めーりんが寝取られた!!
 そんな訳が判らない電話。勿論相棒からのものだ。


 小学校からの腐れ縁。なまじ頭の程度が同じ位だったせいで高校も大学も同じ。幼なじみ達にセットで認識されているが、俺はセットを解消したい。解消したいがそういう訳にはいかないらしい。


ゆっくりだけ 更に更に

もしくは、れみりゃが2階のベランダにいた件



 相棒の電話はいつも通り訳の判らないものだった。

「俺のめーりんが取られた」だの「永遠の愛を誓ったのに」とか。

 どこの世界にゆっくりと愛を誓い合う人間がいる。万に一つ誓い合っていたとしても、それを取られる人間がいる?

 そんな疑問を抱えながら自転車を走らせた先にいたのは、あり得ないはずの光景だった。

「めーりんはかわいいんだど~」

「じゃお~ん、じゃお~ん」

 相棒宅の2階。相棒の個室前のベランダのエアコンの室外機の前で相棒が今日貰ってきためーりんと見た事もないれみりゃが全身を使ってすーりすーりをしていた。

「めーりんとれみりゃは仲が良いんだ~!!」

 2ゆんの前に正座していた相棒が俺の気配に気がつくと振り返って俺にスマホの画面を差し出す。

 検索結果を見せてくれるのは良いが、涙と鼻水でぐちょぐちょになっている相棒を見ないふりをしていいだろうか?

 すがるような視線、すがるような態度。決定、全力スルー。

 れみりゃの在所を聞いてみるが

「俺が可哀想だと思わないのか? 一日肉体労働をした対価に譲り受けた可愛い可愛い最愛の伴侶のめーりんを行きずりのれみりゃに寝取られた俺を可哀想だと思わないのか?」

 行きずりという事はこのれみりゃは野良れみりゃらしい。

 しかし今日の肉体労働の殆どと相棒からの精神攻撃の全てを請け負った俺は相棒の泣き言は一切無視する事に決めた。相棒に対する今日の分の気遣いポイントは全て使い切っている。

 が、寝取ったと言われてもめーりんは妊娠しているようには見えない。確かに胎生妊娠なら判り辛いかも知れないがもしも妊娠していたとしたら、こんなにもすーりすーりを続ける必要はない。

 2ゆんのすーりすーりは人間の俺でも過剰すぎると思う程のすーりすーりだった。だから俺は尋ねる。すっきりした様には見えないと。

「すっきり?」

 れみりゃの間の抜けた聞き返し。これだけ間に抜けた応答をするこのゆっくりが捕食種。他のゆっくりを食べるゆっくり。こんなお間抜けなゆっくりに喰われるゆっくり。ゆっくりという生もののレベルが判る。

「俺のめーりんとすっきりするつもりだろう、この間れみりゃ」

 本気で喧嘩をしている相棒のレベルも判る。

「めーりんとはすっきりしないどぉ~」

「嘘をつけ、俺のメーリンの純潔を奪おうと虎視眈々と舌なめずりしながら狙っているゲスゆっくり」

 相棒がピシッとれみりゃを指さす。もう一度言おう、相棒がピシッと指を指す、れみりゃ相手に。

「れみりゃのぽんぽんさんにはおちびちゃんがいるどぉ~ めーりんとすっきりはできないどぉ~」

 確かにそれはすっきり出来ない…… はぁ?

 ぽんぽんさんにおちびちゃんがいる。それは妊娠中という意味で。シングルマザーか、不倫汚嫁か。

「じゃお?」

「みたこともないきれいなありすだどぉ~ とってもきれいだったどぉ~ でもいなかものだどぉ~」

 ありすが行きずりというのか初対面のゆっくりとすっきりする事は多い。性的衝動が押さえられないのではない。性的欲求が高すぎるせいだ。だからこのれみりゃの相手がありすである事は驚きはしても納得出来る。

 問題は綺麗なありすなのに田舎者というところだ。ありすのいう田舎者はゆっくりしていない状態。れみりゃがとっても綺麗という状態のありすがゆっくりしていないはずはない。

