり否定され、ただただ痛いだけのれいみゅは考える事を放棄しました。「ゆっくち、ゆっくち」。本当のゆっくりプレイス、お空のゆっくりプレイスからお父さんが迎えに来るのを待つ事にしたのです。ただ、先にお空のゆっくりプレイスに行っているまりちゃやまーちゃ、れーみゅが迎えてくれるかどうかは判りませんけれど。


まりちゃの場合

 まりちゃはお父さんからそのゆっくりプレイスの話を聞いてから絶対に行きたいと思っていました。自分がゆっくりする為ではなくて、お母さんと妹達にお腹一杯ご飯さんを食べさせたかったのと、お父さんを楽にさせたかったからです。ですから何度もまりちゃはお父さんにお願いしました。でもお父さんのまりさはこう言いました。

「いいかい、おちっび。あのゆっくりぷれいすにはたくっさんのおちっびたちがむかったぜ。でも、だれもかえってこなかったし、おとなになったおちっびをだれもみたことがないんだぜ。だからあのゆっくりぷれいすはきっけんなにおいさんがぷーんぷーんするんだぜ」

 お父さんまりさはとても賢いゆっくりでした。

「そうだよ、おちびちゃん。おとうさんのいうとおりだよ」

 お母さんも同意します。お母さんれいむはちょっと賢くないゆっくりです。賢くないし美ゆんでもない事を良く知っています。だから賢いお父さんまりさの言う事は何でも賛成します。お陰で飼いゆっくり崩れの野良ゆっくり二世のれいむでも子ゆっくりを作る事が出来たのでした。
 勿論お父さんまりさにしても自分の事を心から信じるどころか尊敬して従ってくれる事で自尊心を満足させてくれるれいむを手放したいなどとは思いません。ここまで盲目的に自分を信仰の域で尊敬してくれるゆっくりを手放すなどプライドが高いまりさには考えられない事でした。
 こんな番の間に生まれたのです。お母さんに似て足りないまりさとれいむは赤ゆっくりの頃に永遠にゆっくりしてしまいました。2ゆんとも朝、目を覚ましたら永遠にゆっくりしていたのです。お母さんは一杯泣きました。涙で溶けてしまうんじゃあないか。そう心配してしまう程一杯泣きました。賢いお父さんは「おうっちのなかにゆっくりしてしまったおちっびがいるとゆっくりできなくなるぜ」と言いながら2ゆんを穴の中に埋めました。2ゆんを入れて丁度良い穴の中に2ゆんをいれてお父さんが穴を埋めました。そして一日お母さんを慰め、ようやく泣き止んだお母さんにとっておいた柔らかい草さんを沢山食べさせました。そんな哀しい出来事があってお父さんに似て賢いまりちゃとれいみゅだけが残ったのです。

 でもどうしてもゆっくりプレイスに行きたかったまりちゃはお父さんが狩りに出かけた後にそっとゆっくりプレイスに向かったのでした。お留守番のお母さんを騙す事などとっても簡単です。簡単すぎて悩む必要がない位簡単です。それでもゆっくりプレイスに辿り着いたのはお日様もいい加減に高く高く上った頃でした。まりちゃは関門を潜ります。もう少し大きくなっていたら潜れない程まりちゃは大きくなっていました。
 セイタカアワダチソウの茎とブタクサの茎をかき分けながらまりちゃは進みます。下を潜れる大きさではありません。そして広がる緑の壁。まりちゃはその壁を観察します。壁を作っている草さんは細くて柔らかそうですが茎さんに沢山の棘さんが生えています。これ位の棘さんなら痛い痛いを我慢出来そうですがどれほど厚い壁さんなのか判りません。だからまりちゃは回避する為に壁に沿って歩き出しました。お日様は高いところに昇っていますがセイタカアワダチソウとブタクサのお陰で影が出来ています。ただセイタカアワダチソウとブタクサですからまりちゃが届く所に葉っぱさんはありません。葉っぱさんがあるのはずっと高い位置です。茎さんを倒せば届くかも知れませんがセイタカアワダチソウもブタクサも茎がとっても太くて堅いのでまりちゃが渾身の「たいあったり」をしても倒れないでしょう。目の前の八重葎は柔らかくて美味しそうですが茎どころか葉っぱさんまで棘だらけです。こんな物食べたら大変な事になるのは目に見えて判っています。
 だから、お腹が空いてふーらふーらしながらまりちゃは進んでいきました。

