森に入って早一週間、私は変わったゆっくりの群れを発見した。
群れに入り込んだ人間を見ても、餌を要求したり威嚇したりすることはない。
それどころか全くいないものとして、例えば倒れた朽木のような、そんな扱いをされた。
恐らく、はるか昔から人間という存在に出会ったことがないのだろう。
いくつか興味深い点はあるが、まず、この群れには、一種類のゆっくり、れいむ種しかいない。
同属姦で固体を増やすと、餡子が濃すぎて赤ゆに異常が出ると言われているが、その様子はない。
長い年月同属姦を繰り返すことにより、それに適応したゆっくりのみが生き残ったためと思われる。
何よりもこの群れの長は『王』と呼ばれているのだ。
王というのは人間の作り出した概念だが、神の悪戯か、ゆっくりもまたそれを生み出している。
この王はどこからどう見ても普通のれいむ種なのだが、他のれいむ種は勿論、ドスですら逆らうことはない。
外見上も他のれいむ種と全く違わず、私では判別できない。
何故王に逆らわないのか、どのようにして王を決めているのか、どのような仕事をしているのか。
疑問は溢れてくるが、質問しても無視されてしまうので、問いただすことは出来ない。
集落の近くにキャンプを張り、しばらくの間観察することにした。
どれくらいの滞在になるかは分からないが、何、食料が切れたらこっそりゆっくりを捕まえて食べればいい。
しばらく観察を続けていたある日、事件が起こった。
「おうさま、ごはんをもってきたよ!」
「れいむはおうさまだからいっぱいたべるよ!おまえのぶんもちょうだいね!」
いつものことだが、玉座と思しき切り株の上で、王と呼ばれるれいむはふんぞり返っていた。
なかなかリアルな要求をするあたりがまた面白い。
「ゆ…れいむのうちではあかちゃんがうまれたんだよ…。
きのうもあまりたべられなくて、あかちゃんもおちびちゃんもないてるんだよ…。
もっとちょうだいね…。」
「おうさまにさからうの!?そんなばかはゆっくりしんでね!
ドスたち!はやくきてね!」
王に懇願した(ように見える)れいむは、駆けつけていたドスたちに拘束され、即座に広場へと引き出された。
「なにするの!?やめてね!やめてね!」
「おうさまにさからうからこうなるんだよ!ばかはしね!」
そのれいむが地面に建てられた丸太に縛り付けられると、あちこちからゆっくりたちが集まってくる。
「おうさまにさからったんだね!ばかだね!」
「ばかはしね!」
「さからったらせいさいなんだよ!」
「ゆっくちちにぇ!」
大人から子どもまで、口々に罵倒している。
どうやら、恐怖政治がまかりとおっているらしい。
自分の欲望に素直なゆっくりらしいシステムだ。
少しすると、王が広場へ現れ、石を何個か積んで出来た台に登って演説を始める。
「このばかは、おうさまのれいむにさからったよ!おうさまがいるからゆっくりできるのをわすれたくずだよ!
みんな、ゆっくりいしをなげてね!なげないとこうなるよ!」
演説、というには稚拙すぎるが、そのやり方にはいたく感心した。
これは、処刑であり、見せしめであり、踏み絵なのだ。
逆らったゆっくりを時間をかけてゆっくりと殺すことによって、王の権威を恐怖と共に刷り込む。
さらに、他のゆっくりに石を投げさせることで、王に反抗的な人間を炙り出せるというわけだ。
「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」
沢山のれいむ種たちが石を投げていく。
一度に投げるには広さから限界があるので、自然といくつかの列が出来ることになる。
投げ終わったれいむ種はまた石をとって列に並びなおす。
死ぬまで、いや、死んでもしばらくは石を投げられ続けるのだろう。
罪人(ゆっくりたちの中では)のれいむは始めの頃こそ、
「やめてね!やめてね!」
とか、
「どおじでごんなごどずるのおおおおお!!!」
とか、
「れいむはすごいゆっくりしたゆっくりだよ!だからやめてね!」
などと言っていたものだが、石が当たって目がつぶれたり、あちこちの皮が破れて餡子が飛び出るにつれ、それは聞き取れなくなっていった。
「ゆっくりしね!」
「くずはしね!!」
「ばかだからこうなるんだよ?わかったらしんでね!」
罵倒と石とが飛び交う様は、一種の祭りのようであった。
その後もゆっくりたちの狂った宴はしばらく続いたが、柱に縛り付けられたれいむが、ついに原型をとどめなくなったことによって、幕を閉じた。
「ゆ!みんなよくがんばったね!
あまあまだよ!ゆっくりたべていってね!」
王は満足そうに石の台から降りてきてそう言った。
すると、周囲にいたゆっくりたちは嬉々として処刑されたれいむの餡子を口に含んで持ち帰っていく。
この光景には私も鳥肌が立った。
同属姦に恐怖政治、投石による処刑の後は共食い。
野蛮だが、ゆっくりの本能に忠実なシステムである。
興味深い。
興味深い。
興味深い。
私は快感にも似た疼きを感じて、肌を粟立てていた。
ゆっくりの寿命は長くない。
もう少し待てば王の代替わりも目にすることが出来るだろう。
社会システムや、その意味も、観察を続けることによってわかるに違いない。
他にもまだ私が見ていない行事などがあるかもしれない。
観察を続けよう。
私の気がすむまで。
王国の滅びを目の当たりにするまで。
【おわり】
【おわり】