 ゆっくり話を聞かせてくれないか? そして記録を残させて欲しい。俺は自分のスマートフォンの録画アプリを起動する。

「おにーさんのいっていることはよくわからないどぉ~ でも、めーりんがとってもいいおにいさんだといっているからおはなしするどぉ~」

 さすがにすーりすーりを続ける訳にも行かないと神妙な顔をしてれみりゃの横にめーりんが座る。俺の隣の相棒が

「めーりんは俺の隣……」「めーりんは俺の嫁……」

と呟いているが無視する。

「今日は何があったんだ?」

「いっぱいいっぱい、あかゆがいたどぉ~ れみりゃはあかゆをちゅーちゅーするのがだいすきだどぉ~ だからおちていたあかゆをちゅーちゅーしたどぉ~」

 思い出したのだろう、その至極の時間を。れみりゃがうっとりした表情でどこかを見つめる。

「ちゅーちゅーしていたら、あたまがおもくなったどぉ~ いたいいたいさんだったどぉ~」

 どれだけ痛かったのか見せようと思ったらしい、れみりゃが俺に後頭部を見せる。

 ……スニーカー? 後頭部と言うより帽子に残った足跡に気がつく。相棒を見ると大きく首を横に振っている。相棒が踏んだ訳ではない。

「とってもきれいなありすがとつぜんはえてきたどぉ~ やめて、やめてっていたどぉ~ きらきらさんがついていたどぉ~」

 突然現れて辞めて辞めて? きらきらさんは銀バッジか金バッジの事だろう。

「れみりゃろすとばーじんさんしたどぉ~ いたいいたいだったけどきれいなありすだったからかりすまなおぜいさまなおちびちゃんがんがうまれるとおもってがまんしたどぉ~ きれいなありすだったのにごべんねぇ、いなかものでごべんねぇっていっていたどぉ~ れみりゃ、とかいっはのおぜうさまのおちびはほしいけれど、いなかもののおちびはいらないんだどぉ~」

 突然生えてきた綺麗なありす。踏まれたれみりゃの後頭部。謝り続けたありす。人間が関与してしているのは間違いない。

 が、当面の問題はこの2個のゆっくりの行く末だろう。相棒がどうでるか。自分を捨てた(相棒視点で)めーりんとめーりんを奪ったれみりゃを処分するか。

「めーりんはお父さんになるつもりなのか?」

 涙でぐちょぐちょになった正座をしたままの相棒が真剣に目の前にいるめーりんに尋ねる。尋ねられためーりんはぴったりとれみりゃにくっついたまま大きく頷く。

「本当に、本当にか?」

 めーりんが頷く。

「もう高い高いもすーりすーりも無しだぞ」

 俺が言った途端、めーりんが大きく目を見開きうろたえ出す。そこまで考えていなかったらしい。うろたえながらすがる視線で正面にいる相棒を見つめ、そして隣のれみりゃを見つめ、切羽詰まった表情で二人を交互に見る。涙のたまった瞳。

「じゃ、じゃ、じゃ」

 ぽろぽろとこぼれ落ちる涙。

「め、めーりん!」

 耐えられなくなった相棒がめーりんを抱き上げると思い切り頬すりをする。

「じゃおーん!」

 めーりんもすーりすーりを返している。本気で相思相愛なのか? 今日始めてあったのに。

 残されたれみりゃはオロオロとうろたえている。よもやここで捨てられるとは思わなかったらしい。腹に子供がいるせいかのたのたと動いて相棒の前まで行くとすーりすーりをしている二人を見上げる。

 不本意な妊娠でシングルマザーになるところを優しいめーりんに出会い、ともにゆん生を生きていこう、と誓い合った途端にめーりんを人間に奪われたようなものだからな。どれだけ心が引き裂かれた事か。

「れみりゃもおにいさんにすーりすーりしてほしいどぉ~」

 そっちか、そっちにいくか。

「おう」

 お前は驚かないのか? 驚かないんだな。 右手にめーりん、左手れみりゃをもって両方に頬すり。

「すーりすーりだどぉ~ かりすまだどぉ~」

「じゃおーん、じゃおーん」

「かりすまだどぉ~ かりすまだどぉ~」

「じゃおーん、じゃおーん」

 ……恍惚の表情、蕩けきっている。この世の春だな。相棒が幸せなら良いか。うん、いいか。





 相棒とれみりゃ&めーりんとの取り決め。

相棒が狩りをして餌を用意する。(飼い主としての義務)
相棒が「嫁」と紹介した時は必ず「じゃおーん」「れみりゃだどぉ~」と答える事。
相棒と毎日すーりすーりをする事。
一日一回はめーりんはたかいたかいを、れみりゃは肩のりをする事。etc