「おなかがぺーこぺーこのときはどんなにかしこくてもたりなくなるぜ、だからしっかりむーしゃむーしゃしなくちゃあいけないぜ」

 そんなお父さんの教えを忘れる程にお腹が空いていました。お腹が空いて空いて堪らないまりちゃはだから緑の壁が切れている所を見つけて駆け出しました。

「うんしょ、うんしょ」

 かけ声を掛けながら急ぎます。緑の壁が切れたのは綺麗な石が置いてあったからです。上から見ると四角い石と判るでしょう。ちょっと地面より上に飛び出しています。飛び上がらないと乗れません。だからまりちゃは勢いを付けたまま石の上に飛び乗りました。

 飛び乗ったまりちゃは黙って下を眺めます。何が起こったのか見なくて良いのに確かめてしまいます。

「にゃんでいたい、いたいさんなの。きらきらさん、いたいいたいさんなの!?」

 まりちゃの問いに答えてくれるゆっくりは何処にもいませんでした。そんな罠を仕掛けたお姉さんも学校に行っていますから答える事は出来ません。まぁ、この場にいても答えようとは思わないでしょう。思うようなお姉さんならこんな罠を仕掛けたりはしませんから。

 まりちゃの飛び乗った飛び石は四角い飛び石でした。お姉さん手作りの縁だけは平らな中は尖ったアクリルクリスタルを敷き詰めただけの飛び石でした。勢いを付けてアクリルクリスタルの上に飛び乗ったまりちゃのあんよはアクリルクリスタルに突き刺さってしまったのです。このまま動けばあんよに開いた穴から餡子が流れ出してしまうでしょう。このまま動かなければお腹が空きすぎて永遠にゆっくりしてしまうでしょう。その前にお日様を遮る物がないこの石の上はとっても暑いのです。喉がひりひり乾きます。

「おとうしゃん、たちゅけて!」

 まりちゃが叫びます。でもお父さんはまりちゃがここにいる事を知らないのです。

「おかあしゃん、たちゅけて!」

 まりちゃが叫びます。でもお母さんはおうちの周りでまりちゃが遊んでいると信じているのです。

「おとうしゃん、おかあしゃん」

 まりちゃの叫びは、けれど誰にも届きませんでした。



みょんの場合

 みょんはお父さんにここに連れてこられました。そしてここに押し込まれました。

「ちーんぴょ」

「そんなこはうちのこじゃないみょん」

 お父さんはそれだけ言うと後ろを向いて跳ねていきました。取り残されたみょんはただ「ちーんぴょ」を繰り返しました。ありすを飼っていた人間さんが珍しいからと言ってお父さんみょんを飼ってくれた上にありすとの間に子供を作る事を許してくれたのです。その子供が「いんっごしゅ」だったせいで人間さんの機嫌はとても悪くなってしまったのです。それでもすぐに赤みょんを殺さない程度には優しい人間さんでした。単に赤ゆっくりの間だけ隠語を話すと思っていたのかも知れませんが。
 でも勿論隠語種は幾ら大きくなっても普通の鳴き声にはなりません。それどころか大きくなれば成る程人間さんが眉を潜める単語を叫ぶようになるのです。それがばれたらお父さんみょんも今の生活を諦めなければいけなくなります。家族というのか他の子みょんも捨てられるかも知れません。だからお父さんは人間さんにばれないように隠語みょんを捨てに来たのです。
 ここはゆっくりプレイス。戻ってくる事はないでしょう。夜の闇に紛れて捨てたのですから戻ってこれる訳はありません。

 「ちーんぴょ、ちーんぴょ」

 みょんは何度もお父さんを呼びます。

「おとうさんはちんぽじゃないみょん」

「ありすもちんぽではないわ。いなかもののこね」

 何度も呼ぶたびに自分を蔑むお父さんとお母さんを思い出します。自分を馬鹿にする姉妹を思い出します。それでも何度も叫びました。
 だから突然人間さんが現れた時逃げたり隠れたりするのに遅れました。お姉さんはみょんを見下げた後しゃがみ込んでみょんを眺めます。

「ちーんぴょ」

 お姉さんがみょんの額をでこぴんし転がったみょんが泣きながら抗議します。

「ちーんぴょ」

 一生懸命痛みと理不尽を訴えるみょんをお姉さんは持ち上げます。

「ちーんぴょ(意訳:おそらをとんでいる)」

 そのままお姉さんはみょんを抱き上げたまま門から外に出て、裏口から家に入りました。



まりちゃとれいみゅの場合

 まりちゃとれいみゅは自分を連れてきた両親を眺めました。薄汚れて片目が潰れてお飾りさんが綺麗に縦に半分になっているお父さんまりさ。歯が潰れてもみあげが引き千切られたやっぱりお飾りのリボンが縦半分になっているお母さんれいむ。まりちゃとれいみゅのお飾りもきっちりと半分になっています。これは一家揃って人間さんのおうちで「おうちせんげん」をして怒った人間さんに「ゆっくりはわけあうものだぜ」とご高承を垂れた結果です。それでも潰されなかったのは家に上がり込む前、軒先で「おうちせんげん」をしたので人間さんにとっての被害が少なかったお陰です。万が一、玄関にでも入って「おうちせんげん」をしていたら4匹とも擦り潰されていた事でしょう。二匹の赤ゆっくりのように。

