「れいぶのおぢびぢゃんがああああああああッ!!」


聞き飽きた、
(それでいて、ないならないで何か物足りなさを感じるような)
いつのも鳴き声が、狭い室内に響き渡った。





絶叫の主は、ゆっくりれいむ。

植木鉢に据えられた彼女のあんよは、
一部の隙もなく足焼きされており、
身じろぎすら許されない状態であった。
植物型妊娠の証である額の茎も、
今ではその先端に1ゆの影も見当たらない。

今しがた、傍らに立つおにいさんによって
全ゆん「ゆっくりさせられてしまった」のだ。



それでもおにいさん、まだ満足できないのか
千円札を片手に部屋を飛び出す。

行先はカウンター。
年配の係員の目の前にその千円を叩き付けた。

逸るおにいさんの心中とは裏腹に、
係員は如何にも面倒くさいといった風に
緩慢な動作で一本のアンプルを差し出す。

もどかしいと言わんばかりに
ひったくるようにアンプルを受け取ると、
走りながらその先端をへし折る。

そして‥

部屋に戻るやいなや、
先程のれいむの脳天にアンプルを突き刺した!!


「んぴいいいいいいッ?!」


激痛と薬剤が、同時にれいむの中に流れ込む。

効果はすぐに現れた。

古い茎がぽとりと根元から剥がれ落ちると、
そこからまた新たな茎がニョキニョキと伸び出す。
幾重にも枝分かれした先端は
丸い実をつけ、見る間に大きくなり、
目、口、髪、おかざり‥と
次々とゆっくりらしい特徴を備えていった。


「れいむのおちびちゃん、ゆっくりおかえり!!」


我が子の誕生、我が子との再会 ―

涙目から一変。
喜びに打ち震えるれいむであったが‥‥それも束の間のこと。

ここから先は、
先刻の悲劇の繰り返しである。



おにいさん、実ったばかりの赤ゆのうち、
先頭の1ゆを無造作にもぎ取る。


「やめてね? やめてね? れいむのおちびちゃんかえしてね?」


れいむの言葉など無視して、
赤ゆをティーの上に据える。


「ゆぴ?」パチッ


どうやら、赤ゆが目を覚ましたようだ。


「ゆゆ? ゆっくりしちぇいっちぇね!!」キリッ


産まれた時の、お決まりのご挨拶。
ゆっくり基準でいけば100点満点だろう。
たいへんよくできました。

しかし、返ってきたのは
誕生への祝福ではなく‥


フルスイングされたドライバーだった。





若者のゴルフ離れが叫ばれて久しい昨今、
代わりに台頭してきたのが
この「ゆっくり打ちっぱなし式」ゴルフ練習場だ。

内容は至極単純で
「ボールではなく、赤ゆを使う」
ただそれだけ。

先に紹介した薬剤は
ゆっくりを強制的に植物妊娠させる効果があり、
その数は10ゆ前後、
サイズはゴルフボールとほぼ同じ大きさになるよう
調整されている。

それをちぎってはティーに据え、
ドライバーで引っぱたく!

スポーツとしてはもちろんのこと、
ゆ虐としても
入門したての初心者からハードな愛好家まで、
幅広く支持を得ており、なかなかの盛況ぶりだ。


経営者側からしても、
特別な設備投資がいらない、
薬剤とゆっくりの供給ルートさえ確保できればいい ―
(薬剤の方はともかく、ゆっくりの確保など造作もない)
と、かなりリスクが少ない魅力的なビジネスといえる。

従来の打ちっぱなしのような、広大な敷地も不要。

2メートル先は、コンクリの壁でいいのだから。



その壁も、どれだけ使い込まれてきたのか‥

ドス黒い染みが幾層にも重なり、
一面に禍々しい文様を織り成していた。



これでも当初は、
施設の管理者もマメに清掃していたらしい。

ただ、とてもではないが追いつかないこと。
そして、汚れていた方がゆっくりの反応がいいというニーズ。
双方の利害が合致した結果、

「カビが生えない程度には手入れする」

そういう妥協点に落ち着いた結果である。

事実、ゆっくり達の反応は顕著だった。
察しの悪い彼らであっても、
大方の場合はこの壁を見ただけで、
自分が地獄に連れてこられた事を即座に理解し、
歯の根も合わぬほどに震え出すのであった。



「おちょ」パシャ

「ゆっく」ビシャ

「とりしゃ」グショ


定型句も言い終わらぬまま、
次々と壁の染みと化していく赤ゆ達。
茎から離れて、壁に到達するまで。
生存時間、わずか数秒。

まさに地獄。

その無慈悲な消費活動に、
親ゆっくり達はただただ滂沱の涙を流すしかなかった。



そんな、


  「やめてね? やめてね?」


いつもと変わらぬ週末。


  「ゆんやああああああ!」


いつもと変わらぬ昼下がり。


ただ、今日この日だけは
いつもと少しだけ違う事が起ころうとしていた。



(後編に続く)