 誰得なルールが組まれた。後最低限の銅バッジ(飼いゆっくりというだけの証明)試験を受けて銅バッジを手に入れる事。問題は銅バッジを習得するのに必要なのは飼い主の心構えなんだが。大丈夫なんだろうか。多分これが一番ハードルが高いだろうな。

 そして俺の前にはローテーブル、テーブルの上にペットシート。その上にめーりん。相棒とれみりゃはサッシ戸の向こうベランダでおうちを作っている。

「めーりん」

 めーりんがキリッとした顔を俺に向ける。相棒と俺にはきちんと対応を変える。頭が良い個体なんだろう。

「れみりゃと番にという事は生き餌…… 赤ゆを狩らなければいけないが出来るのか?」

 めーりんが顔色を失う。そして大きく頷く。出来る、というよりしなければいけないと思っているらしい。

 捕食種と非捕食種が同意の上で番になるのが難しいのはここにある。ゆっくりはすべからず「おちびちゃんはゆっくりできる」と信じている。それは他種の赤ゆっくりにも適応され、生活が苦しくない限り赤ゆっくりを意図的に殺す事はない。

 捕食種も同じ。ただ非捕食種の赤ゆっくりは餌にしか見えないだけ。捕食種同士の赤ゆっくりは可愛くてゆっくり出来ると思っている。

「赤ゆっくりを狩れるか?」

 もう一度聞く。ガタガタと震えながら、全身から汗を流しながら、しーしーまで流しながら、めーりんが頷く。

 確認してそこで動くなと言い聞かせ、俺は1階の台所に入る。小学生時代からの腐れ縁。互いの家は知り尽くしている。冷凍室を開ける。冷凍食ゆ6個入り1パック×3。の一つを借りる。冷凍赤ゆのストックは賢い主婦の知恵らしい。ただ廉価れいむとまりさパックばかりなのは小父さんが酒を飲むたびに「饅頭をよこせ」という訳の判らない絡みをするせいだろう。冷凍パック以外にコップに水、皿2枚に角砂糖5個、スプーン一つ。それだけ持って2階に戻る。

 めーりんは青い顔をしたままローテーブルの上にいた。赤ゆを狩る。狩らないと妻を、生まれてくるおちびちゃんを養えない。だから赤ゆを狩らないといけない。そんな事を考えているんだろう。

 俺はそんなめーりんの前に無造作に冷凍食ゆれいむ+まりさを放り投げる。めーりんの顔が疑問一色になる。

 これは食べられる為だけに作られた赤ゆだと説明しながら俺はパッケージを開け赤れいむと赤まりさを3つずつめーりんの前に転がす。

 解凍するまで動かないだろう、その間に俺は相棒が買ったゆっくりフードそれなり味を皿に山盛り、そしてラジオペンチ一つ。ラジオペンチの口にティッシュを巻き終わった頃、ようやく赤ゆ達が起き出す。

「ゆっくりちていってねぇ」

 赤ゆの言葉に

「じゃおーん」

「ゆっくちできにゃいきゅじゅめーりんがいゆよ、きゅじゅめーりんはまーちゃさまにあまあまをけんちょうするんじゃじぇ」

 挨拶した途端そう答えられためーりんがひるむ。

 そう食用赤ゆは俗に言うゲス揃い。理由はゆっくりはゆっくり出来ない経験をすると甘みを増すから。ゲスはゆっくり出来ると感じる範囲が狭い。善良なゆっくりなら充分ゆっくり出来る状態でもゲスはゆっくり出来ない状況と感じ不平不満を感じ甘みを増す。人間からすれば労せず甘みを増す事が出来るのでゲスの方が便利なのだ。
「きゃわいいれーみゅがゆっくちちゅゆよ~ きゃわいくってぎょめんにぇ~ きゅじゅゆっきゅりはちょんじゃいざいでれーみゅにあまあまをきぇんじょーだよ、とくみょりじゃよ」