 命だけは助かった一家ですがこれから生きていくのは絶望しか有りません。お飾りが傷ついたゆっくりはそれだけで虐められますし、もみあげのないれいむは子育ても難しいですし、片目のまりさでは狩りは難しいでしょう。お飾りが半分しかないれいむとまりさでは番を探す事すら出来ません。詰んでいました。誰がなんと言おうと詰んでいました。

 だから最後の頼みの綱でこのゆっくりプレイスに来たのです。

「おねいちゃん、おいしいくささんをもってきてね」

 おかあさんが笑います。媚びたような下品な笑い。

「れいみゅならできるぜ」

 お父さんの白々しい賞賛。れいみゅもまりちゃも誰のせいでこんな目に合ったと両親を罵る事も出来ましたがその気力は全部人間さんに奪われました。生きている事を恨めますように。と、わざわざれいみゅとまりちゃのあんよの中に小さな釘さんを幾つも埋められ小麦粉とオレンジジュースで治療されたのです。きっと隠れ虐待鬼威惨という人種だったに違いありません。れいみゅもまりちゃもここに来るまではお父さんとお母さんの頭の上に乗っていたのです。

「さぁいくんだぜ」

 お父さんに促されてまりちゃとれいみゅはのそのそとゆっくりプレイスに入っていきます。どうせ長く生きられないのならお腹一杯むーしゃむーしゃしたい。それだけを考えてのーそのーそと動いていきました。一歩歩くたびにあんよが中からちーくちーくします。ぴょんぴょんすると痛くて動けなくなるので

「ゆっくち、ゆっっくち」
「そーろ、そーろ」

れいみゅとまりちゃは声を上げながらでーろにさえ抜かれる様なスピードで前に進んでいきます。

「おちっび、もっとはやくあるくんだぜ」

「おねいちゃん、はやくはやく」

後ろから聞こえる無責任な声。れいみゅもまりちゃもちらりと後ろを見てまたゆっくりとでーろに劣るスピードで動いていきます。セイタカアワダチソウとブタクサの壁をよたよたと潜り抜け八重葎の壁の前に立ちます。棘だらけの八重葎。まりちゃとれいみゅは顔を見合わせます。
 2匹は声を出しませんでした。黙って八重葎の出来るだけ棘のない茎の部分を喰い倒します。何本も何本も倒します。お顔に当たると痛いですが人間さんに殴られるのに比べたら全然問題になりません。
 2匹で倒した八重葎がそこそこの量になったのでまりちゃは半分のお帽子でれいみゅは半分のおリボンで八重葎の束を包むと2匹でゆっくりゆっくり戻っていきます。ブタクサとセイタカアワダチソウの壁を抜けたそこには下卑た笑いを浮かべている両親が待っていました。

「さすがだぜ、おちっび」
「おかあさんはじまんしちゃうよ」

 本当におちびちゃんが大切だったられいみゅとまりちゃの顔に小さな切り傷が沢山ついている事に気がついたでしょう。大切なお飾りで包ん運んでくるのも不思議に思った事でしょう。
 でも両親は自分達がお腹を空かしている事しか考えていなかったのです。だから関門の向こうから突き出された八重葎に2匹でむしゃぶりついたのです。

「いぎゃーい、おもぎおぐじのなががいじゃい」
「おぐじ、おぐじ、おぐじ」

 両親は痛みに転げ回ります。

「げしゅおやにはおにあいじゃぜ」
「げしゅなおやはちんでもいいよ、いちょいで」

 関門の向こうから2匹の子供が笑いながら罵ります。

「じねぇ、ぐじゅなおちびはじねぇ」

 関門があるのも忘れてお母さんれいむが子供に体当たりしようと飛び出し関門に当たってころころと後ろに転がります。それを見て2匹が笑いこけます。

「げしゅなおや……」

 そこまで言ってまりちゃは黙りました。余りに唐突に黙ったので隣にいたれいみゅがまりちゃを見た程です。隣にはまりちゃはいませんでした。代わりにまりちゃだったものの下半分がありました。下半分は餡子をまき散らしていました。とても厭な臭いがしました。そばで嗅いだれいみゅが餡子を吐いてしまう程とても厭な臭いを上げていました。何度も何度もれいみゅは餡子を吐きました。そんなれいみゅを見ながられいむとまりさは笑っていました。まりちゃの上半身をお下げで投げた石で吹き飛ばして笑っていました。余り笑いすぎてその笑い声に怒ったお姉さんに踏みつぶされても気がつかない程笑っていました。

