ゆっくりショップYUUKAWAに買い物に行くのに友人を付き合わせた。 
友人も最近庭でゆっくりを飼っているというので、何を与えているのかと聞いたら 
BURIフードで製造しているやつの一番安いものだと言って来た。 


「それ競技会用ゆっくりの餌でしょ!? そんな高いの与えてるの!?」 

私は驚いたが、彼は平然としていた。 
人間用のプロテインよりは安い…って、まあそりゃあそうだけど、味もプロテイン以下じゃん… 
もっと美味しくて安価なのを食べさせようよ。 別に障害物競技とか水上レースで1位取らせるために飼ってるんじゃないんでしょ? 
そんな話をしながら買い物を済ませた帰り道、公園の側を通りかかるとボロクズが落ちていた。 
よくみたら野良ゆっくりの子まりさだった。 

モゾモゾ動きながら、地面をペロペロ舐めているので何かな?と思ったら蟻の行列を舌ですくって食べている。 
そんなものしか食べるものが無いのかと思ってちょっと憐れになったので、さっき買ったばかりのゆっくり用飴と 
子れいむを袋から取り出して、野良子まりさに見えるように飴を与えて舐めさせた。 

「ぺーろぺーろしゃーわせー♪」 

「ゆぐっ… ぺーりょ…ぺーりょ…」 

羨ましそうに私の腕の中で飴を舐める子れいむを見上げ、涙をこぼしながら蟻を舐める子まりさ。 
友人が隣で「お前鬼だよ」って言ったけど、何それ美味しいの? 




次の日、庭飼い程度の(それも元々野良だという)ゆっくりに不釣合いな餌を与えている素人もいいとこな友人に 
ゆっくりの飼い方の何たるかを啓蒙するべく、私の飼いゆっくりの散歩に付き合わせた。 
私と友人のの後ろを歩くれいむは昨日買ってきて与えた子れいむを気に入ったようで、「しっかりついてきてね!」と上手く母親をやっている。 
子れいむも楽しそうに母親となったれいむの後ろを跳ねて付いてくる。 
うん、いい感じだ。 

ところで友人に、ゆっくりに餌をどう与えているのかと尋ねると、餌皿ごと投げつけたり、ぶちまけたのを踏みにじってから拾わせているという。 
なんて酷い。 友人は「餌を与えられる事に慣れさせないため」とか言ってるけど、それは教育じゃなく虐待だよ。 
ゆっくりに餌を与える時は、ちゃんと「待て」「食べてよし」を教えさせないと。 
そして、罰はそんなゆっくりの尊厳を踏みにじるものじゃダメ。 
例えば待ての途中で食べ始めたら、針であにゃる・ぺにまむをプスリと刺す。 
友人は「それはそれで立派な虐待…」って言ってたけど、このくらいは躾けでしょ? 

散歩の帰り道、ふと後ろのれいむと子れいむを振り返るとその後ろに昨日の公園の野良子まりさが付いてきていた。 

「はやくかえってゆっくりごはんをたべようね!」 

「ゆっくちー♪」 

「ゆっくち…ごはん…」 

家まで付いてこられても迷惑なので、野良子まりさを蹴っ飛ばしてやった。 
「ゆびぇぇぇぇぇん!」とか泣き喚いていた。 

「やっぱお前鬼だって」 
だからなにそれ。 食べてお腹が膨れるの? 




また次の日、今日も友人をつき合わせてお買い物。 
YUUKAWAにおりんりんが入荷したというので見に行く。 
友人の庭で飼っているゆっくりの、おうちを追い出された子まりさが親たちに噛まれて大怪我をしたらしい。 
なんでも庭で遊んでいた姉妹達に近づきすぎて怒りを買ったとか。 
やっぱりゆっくりをよく知らないで飼っている友人の所にいるゆっくりだから、罰でおうちから追放されるとか 
家族に近づいて殺されかかるとか、あんまり良い状態とは言えない。 
一刻も早く友人にちゃんとしたゆっくりの飼い方と躾け方を教えてあげないと。 

公園を通りかかったら、あの野良子まりさが壁に貼られたゆっくり用フードのポスターの絵に舌を延ばしていた。 
おいしそうなフードを前にしてしあわせー!と笑顔を浮かべているれいむを羨ましそうに、そして涙を流しながら必死に 
絵の中のフードを食べようとして舌を懸命に延ばしている。 
馬鹿だね、絵の中のご飯なんて食べられるわけ無いでしょ。 あーやだやだこれだから野良は低知能で。 
やっぱりゆっくりはショップ品が一番だよね、と言ったら友人が、「さりげに酷い事を言ってるぞ」だって。 
友人って野良ゆっくりが好きなのかな? 


帰り道も公園を通りがかったらあの子まりさが別の野良まりさの親子にお帽子を奪われかけていた。 

「このぼうしは、ぼうしをなくした まりさのこどものおぼうしにするよ! さっさとあきらめてね!」 

「おきゃーしゃんがんばっちぇ!」 

「ゆぐぐぐぅ…!」 

泣きながらお帽子を取られまいとしている子まりさ。 
野良の世界は厳しいね…と思ったら友人がすっ飛んで行って野良まりさの親の方を蹴り飛ばし、さらに踏みつけ、 
両目を抉り、ボコボコに殴って前歯を全部折り、最後に 