「くじゅめーりんはかしじゅくんじゃじぇ」

「うんうんさんをちゃべさちぇてあげゆよ、れいみゅ、きゃんだいしゃんでごめんにぇ」

 周りの赤ゆの発言に蒼白だっためーりんの顔色が白くなりそして通常の顔色に変わってその代わり表情が消えた。

 俺は黙ってゆっくりフードそれなり味をペンチで潰したものをパラパラと赤ゆ達の周りに散らす。

「ごはんちゃんだじぇ、こでまじゅ、ぐじゅめーりん、あみゃあ、みゃもってきょい~」

「あみゃあみゃもっちぇこい、くじゅめーりん」

「いまちゅぐでいいよ、れーみゅかんだいちゃんでごめんにぇ」

 めーりんは能面のまま。

 俺は角砂糖をペンチで潰す。それなり味も潰す。水を足して良く練る。ペースト状のそれを赤ゆ達の前にそれぞれスプーンで置いていく。

「あみゃあみゃだ~」

「じあばぜ~」
 
「むーた、むーた」

 あ~あ、ペースト状だというのに周りに飛ばして。何が楽しいんだか。

 能面だっためーりんの表情が変わる。困惑に。本当に頭の良い個体だな。困惑のままめーりんは俺を見上げる。俺はニコニコ笑いながら作ったペーストを赤ゆ達の前に置いていく。それを汚らしくむさぼり食って行く赤ゆ達。限界まで食べるだろう。砂糖という禁断の甘み。それがかなり多量に混じったペーストは極上の食べ物と言うより禁断の食べ物だろう。辞められない、文字通り。

 赤ゆのくせに、もしくは赤ゆだからこそ皮が伸びきり動けなくなる程餌を食べて全ゆん上を向いて汚らしいゲップを繰り返す。空気を飲み込んでいたからな。

 そして仰向いたせいで丸出しになった赤ゆ達の底辺を見ためーりんが顔色を変えて俺を見る。俺の笑顔とすっきりした赤ゆ達の底辺を何度も交互に見る。

 決壊はすぐだった。

「ぽんぽんさんがいたいじぇ~」

「いたい、いたいさんじゃよ~ くじゅめーりん、なんちょかしろ~」

赤ゆ達がゆらゆらと動きながら喚く。

 うんうんつまりとしーしーつまりだ。焦っているめーりんに説明する。食用ゆっくりのしーしー穴、まむまむ、あにゃるを潰すのは当たり前。本来食用ゆっくりに食事を取らせるという事は絶対にない事なのだから。食べられる為に生産された物。それが食用ゆっくり。

 そう、しーしー穴とあにゃるがない。だからずっと苦しい。でもすぐ死なない。もうすぐ餡子を吐くだろう。でもすぐには死ねない。どうしたら良いと思う?

 俺の問いにめーりんはしばらく考える。

「くじゅめーりん、にゃんとかちりょぉ~」

「じょれーのくちぇに~」

 赤ゆの叫びにめーりんは俺を見上げそしてローテーブルから飛び降りるとサッシ窓に向かう。

 正解、大正解。

 俺はサッシ窓を開けると相棒とすーりすーりをしているれみりゃに声をかける。

 めーりんが赤ゆを狩ったぞ、早く食べに来いと。




 「なんで砂糖混じりのそれなリー味を喰った赤ゆがこんなに甘くなるのか判らない」

 さすがのれみりゃも6匹全部食べられなかった。残った2匹は責任を取って一匹ずつ食べているが、甘い、甘すぎる。

 めーりんを罵りながら腹一杯砂糖混じりの餌を食べて超ヘブン状態だった後にうんうんつまりの苦痛とれみりゃに出会った絶望感のせいで甘みが凝縮したんだと思う。と説明したが歯が浮きそうな甘みだ。

「これ、親父にも喰わせてみよう。でも普通の生き餌の方が安くないか?」

 安い、格段に安い、何せ衛生管理が極端に違うんだから。でもめーりんが慣れるまで食用ゆっくりを使った方が良いと思う。という俺の説明に相棒が大きく頷く。めーりんの為には何でもしそうだな。
「おにーさん、おにーさん」

