「ゆ…!う、うまれる…まりさとれいむのあかちゃん、うまれそうだよ…!」
「れいむ…ゆっくりがんばってね!」
まりさとれいむのつがいは、もうすぐ新たな命を生み出そうとしていた。
既にまりさを2匹、れいむを1匹生んでいるので、4匹目の出産になる。
「ゆ…ゆ…ゆー……!!!」
ぽんっ、とこ気味の良い音を立てて生れ落ちるれいむ赤ゆ。
このあと、舌足らずな口調でゆっくりしていってね!と最初の挨拶を行う。
親たちは息を飲みながら、その挨拶を待った。
「ゆっくちちちぇいっちぇね!」
生れ落ちた赤ゆが、顔を上げて元気に挨拶をした。
まりさとれいむはほっと息をついた。
しかし、二人の笑顔は赤ゆの顔をみて凍りつく。
「おきゃーしゃん!しゅーりしゅーり!」
本能で母親に擦り寄る赤ゆ。
それを母親の霊夢は撥ね退けた。
「…ゆゆ!?しゅーりしゅーり!」
赤ゆは状況を理解できず、本能のままに擦り寄ることを繰り返す。
しかし、そのたびに母親のれいむは赤ゆを跳ね飛ばした。
「…こないでね!おまえみたいなばけもの、れいむのあかちゃんじゃないよ!」
「そうだぜ!おまえみたいなばけものがれいむとまりさのゆっくりとしたあかちゃんなわけないんだぜ!」
「おきゃーしゃん、こわいよ…」
「こんにゃにょ、まりしゃのいもうちょじゃにゃいよ!」
「ゆえーん!ゆえーん!!」
先ほど、確かに母れいむの腹から飛び出てきたというのに、それを忘れて巣の中はパニックに陥っている。
それもそのはずだ。
この赤ゆには。
「おめめがよっつあるなんて、ふつうじゃないよ!こんなんじゃゆっくりできないよ!!」
そう。
生まれ出た赤ゆの右には目が2つ。
左にも目が2つ。
合計で目が4つあった。
ゆっくりには目が2つ1組。
これは常識である。
「どうするんだぜ、れいむ。これがしれたら、まりさたちもゆっくりできなくなるよ!」
奇形のゆっくりが生まれた家は、制裁の対象になる。
特に理由があるわけでは無いが、強いて言うならば、少数派を迫害して生きるゆっくりたちの習性であろうか。
とにかく、明文化されてもいない掟に照らし合わせて制裁されてしまうのである。
「まりさ、いまのうちにゆっくりしなせるのがいいよ。そうじゃないとれいむもおちびちゃんたちも、せいさいされちゃうよ」
「そうだぜ…。あかちゃん、まりさたちのためにゆっくりしんでね」
そういってまりさは四つ目の赤ん坊にのしかかった。
一度跳ね上がって落下の勢いを借りたのしかかりは、成人のゆっくりですら餡子を吐き出す衝撃である。
赤ゆならばひとたまりも無くつぶれてしまうだろう。
「ゆぎぃ!?」
ゆっくりの悲鳴が巣の中にこだまする。
「ゆゆ?おとーしゃんどーちちゃにょ?」
しかし、悲鳴を上げたのは父親のまりさであった。
「いだいいいいいいいいい!!!!」
のしかかったまりさの腹には、石にぶつかったかのような痣が出来ている。
「おとーしゃんだいじょーぶ?しゅりしゅりしちぇあげるにぇ!しゅーりしゅり!」
のしかかられた赤ゆは何事も無かったかのように元気である。
それどころか、父親が自分を殺そうとしたなどとは夢にも思わず、ただ痛がっている父親を心配し、すりよっていた。
奇形なのは、目の数だけではなく、皮膚の硬さもであった。
普通に考えれば、並外れて丈夫な身体を持っているゆっくりである。
この上なくゆっくりできるゆっくりのはずなのだが、四つ目のゆっくりを育てる、という発想にこの親たちが達することはなかった。
どうやってこの赤ゆを始末するか思案していると、巣の外から声をかけられた。
「むきゅ?れいむ、まりさ、あかちゃんはうまれたのかしら?」
巣の騒ぎを聞きつけたのか。
群れのご意見番のような存在であるぱちゅりーがやってきた。
「ゆ!?ま、まだだぜ!あかちゃんはまだうまれていないのぜ!」
「ゆゆ!そうだよ!あかちゃんはまだだからはいってこないでね!」
二人の親は四つ目の赤ゆを見せまいと、必死で取り繕う。
「れいみゅはみょうおかーしゃんとおとーしゃんにょこどみょだよ!」
それを赤ゆはぶち壊しにした。
「むきゅー。もううまれてるんじゃない。うそはいけないわ」
そういってぱちゅりーは巣へ入ってきた。
「「ゆ、ゆゆ!?」」
慌てたのは二人の親だ。
この四つ目を見られたら制裁されてしまう。
かといって、今赤ゆを殺せば、虐待した屑として制裁されるのも目に見えている。
「れいむ、すこしぱちゅりーのあいてをしててね!」
とっさの機転でれいむにぱちゅりーの相手をさせると、まりさは四つ目の赤ゆをつれて巣の奥まで連れて行った。
先ほどまでいた場所からはれいむとぱちゅりーの話し声が聞こえてくる。
早くしなくては。
「よけいなものをとるだけだからね!ゆっくりしずかにしててね!」
「ゆ?」
まりさはそういうと、口に枝をくわえて赤ゆの目に突っ込んだ。
「ゆぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!」
激しい悲鳴が巣の中をこだまする。
「しっ!しずかにしないところされちゃうんだよ!しずかにしててね!」
まりさはそういうが、こんな激痛を与えられれば大人のゆっくりでも黙っていることは出来ないだろう。
枝を奥へ、奥へと突っ込み、一生懸命に抉り出そうと動かす。
中々目玉は外へ出てこず、枝は無駄に眼窩を引っ掻き回した。
「ゆぎっゆぎっ」
赤ゆは悲鳴を上げ続けていたが、目を一つ抉り終わらないうちに静かになった。
「ゆ…?あかちゃん、どうしたんだぜ…?」
まりさの問いに赤ゆは答えない。
「あかちゃん!?どおしてへんじしてくれないのおおおおおお!?」
響き渡っていた悲鳴に続いて、まりさのこの叫び声である。
れいむもぱちゅりーを足止めし続けることは出来ず、ついにこの光景をぱちゅりーに見られてしまった。
「むきゅ…まりさ…あなた……」
ぱちゅりーの目の前では、四つ目の赤ん坊が目に枝を突っ込まれて事切れている。
「ばけものをうんで、あかちゃんをころしたのね…。むきゅー…これは、せいさいだわ」
絶望の一声が、巣の中を包んだ。
程なくして、その巣には、集落中のゆっくりが集まってきた。
皆、口々に一家を罵倒し、制裁を加えてゆく。
噛み付く。
皮をはぐ。
枝で突き刺す。
石をぶつける。
やり方は様々だが、決して一思いには殺さない。
それは、ゆっくりたちの嗜虐心を満たすための、一種の儀式でもあるからだ。
時間をかけながら、親ゆっくりたちはゆっくりできない屑として殺され、中にいた子どもたちは生きたままにその夜のご馳走となったのであった。
【おわり】