 二匹のゆっくりを踏みつぶしたお姉さんは持ってきたビニール袋にゴミばさみを使って2匹の残骸を入れるとちらりと餡子を吐いているれいみゅを眺め、眺めただけでそのままビニール袋を持って家に入る為に裏口に行ってしまいました。だかられいみゅは両親が踏みつぶされた事も知らずに餡子を吐き、吐きすぎて動けなくなって「ゆ、ゆ、ゆ」と呟きながらそのまま萎れてしまいました。



足りないゆっくりの場合


 その子はどうして自分がそこに転がっているのか。それすら判らない子でした。お父さんもお母さんも判りません。姉妹も判りません。ただ一杯痛かった事を覚えています。ここに来た時も痛かったのを覚えています。痛い事しか覚えていませんでした。
 ころころ転がってちょっとあまあまに気がつきました。だからあまあまを舐めます。こんな美味しいあまあまを舐めたのは生まれて初めてでした。

「ゆ、ゆ、ゆ」

 その子はうれしーしーを流します。こんなにゆっくり出来たのは初めてだったのでうれしーしーが止まらないのです。

「ゆゆー」

幸せの雄叫びを上げます。誰も見ていません。自分だけの雄叫びです。でも雄叫びを上げます。足りているゆっくり達の「しあわせー」という鳴き声よりずっとずっと小さい雄叫びです。身体が弱いので大きな声が出せないのです。それでもあまあまを食べて雄叫びを上げます。うれしーしーが止まりません。地面にこびりついているあまあまを全て食べ終わってもう一度一声高く雄叫びを上げます。

だからひょいっと持ち上げられてもすぐに反応出来なかったのでした。



ぱちゅりーとまりちゃの場合

 まりちゃとぱちゅりーは姉妹でした。餡子のつながりはありませんが姉妹でした。ぱちゅりーを連れたまりさとまりちゃを連れたれいむが再婚したのです。2ゆんとも死んでしまったお母さんとお父さんを覚えている位大きくなっていましたがそれでも親の再婚を心から祝福しました。新しいお父さんも新しいお母さんもぱちゅりーとまりちゃを可愛がりました。新しい茎がお母さんの額に生えるまでは。
 れいむお母さんの茎にはまりさお父さんとれいむお母さんによく似た妹が4個も生っていたのです。妹の中にはまーちゃもいました。まりちゃには似ていません。ぱちゅりーはいません。
 ほんの少しづつお父さんとお母さんがぱちゅりーとまりちゃに冷たくなりました。少しづつ、少しづつ。そして4ゆんの妹達が生まれる頃にはまりちゃもぱちゅりーも独り立ちしても大丈夫だからと関門に連れてきたのでした。

「むきゅ、いもうとはどうしたらいいとおもうの?」

「まりちゃはかちこいおねーちゃがいるからひとゆだちできるじぇ」

「むきゅ、そうね」

「それにおねーちゃとまりちゃはあんこのつながりがないじぇ」

「むきゅ……むきゅ」

 急に振られたぱちゅりーは一瞬間を突かれ意味を咀嚼すると全身を真っ赤にします。ようやくソフトボール大になった妹からの告白。ぱちゅりーはまりちゃのお父さんまりさには会った事はありませんがまりちゃを見ればとても素敵なまりさだったに違いありません。そしてまりちゃはそんな素敵なお父さんの餡子をきちんと受け継いでいたのでした。

「おねーちゃ、きをつけてくるんだじぇ」

「わかったわ」

 まりちゃより遅れて遅れてぱちゅりーがまりちゃの後に続きます。何も危険がないように、ぱちゅりーを傷つける物は全て制裁する勢いでまりちゃは進んでいきます。

「おねーちゃ、このくささんはゆっくりできないじぇ」

 八重葎の前で立ち止まったまりちゃが振り返ってぱちゅりーに報告します。ゆっくりゆっくりついてきたぱちゅりーが頷き、まりちゃはぱちゅりーが傷つかない道を探して動き出します。