 ぱたぱたとれみりゃが飛んでくる。

「めーりんにきいたどぉ~ ほんとーにあまあまさんをかったのはおにーさんだどぉ~ ありがとうなんだどぉ~」

 ローテーブルの上に降り立ったれみりゃが頭を下げる。

 可愛い…… ああ、可愛い、足りなさ加減が可愛い。

「任せておけ、明日も明後日も、たっくさん日もおにーさんがあまあまさんを狩るからなぁ」

「スーパーで買う、な」

 俺が訂正を入れた。





 それに出会ったのはスーパー帰りの相棒に出会ってその買い物内容、冷凍食用赤ゆ5パックを見てため息をつきながらなんとなく並んで帰っていた時だった。

「おにーさん、お久しぶりです」

「おにーさん、ゆっくりしていってね」

 自転車を運転していたのはこの前の普通の女子高校生、確か殺菜とか言う物騒な名前の娘だ。そして自転車の前かごにいるのはつやつやな黒髪、真っ赤な次に真っ白な水玉模様。ふくよかな銀バッジれいむだった。とはいえ美ゆんという訳ではない。綺麗というより可愛い。妙に余裕がある。貫禄がある。

「久しぶり、なんでれいむ? もう夕方だろう?」

 相棒が尋ねる。ゆっくりは夕方……黄昏時には出歩かない。捕食種が活動を開始するからだ。飼いゆっくりは実際に捕食される危険がないが、黄昏時や夜間の外出を嫌う。

「れいむはれみりゃをさがしているんだよ」

 れいむがきっぱり答える。

「れみりゃ?」

 捕食種を探すれいむ、それは変だ。

 と女子高生がスマホを取り出す。いくつか操作をする。そして出てきた写真を俺に向ける。

「SNSに上げられちゃったんだけど、このありす、うちのおかあさんのありすなんです」

 こ、これは……

「うちのありすがにんげんのおちびちゃんにつかまってれみりゃとすっきりしちゃってあやまりたくてさがしているんだよ」

「そうか、おにいさんのうちにはありすとすっきりした後に、ポンポンの中のおちびちゃんこみでめーりんのお嫁さんになったれみりゃがいるんだよ」

「へー、そんなれみりゃがいるんだねぇ。ありすがすっきりしたれみりゃもそうなっているといいねぇ」

「本当にそうだなぁ。れいむの探しているれみりゃも幸せになっていると良いなぁ」

「ゆっくりしているといいねぇ」

 そこ、おい。同じ町内でそんな奇特なゆっくりが複数いるはずはないだろうが。大体何でゆっくりと同じレベルで話をしているんだ。

「お兄さん、うちに来て下さい、今すぐ来て下さい。ありすが死にそうなんです!!」

 そうツッコミを入れようと思った俺の服を女子高生ががっちりつかむ。その表情は必死だった。




 お食べなさい防止剤、ゆカビ防止剤、表面強化剤、非ゆっくり症防止剤……その他飼いゆっくりの基本的予防を受けたありすは多分美ゆっくりなんだろう。れみりゃが言っていた位だからな。きらきらさんというのは金バッジの事か。拒食をしている、そして不眠。悩みすぎて不眠。やつれ果てたありすをテーブルに乗せる。

 このお兄さん達がれみりゃを飼ってくれているよ。れみりゃはめーりんのお嫁さんになったよ。女子高生が説明した途端、ありすが俺達二人に多分土下座をしながら「ごめんなさい、ごめんなさい」泣きながらテーブルに頭をぶつける。