「すみませんでした、は?」 

「ずみませんでじだあああああ!! なにもじでないげどゆるじでぐだざいいいい!!」 

という謎の会話の後に野良親まりさを地面に叩きつけて止めを刺した。 

「おがーしゃぁぁぁぁぁん!! じにゃないでぇぇぇぇ!!」 

親の死骸にすがり付いて無く野良子まりさ(お帽子無し)に、友人は野良親まりさのお帽子をそっと被せていた。 

「…俺は鬼にはなりきれん」 

いや、充分鬼だと思うよ。 
そういや子まりさはどうしたっけ? と思ったら友人の形相と凶行に怯えてゆっくりらしからぬ速度で逃走、 
ベンチの下に隠れてブルブル震えていた。 




さらに次の日、庭で飼っていた友人の子まりさが手当ての甲斐なく死んだというので私は一人でYUUKAWAに向かった。 
あのショップのゆっくりは妙に性的で可愛らしい。 キュンキュンくる。 
ゆっくりは愛でるものだと思う。 友人みたいな飼い方はどちらかというと虐待であまり好きじゃない。 
友人にもそれをわかって欲しくて私の趣味のYUUKAWAに付き合わせているのだけど、彼がショップのゆっくりを買う気はまだ無いようだ。 
まあ、元野良の飼いゆっくりが死んだからって元気を無くしているような人種だし、本格的に野良が好きなのかも知れない。 
なかなか手ごわい…啓蒙は当分完了しそうに無いかも。 

「んほぉぉぉぉぉ! かわいいわまりさああああ ちっちゃいまりさはさいこうよおおおおお!!」 

「おぼうしもちっちゃくてかわいいわああああ!!」 

「やべちぇぇぇぇぇきみょちわりゅいいいいいい!! まりしゃのおぼうちべろべろしにゃいでぇぇぇ!!」 


うわあ、嫌な物見ちゃった。 
もうこの公園の近くを通りかかるのやめようかな。 

とりあえず、公園のゴミ箱に設置されていた長めのトングを使って野良レイパーありすを捕まえ、ゴミ箱(水流式自動処理装置つき)に捨てておいた。 
子まりさはよだれでドロドロになったお帽子を前にしてゆぐゆぐ泣いていたけど、野良だしどうでもいいや。 




そして次の日、急にゆっくり用シャンプーが必要になったので急いで買いに行く。 
汚い野良ばっかし見続けた所為であんまり近づきたくないんだけど、時間が無いのでしょうがなしに公園を通る。 
そうしたら、案の定あんまり見たくない類のものを見た。 

いつものように、あの子まりさがいた。 
そして、その子まりさの前に一人の男性がいた。 

「にんげんしゃんごはんくれりゅの!? 
ひさしぶりのごはんだよ! ちょうだいね! ちょうだいね!」 

余程お腹が空いているのか、野良ゆっくりらしく浅ましく厚かましい言い方で子まりさは男性に食べ物をねだる。 
どうやら男性の方が子まりさに餌を与えようとしたらしい。 
でも、男性が手に持っているのはご飯ではなかったし、ポケットからご飯らしきものを取り出す様子も無い。 
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて男性は課屈みこみ、大きな口を開けて期待を込めて「ごはん」を待っている 
子まりさにその手の指の間にある火のついたタバコを、私の目の前でゆっくりと押し付けた。 

「ゆびいぃぃぃぃぃっ!?」 

ジュウ、という音がして甘いものの焦げる臭いがした。 
タバコの先端に燻る火は子まりさの口の中、舌にぐりぐりと押し付けられ、まるで灰皿みたいに扱われている。 
野良で、帰る家も無くて、家族も飼い主も無くて、汚らしくて、他の野良やレイパーに襲われて、 
蟻とかゴミぐらいしか食べるものが無くて、絵の中のご飯を食べようとするくらい馬鹿な子まりさを 
ニヤけながら痛めつけているその男性の悪意に満ちた表情を見ていたら、私の中で何かが切れる音がした。 

「おい、おっさん!!」 

「ああ? ぶべらっ!?」 


うん、とてもいい音がした。 顔面決まったし。 




「んで、その虐待お兄さんにミドルキックかまして、子まりさを保護して、俺のところに押し付けに来たと。 
しかもトングで挟んでか」 

だってさあ、汚いから触りたくないんだもの、野良って。 
それにうちはもう、れいむと子れいむいるし、ショップ品だから野良と一緒には飼えないし。 
野良ゆっくり、好きでしょ? 子まりさ死んだんでしょ? じゃあ丁度良いじゃないか。 

「…既に子供のいるゆっくり一家が自分の子供でも無い子ゆっくりを受け入れるのは稀なんだぞ。 
子供を全部無くした直後のれいむ種とかはその母性で子を受け入れることもあるけど 
まりさ種は自分の子供でないと敵対心を持つ事も多い。 
ありす種なら、まりさ種の子供なら喜んで育てる事も多いけどな。 
はっきり言ってその子が俺の庭で、あの家族に攻撃されないで生きていける可能性は低い。 
加えてそいつは舌を焼かれてる。 味覚が破壊されてるから何を食べてもしあわせーにはならない。 
遠からず、ゆっくり不足で死ぬ事だってある」 

なに言ってるんだか、プロテインより美味しくないご飯を食べさせてるんだから同じ事だろうに。 
飼いゆっくりに付いて何にも知らない友人に偉そうな長文で何か言われたくないよね。 

「…まあ、どのみちうちで預かるが。 お前じゃ無理だし。 
それにしても、野良ゆっくりは毛嫌いしてるっぽかったのに何でこいつを助けたんだ?」 

だってさあ、他人が虐めてるのみたら、ムカつくんだもの。 
私は鬼にはなりきれないんだよ。 君とちがってね。


【おわり】