 ぱちゅりーはとっても弱い種です。すぐにお病気になるし、餡子を吐きすぎて死んでしまう事もあります。それ位身体が弱い代わりにその分の知恵を持って生まれたのがぱちゅりーなのです。そして知恵はそれ程ない代わりに運動神経が良いのがまりさ種でした。だからまりちゃは賢いぱちゅりーと運動神経が最高のじゆんがいれば何も怖い事はない。何の問題も起こらない。そう信じていたのです。

 ゆっちゆっち、にゆは声を合わせて前に進みます。まりちゃはもっと早く進めますが姉のぱちゅりーが心配なので振り返り振り返り進んでいたのでした。

 八重葎が途切れる石の塀さんまでやってきたまりちゃはのーびのーびして石の上さんを眺めようとしましたがよく見る事は出来ませんでした。

「おねえちゃ、さきにのぼるぜ」

 まりちゃが助走を付ける為に少し下がり

「むにゅ、ぱちぇはいやなきぶんがするわ。まりちゃ、ぱちぇをもちあげて」

 ぱちぇりの言葉にまりちゃが鼻白みます、白む鼻はないのですが。自分が下になるのが厭なのではなく、まだ見た事がない未知の世界に大切なぱちぇりを先に送り出すのがとても不安なのです。

「まりちゃ、おねがい」

 もう一度お願いされまりさは渋々ぱちゅりの横に並ぶと少し屈みます。そんなまりさの上にぱちゅりが乗って石の上を眺めました。

「むきゅ!」

 そしてまりさの上から滑り降りました。

「おねえちゃ、どうちたんぜ?」

「むきゅ、このいしのいたさんはまんなかにたくさんのいたいいたいさんがはえているわ」

「いたいいたいさん!」

「そう、とびのると、いたいいたいさんがあんよさんにささってしつあんっしするにちがいないわ」

 ぱちぇりの説明にまりちゃが大げさに驚きます。まぁ、別に大げさな説明ではなくてそうなるように作られているトラップですから、その通りなのです。

「どうちたらいいんじゃぜ」

「むにゅ、まりちゃがさきにのぼって、ぱちぇをひっぱってくれる?」

 確かにそれなら勢いよく飛び乗りませんから深く刺さる事はなくなります。ですからぱちゅりの上にまりちゃが乗り、飛び石ブロックの上に乗ったまりさがお下げを下ろしぱちゅりを引き上げます。

「ゆっくちぷれいすじゃぜ」

「ゆっくりぷれいすだわ」

 ブロックから飛び降りた2ゆが声を合わせて叫びます。短く刈り取られた芝。その刈り取った芝の葉はそのまま芝の間に捨てられていました。朝刈り取ったのでしょう。そしてこまめに刈り取っているのでしょう。ほんの少し歩くだけで柔らかい芝の新芽を拾う事が出来るのです。それに芝の間に生えている草も毎日芝と一緒に刈られるせいで柔らかい新芽や新しい花を咲かせているのです。

 まりちゃとぱちゅりは拾い集めたりしないでその場で芝や草を食べ始めました。

「しあわせー!」
「しあわせー!」

 叫び合いながら。顔を見合わせて。ころころ転がるようにうれしーしーを流して。手当たり次第にお下げを使って食べていったのです。

 お腹一杯になりました。雲一つありません。お水さんを探さなければいけません。きっとお水さんはあの人間さんのおうちにあるのでしょう。地面に落ちている芝を食べ終わって顔を上げてみれば人間さんのおうちがありました。人間さんに見つかる前に水を手に入れて隠れなければいけません。

 まりちゃとぱちゅりはゆっちゆっちと声を掛け合っておうちの方に進みました。ゆっちゆっちと声を上げていたので気がつきませんでした。

 本当に本当に突然雨が降ってきました。空は晴れているのに。

「なんであめさん、じめんさんからふってくるの!」

 ぱちゅりが叫びます。

「こんなにおみずさんはいらないんぜ!」

 2ゆは全身濡れました。慌てて雨宿りをしようと思っても雨宿りが出来る屋根があるおうちはありませんし、それ以前に雨は地面から降ってきているのです。

「ゆっくち、ゆっくち」

 地面から降ってくる雨、そんな自分の認識では考えられない物を目の当たりにしたぱちゅりは動く事が出来なくなりました。

「おねえちゃ、はやくにげるんだぜ!」

 そう叫んだまりちゃはけれど逃げる場所すら見つけられませんでした。

 建前は芝に定期的に水をやる為に作られたスプリンクラーが止まった時には、そこにはぱちゅりだったものとまりちゃだったものが転がっておりました。


おわり