 ありすがわるいの。ありすれいぽーしたの。いきるかちがないの。かこうじょにおくって。

 ありすの最近の言葉はこれだけだったのでれいむと女子高校生はなんとか許して貰おうとれみりゃを探していたらしい。

「ちーんぽ、ちーんぽ、むせい、ほうけい、だつどうてい」

 多分慰めているんだろうが隠語種はきついかも知れない。

「お父さんのみょんなんだけど発言が微妙に下向きなのでお父さんの元気もなくなっちゃって」

 判るような気がする。まぁこれは外に出せないな。

「れみりゃは幸せだから。かりすまだから。毎日、ヘブンだから」

「……じゃあありすはいらないわね」

 ……更に落ち込んだな。そして相棒がうろたえる。ゆっくり相手に何をやっているんだ。

 俺はスマホを取り出し操作して画面をありすの前に突き出す。
 
 れみりゃの発言にアリスの目は丸くなる。

 こいつのうちのれみりゃはちょっとお馬鹿だからお前さんの事を田舎者だと思っている。で都会派なおぜうさまを欲しがっている。悪いと思っているのなら都会派なところを見せてやってくれないか。それでないとゆっくり出産も出来ない。

 画面を見せての説明。画面を見て大きく目を見開いたありすが大きく頷いた。


 

 気合いの入ったありすだった。

「じゃ、じゃおーん」

 ゆっくりしていってだどぉ」

 ベランダでありすを迎えた2ゆんはひるんでいる。それほど気合いの入ったありすだった。

 両目の下にあったクマも消え、皺が寄った身体はほどよく中身が増え、肌がピンピンに張り、金色の髪はつやつや、カチューシャについている金バッチは鈍く輝き、青い瞳はそれこそサファイヤのようだった。自力で輝くサファイヤがあれば。だが。

「ゆっくりしていってね、ありすはありすよ」

「じゃ、じゃおーん」

「めーりんとれみりゃだどぉ~」

 露骨にひるみ、2ゆんでぴったりと寄り添いながら答える。

「れみりゃのぽんぽんさんのなかのありすのおちびちゃんはげんきかしら?」

 ありすの問いにれみりゃとめーりんの目が大きく見開かれる。2ゆんが顔を見合わせる。

「どうしたの?」

 ありすに尋ねられても2ゆんは顔を見合わせたままで、しばらく考えた後に何故かぴょんぴょんと跳びながらおずおずとれみりゃがありすに近づく。ありすは、さすが金バッジと言うところだろう。れみりゃが近づいてきても余裕の微笑みを崩さない。

 れみりゃが不躾にありすの周りを回る。

「ほんとだどぉ~ あのときのありすとおなじにおいさんだどぉ~」

「じゃぁ? じゃおーん」

 めーりんが高速ぴょんぴょんでありすに近づくと上から下までありすを眺め大きくため息をつく。敗北というより勝負にならない事を痛感したのだろう。

「じゃおーん」

「ものすご~くとかいっはのありすだどぉ~ おちびちゃんはかりっすまなとかいはおちびちゃんだどぉ~」

 れみりゃがぴょんぴょんと喜び、めーりんも一緒になってぴょんぴょんと喜ぶ。

 多分、ありすが2ゆんが想像出来る都会派を遙かに凌駕したゆっくりだったせいでありす自体とどうにかなる。という気持ちが全く起こらないらしい。

「じゃおーん、じゃおーん」

 ひとしきり喜んだ後めーりんがありすに頭を下げる。多分、きっと、可愛いおちびちゃんをありがとう。という意味だろう。

「ええ、めーりん。ありすのおちびちゃんをおねがいね」

 鷹揚と頷いたありすは2ゆんに背を向ける。ゆっくりとサッシ窓をぴょんぴょんでまたぎそれに続いた俺はサッシ窓を閉め、カーテンを閉める。

「あ、ありす、とかいばだっだ?」

「すっごくとかいはだったよ。れいむがたいこばんさんをおすね」

 太鼓判を押したれいむにありすが体当たり、ではなくハグをする。
「おじびじゃん、がわいがってもらえるばよね」

「もっちろんだよ、あのめーりんはおねえさんのばいとっさきのえりっすぐりのめーりんだよ。だいじにかわいがってもらえるよ」

「ぞうよね、ぞうよね。ありず、だでぃっでいばないわ。べーりんがおどうざん、おどうざんだもの」

「そうっだよ。ぜったいにだでぃっていっちゃ めっだよ」

 顔面崩壊で泣いている美ありすを二つのもみあげでがっちり抱きしめ慰めている貫禄れいむ。思った通りおかんれいむだった。女子高生が生まれて3ヶ月目に職場復帰をした母親の手伝いをする為に女子高生にあてがわれたおかんれいむ。この個体で3代目らしい。

「ずっと、とかいっはでいるのがありすのつとめっだからね」

「ばがっでいるわ。なぐのはいばだげ、いばだげだがら」

 ゆっくりにとっておちびちゃんはとってもゆっくり出来るものだ。それが我が子であれば母親が捕食種でも、野良でも、不本意で作ったおちびでも。更にいえばありすは飼いゆっくり。子供を作る事は許されていない。去勢はされていないようだが子供を作る事はこの先許されないだろう。だからありすにとって最初で最後のおちびをありすは諦めた。めーりんに譲った。

「ごんどあうどきには、どがいっばをぎわめてみせるわ」

 れいむの顔……腹に顔を埋めていたありすが顔を上げる。にっこり笑う。

「よし、っだよ」

 れいむも笑い返し、俺はスマホの録画を終了させた。


終わり




蛇足

 何で俺まで銅バッジ試験に付き合わなければいけないんだ。というか銅バッジ試験は集団面接らしいが種族別に分けないんだな。と思いながら、大きいランドリーバスケットを抱えた相棒の隣に座った俺は暇つぶしに銅バッジ試験用パンフレットを見る。

 ええと、銅バッジ試験は毎週行われている。曜日自体は行われる施設によって違うので受けようと思えばいつでも受けられる。

 試験内容はトイレで排泄が出来るか。餌の入れ物から餌を食べられるか。餌以外のものを食べないか。生活の上で危険なものを5つ以上認識し、回避出来るか。だけ。だけ?

 「待て」とか「来い」とか「挨拶」は出来なくて良いのか?

 と思ったらこういう風に外部受験をする個体は野良ゆっくりや自家繁殖個体だけなので、これ以上厳しくすると不合格個体が増えてしまうらしい。良く良く読むとペットとして人前に出すつもりなら銀バッジを取らせろと書かれていた。銅バッジの意味は「飼い主あり」という意味だけらしい。

 ランドリーバスケットの中のめーりんとれみりゃは楽勝だが……

 不合格固体が増える。という事はこの試験ですら落ちる固体がいる訳だ。トイレが出来ないとか、餌以外のものを喰うとか、危ない物に突っ込んでいくとか。確かに人前には出せないな。

 とりあえず、幼体部門、子供部門、亜成体部門、成体部門と分かれていて成体部門は個体数が少ないらしい。そりゃあそうだろう、トイレの場所が定かではない固体を好き好んで育てる人間も少なかろう。

 番号が呼ばれ部屋に入る。近くで待っていた大きい入れ物を持った人間が全て入ってきた。成体部門、これで試験終了らしい。

 係員の指示に従っててんでてんでに自分のゆっくりを取り出す。

「れ、れみりゃだー!!!!」

「くずめーりんがいるよー!!!」

 銀バッジの試験は考えた方が良さそうだ。相棒のゆっくり以外は全て大声を出しパニックを起こしていた。

 俺と相棒は慌てて周りに頭を下げ、係員に頭を下げる。

「もしかしてカリスマおちびちゃんを妊娠中のれみりゃちゃんですか?」

「あ? ああ、はい」

「動画みましたぁ~ 可愛いですよね、めーりんちゃんと仲良しさんで」

 にこやかに満開の笑顔で笑う女性の右足の下には成体まりさがいる。

「じゅぶでる、じゅぶでゆ……」

 大声で喚いていないところが妙にリアルというのか。餡子吐いていないか、あのまりさ。

「お姉さんがお話している時は静かに出来るよね、ま り さ」
 
 にこやかなスタッカート。

「じゅ、じゅ、じゅ」

 湿ったスタッカート。

「れみりゃちゃんもめーりんちゃんも銅バッジ試験なのね。がんばりましょうね」

「じゃ、じゃおーん」

「ゆっくりしていってねだどぉ~」

 めーりんとれみりゃがうわずった声で挨拶を返した。



 試験の結果。俺は考える。

 試験会場から無傷で外に出る事が出来たのはめーりんとれみりゃだけ。もしかして成体銅バッジ試験は虐待プレイ用なのだろうか?と。


今度こそ終わり。